取材・執筆/岩井 喬 |
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地上デジタル放送開始まで1年余りとなり、3Dも視野に入れたAV新時代へのカウントダウンが始まっている。そうした流れの中、AVアンプも単にBD/DVDプレーヤーとTV、サラウンドシステムとを結ぶだけではなく、さまざまなソースを楽しめる『メディアセンター』としての役割が求められるようになってきた。特にパイオニアのAVアンプ製品群はトップモデルである「LXシリーズ」から、iPod/iPhoneデジタル接続やBluetoothによるワイヤレス伝送、インターネットラジオなど、身近なデジタルメディアにも高い親和性を見せる仕様を盛り込んでおり、まさに『メディアセンター』なAVアンプを数多く手がけてきている。 そしてこの度、新たに登場する「VSA-1020/920、VSX-820」は、「LXシリーズ」からの流れを汲むAVアンプのエントリーシリーズだが、その高い機能性と様々な機器との接続を実現した、コストパフォーマンスの高い製品となっている。今回はこの「VSA-1020/920、VSX-820」に様々なメディアを接続しながら、そのサウンドクオリティに着目したレビューをしていこうと思う。
パイオニアが他社に先駆けて導入したことで話題となったiPodデジタル接続機構であるが、この「VSA-1020/VSA-920/VSX-820」にも、もちろん継承されている。まずはそれぞれの機種に「iPod nano」(収録楽曲は全てWAVファイルで収録)を接続し、その純度の高いデジタルサウンドを確認することにした。
エントリー機である「VSX-820」ではすっきりとした音像表現で、「ブルックナー」の管弦楽器は細身の描写である。ホールトーンはほのかなふくよかさがあり、耳あたりは良い。「オスカー」では全体的に暖色系のトーンを持ち、各楽器はくっきりと浮かび上がる。「AP」のストリングスはややこじんまりとしたまとまりであるが、弦のハリと太さのバランスが良い。低域の制動も程良く、ピアノやアコギの煌き感も嫌味がない。女性ボーカルはすっきりとした口元描写で、ニュアンス良く引き立つ。「ジャイアント」ではベースが元気に唸り、キックも押し出し良いがアタックのキレは失わず、見通しの良い音場を形成する。ボーカルのボトムは太いが、ソロギターの質感ではやや粗い印象もあった。 続いてシリーズの中核となる「VSA-920」であるが、「VSX-820」に較べ全体的に、引き締まったトーンとなり、音場も澄みきって瑞々しい響きが感じられるようになる。「ブルックナー」の音伸び良いオーケストラは、爽やかな余韻を感じさせ、「オスカー」のピアノは肉付きのあるトーンになっている。ウッドベースに関してはブンブンと勢い良く張り出すが、アタック感もきちんと感じさせるので、弾力良い質感として捉えることができる。全体的に鮮度感高く、スネアのブラシも粒立ち良く、アタックとリリースの細やかさが感じられる。「AP」のストリングスは細身でハリが強め。ボーカルは潤いのある澄んだトーンで、低音楽器のソリッドさが空間の透明度を際立たせている。「ジャイアント」では楽器の分離良く、クリアにボーカルやギターが浮き上がる。ベースはたっぷりとしているが制動も高く、クリーンギターの透明感を助けている。ソロギターは細身でやや鋭いエッジを見せており、旋律が際立って耳に届いてくる。
そしてトップモデル「VSA-1020」では、「VSA-920」をさらに上回る解像感、音場の奥行きが得られるサウンドとなっている。「ブルックナー」では深みのあるホールトーンとなり、より鮮度感も高くなっているようだ。管弦楽器の余韻も細やかで、定位感も見やすい。「オスカー」のピアノはタッチが鮮明で、澄んだトーンを聴かせてくれる。ウッドベースの弦は艶とハリも良く、胴鳴りも高い制動によって弾力感に溢れている。各楽器の定位は立体的で、生々しい雰囲気も感じさせる。「AP」のストリングスでは音場の空気感が見えてくるようになり、弦の重なる細やかなハーモニーが深い。低域もタイトになり、ピアノのリアルなタッチ感と、余韻の澄み切ったトーンを際立たせている。 ボーカルはドライな描写で、肉付きもほのかに感じさせるが、鮮やかな口元の描写が印象的。「ジャイアント」ではキレ良く押し出すリズム隊が豊かで、ベース弦はピッキングの刻みも見えてくる。しかしながらソリッドかつタイトな引き締めもあり、スピード感溢れるロックサウンドとなっている。ボーカルの重心は下がり、ボトムも安定。ソロギターはエッジを細やかにトレースし、質感がより豊かに感じられるようになった。総じてAVアンプからのサウンドとは一線を画す、表情豊かな音楽再生が実現できている。低価格機とはいえ、しっかりとiPodデジタル接続のメリットを享受できるものに仕上がっているようで、音楽派ユーザーにとっても安心できる高音質機能といえるだろう。 iPodデジタル接続機能とともに注目したいものが、「VSA-1020/920」に初搭載された、同社独自の新開発高音質化技術「サウンドレトリバーAIR」である。これまでも同社製品でMP3などの圧縮音源の補間を行う「アドバンスド・サウンドレトリバー」が導入されていたが、この「サウンドレトリバーAIR」は、Bluetoothによるワイヤレス伝送時の非可逆圧縮工程時に失われる音の補間や、伝送時に発生するノイズを抑えることで、これまで音質が良くないとされていたBluetoothのサウンドクオリティを向上させることができるという。ちなみにこの2つの圧縮音声補正技術は併用できるので、ソースの持つ本来の品質により近付いたワイヤレスサウンドが楽しめる。 今回の試聴ではiPhoneに保存したWAVファイルをBluetoothで送受信(AVアンプ側には別売のBluetoothアダプター「AS-BT100」を接続)したものを用いた。
まず「アドバンスド・サウンドレトリバー」のみが用意されている「VSX-820」のBluetoothサウンドであるが、ふくらみのある傾向となり、倍音感も増してボーカルなどのウォームなトーンが強くなる。「ブルックナー」や「AP」の弦楽器、「オスカー」のピアノは太い音像で、エッジが甘い。「ジャイアント」のギターは倍音の効果もあり、くっきりと音場に浮かんで聴こえ、ソロギターもまろやかなトーンとなる。 「VSA-920」においては何もかけない状態のBluetoothサウンドと、「サウンドレトリバーAIR」を入れた状態、さらに通常の「アドバンスド・サウンドレトリバー」を加えた併用パターンも比較してみた。まずノーマル状態のサウンドだが、「VSX-820」と比較し、太さのある音像となる傾向は同じだが、力強さと楽器の旋律の細やかさといった点は向上している。とはいえ、アタックのすばやさと押し出し感が重要となる「ジャイアント」ではやや非力さも感じるが、ボーカルの鮮度感や、太い音像の安定感など、良いと思われる点も少なくない。「オスカー」の伸びやかなウッドベースやふくよかな胴鳴り感、ドラムの奥行き感において独特なトーンの深みを感じられた。 ここで「サウンドレトリバーAIR」を入れた状態を確認してみる。まず変わる点として、質感の滑らかさや音像の引き締め効果が加わり、音場の透明感も向上するようになる。「ブルックナー」では、余韻までスムースに繋がるホールトーンは深く、伸びやか。立ち上がりも柔らかく、音に荒げたところがない。「オスカー」のピアノもアタックのクリアさが増し、エッジ感が出てくる。またウッドベースに関しても引き締め効果があり、胴鳴りも弾力豊かに感じられる。「AP」のストリングスもスタジオの音場感が出て生々しさが引き立つようになってきた。 続いて通常の「アドバンスド・サウンドレトリバー」を加えた“Wがけ”状態のサウンドだが、楽器の質感に艶やかさや潤いといったリアリティが加わるようになり、色彩豊かな音場が展開する。「AP」のボーカルは厚みとともに滑らかさや艶っぽさが出て、ピアノも重心の下がったトーンを響かせる。アコギの爪弾きも瑞々しいテンション感が伴い、鮮度の高さが際立つ。「ブルックナー」の弦楽器は抑揚感豊かで、ホールトーンの響きも見やすくなった。「ジャイアント」のベースは押し出し良く、ボーカルは逞しく力強い描写となる。伸び良く艶やかで滑らかなタッチである。そしてソロギターの浮き上がりも自然で、爪弾きも細やかだ。 「VSA-1020」になると、本機だけに搭載されている「ジッターリダクション回路」によって、より高繊細で正確なサウンドを実現しており、Bluetoothサウンドも高密度かつ重厚で、より一層伸びやかなトーンへと進化する。「ブルックナー」の音場は深くマイルドで、ハーモニーは重厚。見通しも良く、伸びやかなホールトーンである。「AP」のストリングスもハリ良く、アコギの爪弾きも煌いている。また女性ボーカルも程良くウェットで、艶やかさに溢れる。「オスカー」のピアノは粒立ち細やかで、ウッドベースはむっちりとした質感と、太く柔らかな胴鳴りが響く。「ジャイアント」もソロギターやベース、キックの質感が滑らかに感じられるが、タイトさを際立たせる倍音のエッジ感も伴う。耳あたり良いマイルドさと、太くリッチな音像となり、長時間のヒアリングでも疲れにくい傾向である。 iPodデジタル接続と比較してしまうと、味付け感はあるものの、かつてのBluetoothサウンドのような抑揚のない、曖昧な音像感は一切感じられない。特に「サウンドレトリバーAIR」によって非常に充実した存在感のあるものへと変貌を遂げた。今後のワイヤレス環境の指針となるようなサウンドの一つになっているように思える。 続いては同社のBDプレーヤー「BDP-LX53」と「VSA-1020/920、VSX-820」をHDMIケーブルで接続し、画像を含めたサラウンド、そして2chでの「PQLS」の効果をチェックしてみよう。 エントリー機「VSX-820」では無理のない音場の広がり、音像の安定した太さが得られるが、ややエッジが甘く感じられる。「スカイ・クロラ」ではダイアログや戦闘機のエンジン音はボトムも太く、重厚だが、「スティクス」、「Suara」などの音楽ソースではギターが深く沈みこみ、明瞭度が若干落ちてしまう傾向も見られた。ベースはふくよかで、ボーカルは肉付き良い。「化物語」ではセリフのマイルドな音伸びと、倍音の潤い感がバランス良く感じられた。 そして「VSA-920」であるが、全体的に引き締まった音像になり、奥行き感のある音場が広がる。「スティクス」では鮮度良くソリッドに引き立つボーカルと、背後からすっきりと伸びてくるホーンセッション、粒立ち良いソロギターなど、全体的に解像度が向上し、楽器の一つ一つが浮き上がってくる。 また、この「VSA-920」におけるトピックの一つは、上位機「VSA-1020」とともに搭載された同社オリジナルの新機能「バーチャルハイト」(5.1chシステムにフロント・ハイトスピーカーを加えた7.1ch音場を作り出す)と「バーチャルサラウンドバック」(仮想サラウンドバックスピーカーを加えた7.1ch音場を作り出す)という効果である。 今回は各々の効果を「スカイ・クロラ」における空戦シーン、及び戦闘機の離陸シーンで確認した。「バーチャルハイト」を有効にすると縦横無尽に飛び回る戦闘機の空間移動がスムースに感じられ、音場が上方へ引き伸ばされるような感覚を覚えた。BGM、SEとの分離も向上し、音がぶつかり合って打ち消されるようなケースも少なくなる。「バーチャルサラウンドバック」においては、離陸シーンで背後から戦闘機が接近してくるSEがより遠くから感じられるようになり、奥行きも深くなる。背後だけでなく、全体的に音像の定位感が明確になるようだ。BGMにも深みが出て、より一層セリフとSEとのバランスが良くなったように感じられた。また分離も良くなり、機銃の音もドライに冴え渡る。 さらにもう一つ、「VSA-1020/920」に搭載されている高音質機能として、HDMI接続をした同社製対応BDプレーヤー間とのジッターの影響を最小限に抑える「PQLS」の2chモードがある。ここでは96kHz/24bitリニアPCM・2chの音声にこだわった「Suara」と、ステレオ収録によるTVアニメ「化物語」を使ってその効果を確認することにした。 まず「Suara」では、ベールが剥れるように透明度が増す音場によって、ボーカルの明瞭度も向上。奥行き感が深くなる。リズム楽器を中心に低域がより引き締まり、タイトなアタックを楽しめるようになる他、細やかなフレーズの粒立ちも増しているようだ。「化物語」においては、セリフの口元が一音一音際立ち、BGMとの分離感も向上。生々しい声の鮮度感を楽しめるようになった。OP曲においても、低域の解像感が増したことで、シンセやボーカルがより一層際立って聴こえてきた。 最後に、これら「バーチャルハイト」、「バーチャルサラウンドバック」、「PQLS 2ch」を搭載し、「ジッターリダクション回路」によって一層磨きのかかったサウンドを実現しているトップ機「VSA-1020」を用い、前述の機能を全て有効にして試聴を行った。 「スカイ・クロラ」では、細やかなSEも粒立ち良く、銃声もタイトに絞られている。定位感も明確で、BGMも綺麗に引き立っている。上下、前後方向の空間は広大に感じられ、飛行機の移動感・浮遊感も自然に捉えられる。定位の移動もスムースでリアリティある立体的なサウンドだ。「スティクス」においては、ストリングスやコーラスのキメが細やかで、ボーカルやエレキのソロパートの際立ち感も鮮やかに感じられる。オーケストラに囲まれたステージの臨場感は奥行きが深く、定位感も正確だ。 「Suara」ではSN良い音場が広がり、輪郭が鮮やかに際立つボーカルの細やかなニュアンス、音像の厚みを実感する。アコギの爪弾きにおいては、アタックとリリースが的確に映像とリンク。質感豊かで滑らかな楽器のトーンを楽しめる。「化物語」分解能が高く、音数が増したように感じられるBGMやOP曲、セリフの澄んだトーンは付帯感なく耳に届く。キレの良い口元の動きが克明に掴み取れる。 なお、映像のクオリティについてであるが、今回は音質に着目したため仔細は省かせていただくが、「VSA-1020/920」は同一の映像回路構成となっているため、「VSX-820」との間で比較を行ってみることにした。「VSX-820」はあっさりと癖のない映像で、価格から考えると質の高い健闘したクオリティだといえる。一方「VSA-1020/920」では黒の階調も深く、奥行きが感じられる色調で、全体的に落ち着いている。輪郭も際立ち、ソースを選ばぬバランスよい表現力を持っているように感じた。 「VSA-1020/VSA-920」における操作性の点で、もう一つ大きな特徴がある。それはパイオニア・オリジナルの「iControlAV」と呼ばれる、iPhone/iPod touch用アプリケーションソフトである。これはWi-Fi環境下で、iPhone/iPod touchをAVアンプ「VSA-1020/920」や対応する同社製BDプレーヤーのリモコンとして使用できるアプリだ。iPhone/iPod touchならではのタッチパネルによる操作性の高さを利用し、複雑でパラメーター切り替えが分かりにくいという声も大きかったAVシステム操作を、直感的に理解できるインターフェースとすることに成功している。 「CONTROL機能」では、指先でボリュームを調整したり、BDプレーヤーの操作が快適に行えるほか、インフォメーションを呼び出せば、AVアンプの入出力ステータスも表示されるので、現在どのフォーマットを再生しているのかもiPhone/iPod touch側で確認できる。
地デジ対策でTVを買い換える際、ラックシステムやAVシステム構築を検討される方は多いと思うが、iPhone/iPod touchを含め、多岐に渡ったデジタルシステムを一括して管理したいと考える方も中には居られるだろう。そうした場合、この「VSA-1020/VSA-920/VSX-820」のリーズナブルなAVアンプシリーズは心強い味方となってくれる。 今回新たに登場した3モデルとも、価格を超えたクオリティを持つハイCP機となっているが、10万円程度までのエントリークラス機でこうした高機能を盛り込んだ製品が登場したのは、非常にユーザーライクであり、良い傾向だと思う。BDも身近になってきた現在、AVアンプも手軽に購入できれば、ソフトに込められたロスレスのHDサラウンドもより理想の状態で楽しむことができる。作品の意図を理解するうえでも、そうした取り組みは最短の近道にもなる。もちろんシアター愛好者のみならず、最新のデジタルメディアのソースをまとめて楽しみたいという音楽派ユーザーにもお薦めできる、間口の広さが魅力のシリーズだ。
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