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持続可能な未来社会の実現に向け

アップルがサプライチェーン脱炭素化100%宣言。部品供給するムラタと恵和の取り組みとは

公開日 2022/04/15 12:16 山本 敦
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米アップルは2020年の夏に、これからも持続可能な未来社会の実現に向けてサプライチェーンの100%脱炭素化を達成するという目標を掲げた。iPhoneやiPadなどアップルの製品に電子部品を供給する日本国内のサプライヤー企業も、ともに製造環境の脱炭素化を進めている。ふたつの企業の取り組みを取材した。

Appleは2020年7月に、同社の事業全体、製造サプライチェーン、製品ライフサイクルのすべてを通じて2030年までに気候への影響をネットゼロにすることを目指すと宣言した

ムラタ独自の蓄電池技術により工場の再エネ稼働比率を最大化

(株)村田製作所は、積層セラミックコンデンサー、フィルターなどをはじめとする様々な種類の電子部品を開発・製造し、エレクトロニクス機器のメーカーに納めている企業だ。同社では事業活動で発生する温室効果ガスを削減しながら、再生可能エネルギー導入比率100%を2050年までに達成するという目標を独自に掲げ、取り組みを始めている。

村田製作所の事業の中心である製造活動には、エネルギー消費が欠かせない。脱炭素化による気候変動対策を実現するために、同社では「省エネ」と「再エネ(再生可能エネルギー)の活用」を柱としているが、それらを徹底しても、現状ではなお不足する部分があり、それをグリーン電力証書で補完する戦略を立てている。

省エネについては製造環境全域における消費電力の削減を徹底するほか、新しい省エネ工法を開発する。再生エネルギーの活用については、電力会社から購入して使う電力を再エネ由来の電力にシフトしていく。また自社による努力として、事業所とその近くに再エネ発電の設備を敷いて「自家消費型 再エネシステム」の導入も進める。

福井県に拠点を置く生産子会社の(株)金津村田製作所では2021年11月から、工場を稼働させる電力として、再生可能エネルギーをより積極的に使うシステムを導入した。

金津村田製作所「クリーンエネパーク」。工場施設の屋根やパーキングにソーラーパネルを設置した

同社のシステムは、大規模なソーラーパネルと蓄電池ユニット、および生産計画・電力消費・気象情報・発電予測の各情報を統合管理しながら、高精度なエネルギーマネジメントをリアルタイム制御するソフトウェアで構成される。

工場の敷地内には積雪に強いソーラーパネルを設置した。屋根置き型のパネルに加えて、駐車場のスペースも発電設備として活かせるよう、ソーラーカーポートも導入。合計638kWの発電キャパシティを確保した。蓄電池には913kWhの容量がある。夜間には日中の電力需要に備えて蓄電池をチャージする。また天候や季節により日照時間が減り、昼間時間帯の発電が困難になる場合には蓄電池によるバックアップを活用する。

クリーンエネパークで稼働する蓄電池ユニット。トータルで913kWhの蓄電容量を備えている

太陽光により発電した電気はすべて工場内で自家消費することにより、2022年春には工場消費電力の約13%を再エネでまかなうことに成功した。工場のCO2排出量は2020年度比で約13%削減できたという。

加えて2021年11月以降は電力会社から再エネ由来の電気を調達することにより、上記のシステムと合わせて「再エネ率100%」を達成した。

今後はソーラーパネルをさらに増設することにより発電キャパシティを上げる。直近では合計700kWまで出力拡大を図るという。増設後の自家発電比率は約27%となるが、以降も継続的に設備拡大を行い、最終目標として50%の比率を持たせることが同社の目標だ。

ゴールに到達するためには、事業を支える従業員ひとり一人の意識改革も徹底することが肝要だ。各員が環境経営に対して主体的に参画できるよう、リアルタイムに変わるシステムの発電状況を “見える化” するソフトウェアも開発し、そのデータを工場の各所に設置したモニターに表示する。

村田製作所では今後、金津村田製作所の取り組みを「クリーンエネパーク」としてモデルケース化して他の事業所にも順次展開する。

独自に管理ソフトを開発。従業員に向けて工場の電源稼働状況や蓄電ユニットの放電/蓄電状態を可視化してみせるモニタリング機能も備えた

工場地元の再エネを“地産地消”する体制を整えた恵和

光学シートや産業用部材を扱う事業を中核とする恵和(株)は、同社の国内主要製造拠点である和歌山テクノセンターにおいて、2020年以降から再生可能エネルギーの導入強化を進めている。

同社では事業活動によるCO2の排出量を、2030年までに対2013年度比で約46%以上削減する方針を打ち立てた。既に2021年までに、31.9%削減を達成しているという。

目標実現に向けて、今後も再生可能エネルギー由来の電力への切り換えを加速させる。またCO2排出の少ない熱源や原材料を選び、オンサイトには太陽光発電設備の設置と高効率な生産方式の導入を推進する。

恵和和歌山テクノセンター

同社の和歌山テクノセンターでは現在、三重県の風力発電施設が供給する「風力発電」に由来する電力を採り入れている。再生可能エネルギーも地産地消により効率よく、大事に使うことが理にかなうという考え方から、地元の風力発電を選択したという。一方、天候の影響を受けると供給が不安定になりがちな風力発電に固執するのではなく、足りなければほかの再エネで補うという柔軟な姿勢で目標を達成すると同社の担当者は話している。

風力発電に由来する再生可能エネルギーを製造現場に導入している

恵和では、アップルがサプライチェーンの脱炭素化を宣言する以前から、再生可能エネルギーの導入に向けた取り組みを進めているが、アップルの発表以降はその取り組みを加速させた。今後アップル製品には、再生可能エネルギーによって100%製造したパーツを優先的に納品するという。

企業によっては即座に自前の発電設備を構築し、オンサイトに導入することが難しい場合も多い。よって外部から再エネ由来の電力を調達し、目標達成に近づけることになる。製造面のコストアップに響く部分もあるが、恵和の担当者は「持続可能な社会の実現に向けてカーボンニュートラルを推し進めることは、モノづくりに携わる企業の責務。目標に向かうことで、志を同じくするユーザーに製品の価値を評価していただいたり、販売機会の拡大につながる手応えを得ている」として、生産コストの負担増を呑み込んでもなお、それを上回る意義を見いだせていると話す。

今後は各産業分野においてESG(環境・社会・ガバナンス)への対応に注力するパートナーを、取引先として優先的に選ぶ企業も増えるだろう。各社の取り組みもまた真剣そのものだ。

アップルは脱炭素化に向けた順調な歩みをアピール

アップルは4月15日に報道発表を行い、サプライヤー企業のパートナーによるクリーン電力の使用量が2021年間で2倍を超え、今後数年間にわたる取り組み全体で到達を見込む約16ギガワットのうち、現時点で10ギガワット以上を達成したと伝えた。

同社は今後もさらにサプライチェーンの脱炭素化を押し進めるとともに、世界各地のサプライチェーンと連携しながらクリーンな再生可能エネルギーへの転換をさらに加速させる。

南アフリカの太陽光発電プロジェクトにより地域に新しい太陽光発電設備を設置。深刻なエネルギー不足に直面しているコミュニティに低価格で安定した電力を供給する

賛同する企業に対して、アップルはデータの共有や市場固有の情報を含むトレーニング資料の提供を行っている。またクリーン電力を扱う発電プロジェクトに対する直接的な投資にも力を注いでいく。アップルはまた、気候変動により大きな影響を受けたり、元来資源の少ない地域も再生可能エネルギーを活用できるよう、持続可能なエネルギーインフラを整備する活動も引き続き支援する構えを表明している。

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