機能的には、デジタル放送の視聴と2番組同時録画、Blu-rayの再生と録画番組のダビングが行えるほか、iPodドックを本体に搭載し、本体内蔵のスピーカーで高品位な音楽再生も楽しめるといったところが特長として挙げられる。現在、多くのユーザーが必要としているテレビ・映画・音楽といったエンターテインメントが、見事にこの一台でカバーされているわけだ。そしてもちろんパソコンとしてインターネットも楽しめるわけだから、家庭内でテレビに代わる位置、つまりリビングの中心に設置して活用するというスタイルも想定できる製品だ。 とは言っても、iPodドックを搭載したこと以外の機能としては、いまどきのパソコンにおいては際立った特長とまでは言えない。本機が他の製品にない「強み」は、それらのエンターテインメント再生機能を本当の意味で楽しめるものにしてくれる、「高品位なクオリティ」にこそある。これを実現できた最大の要因は、本機のために新たに開発されたスピーカーを搭載したことだ。 |
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新開発のプレミアムスピーカーは、E713シリーズのスリムな筐体に搭載できる形状とサイズでありながら、振動板の面積は高級スピーカーに搭載される直径10cmウーファーに相当する。長方形振動板特有の振動の乱れやモードを解消するために、振動板素材には発泡素材を採用している。発泡スチロールという身近な例で実感できると思うが、発泡樹脂は軽量かつ高剛性。さらに、成型が容易であるというメリットも活かされたのだろう。振動板は突起を持った扁平矩形状に立体成形されており、振動板の暴れ(=周波数特性の暴れ)を抑えている。
振動板とユニットをつなぐエッジも、通常のロール型ではなく、同社のハイファイスピーカーで実績のある「Vラインエッジ」を採用。エッジ自体の幅を狭くできるため、振動板面積の拡大にも寄与している。 そして仕上げの要素と言えるのが、スピーカーユニットの背面が開放構造になっていることだ。本体筐体もこれに合わせて設計され、後部からも音が放出される構造だ。背面から抜けてきた音をデスク面や壁面に反射させることで、音場の広がり感を高めている。
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帯域バランスは中域を充実させた妥当なものだ。トゥイーターやウーファーを用意しないフルレンジ一発構成であるので、その強みを素直に活かしていると感じた。ボーカルの存在感が豊かで、シンバルの音色は鋭さを出さず、解像感を確保しながらも穏やか。低いポジションのウッドベースは、輪郭・音程感をきっちり届ける。別の曲で確認したエレクトリックベースは、くっきりと濃い描写だった。 音場はその広がり方が自然であることを評価したい。「ここから音が出ています!」といった感じではなく、本機の場合はスピーカー自体の存在感の主張を控えていることがその要因だろう。後方開放の威力がここで発揮されているものと思われる。
CDと同じ曲を聴いてみると、音場に引き込まれる感触、没入感が非常に高い。背景の静けさが高まり、それによって個々の音色も引き立ち、定位の精密感も出てくる。画面の映像をオフにしたことによる心理効果もあるかもしれないが、それならそれで意味はある。 BD再生の音質は「ヱヴァンゲリヲン新劇場版・破」の冒頭を中心に試聴。エントリープラグ(コクピット)に満たされている溶液にボゴボゴと気泡が現れる、その水音にまず頷かされる。一般的なテレビの内蔵スピーカーで聴くと、大袈裟に言えばペットボトルの中の水泡程度のものに聞こえてしまうところだ。対して本機のそれには厚みと質感があり、映像から伝わってくるものと聴こえてくる音との間の違和感が少ない。 CD試聴時に感じた中域の充実はこちらでも発揮され、台詞の厚みはやはり、一般的なテレビ内蔵スピーカーのそれとは比較にならない。映画の台詞というのは、同じ俳優・声優であっても、テレビドラマのそれとは感触が異なるものだ。その感触の違いをしっかりと伝えてくる。台詞中心で派手な効果音などのない場面でも映画らしさを感じられるというのは、大きなポイントだ。
そして効果音が飛び交う場面でのサウンドの描写も納得の域に達している。シャープネスは強調しないので過度な派手さがなく、音数を損ねることもない。“仮設5号機”が鉄板に囲まれたトンネル内を疾走する際の、機体と鉄板のぶつかる音の質感描写もそれらしく決まっている。トンネルの広さと壁の質感を感じさせる響きも逃さない。 なおBD再生では、別ページで紹介するDTS Premium SuiteTMの機能をオンにして、特にDTS Surround Sensation UltraPCTMを用いた際の効果が大きい。そちらのレビューも参照していただければと思う。 総じて本機のサウンドは、音楽再生においては安価で小型な外部スピーカーなどに対して、映画再生においては一般的なテレビの内蔵スピーカーに対して、音質における明確な優位性を持っていると言える。これより上を望むなら、それなりの価格やサイズのスピーカーやアンプを揃えたシステムを組む必要がでてくるだろう。つまり、オールインワンPCとしてはこれ以上を望めないレベルに達しているということだ。 リビングやプライベートルームにはオールインワンPCをスマート、かつスタイリッシュに設置したい、でも音楽も映画もハイクオリティで楽しみたい。そういったユーザーの願いに応えてくれる、ベストな製品の誕生である。 |
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