まず、今回のLXシリーズで初めて採用された、UV2A技術搭載パネルのコントラスト性能を確認するため、暗闇に明かりが点在する夜景シーンで検証してみた。従来の液晶テレビでは、光漏れによって黒が浮いてしまったり、逆に、光漏れを目立たなくするためにバックライト光量を絞ると、本来光るべき「点」まで弱々しくなってしまう副作用があった。ところがUV2Aによる映像は、漆黒の闇に光る照明の明かりが、実際の夜景を見ているかのように鮮烈に煌めき、感動を覚える域に達している。このダイナミック感は、ローカルディミングで解決できるものでなく、パネル自体のコントラスト比が本当に優れている証と言える。

じっくりと視聴を行う鴻池氏(右)

 

暗室での映画視聴でも、UV2Aの光漏れの少なさが威力を発揮した。とにかく色の乗りが良い。単に「濃い」のではなく、色の純度が維持され、映像の中のあらゆるものがリアルに感じられる。例えば、アンティーク家具の歴史を語る深い色あいも濃密に描きだす。これは、LEDが発する純度の高い光が、光漏れに洗い流されずに目に届く恩恵だ。上質な映画の映像美を堪能できるレベルに達しており、従来の液晶パネルでは到達出来ない領域に踏み込んだ点で画期的だ。

もちろん、画質がここまで向上した背景には新パネルの採用だけでなく、LEDバックライトの採用や独自開発のエンジンによる緻密な映像処理も大きく貢献している。これらが三位一体となって、LED AQUOSの高い映像クオリティを引き出しているのだ。

ここまでの視聴は、主にAVファンの使い方を想定した暗室で行ったが、液晶パネルを使ったテレビが、ついにスクリーンテイストの表現力を得たと実感できた。薄型テレビが登場して以来、長らく液晶テレビの発展を見守ってきたが、この進化には感慨深いものがある。

 

次に一般家庭のリビングを想定し、照明を生活に必要なレベルの明るさに変更して検証した。テレビでは最も重視すべき条件だろう。映し出された映像は何の違和感も無く、極めてナチュラルである。しばらく視聴を続けてから、筆者は“気づくべき事に気が付かなかった”ことに感嘆した。光沢パネルを搭載した液晶テレビでは、部屋が明るくなると、画面に壁、家具、自分の顔など様々なモノが映り込む。ところがLXシリーズはパネル表面の反射が抑えられているので、暗いシーンで自分の顔がはっきりと映り込んで興ざめするようなことがなく、上質でスクリーンライクな映像が堪能できた。

AVシステム開発本部 要素技術開発センター 副参事の小池晃氏(左)と、AVシステム事業本部 液晶デジタルシステム第1事業部 第1商品企画部 副参事の中沢健一氏(中)にLED AQUOSのクオリティ面についてお話を伺った


一方で、沈み込んだ黒がベッタリと平面に見えてしまう無粋さもない。絶妙に残されたパネルの光沢が、自然な奥行きを作り出しているのだ。オーディオに例えると、僅かに残響音が加わる事で、立体感や広がり感を与えるのに似ている。日常使うテレビには、元の映像に忠実であるだけでなく、住空間で快適さを得るための工夫も必要なのだと改めて認識させられた。パネルの光沢処理のさじ加減一つをとっても、シャープ技術陣のこだわりを感じずにはいられない。

 

もう一点、“気が付かないのに気が付いた”ことを紹介しよう。照明環境が変化しても映像の見え方が変わらないのだ。これは「好画質センサー」の働きによるもので、照明の変化に合わせて、映像の色温度を素早く、きめ細やかに追随させている。検証時は、暗室、電球色のダウンライト、青白い蛍光灯を切り替えてみたが、それでも映像の見え方は一定で、違和感が無い。映像が一定なのではなく、迅速かつ適切に変化して、見え方が変わらないという点で、今までのテレビには無い進化だ。

もしあなたが好画質センサーの働きをチェックしたいなら、字幕などの白色に注目してみると良いだろう。黄ばんだり、青みがかったりする事なく、常に一定の白に見える。画面の色温度は、映像の印象に大きく影響するだけに、作品の意図を忠実に受け取るには、この先、好画質センサー抜きには語れないだろう。

 

続いて、テレビでは異例とも言える凝ったサウンドシステムの検証に移る。素材は「Legends of Jazz: Showcase」(Blu-ray)より、ジェーン・モンハイトのヴォーカルとスローなリズムが心地よい「They Can't Take That Away From Me」。瞬間的に、口元からこぼれる艶やかなヴォーカルに心を奪われ、検証中である事を忘れてしまうナチュラルさに驚く。「ARSS」がもたらす、大画面と音との融合と、1ビットアンプによる澄んだ音質は、次世代にふさわしい仕上がりだ。余裕のあるクリアな低音による、ライブの空気感や空間の広がりも自然で、その場にいるかのようなリアルな臨場感は、確実にテレビの枠を超えている。

総じて、LED AQUOSの第一弾であるLXシリーズは、派手な機能に目移りせず、画質、音質、省エネにまじめに取り組んだ正統進化形のモデルと言える。そこに、次世代のテレビのスタンダードを見た。