その特徴に “高音質”を謳った、スーパーハイエンドなHDMIケーブルがサエクから登場する。このことは私たちAVファンにとって大変エポックメーキングな出来事だ。もともとサエクコマースは、40年近い伝統をもつオーディオの老舗ブランドであり、SUPRAやCAMELOT TECHNOLOGYといった海外製品を扱う一方で、自らも最高のサウンドを求めた各種のケーブルを世に送り出してきた。アナログのラインケーブルや光・同軸のデジタルケーブル、そして電源ケーブルにも銘機が多い。今回登場するのは、サエク初となるオリジナルの高音質HDMIケーブルだ。フラグシップの「SH-1010」と、そのノウハウを受け継いだAVユーザーモデル「SH-810」の2製品である。今回は同社代表の北澤慶太氏に、新製品の開発時にこだわったポイントや、コンセプトについてうかがってみることにした。 |
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「映像のクオリティに比べて、これまでHDMIケーブルは音質の品質向上が置き去りにされてきたように思います。このような現状において、“音の良いHDMIケーブル”を提案したいと考えたことが新製品開発の動機にあります」と、単純明快に言いきる北澤氏。なるほど、HDオーディオの時代、HDMIケーブルの音質にもっと注目が集まってもいいはずだ。原理上、オーディオ信号は映像のブランキングエリアに挿入されるため、ジッターやノイズの影響を受けやすい。「そのためにもまずHDMIケーブルの音声にメスを入れ、徹底的にクオリティアップすれば、画質は自然についてくると考えました」と語る北澤氏。理にかなったアプローチである。
実は今回のサエクの新しいHDMIケーブルは某社メーカーのエンジニアとの共同開発により完成されたものであり、これまでにサエクが蓄積してきたケーブル開発のノウハウを付き合わせながら、ブランドとして初めての開発となるHDMIケーブルを入念に作り込んできたのだという。私はサエクブランドの「品質」にこだわりぬく思想と、それを実際の製品にきちんと反映させてくる実力を知る者のひとりだが、音への執念やこだわりは半端ではない。今回のモデルについても、開発期間は優に1年を超えているであろうし、特に「SH-1010」のいかにも高級そうな極太のケーブル部と信頼感溢れるプラグを見れば、なるほど納得ができる。 ご存じのようにHDMIは19本もの芯線が走る、超微細なケーブル技術のかたまりだ。さらに“Ver.1.3”クラスの超高速伝送(クロックは300MHzを越す)となると、ほんの僅かなロスや変質も許されない。そのハードルをクリアできたのは、ひとえにサエクという名門ブランドが威信をかけて守ってきた「はじめにS/Nありき」という思想を、今回も貫き通してきたからだ。「加えて音源を正確に再現すべく、ノンカラーレーションに徹した忠実伝送をつきつめました」と北澤氏は語る。これぞ同社のポリシーそのものではないか。 技術的な内容は後ほどまた詳しく触れるが、「SH-1010」では贅沢にもテフロンを絶縁材に用いたり、厳重な二重のシースを採り入れたりと、ハイエンドモデルならではのこだわりを盛り込んでいる。内部の線材についても比較試聴を重ねた結果、ツイスト撚りの銀メッキ付き高純度銅を採用…などなど、見事と言えるこだわりようである。 「その導体部よりもさらに開発が大変だったのが、専用の高性能プラグでした。一般的な折り曲げ構造では音が悪くなります」。一般的なHDMIケーブルのプラグ部を見てみると、合わせの部分がギザギザになっており、振動面の問題がありそうだ。「実は、そこにハンダをして削ったところ、俄然音がよくなったのです」。ならば、折り曲げプラグをやめようというわけだ。興味深いエピソードである。そこで「SH-1010」、「SH-810」ともに一体成形のしっかりしたプラグを入念に開発し、採用してきた。もちろん最高品位の金メッキで、かん合や接触ロスも問題なし。究極のHDMIケーブルがここに誕生したのである。
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「SH-1010」は、HDMI Ver1.3 category2に対応する超高級モデルだ。先述した通り、本機は某メーカーのエンジニアとの協力開発によって完成された上位の高音質HDMIケーブルだ。ハイエンドモデルゆえに、価格バランスの面からも市場投入時は3mまでとした。 SACDの制作過程におけるテストでも、群を抜く音のよさとその高精度ぶりが証明された本モデルは、究極のハイスピード伝送(しかも19本すべてのスピードが一致する必要がある)をめざし、メイン信号路に発泡テフロンを用いたのが最大の注目点だ。テフロンは空気に次ぐ低い誘電率をもつ理想の素材。オーディオの高級ケーブルは別として、HDMIでは珍しい。
導体には銀コーティングの高純度銅を採用した。導体構造はサエクのお家芸ともいえるシールド付きのツイストペア導体(メイン信号路)で、アルミ箔と銀メッキ銅線による2重シールドなど、対策も万全だ。さらに驚くのは黒いシース。このハロゲンフリーの特殊シースは、振動対策への配慮から2種類のマテリアルを組合せているのだ。内容は非公開である。 ケーブル外径は9.5φ。HDMIとしてはかなりの極太であり、この導体部とマッチングをとるべくプラグにも凝ったつくりを採用する。一体もののダイキャストは、つなぎ目がないために有害な微振動とも無縁だ。仕上げは上質な金メッキ。カラーは黒色のみで、ケーブルには方向性のマークがついている。 |
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もうひとつの「SH-810」は、より広くホームシアター向けの用途にもフィットさせることを狙ったハイCPモデルであり、ピュアな白いシースが印象的だ。こちらはユーザーの様々な使い方を想定し、0.7〜15mまで長さのバリエーションを揃えている。基本は3mまでがcategory2のDeepColor対応で、5〜10mが1080p対応。それ以上の15mまでは1080i対応となる。
本機と1010との違いは、ノウハウを継承しつつも少しずつ素材を変え、クオリティと価格のバランスを両立させた点だ。導体は銀コートから錫メッキの高純度銅に変更。絶縁材もテフロンとまではいかないが、PEで発泡系の材料を用い低誘電率化を図っている。 外径8φといくぶん細めだが、ツイストペアの導体構造やアルミ箔シールド構造など、巧みにエッセンスを取り入れながらバランスよく作り込まれたモデルだ。嬉しいことにプラグは1010と同一の一体成型金メッキ処理である。こちらも方向性マーク付きだ。
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BDの『レジェンド・オブ・ジャズ』は、サウンドが明瞭かつ緻密だ。スタジオライブのノリや空気感、ミュージシャンとの距離感が素晴らしい。『オペラ座の怪人』は、重厚なSEがもうひと押し深く、うきするほどダイナミックで音色華やかだ。空間が広く、ドルビーTrueHDらしく、管弦楽のスコアが透け出すような解像力は圧巻。クリスティーナのアリアはくっきりとヌケ出し、息がかかるかといえるリアリティである。肌のみずみずしさや微妙な色階調。ダークサイドの粘り感など、機器のグレードがあがり映像表現にも磨きがかかった印象だ。光の陰影も美しい。 『ファンタスイック・フォー』や戦争ものなどDTS-HD系の作品も数点試聴したが、音圧感が増し、キレ味やスピード感がいっそう精密に、臨場感たっぷりに描写された。
音がよい、画がよいという次元から、作品の本質に迫る表現力の高まりを実感させた1010に比べると、SH-810はスケールこそコンパクトな印象だが、音の傾向はほぼ同じである。やはり音に勢いがあり、映像も鮮烈でフルHDらしくテクスチャー豊かに見せる。 『オペラ座の怪人』での音色のゴージャスさも1010に迫る雰囲気があり、低域のSEやアリアが少しアッサリめに感じられた他は、空間再現にも優れ、素晴らしくバランスがよい。 どの作品もS/Nが優秀。雑味や汚れのない忠実な情報伝達能力は上位モデル譲りだ。さらに嬉しいのは長尺ものでもロス感や色づけがなく、信号の鮮度がしっかりキープされたことだ。10mまで1080pが通ることも実験ずみである。プロジェクターユーザーにも最適であり、価格を考えればこれ以上望むことはないだろう。 「高音質HDMIケーブル」という異色の切り口だが、実際に試聴してみると、映像のパフォーンマンスを含め、マニアをうならせるハイグレードな内容だった。「SH-1010」の持つ可能性は計り知れず、「そこまでソース情報と機器の性能を引き出すか!」と、私も感嘆した次第だ。私ならプレーヤーなどのソース機器とAVアンプ間は、ぜひ「SH-1010」を起用し、音にもこだわったHDMI環境をつくりたい。一方、プロジェクターまでの長い引き回しには弟分の「SH-810」を、自信をもってお勧めしたい。サエクの果敢なチャレンジがHDMIケーブルの“音質評価”に旋風を起こすことは間違いないだろう。
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