チェック用のモニターや画質調整器材を背に微笑むのが、デビッド・バーンスタイン氏。TH-AE500の画づくりに直接かかわった、ハリウッドのトップカラーリストだ。映画フィルムからDVDに落とし込む工程で、画質を決めるプロ中のプロ。ハリウッドのトップカラーリストの尊称である「ゴールデンアイ」の一人である。
彼の能力がどれくらい凄いのかって? 一度見た映画は色、陰影の具合などすべて記憶に焼きつくそうだし、特に色の識別能力は驚異的だ。僕らにはまったく同じに見える色でも、即座に見分ける。測定器の誤差をも越えて0.0003duv(duvは色の最低変化量の単位)まで完璧に判別する、まさに測定器以上のゴールデン・アイなのである。
今回のプロジェクトで、バーンスタイン氏がこだわったのはフィルム映像の忠実な再現と、やはり“色”だ。パナソニックの技術者が見せられたソースは、D5のハイビジョンのマスターテープ。氏が手がけた特徴的なシーンをダイジェストしたものだった。赤や青の色が印象的なシーン、人肌が印象的なシーンといった具合だが、ひとつの色を変えるたびに一本のテープを全部見直すという大変な作業だ。そのやりとりから、TH-AE500の“ハリウッド画質”がいかに作り込まれたかを感じ取ってほしい。
『ムーラン・ルージュ』の冒頭の、ダンサーたちがバカ騒ぎするシーンでは原色系が鮮やかだ。わざと赤を足し込んだり意図的に作られた人肌など、そこをまずきちっと表現してほしい。キッドマンの登場シーンは「青を感じない青」という含みをもった表現になる。これは難しい。サスペンスものの『フォン・ブース』(輸入盤)は『ムーラン・ルージュ』とは対照的にクールな色調の映画だが、その脱色したような感じをいかに再現するかだ。キーの色はシアンだが、『ムーラン・ルージュ』で赤の鮮やかさを重視すれば、こちらのシアンが出ない。これも難易度の高い調整である。結婚式らしい華やかさを加えてほしいと注文されたのが『ジャズト・マリード』(輸入盤)だ。黒い服に赤を入れリッチさを演出しつつ、白側は僅かに少しグリーンにして対比を高めるなど、作品を理解していなければ、到底不可能な調整ではないか。まさに芸術家、感性の表現力である。
デビッド.H.バーンスタイン氏の経歴 |
1994年 |
フランシス・フォード・コッポラ監督の映画「ドラキュラ」で初の国際モニター賞(International Monitor Award for color correction)受賞、さらに1995年に「カリブ海の宝石」で2回目を受賞。 |
1995年 |
MGM、20世紀FOXの仕事を担当しジェームズ・キャメロン監督等との仕事を開始。「バードケイジ」と「タイタニック」で更に国際モニター賞受賞。 |
1998年 |
ハリウッドのHDTC社に移り20世紀FOXのハイビジョン素材関連の主担当として業務。 |
2001年 |
バズ・ラーマン監督「ムーラン・ルージュ」の業務を担当し、5回目の国際モニター賞を受賞。 |
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