先駆者オンキヨーが贈るHDオーディオ第二世代機

昨夏の発売以来、オンキヨーのAVアンプは10万円未満の価格帯で独走を続けている。無理からぬ話で、TX-SA605が84,000円(税込)で発売された時、本当にHDMI Ver1.3搭載なのか、それとも価格が間違っているのか、と目を疑ったくらいである。オンキヨーは1.3対応が最も早かった。上位機種の805、905を含むシリーズ全機種の開発を横一列で進め、夏の時点で早々にラインナップ化を達成した。ボトムを担うTX-SA605の音質と完成度の高さは、こうしたオンキヨーのVer1.3対応アンプのグランドデザインと技術開発のシナジー効果から生まれた。ブルーレイディスクの本当の始まりといえる今年、Ver1.3対応アンプ第二章の幕開けは、やはりオンキヨー600番から始まる。

前作をベースとした更なるクオリティ追求

それがTX-SA606Xだ。価格据え置き(¥84,000・税込)で4月29日に発売され、いま店頭のフロントラインを賑わせている。今後、夏頃までに706、806、906が順次発売される予定であろうが、本機TX-SA60Xは、新ラインアップ06系のエッセンスを凝縮した清新な内容のアンプである。まず、昨季の605からの変更点から見ていこう。


HDオーディオのデコーダー/DSPは、テキサス・インスツルメンツのAureusシリーズTMS320DA788を採用した。32ビット266MHzのデバイスで従来機種は250Hzだった。DSPにはMusic Optimizer、Audyssey Dynamic EQ機能を内包する。前者は圧縮音源の高域を補正して音質を改善、後者は音量に応じて補正をかけることができ、小音量時にも表現が弱くならない。DACはシーラスロジックのCS42518。S/Nが114dB、歪率0.001%の高性能デバイスである。スケーラーには新たにGENESISのHudson IIを採用した。Farouja DCDi Edgeでi/p変換を行い、アナログ信号を1080iまでアップスケーリングしてHDMI出力することができる。605からの機能上の大きな進歩である。


本機の内部構造。グラウンドの安定化と電流の正確な回帰が従来機種からの大きな改善点 「比較器」「ベクトル発生器」「積分器」を組み合わせた特許技術回路VLSCにより、アナログ変換後の音声信号に残留するパルス性デジタルノイズを排除

音質面でもアンプとして地力を高めるために、パワーアンプをシンメトリー配置とするなど機構を従来から一新した。中央に給電部を配し、プッシュプル構成のパワー素子がSBL、SL、L、C、R、SR、SBRと並ぶ一列シンメトリカル配置で、左右のパス(経路)を揃えてサラウンド定位と空間表現力を高めたことが特徴である。


さらに、新しい06系では、グランド電位を安定化させ、一段と音質改善の効果を引き出す工夫が見られる。パワーアンプの電源ケミコンの裏側に銅製バスプレートを貼り、ブロックケミコンのリード、トランスのセンタータップ、スピーカーのグランドがプリント基板のパターンを経由せず、直結するようにした。グランドのインピーダンスを下げ、閉ループ化、電流が所定の位置に回帰する設計である。DSP関連回路とHDMI関連回路は、1枚の4層基板に集約して、高周波電流は距離を最短化した上でなるべく内層部を経由させ不要輻射を軽減させている。


新デザインを採用したリモコン、ボタン数を少なくし、操作感を重視した合理的な使い心地を実現
VIERA、REGZAに加え新たにAQUOSとのシステムリンクに対応(AQUOSは2008年4月以降の機種に対応する)

奥行きの豊かな音場に新たな可能性を聴いた

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TX-SA606Xの背面。音質向上を狙った内部設計の変更により前モデルとは端子の配置がやや変更されている

デバイスの更新と細部の詰めを経て、TX-SA606Xはどう変貌したか。一言で表現すれば、一段と奥行きの豊かなサラウンド音場を表現するアンプに進化していると言える。特にフロントセクション、つまりスクリーンの向こうに現れる音場が深い。『あの頃、ペニーレインと』のウィリアムがペニーと出会うシーンは、イエスの2曲を使いドラマの変化を音楽で巧みに表現するシーンだが、TX-SA606Xで再生すると音場が遠近感に富み、意図がよく伝わってニンマリさせられる。ツアーバスの中の合唱もそれぞれの声がきれいに分離しながら一つに重なる。TX-SA606Xは、オンキヨーの製品らしく、CDの音楽ソースを聴いても力のあるアンプ。仲道郁代のベートーベンピアノソナタ第30番第一楽章冒頭の和音は分厚くガーンと鳴る。再生の難しいフルートソナタ(プーランク)も音の輪郭が歪まない。


力感とニュアンスに富んだ音場表現に磨きを掛けたTX-SA606Xは、昨季の705に匹敵する内容を手にした。価格の説得力からも、ここ当分は追従する製品は現れないだろう。TX-SA606Xが開幕を告げたオンキヨーの「HDオーディオ第二章」がいよいよ楽しみである。


ONKYO TX-SA606X

ONKYO TX-SA606X

SPEC
●定格出力:120W×7ch(6Ω、20Hz縲F20kHz、THD0.08%以下、1ch駆動時) ●実用最大出力:185W×7ch(6Ω、1ch駆動時、JEITA) ●全高調波歪率:0.08% ●周波数特性:5Hz縲F100kHz ●S/N比:106dB ●スピーカー適応インピーダンス:4縲F16Ωまたは6縲F16Ω ●消費電力:450W ●待機時電力:0.1W ●入力端子:HDMI×4、D4映像×2、RCA色差映像×2、S映像×4、コンポジット映像×5、同軸デジタル音声×2、光デジタル音声×2、アナログ(LR)音声×7、アナログ(7.1ch)音声×1 ●出力端子:HDMI×1、D4映像×1、RCA色差映像×1、S映像×2、コンポジット映像×2、光デジタル音声×1、アナログ(LR)音声×2、アナログ(7.1ch)音声×1 ●外形寸法:435W×174.5H×375Dmm ●質量:12.4kg

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筆者プロフィール

大橋伸太郎 Shintaro Ohashi

1956年神奈川県鎌倉市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。フジサンケイグループにて、『ガレのガラス芸術』『日本百景』『少年少女名作絵画館』 (全12巻・日本図書館協会、全国学校図書館協議会選定図書)等、美術書、児童書を企画編集後、(株)音元出版に入社、1990年『AV REVIEW』編集長、1998年には日本初にして現在も唯一の定期刊行ホームシアター専門誌『ホームシアターファイル』を刊行した。ホームシアターのオーソリティとして、Infocom Japan、9坪ハウス、富士通ゼネラル、カリモク家具販売、ルートロンアスカ、東京建築士会、インハウス平和などでの講演多数。テレビ朝日系列『トゥナイトII』などテレビ出演も多い。2006年に評論家に転身。西洋美術、クラシックからロック、ジャズにいたる音楽、近・現代文学、高校時代からの趣味であるオーディオといった多分野にわたる知識を生かした評論に、大きな期待が集まっている。趣味はウィーン、ミラノなど海外都市訪問をふくむコンサート鑑賞、アスレチックジム、ボルドーワイン。
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オンキヨーコールセンター TEL/050-3161-9555