天才的スピーカーが登場した。夢のスピーカーといってもいい。なにしろこのモデルのドライバーユニットにはダンパーもエッジもなく、振動板は(理論的に)空中に浮遊した状態で存在しているのである。しかもドライバーはほぼ点音源的に動作し、共鳴という、いわばスピーカーの現実的必要悪を持たない。開発者の名は秋元浩一郎。彼はスピーカーのジェームズ・バロー・ランシングや、アンプのマーク・レビンソンに匹敵する天才ではないかと筆者は密かに思っている。 evanuiという名称は、ラテン語系で「消え去る」という意味の語幹をとったものであろう。たとえばフランス語には「evanouir」という動詞があって、「見えなくなる」とか「消え去る」という意味に使われるのだが、「気を失う、気絶する」という訳語もあって、まさにこのスピーカーと対面した時は気を失いそうになるほど驚いた。 |
||||||||||
本機の内容をざっと見ていこう。発音体は漆塗りの純マグネシウムを素材とする8cmの振動板で、大型ネオジウム磁石を用いた純鉄磁気回路を搭載している。この発音体が直径30cmの鏡餅型のヘッド(重量は20kg!)にマウントされている。振動板を保持するのは、特殊な液体で、シール、ダンプ、潤滑の役割を果たしている。これによってヘッド部に固定された振動板が「浮遊」している状態が保たれているのである。
ヘッドの下にある巨大な壺状の物体はバックロードホーンだ。ヘッドの下側にはバックプレッシャーを逃がすポートが開いており、ユニットの後方から発せられた波動が下向きに放射される。壺の内部の形状は理想的なエクスポネンシャルホーンに近似したものだ。これは18mm厚のシナアピアトン材を63層にも積み重ねたもので、まさに壺のような形状をしているのだが、壺は壺でもどこかの古代文明の遺跡から発掘されたような印象を受ける。一見しただけではスピーカーと思えない。 しかし、箱型のスピーカーデザインというやつはビクトリア朝の家具から想を得たもので、つまらないといえばこれ以上つまらないデザインはないのである。その点、古代からやってきたような本機のデザインは見る者の心を強く揺さぶる。話はちょっと逸れたが、この壺を床に直置きするとホーンロードのかかった音が出なくなるから、底面はスパイク(R型なので床を傷つけない)を介してセッティングする。
|
||||||||||
さて、そのサウンドだが、初めて聴く種類の音であった。これ以上ナチュラルな楽音を聴いたことがない、と申し上げてもいい。私は音像と音場という概念を分けることでオーディオサウンドを説明するのを常としているが、このスピーカーでは両者が混然一体となっているのである。しかも、低域にバックロードホーン特有の「鳴き」がない。コントラバスが本物のコントラバスのように響いたときには、椅子からひっくり返りそうになるほど驚いた。
また、ホーンのカットオフ周波数が50Hzなので、それ以下の帯域は出ないように思われがちだが、上手く調整すれば倍音で十分に低音を享受することができる。まだ本機の特質のすべてを把握したわけではないが、私たちの目の前にまったく新しい音楽再生の可能性が開けたことだけは確かだ!
|
||||||||||
●方式:シングルユニット ショートバックロードホーン ●ユニット:8cm FDMドライバー(漆塗りマグネシウム振動板 エッジレス・ダンパーレス) ●インピーダンス:6Ω ●周波数特性:50〜30,000Hz ●能率:87dB(2.83V/1m) ●定格入力:50W ●瞬間最大入力:100W ●外形寸法:600W×1380H×680Dmm ●質量:約70kg ●取り扱い:ViV laboratory(株)TEL/045-633-3319 |
||||||||||
・ViV laboratory 公式サイト ・PHILE WEBニュース【ViV lab、完全ダンパーレス・エッジレス構造のスピーカー「evanui signature」を発売】 |
||||||||||
|