当サイトや小社刊行雑誌だけでなく、全国紙への製品レビューの寄稿、また音楽雑誌でのアーティストとの対談など、多方面で旺盛な執筆活動を行っているオーディオビジュアル評論家、山之内 正氏。同氏はまたPCにも造詣が深く、PCとAVがクロスオーバーする分野でも積極的な批評活動を展開している。同氏に「PCとオーディオ」について話を聞いた。
原稿執筆は自宅だけでなく、移動中や取材先でのちょっとした時間なども使って行います。また、取材時のメモなどにも活用するので、モバイルノートPCは仕事の必需品ですね。

ノートPCは複数台を使い分けていますが、いまメインで使用しているのは、昨年秋に購入したVAIO TZ90Sです。OSはVistaを入れています。32GBのSSDと160GBのHDDを内蔵し、光ディスクドライブは軽量化のために外しました。SSDにアプリケーションを入れ、起動が高速で行えるのが気に入っています。HDDにはWAVやWMA Losslessで取り込んだ音楽ファイルが入っていて、外付けのUSB-DACでアンプに出力し、試聴のテストソースとして使用することもあります。

最近使用する機会が多いのはVAIO TZ90S。SSDにアプリケーションを入れ起動の高速化を図っている [写真はクリックで拡大します]

ふだんの仕事でいちばん多いのは、自宅や出版社の試聴室、またメーカーなどで行うAV/オーディオ機器のテストですね。ノートPCでメモを取っておくと、あとで原稿にまとめる際に便利です。音楽誌にも連載を持っているので、CDの音質レビューや、ミュージシャンへのインタビューの仕事なども定期的に入ってきます。こういうときにもノートPCがあると、関連情報をすぐに調べて確認できるので手放せません。

高音質音楽配信に強い関心を持っていると語る山之内氏 [写真はクリックで拡大します]
最近、従来のAV機器やオーディオ機器、あるいは単体のPCといった垣根を越えて、PCとAV機器を組み合わせた分野の製品も増えてきています。オンキヨーのHDオーディオコンピュータはその先駆けと言える製品ですし、ハイビジョンビデオカメラで撮影した映像の編集にはPCが欠かせません。また、家庭用ネットワークでPCとAV機器がシームレスにつながるようになり、AVとPCがクロスオーバーする分野の批評、製品レビューの仕事が増えてきています。

中でも注目しているのは、CDを超える音質のものが徐々に増えてきた高音質音楽配信サービスです。携帯電話の音楽配信が人気なのは周知の通りですが、音質的には、本格的なオーディオシステムでの試聴に耐えるものではありません。PCを使った高音質音楽配信は、ハイビットレートな音源が、もとのデータに復元できるロスレス方式で圧縮されており、音質的にピュアオーディオのレベルに十分達しています。さらに、好みの音源を好きな時に購入できたり、音源を高機能な楽曲管理ソフトで管理できることもPCならではの魅力です。

海外ではすでに多くのサービスが展開されており、国内ではe-onkyo musicが有名です。e-onkyo musicはWebサイトだけではなく、Windows Media Centerのメディアオンラインでもサービスを提供していますので、Windows Vista Ultimateを使っていれば、リモコン1つで手軽に高音質音楽が楽しめます。今後はさらに多くのサービスが立ち上がってくるはずです。

山之内氏の自宅試聴室セッティングの簡略図 [図はクリックで拡大します]
PCを自宅試聴室のセッティングの中にどう組み入れていくかというのは、いまの大きな課題です。それをお話しする前に、自宅試聴室の構成をご説明しましょう。

自宅の試聴室は、AVとピュアオーディオを独立させ、それぞれの音質を高めるため、やや変則的な構成となっています。

ピュアオーディオ系では、SACD/CDプレーヤーのアナログ出力をアキュフェーズのマルチチャンネルプリアンプ「CX-260」に入力。AVの方では、BDレコーダーからHDMIでオンキヨーのAVアンプ「TX-SA805」に信号を入力し、デジタル音声をデコード。さらに、TX-SA805のプリアウトから、CX-260のもう1系統の5.1chアナログ入力に接続しています。

パワーアンプは、6chパワーアンプのアキュフェーズ「PX-650」を2台使用し、それぞれをピュアオーディオ用、サラウンド用に分けています。ピュアオーディオ用は、フロントスピーカー1本を2ch分のパワーアンプで鳴らす「BTL接続」で、計4ch分を使用。サラウンド用はもう一台のPX-650で、センターとリアスピーカーを、これもBTL接続で駆動しています。

そのほか、スピーカーはすべてソナス・ファベール製で揃えています。映像系では、ビクターのD-ILAプロジェクター「DLA-HD100」、パイオニアのプラズマモニター「PDP-5000EX」などを使って、映像ソフトの画質チェックに活用しています。

山之内氏の自宅試聴室。背後に写っている音楽/映像ソフトは所有しているうちのほんの一部という [写真はクリックで拡大します]
このセッティングはピュアとAVが分離しており、音質的には満足していますが、TX-SA805がネットワークオーディオに非対応なのが残念です。いまはPCからUSB-DACを介して試聴していますが、大容量のHDDを搭載したPC、あるいはLANハードディスクに音源をすべて集約して、ネットワーク経由で聴けたら、テストも飛躍的に行いやすくなります。また、先に述べた高音質音楽配信を、さらに便利に使いこなすこともできます。

このため、AVアンプの買い換えを近々予定しています。オンキヨーの「TX-NA905」は音質も高く、ネットワークオーディオへの対応も万全なので、候補の一つとして検討しています。

神奈川県横浜市出身。東京都立大学理学部卒。在学時は原子物理学を専攻する。出版社勤務を経て、音楽の勉強のためドイツで1年間過ごす。帰国後より、デジタルAVやホームシアター、ピュアオーディオの専門誌を中心に執筆。PCの造詣も深く、PCとAV機器がクロスオーバーする分野の取材なども精力的に行っている。

大学在学中よりコントラバス演奏を始め、東京フィルハーモニー交響楽団の吉川英幸氏に師事。現在も市民オーケストラに所属する。また年に数回、オペラ鑑賞のためヨーロッパへ渡航。音楽之友社刊の『グランドオペラ』にも執筆するなど、クラシック音楽の知識も深く、その視点はオーディオ機器の評論にも反映されている。