ワイヤレスオーディオアダプター「REX-Link」シリーズを展開してきたラトックから、その技術を受け継ぐワイヤレスオーディオシステムが登場した。

REX-Linkシリーズは音声信号の無線伝送に特化した送受信アダプターで、再生には別途オーディオシステム(アンプとスピーカー)を必要としたが、この「RAL-Cettia 1B」は受信部とプリメインアンプが一体化されており、スピーカーも付属。このパッケージでシステムが完結する。

ワイヤレスレシーバーとプリメインアンプを一体化したセンターユニットとスピーカーを組み合わせた「RAL-Cettia1B」

筐体のコンパクトさから想像できるだろうが、アンプ部は大出力ではない(10W×2)。しかし電源部のトランスとコンデンサは比較的大容量。手に持ってみると筐体後部が重く、その存在を感じられる。小出力の増幅回路とそれに対して余裕のある大容量の電源回路の組み合わせで安定した駆動力を得る、という設計意図があるのかもしれない。

なお筐体はそれ自体の放熱効果が高いアルミ製で、さらに大型ヒートシンクも装備している。これも安定駆動を実現するポイントだ。

アンプ部のボリュームの周囲にはLEDインジケーターを装備。青色は通信中であることを示す 同じく橙色の時は通信が待機中ということがわかる
アンプ部の底面には大きめのインシュレーターを装備する USB端子に差し込む送信機にもLEDを装備。緑色は通信中であることを示している


アンプ前段には無線で受け取ったデジタル音声信号をアナログ信号に変換するDAC回路があるが、こちらも音質を考慮した設計・実装だ。デジタルフィルタで高周波ノイズを除去し、直流カットコンデンサにはニチコンKZシリーズ(特にオーディオ用に販売されているハイグレード製品)を採用している。

ヘッドホンジャックも用意されており、ヘッドホン専用アンプで駆動される。スピーカー駆動用のアンプと完全に独立しており両者で異なる音量設定を行えるのは、使い勝手がよい。

アンプ部の背面。バナナプラグにも対応するスピーカー端子や充電用のUSB端子などを備える

入力端子はライン入力が1系統あるのみだが、本機の主役は無線伝送なので、特に弱みとはならないだろう。ライン出力も備え、拡張性も確保している。なおUSB端子も用意されているが、これはUSB経由での再生をサポートするものではなく、iPodなどのDAPに電源を供給するために用意されたもの。気が利いている。

スピーカー端子は一般的なネジ式でバナナプラグにも対応。付属スピーカー以外との組み合わせという発展性も持たされている。電源ケーブルも標準的な3Pインレットなので、ハイグレードなものに交換可能である。

無線伝送のスペックはREX-Linkシリーズの中でも最新のREX-Link2のそれを踏襲している。2.4GHz帯を利用し、適応型周波数ホッピングという方式を利用することで、同周波数帯の無線LANなどとの混信、音切れを防いでいる。音声データはもちろんCD音質(44.1kHz/16bit)で非圧縮伝送されるので、伝送過程で音質を損なうこともない。

スピーカーは80mm径のフルレンジ一発というシンプルな構成。マイクロファイバークロスポリマーコーティング振動板は軽量で剛性に優れ、適度な内部損失を持つ。磁気回路には大型マグネットを採用している。


付属スピーカーから出てくる音は、小口径フルレンジ機らしく、特に中音域に元気の良さを感じるものだ。ピアノの響き方などは、繊細さは薄れるものの、そのざっくりとした質感は悪くない。ギターの弦が激しく振動する様子などは好ましい描写と言ってよい。シンバルの力強さも、アップテンポのジャズやロックにはハマる。

コンパクトな付属スピーカー φ80mmのフルレンジユニットを装備

ただ小口径であるためか、さすがにベースの実体感は薄く、輪郭をなぞるような描き方になってしまう。とはいえ、低域をスピーカー側でもアンプ側でも無理には出そうとしていない点には、むしろ好感を持てる。

なおセッティングだが、左右スピーカーの間隔、スピーカーと自分との間隔を適当に調整すれば、大きな音場を生み出してくれる。一方でデスクトップ設置を想定して距離を縮めると、音場は狭くなるが濃密さを増す。幅広いリスニングスタイルに対応してくれそうだ。

ニアフィールドリスニングを試す高橋氏。スピーカーの距離を調整すれば様々な音場を作り出すことができる

コンパクトブックシェルフスピーカーの人気モデル、B&W「686」
せっかくフルサイズのスピーカー端子が用意されているのだから、今回は他のスピーカーでも聴いてみた。

まずはB&Wのエントリーブックシェルフ「686」。元気いっぱいだった付属スピーカーと較べると音の張りが適当に緩み、より自然な響き方をする。

ボーカルは肌理が細かくなり、余韻の消え際まで描き切る。シンバルも荒っぽさが薄れ、繊細な質感や響きの描写に踏み込む。

ベースも厚みを持つようになり、存在感をぐっと増す。ただ輪郭は少しだけ薄くなるが、気になるほどではない。また付属スピーカーは音が全体的に前に来ていたが、こちらでは音場に奥行、深みを感じられるようになった。

つまりは、686というスピーカーの特質・実力をしっかりと引き出せているということ。このアンプ部の力と素直な出力はなかなか侮れないようだ。

KEF「iQ3」も売れ筋ランキングの常連モデル。同軸ユニットの定位感もしっかりと引き出す

もう少し大きめのブックシェルフ、KEF「iQ3」に換えてみる。すると、これまたこのスピーカーの良さをそのまま感じられる、大きな鳴りっぷりだ。ベースラインが重みを増し、ドラムスの抜けも自然で勢いがある。ピアノの硬すぎない音色と厚みも好感触。ギターのカッティングのクリーントーンにも厚みがある。シンバルのハードヒットはきめ細かく華やか。

ジャズボーカルのアカペラの場面では歌声のボリューム感が適切。空間全体に広がるような存在感を出しつつ、下手に緩めた音像にはしない。スピーカー自体の特性もあろうが、アンプの制動力も十分なレベルにあるということだろう。KEFと言えば同軸ユニットによる確かな定位感も売りだが、そこもしっかり引き出してくれる。シンバル一枚一枚の配置を感じられる精度だ。

では、と調子に乗って、さらに大柄なJBL 4307を接続。しかしこれも問題なく鳴らしてくれた。

音像は全体的にやや大柄になり、ドラムスは全てのパーツが一回り大口径になったかのような迫力だ。この小さなアンプが大口径ウーファーを適当に操り、ベースラインにも重みと確かさを与える。ピアノのコードもチャキッと立っていてしかも厚みもある。

大型のJBL「4307」も無理なく鳴らすことができた

音をズバッと前に飛ばしてくるところやボーカルの抑揚の付け方などはまさにJBL的。アップテンポのジャズなど再生すれば、「JBLで聴くジャズ!」の醍醐味を味わえる。ハイファイ感(音場の透明度など)はB&WやKEFに一歩譲るが、問答無用の説得力が溢れる音だ。

様々なスピーカーをつなげてみたが、どれもスピーカー自体の特性が素直に出ていた。ということはアンプ側に余計なクセがなく、駆動力も十分なレベルに達しているということだ。汎用的なスピーカー端子の搭載は決してこけおどしなどではなく、実際にスピーカーのアップグレードに対応できるだけの力を持ったアンプである。

なお、無線伝送の安定性は非常に良好だった。試聴室は無線LANが多数混在するオフィスビル内にあるのだが、そのような環境でも音切れは全く発生しなかった。

PC/DAPの音楽環境を持っている方が、それをベースにオーディオを始めてみようというときに、この手頃な価格でワンパッケージ全てが揃い、しかもスマートなワイヤレス接続で楽しめるという魅力は大きいだろう。

しかも将来的には、スピーカーの交換、スピーカーケーブルや電源ケーブルのアップグレードなども行える仕様と性能を備えている。レシーバー/アンプは「RAL-AMP01」として単体でも販売されるので、最初から他のスピーカーと組み合わせて購入することもできる。パッケージとして完成されていながら、柔軟性も兼ね備えているシステムと言えよう。

同社はこれを第一弾として、PCオーディオに向けて「RAL」ブランドの製品を展開予定とのこと。元々PC周辺機器メーカーであるだけに、今後もPC/DAPユーザーとオーディオとの架け橋となるような製品を提供してくれるものと期待したい。

<無線部>
●無線伝送方式:デジタル無線/非圧縮方式、2chリニアPCM、16bit/44.1kHz ●周波数帯域:2.4GHz
<アンプ部>
●定格出力:10W×2(8Ω) ●入出力端子:アナログ音声入力1/出力1、ヘッドホン出力、スピーカー出力 ●その他端子:USBバスパワー端子 ●外形寸法:約138W×125H×180Dmm ●質量:約2.6kg
<スピーカー部>
●形式:フルレンジバスレフ型 ●ユニット:8cmマイクロファイバークロスポリマーコーティング振動板 ●再生周波数帯域:90Hz〜20kHz ●出力音圧レベル:84dB ●外形寸法:約110W×180H×140Dmm ●質量:約2.2kg
・ラトックシステム http://www.ratocsystems.com
製品情報ページ http://www.ratocsystems.com/products/subpage/ralcettia1b.html
高橋 敦
Atsushi Takahashi

埼玉県浦和市(現さいたま市)出身。大学中退後、パーソナルコンピュータ系の記事を中心にライターとしての活動を開始。現在はデジタルオーディオ及びビジュアル機器、Apple Macintosh、それらの周辺状況などに関する記事執筆を中心に活動する。また、ロック・ポップスを中心に、年代や国境を問わず様々な音楽を愛聴。 その興味は演奏や録音の技術などにまで及び、オーディオ評に独自の視点を与えている。