【連載】佐野正弘のITインサイト 第42回
低調だった2022年のスマートフォン市場、2023年は盛り上がるのか?
2023年も1月下旬を迎えた昨今だが、改めて2022年のスマートフォン市場を振り返ると、インパクトのある機種が少なく、全般的に低空飛行が続いてしまったというのが正直なところではないだろうか。
その理由はいくつかあり、1つはタイミングの問題である。というのも、実は2021年に新機軸を打ち出したスマートフォンメーカーが多く、シャープの「AQUOS R6」やソニーの「Xperia PRO-I」など、高級コンパクトデジタルカメラと同等の1インチセンサー搭載のカメラを採用したスマートフォンが、2021年に相次いで投入されたことがその象徴といえる。
そうしたことから2022年には、それらの機能をより洗練して使い勝手を向上させた機種が多く登場した年でもあった。例えばシャープの「AQUOS R7」は、AQUOS R6で不満要素とされていたオートフォーカスの性能を大幅に改善したことで、より満足感の高いカメラに仕上がっている。
だが、メーカー各社が機能の洗練に重点を置いたことで、タイミング的に新しい基軸を打ち出しづらかったのも確かだろう。2022年に発売された端末の中で、インパクトのある機能や特徴を盛り込んだものといえば、思い当たるのは背面が光る独特のデザインや構造を採用した「Nothing Phone(1)」くらいだ。
そしてもう1つは外部要因、より具体的に言えば半導体不足と、急速に進んだ円安がメーカーの戦略に大きな影響を与えたためである。前者に関して言えば、とりわけミドル・ローエンド向けの半導体が不足したことから、シャープの「AQUOS wish2」のようにチップセットの変更を余儀なくされるケースも見られ、機能・性能の画一化が進んでしまった印象は否めない。
そして後者に関しては、多くのスマートフォンが値上げ、あるいは従来より高い価格で販売することを余儀なくされ、市場を冷え込ませる要因となってしまった。とりわけ、アップルの新機種「iPhone 14」シリーズは、全モデルが軒並み10万円を超えたことで、消費者の失望を呼んだことは記憶に新しい。
では2023年、スマートフォン市場はどうなるのだろうか。ここ最近の状況を見るに、2022年にメーカーを苦しめていた要素のいくつかは改善に向かいつつあるように見える。
実際、コロナ禍で深刻だった半導体不足は解消に向かっているし、円安も2022年初頭の1ドル110円台という水準には至らないものの、最近では1ドル130円を前後の水準にまで円高が進んでいる。もしこのままの状況が続けば、1ドル150円台を記録していた2022年よりは価格面で改善が見られることだろう。
また当然のことながら、チップセットやカメラの性能向上は2023年も進むことになるだろう。カメラを例に挙げると、2023年に入ってサムスン電子が2億画素の新しい高精細イメージセンサー「ISOCELL HP2」を発表しており、今後それを搭載したスマートフォンが同社などから投入される可能性が高い。
だが性能進化だけで、端末の新規性を打ち出すのが難しくなっているのもまた確かだ。先のイメージセンサーの高精細化に関しても、それによって実現されるのは、主に複数の画素をまとめるピクセルビニング技術で、暗い場所でより明るく撮影できることである。性能向上が従来の進化の延長線上にあるものだけに、それだけで市場に大きなインパクトを与えて購買を促進するのはなかなか難しいだろう。
では、市場を盛り上げる新たな要素は出てこないのかというとそうとは限らない。注目されるのは衛星通信に対応したスマートフォンが増える可能性だ。
衛星通信対応のスマートフォンといえば、iPhone 14シリーズが既に衛星通信を活用して、SOSメッセージを送る機能を一部の国で実現しているが、2023年はSOSにとどまらず、衛星通信を活用した機能に対応したスマートフォンの登場が期待されている。それはチップセットの動向からも見て取ることができるだろう。
実際クアルコムは米国時間の2023年1月6日、衛星通信事業を手掛けるイリジウム・コミュニケーションズと、衛星通信を用いて緊急のメッセージを送ったり、双方向にテキストメッセージを送りあえたりする機能を実現する「Snapdragon Satellite」を発表。既に発表している最新のハイエンドスマートフォン向けチップセット「Snapdragon 8 Gen 2」から順次対応を進めるとしており、早ければ2023年内に衛星通信機能を備えたハイエンドスマートフォンがいくつか登場する可能性もある。
もちろん先行するアップルも、これに対抗して衛星通信の活用をより進化させることが考えられる。スマートフォンによる衛星通信の性能を考えれば、用途は当面限定的にならざるを得ないだろうが、スマートフォンで衛星と直接通信し、場所を問わずにコミュニケーションできる端末の整備が急速に進むことが、一定のインパクトをもたらすことは確かだろう。
ただそうした機能・性能向上がなされても、なお注目されるのはやはり価格であるように思う。日本では2023年、携帯各社による端末の大幅値引き、いわゆる「1円スマホ」に対して行政による規制が入る可能性が非常に高く、為替の影響とは無関係にスマートフォンを安く買うのが難しくなることが予想される。
それに加えて2024年1月末には、ソフトバンクが3Gによるサービスを終了させる予定で、2023年はその巻取りのため低価格スマートフォンの販売強化がなされるものと考えられる。それゆえメーカー各社は、2022年以上に2万円前後のローエンドモデルに力を注いでくる可能性が高く、ハイエンドやミドルクラスよりむしろ、ローエンドモデルに対する関心が従来以上に高まることとなりそうだ。
そうしたことから、2023年の日本のスマートフォン市場はこれまで以上に安さが注目され、2022年よりも盛り上がりに欠ける可能性が高いと筆者は見る。もちろん、そうした予想を裏切るような新機軸を打ち出すスマートフォンの登場に期待したいのだが、現状を見るとなかなか難しいというのが正直なところでもある。
■機能や使い勝手の向上が目立った2022年
その理由はいくつかあり、1つはタイミングの問題である。というのも、実は2021年に新機軸を打ち出したスマートフォンメーカーが多く、シャープの「AQUOS R6」やソニーの「Xperia PRO-I」など、高級コンパクトデジタルカメラと同等の1インチセンサー搭載のカメラを採用したスマートフォンが、2021年に相次いで投入されたことがその象徴といえる。
そうしたことから2022年には、それらの機能をより洗練して使い勝手を向上させた機種が多く登場した年でもあった。例えばシャープの「AQUOS R7」は、AQUOS R6で不満要素とされていたオートフォーカスの性能を大幅に改善したことで、より満足感の高いカメラに仕上がっている。
だが、メーカー各社が機能の洗練に重点を置いたことで、タイミング的に新しい基軸を打ち出しづらかったのも確かだろう。2022年に発売された端末の中で、インパクトのある機能や特徴を盛り込んだものといえば、思い当たるのは背面が光る独特のデザインや構造を採用した「Nothing Phone(1)」くらいだ。
そしてもう1つは外部要因、より具体的に言えば半導体不足と、急速に進んだ円安がメーカーの戦略に大きな影響を与えたためである。前者に関して言えば、とりわけミドル・ローエンド向けの半導体が不足したことから、シャープの「AQUOS wish2」のようにチップセットの変更を余儀なくされるケースも見られ、機能・性能の画一化が進んでしまった印象は否めない。
■明るい兆しをみせる2023年のスマートフォン市場
そして後者に関しては、多くのスマートフォンが値上げ、あるいは従来より高い価格で販売することを余儀なくされ、市場を冷え込ませる要因となってしまった。とりわけ、アップルの新機種「iPhone 14」シリーズは、全モデルが軒並み10万円を超えたことで、消費者の失望を呼んだことは記憶に新しい。
では2023年、スマートフォン市場はどうなるのだろうか。ここ最近の状況を見るに、2022年にメーカーを苦しめていた要素のいくつかは改善に向かいつつあるように見える。
実際、コロナ禍で深刻だった半導体不足は解消に向かっているし、円安も2022年初頭の1ドル110円台という水準には至らないものの、最近では1ドル130円を前後の水準にまで円高が進んでいる。もしこのままの状況が続けば、1ドル150円台を記録していた2022年よりは価格面で改善が見られることだろう。
また当然のことながら、チップセットやカメラの性能向上は2023年も進むことになるだろう。カメラを例に挙げると、2023年に入ってサムスン電子が2億画素の新しい高精細イメージセンサー「ISOCELL HP2」を発表しており、今後それを搭載したスマートフォンが同社などから投入される可能性が高い。
だが性能進化だけで、端末の新規性を打ち出すのが難しくなっているのもまた確かだ。先のイメージセンサーの高精細化に関しても、それによって実現されるのは、主に複数の画素をまとめるピクセルビニング技術で、暗い場所でより明るく撮影できることである。性能向上が従来の進化の延長線上にあるものだけに、それだけで市場に大きなインパクトを与えて購買を促進するのはなかなか難しいだろう。
では、市場を盛り上げる新たな要素は出てこないのかというとそうとは限らない。注目されるのは衛星通信に対応したスマートフォンが増える可能性だ。
衛星通信対応のスマートフォンといえば、iPhone 14シリーズが既に衛星通信を活用して、SOSメッセージを送る機能を一部の国で実現しているが、2023年はSOSにとどまらず、衛星通信を活用した機能に対応したスマートフォンの登場が期待されている。それはチップセットの動向からも見て取ることができるだろう。
実際クアルコムは米国時間の2023年1月6日、衛星通信事業を手掛けるイリジウム・コミュニケーションズと、衛星通信を用いて緊急のメッセージを送ったり、双方向にテキストメッセージを送りあえたりする機能を実現する「Snapdragon Satellite」を発表。既に発表している最新のハイエンドスマートフォン向けチップセット「Snapdragon 8 Gen 2」から順次対応を進めるとしており、早ければ2023年内に衛星通信機能を備えたハイエンドスマートフォンがいくつか登場する可能性もある。
もちろん先行するアップルも、これに対抗して衛星通信の活用をより進化させることが考えられる。スマートフォンによる衛星通信の性能を考えれば、用途は当面限定的にならざるを得ないだろうが、スマートフォンで衛星と直接通信し、場所を問わずにコミュニケーションできる端末の整備が急速に進むことが、一定のインパクトをもたらすことは確かだろう。
ただそうした機能・性能向上がなされても、なお注目されるのはやはり価格であるように思う。日本では2023年、携帯各社による端末の大幅値引き、いわゆる「1円スマホ」に対して行政による規制が入る可能性が非常に高く、為替の影響とは無関係にスマートフォンを安く買うのが難しくなることが予想される。
それに加えて2024年1月末には、ソフトバンクが3Gによるサービスを終了させる予定で、2023年はその巻取りのため低価格スマートフォンの販売強化がなされるものと考えられる。それゆえメーカー各社は、2022年以上に2万円前後のローエンドモデルに力を注いでくる可能性が高く、ハイエンドやミドルクラスよりむしろ、ローエンドモデルに対する関心が従来以上に高まることとなりそうだ。
そうしたことから、2023年の日本のスマートフォン市場はこれまで以上に安さが注目され、2022年よりも盛り上がりに欠ける可能性が高いと筆者は見る。もちろん、そうした予想を裏切るような新機軸を打ち出すスマートフォンの登場に期待したいのだが、現状を見るとなかなか難しいというのが正直なところでもある。