■独特の形状は「タイムドメイン理論」を製品に落とし込んだ賜物
MXSP-4000.TDはiPod用のスピーカーシステムである。が、見ての通り、一般的なシステムとは明らかに異なる気配を持つ。支柱に支えられたラグビーボール
− 手塚治虫氏が描く異星の植物を思い起こさせるような、独特の形状だ。
しかしその形は単なるデザインではない。それは型番の「TD」が意味するところの「タイムドメイン理論」から導き出された、必然の形状なのだ。
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マクセル「MXSP-4000.TD」を前から見たところ(写真は拡大します) |
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横から見たところ。タイムドメイン理論に基づいた独特のスピーカー形状を採用(写真は拡大します) |
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背面を少し斜めから見たところ。台座部に接続端子部が見える(写真は拡大します) |
「タイムドメイン理論」を採用したスピーカー製品は数社から発売されており、評価を得ている。ご存知の方も多いだろうが、まず改めてその理論の概要を復習しておこう。
一般的なオーディオ製品が主に周波数特性に目を向けているのに対して、時間領域の再現性を高めることで原音により忠実な音を再生しようという考え方。それがタイムドメイン理論の中心だ。
実際的には、インパルス信号への応答性を高めることが開発指標となる。音の立ち上がりと立ち下がりが究極的に速く、しかも全ての周波数の振幅と位相を含むインパルス信号は正確に応答できるようになれば、それこそ究極の再現性というわけだ。
そのタイムドメイン理論をスピーカーとして具現化する場合に最大のポイントとなるのが、不要な共振や反射などを最小限に抑えることである。それは従来のようなスピーカー”ボックス”では難しい。タイムドメイン理論を採用したスピーカーたちが卵形や筒形といった個性的な形をしているのはそのためである。
さてMXSP-4000.TDに話を戻そう。MXSP-4000.TDのキャビネットはラグビーボールに近い形だ。球形のキャビネットはいわゆる箱鳴りを起こしにくい。箱鳴りはエネルギーの無駄な損失であり、余計な付帯音も生む。タイムドメイン理論を実践する際には徹底的に排除しなければならないものだ。
MXSP-4000.TDがラグビーボール形状に行き着いたのは、タイムドメイン理論からすれば必然なのである。
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ユニットはキャビネットと干渉しないようフローティング構造で取り付けられている(写真は拡大します) |
ユニットの取り付けにも工夫が施されている。ユニットにウェイトを装着して不要振動を軽減。加えてユニット前後には防振クッションを配し、ユニットはキャビネットからフローティング状態とされている。ユニットとキャビネットが干渉しないようにすることで、不要な振動、響きをさらに徹底的に排除しているのだ。
また、キャビネットと支柱の接続部にも防振クッションが挟まれている。これも床(設置面)との干渉を低減するための施策だろう。
MXSP-4000.TDでもうひとつ大きなポイントは、キャビネットを左右一体とし、その両端にユニットを配置したことだ。指向性をほどよく緩めて広がりのある音場を生み、また低域を適度にキャンセルして家具などの共振を防ぐ狙いだという。このあたりは実際に聴いてみて確かめよう。
機能的にはiPod用システムとしてはシンプルな部類。ごてごてさせずに「コンパクトで音の良いシステム」としてまとめたということである。使い勝手の面に関しても、次に実際に利用してその感触をお伝えする。
とにかく理解してほしいのは、独特の外観には理論の裏付けがあるということである。音を重視した結果としてユニークなルックスも得た。MXSP-4000.TDはそういうシステムなのだ。
■シンプルでわかりやすいカード型リモコンを付属
ドック一体型システムなので、台座部分に用意されているドックにiPodをセットするだけで準備完了。
なお、利用の際にはドック部分にiPod各モデルに付属するアダプター(スペーサー)をはめ込み、がたつきをなくすようにした方がよい。端子部に余計な負担がかかることを防げる。
機能的にはシンプル。付属のカード型リモコンも、再生開始/一時停止・前後スキップ・音量アップ/ダウン・ミュート・電源オン/オフという基本操作だけを行えるものだ。それ以外の操作、例えばアルバムやプレイリストの選択などは、iPod本体の画面とホイールで行う。
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台座部に設けられたドック端子。iPod各モデルに付属するアダプターを使用するとガタつかずに装着できる(写真は拡大します) |
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カード型のリモコンを付属。ボタンが少なくわかりやすい(写真は拡大します) |
実際のところ、リモコンでiPodのメニューを操作してアルバムやプレイリストを選択するのは、あまり実用的でない場合が多い。結局はiPodの画面を見ながら操作するので、画面の文字が見えないほど遠くからは操作できないのだ。どうせ近付かないといけないなら、リモコンよりもホイールの方が手早いだろう。
というわけで、リモコンが基本操作のみである点は、実際上は不便とは感じない。そのリモコン自体も、ボタン数が少ない上にボタン配置もわかりやすく、使いやすい。
■キレがよくスピードが速い音 −
音場表現のリアルさも特筆もの
では再生開始。まず印象的なのは、アタックの心地よさ。特にナイロン弦ギターによるロックフィーリングの演奏を聴いたときには、そのキレの良さが見事に引き出されていることに感心した。ピッキングの瞬間の微妙なタッチニュアンスまで感じられる、速く繊細なアタック再現性だ。なるほどこれがタイムドメイン理論による音かと納得できる。
次にピアノトリオにサックスやストリングスを加えたジャズボーカルを聴いてみたが、こちらもなかなか。そして今度はアンサンブルなので空間表現にも耳が向くが、そこも良い。
スピーカーユニットを左右外向きに配置した効果なのだろうが、システムとの距離によらず、奥行きや広がりを豊かに感じさせる。ふわっと広がるややオフ的な音場だ。じっと聴き込めばひとつひとつの音は前述の通りの生々しさだが、しかし音場全体は和らぎを持ち、実に心地よい。
低域の重み・厚みは感じさせないが、そこは設計通り(家具の共振などを抑えるために低域はキャンセルしてある)ということ。しかしウッドベースのタッチの感触などはやはりリアルで、低音楽器が物足りないとは感じない。
あと台座部背面にDIRECT/COMFORTという切替スイッチが用意されており、COMFORTにすると音色が微妙に柔らかくなる。再生帯域を調整して圧縮音声の歪みを軽減するためのスイッチとのことなので、必要に応じて使えばよいだろう。外部入力も用意されており、iPod以外のプレーヤーも接続可能だ。
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台座部の背面には接続端子やスイッチの他、DIRECT/COMFORTの切替スイッチも装備(写真は拡大します) |
様々な製品がひしめくこの分野だが、MXSP-4000.TDはシンプルでコンパクト、このサイズと価格にしてこの製品ならではの音というものを確立しており、しかもルックスは個性的。存在感を発揮する製品がまたひとつ増えてくれた。
【MXSP-4000.TD
SPEC】
●ユニット:φ44mmフルレンジ×2
●最大出力:5W+5W
●入力端子:iPodドックコネクタ、φ3.5mmステレオミニ
●電源:ACアダプタ
●外形寸法:220W×240H×170Dmm
●質量:約870g
高橋敦 Atsushi
Takahashi
埼玉県浦和市(現さいたま市)出身。東洋大学哲学科中退。大学中退後、パーソナルコンピュータ系の記事を中心にライターとしての活動を開始。現在はデジタルオーディオ及びビジュアル機器、Apple
Macintosh、それらの周辺状況などに関する記事執筆を中心に活動する。また、ロック・ポップスを中心に、年代や国境を問わず様々な音楽を愛聴。
その興味は演奏や録音の技術などにまで及び、オーディオ評に独自の視点を与えている。 |
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