フル・ハイビジョン方式にシフトするPDPや液晶タイプのディスプレイ、その動きに合わせるように録画部門もDVD方式から次世代フォーマットのBD(ブルーレイ・ディスク)方式への移行が顕著である。CDから続いてきた赤色レーザーでの記録・再生システムに代わり、より短波長の青色レーザーをベースに構築された新システムがBD方式である。短波長レーザーによる微細なスポットで細い記録溝をCDやDVDと同一の12cm径ディスクに刻めば、DVDの4.7GBに対し単層で約5倍の25GB、2層タイプでは約50GBの容量が得られハイビジョンの高品位長時間録画が実現する。
BDのレコーダブル・メディアには、DVDのDVD-RWやDVD-RAMに相当するリライタブル・タイプ(書換型)のBD-RE、DVD-Rに相当するライトワンス・タイプ(追記型)のBD-Rがある。用途や性格の異なる両タイプの位置付けは難しいが、DVD録画での推移をひもとくと、初期の普及期にあってはメディアのコストが高く、書換え型に需要が集中するが、その後、メディアのコスト低下と共に追記型が圧倒的に消費される。
この傾向は、DVDレコーダーにHDDが搭載されてから一段と明確になることから、BD部門にあっても同一の傾向をたどることが予想される。現行のBDレコーダーの大半が当初からHDD搭載型で、タイムシフト録画はHDDに依存され書換え型の役割も担い、録画メディアは保存目的の追記型に集中することが予測されるのである。
追記型メディアの歴史は、1988年に太陽誘電(株)が世界初のCD-Rの開発・製品化に始まり、DVD-Rで全盛期を迎え、BD-Rに継承されようとしている。今回、ザッツが開発した「BD-R LTH TYPE」のディスクは、DVD-Rで圧倒的な成功を納めた有機系記録層による注目製品である。
▲BD-RとCD-R、DVD-Rとの層構造の比較した図。BD-Rは厚さ1.1mmの基板上に記録層を設け,0.1mmの透明なカバー層で覆う構造が採用されている。波長405nmの青色(青紫色)レーザーと、開口数0.85の対物レンズにより、DVDの約5倍となる25GBの記録容量を実現している。(図はクリックで拡大します) |
その仕組みは、記録デジタル情報の“1”と“0”に沿い、ディスクに刻まれた有機色素の記録層にレーザーをスポットして照射、元の反射率を低い状態(Low)から、高い状態へ(High)へ変化させる方式がLTH(Low to High)である。一方、CD-RやDVD-Rでは、逆に反射率を高い状態から低い状態へ変化させるHTL(High to Low)方式を採用してきた。記録層を形成する素材はCD-R、DVD-Rともにシアニン系色素材(有機系)を中心に構成されている。BD-Rでは、書き換え型のCD-RW/DVD-RWやRAMなどの相変化材に近い、無機系素材によるディスクが先行して商品化を実現してきたが、このほど登場してきたBD-R LTH TYPEは、低価格の有機素材、構造の簡素化、DVDに準じる製造工程を採用していることなどから、将来、コストダウンが実現した際には、BDのより一層の普及に貢献する可能性を持った記録メディアであると言える。
世界的な電子部品メーカーと、記録メディアのブランドであるザッツは、コンパクト・カセット、8mm、DAT、S-VHSなどのテープ・メディアで実績を積みユーザーに広く定着したが、ブランドを強烈に印象付けた製品が世界初のCD-Rの開発である。
CD-R開発のポイントは、ピット形成時に発生するガス成分をいかに処理するか、という点にある。当初、ガス成分を特殊層に吸収させたサンドウィッチ構造としたが、反射層との間隙により反射率が低下するなどの不備が生じた。その後、有機色素材による記録層の開発により、ガス成分をポリカーボネート基板に吸収させるアイデイアで、デイスク厚を規格内の1.2mmに納めたCD-Rを完成させ、記録型光ディスクの世界を構築。音楽・映像のみならずデジタル・データーの保存に大いに貢献した。
DVDの時代を迎えてもこの有機色素層によるCD-Rの原理は健在であり、より緻密なディメンションに凝縮したDVD-Rが実現。無機系の相変化材による書き換え型のDVD-RW/RAMと併存するかたちになる。BDの場合、フォーマットのスタート当初はディスクに無機記録材が使われてきたが、今年に入っていよいよ待望の有機材によるBD-R
LTH TYPEが登場した。その開発には3年余を必要としたが、DVD-Rに比べ高い精度が要求される新構造の採用など、多くの時間を費やして、充分な検証が行われた後に実用化された。
無機系BD-Rは、記録層と反射層、保護層が必要であり、その構造は多層構造となる。一方、有機系BD-Rは、CD-RやDVD-Rに準じた単純な構造であり、反応のよさと低速から高速までの書き込み特性の安定性などに特徴がある。現行製品では2倍速書き込みに対応しているが、将来は4倍速、6倍速と高速化にも大いに可能性を持っている。