ブルーレイディスクやHD DVDソフトに収録される次世代音声の再生は、対応デコーダーを搭載するAVアンプなしに完全に実現はできない。次世代ソフトは既に300タイトルを越えようというのに、長らく対応AVアンプの不在が続いていた。そんな状況の中、遂にAVファンの溜飲を下げる期待のAVアンプが登場する。オンキヨーのTX-SA805である。次世代サラウンド完全対応を謳う本機は「ドルビーデジタルプラス」、「ドルビーTrueHD」「DTS-HDハイレゾリューションオーディオ」、「DTS-HDマスターオーディオ」の全ての最新フォーマットに対応するデコーダーを搭載。また、HDMIにはバージョン1.3aを採用し、映像の新規格「ディープカラー」にも対応する。まさにフルスペックの次世代7.1chアンプだ。
フロントパネルには次世代音声フォーマットのロゴがずらりと並ぶ。前作TX-SA803と比較すると、パネルデザインから筐体構造、さらに内部の回路まで一新を図っており、重量も14.3kgから23kgという充実ぶりだ。定格出力は180W/chで2基のクーリングファンも備える。また従来機種より対応してきたTHXも、セレクト2からウルトラ2に向上。アンプとして凄まじいグレードアップだが、こういった取り組みこそが次世代音声をより高度に再生するためのオンキヨーのこだわりなのだ。 プラットホームごと作り替えたという本機のオーディオ部は、このクラスでは5年ぶりとあって開発陣の並々ならぬ意欲が注がれている。まるで単品のプリアンプとパワーアンプが共存したかと思えるほど、きっちりとセパレートされた新開発のレイアウトが見事だ。立体的で無駄のない最短直結配線は、ノイズ対策のみならずコンパクト化の上でも有利に働いている。
特に目を奪われるのは新設計のパラレルプッシュプル回路で構成された横一列の7ch出力段だ。回路はヒートシンクにR側とL側とが、完全な対称になるよう美しく配置され、電源部の直近にセットされている。その電源部にはAVアンプでは異例といえる60Aの瞬時電流供給能力を誇る8.2kgの強大なEIコアトランスが鎮座。巨大でハイスピードな供給源からエネルギーをもらい、3段のインバーテッドダーリントン回路で低インピーダンス化を図るという理にかなった手法である。初段のカスケード差動回路はワイドな高域特性を実現するためのものだ。 ノイズ対策の面で定評ある独自特許技術「VLSC」やグランド電位の安定化に磨きをかけたのはもちろんだが、振動対策にも丁寧な作り込みがされている。メインのシャーシとは別のサブシャーシを搭載し、振動源となるトランスや冷却ファンを浮かべるフローティング構造を採用。回路基板まわりは振動源となるポイントをしぼって、重点的にダンピング処理を施している。アンプを知り尽くしたオンキヨーならではのノウハウだ。 チップ類の進化も頼もしい。32bitのフローティングDSPを3基搭載、DACについてはバー・ブラウンの192kHz/24bitの2chDAC、PCM1796を5基も採用するという贅沢な仕様である。
音質を一言で表すなら「余裕のドライブ力」の一言に尽きる。主にCDとSACD、DVDビデオなどを試聴してみたが、どのソースでも躍動感とS/Nの良さが抜きん出る。ジャズのビッグバンドを快活に鳴らし、女性ボーカルはキメ細やかなニュアンスで表現する。音の陰影がぐんと深く、例えば試聴ディスクの一つであるノラ・ジョーンズのボーカル曲では、憂いを帯びたスモーキーな表情をしっかりと伝えている。 スムーズな低域と、高域へ向けてのすっきりとした音の伸び上がりも爽快だ。現代アンプらしい立ち上がりとスピード感、帯域内が充実したワイドレンジとの相乗効果があり、音が薄まったり、上ずったりする箇所もなく、力強さとしなやかさをバランス良く兼ね備えている印象だ。 音量を下げても、明瞭度がしっかりとキープされており、ここまで微弱音をきれいに描くことができるAVアンプは出色の存在だ。ローレベルの清潔感はVLSCや入念な振動対策の賜物である。 5.1chの映画ソフトの表現力は一つ一つの音の実在感が良好だ。密度のムラがなく、左右だけでなく上下方向の高さもしっかり感じさせるサラウンド空間が広がる。ソースのクオリティが上がるほどに真価を発揮し、効果音のキレや、体温までも感じるようなセリフの肉声感も印象的だ。 オンキヨーは夏に向けて続々と新製品アンプを投入。中でも本機TX-SA805の期待値は大きく、いち早くBDやHDDVDでホームシアターを楽しみたいと考えるAVファンには、願ってもない注目作といえる。次世代音声フォーマットのビットストリーム出力を可能にする次世代プレーヤーの登場を見据え、ホームシアターのグレードアップを図るならば、TX-SA805は大きな決め手となるはずだ。 |
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