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SACD『sempre libera』 |
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マランツの試聴室は全域に渡ってエネルギーバランスが整った好ましい部屋だ。ハーンのヴァイオリンのあと、私は無性にネトレプコのソプラノが聴きたくなった。ヴァイオリンとソプラノ、この2つは、わたしが自分のオーディオシステムの音を練り上げるために、聴き続けてきたソースだ。この日、選んだのは、クラウディオ・アバド指揮のマーラー室内管弦楽団とアンナ・ネトレプコが組んだ、SACD『sempre
libera』(グラモフォン00289-474-88 12)だ。聴いたのはトラック9〜11。歌劇『ランメルモールのルチア』のルチア、「狂乱の場」の絶唱だ。この演奏では、アバドはフルートの代わりに、グラスハーモニカを使うという手法を取り入れ成功している。
Signature Diamondで再生するコロラトゥーラ・ソプラノとグラスハーモニカのかけあいは、まさに絶品であった。グラスハーモニカの透き通った音は、ソプラノを高みに導き、ソプラノは、徐々に強くなる声でそれに応じ、透明で美しいハーモニーを現出させている。このディスクは、いままで数えきれぬほど聴いており、痛んだために、すでに2枚目を使っているほどの愛聴盤だが、この日ほど、澄み渡った音で聴けたことはなかった。これは、音場感の表出に優れた録音で、ソプラノを極度にクローズアップすることなく、グラスハーモニカとの掛け合いも、距離をおいて収録している。それだけに音場空間の中での両者のナイーブな響きあいが克明に表現されているのだ。
このスピーカーが奏でる演奏に魅せられつつ、わたしは、自然に自分が好きなディスクだけを取り出していた。CDで聴いた『ショパン/ピアノ協奏曲第2番』(グラモフォン
POCG10246)もその一枚だ。敬愛するピアニスト、クリスチャン・ツィマーマンが弾き振りしたディスクだが、これも痛んで買い換えた盤だ。このディスクでは、琢磨され尽くした感じのピアノの粒立ちが心を揺する。Signature
Diamondで聴くこの演奏は、克明に表出された演奏の綾で、わたしを酔わせた。どんな微細な分までも妥協しないパーフェクショニスト、ツィマーマンの神髄が随所で明らかになった。このディスクの鮮明度は決して高いとはいえないが、このスピーカーで聴くと、いままで聞こえなかった細部のニュアンスが感じ取れるのだ。 |