ゼンハイザーのコンシューマー向けレギュラーシリーズのカナル型イヤホン最上位機種として、この春発表された『980系』の“Expression Line”、そして従来の“Style Line”の後継となる『880/870系』“Classic Line”、さらにはエントリーモデルとなる“Street Line”『270系』、これら3つの製品ラインから最新モデル「CX980」、「CX870」、「CX271」、「CX270」を中心に今回は試聴を行った。
このレギュラーシリーズはゼンハイザーならではの濃密なサウンドを軸とした高音質の追求に加え、ユーザーの多様なニーズを支えるためのデザイン性や機能性を盛り込んだ製品となっており、グレードによって多彩なラインアップが揃っている。
カナル型イヤホン |
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まず上位のプレミアムモデルとなる「CX980」であるが、金属の質感を重視したカナル型イヤホンで、ハウジングからケーブルブッシュを支えるまでの部位に光沢感のあるメタルパーツを採用している。ステレオミニプラグ部も同様にメタルパーツが採用されているが、90度回転させることでストレート形状かL字型形状か、好みのスタイルを選択できる。iPodなどのポータブルオーディオプレーヤーで使用する際などにも重宝する機能であり、非常にユニークだ。加えてスライド式のボリュームコントローラーや、独特な形状のケーブルクリップなども用意されている。
音質面においてはネオジウムマグネット採用のダイナミックドライバーを搭載。イヤーピースについては、低域の音質感が異なる2種類のシリコンタイプが用意されており、裏側のノーズ装着部が白色(ナチュラルな低域感)のものと、ピンク色(押し出しある豊かな低域感)のもの、各々L/M/Sの3サイズが同梱。その他に低反発のフォームタイプも付属する。
メタルのボディがハイグレードモデルならではの上質な質感を醸し出す「CX980」(写真はクリックで拡大) |
ケーブルにはスライド式のボリュームコントローラーを備えている(写真はクリックで拡大) |
プラグの形状は回転させてストレート/L字に可変できる(写真はクリックで拡大) |
プラグの形状をL字型にしたところ(写真はクリックで拡大) |
低反発タイプを含む4種類のイヤーアダプターが付属する(写真はクリックで拡大) |
レザーの専用キャリングケースが付属する(写真はクリックで拡大) |
ユニークな形状のケーブルクリップ(左)と航空機用アダプター(写真はクリックで拡大) |
イヤホン部やアダプターの手入れにも便利なクリーニングツールも付属(写真はクリックで拡大) |
続いて、“Classic Line”の「CX870」であるが、シリーズにラインアップする兄弟機のカナル型イヤホン「CX880」からボリュームコントローラーが省かれた、シンプルな製品だ。スタイリッシュなハウジングにはコードブッシュにかけて、シルバーのヘアーライン・クロームメッキによるワンポイントパーツがはめ込まれ、独特な存在感を生み出している。またエルゴノミクスデザインを採用しており、洗練されたスタイルとともに、装着感の高さも魅力のひとつとなっている。
最後に、エントリーのカナル型イヤホンである“Street Line”「CX271」についてだが、コンパクトなハウジングとエルゴノミクスデザインを採用した筐体を採用し、ポータブルオーディオプレーヤーでも手軽に高音質を楽しめる設計となっている。「CX271」はハウジングに施された深紅に金色のラインが映えるデザインと、半透明ジャケットを採用したケーブルの対比が、その存在を引き立たせている。
シャープなエッジを持たせたデザインが特徴的な「CX870」のハウジング部(写真はクリックで拡大) |
イヤーアダプターはS/M/Lの3種類が付属する(写真はクリックで拡大) |
ポータブルオーディオプレーヤーとの組み合わせにも最適な長さ1.2mのY型ケーブル仕様(写真はクリックで拡大) |
L型の3.5mmプラグを採用する(写真はクリックで拡大) |
全帯域に再生バランスが良質な「CX271」
まずは「CX271」から、そのサウンドを確認していこう。音場はコンパクトにまとまり、低域の引き締め感も適度に感じられる。倍音成分が煌びやかに感じられる高域とのバランスも耳馴染み良いものだ。クラシックではストリングスが爽やかで張りがあり、粒も細かい。太く伸び良いリリースのホーンとともに豊かなハーモニーが楽しめる。ジャズでは高域の澄んだピアノの響き、ウッドベースの引き締まった胴鳴りと、鮮やかなハリのある弦の音伸びなど、価格を考えると非常にCPの高い、細やかな描写力を感じられる。
女性ボーカルはやや硬めのトーンだが、程よい肉付き感が得られる。ロックにおいては、ソリッドさを全面に出したリズム隊と、渋いエレキのディストーションが粒立ち細やかに聴こえてくる。ボーカル表現もソリッド基調で、エッジが際立っている。ポップスでは暖色系のベースと伸びやかですっきりとしたボーカル、引き締まったエレキのミュートが音場を見通し良くさせている。なお、「CX270」では厚みのある中低域と倍音豊かな高域が特徴で、艶やかな弦楽器と音像の太いボーカル、ブンブンと鳴りっぷりの良いベースが心地良い。「CX271」との比較では、重心を低域に持ってきたようなサウンドである。
深紅のハウジングが特徴的な「CX271」(写真はクリックで拡大) |
ケーブルは半透明のジャケットを採用する(写真はクリックで拡大) |
1.2mのY型ケーブルを採用している(写真はクリックで拡大) |
「CX271」の兄弟機となる、ブラックを基調カラーとした「CX270」(写真はクリックで拡大) |
豊かな中域の再生能力が印象に残る「CX870」
続いては「CX870」のサウンドであるが、低域の押し出しがより一層強くなり、中高域にかけての倍音も豊かに付加される。クラシックでは管弦楽器が太く、張り出しも強い。ホールトーンはリッチな響きであるが、細やかなタッチも失われておらず、解像感は向上しているようだ。
ジャズではピアノのアタックはやや丸くなり、甘いトーンとなる。中高域にかけてまろやかで、軽いタッチと倍音のハーモニクスが豊かに感じられる。ウッドベースは胴鳴りが深く、むっちりとした弦の弾力感が伝わってくる。女性ボーカルは肉厚で、エッジ感は倍音で補っている印象だ。
ロックにおいては太くリッチなディストーションギターのサウンドが映え、倍音感で刻みのエッジも際立っている。ベースは太い音像で、前へ豊かに押し出してくる。ポップスにおいては高域のフレーズがカラリとした倍音感でヌケ良く表現される。リズム隊は太く力強い押し出しで、ボーカルのウェットな倍音の響きときれいに描き分けが成立している。
どんな音楽ソースにもハイグレードなサウンドが楽しめる「CX980」
最後にプレミアムモデルの「CX980」である。「CX870」よりも制動力が向上し、中低域の躍動感がより伝わりやすくなっている。倍音感の豊かさも感じられるが、基本的に素直な音色をベースにしており、さらに上位に位置するプロフェッショナルモニターの“IEシリーズ”に繋がるニュアンスを感じさせる。
クラシックでは太くまとまりある管弦楽器が伸び良くすっきりと響く。ホールトーンは太くリッチであるが、旋律そのものはふくよかで真面目に描かれる。ジャズではピアノのエッジにほのかな丸みが感じられ、中低域の伸び良いタッチがトーンの温かみを生む。ウッドベースはハリの良い弦と胴鳴りの弾力感が心地良く、スネアの胴鳴りも太く、キレのある描写である。女性ボーカルは自然な音ヌケの良さを感じ、肉厚で伸びやかな音像が立ち上がる。ロックにおいてはエレキのミュートのキレの良さが映え、むっちりとしたふくよかなベースと、程よいふくらみのあるドラムとの対比がバランス良く感じられた。ボーカルも鮮やかなハリとともにウェットさも伴っており、ポップスのソースでも低域まで深く伸びる安定したボトムの太さを実感できた。
いずれのシリーズもゼンハイザーの高音質技術が惜しみなく活かされている
どんなジャンルでもバランスよく素直にまとめるという点で「CX980」が優等生的なキャラクターを持っているのに対し、「CX870」は低域の豊かさと倍音によるメリハリを効かせ、元気なロックサウンドを愉しげに鳴らしてくれる。「CX271」はジャンルに偏りはないものの、レンジの両翼を無理なくカバーし、コンパクトに楽器を描写する傾向を持っている。
そのいずれも重心の下がったボトムの太さを感じさせる音像を描く、ゼンハイザーならではのトーンを持った製品たちであり、コストパフォーマンスの高さを感じさせる音色であったことも付け加えておきたい。
【試聴ソース】
<クラシック>
・ユーベル・スダーン/東京交響楽団『ブルックナー:交響曲第7番』(N&F:NF21202)
・レヴァイン/シカゴ交響楽団『ホルスト<惑星>』(ユニバーサル・グラモフォン:00289 477 5010)
<ジャズ>
・オスカー・ピーターソン・トリオ『プリーズ・リクエスト』(ユニバーサル:UCCU-9407)
・『Pure〜AQUAPLUS LEGEND OF ACOUSTICS』(F.I.X.:KIGA2)
<ロック>
・デイヴ・メニケッティ『MENIKETTI』(DREAM CATCHER:CRIDE35)
・ジャイアント『Promise Land』(FRONTIERS:FR CD 449)
<ポップス>
・「Servante du feu」『ソ・ラ・ノ・ヲ・トO.S.T.』(アニプレックス:SVWC7681)
・「晴れときどき笑顔」『バカとテストと召喚獣O.S.T.』(ランティス:LACA-15016)
◆筆者プロフィール 岩井喬 Takashi Iwai |