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ソニーグループ 十時社長も登場

<ソニー×アメフト>NFLレイダースのスタジアムに潜入!映像制作システム活躍の裏舞台を克明レポート

公開日 2025/01/07 18:58 山本 敦
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ソニーは2024年8月に、アメリカンフットボールのプロリーグであるNFL(National Football League)と公式にテクノロジーパートナーシップを締結した。以来、NFLのオフィシャルマッチを撮影・放送するための機材や、ソニーのグループ会社であるHawk-Eye Innovations(ホークアイ)による審判判定支援システムの現場導入が進んでいる。

今回、筆者はラスベガス・レイダースの本拠地であるアレジアント・スタジアムが導入した最先端の設備を現地で見学できるプレスツアーに参加した。

ソニーとNFLの公式テクノロジーパートナーシップの現状をラスベガスで取材した

■NFLのラスベガス・レイダース本拠地で活躍するソニーの映像制作システム


プレスツアーはアレジアント・スタジアムとNFLの主催により、20人前後の参加者を限定して募るかたちで実施された。

アレジアント・スタジアムはCESの会場となるリゾートホテルのマンダレイ・ベイにも近接する大規模な屋内型ドームスタジアムだ。2020年7月にこけら落としを迎えたばかりでもあることから、初めて訪れた筆者は館内の様々な設備が真新しく充実している印象を受けた。

NFLに参加するアメリカンフットボールのプロチーム、ラスベガス・レイダースの本拠地「アレジアント/スタジアム」

NFLの2024年シーズンの公式試合はCESの開幕直前にすべての日程を終えたばかりだ。今年ラスベガス・レイダースは残念ながらプレーオフに進出できなかったこともあり、アレジアント・スタジアムでは芝生の張り替え工事が行われていた。

この日、集まったプレス関係者に向けて公開された設備は、主にスタジアム内にある映像制作のスタジオとホークアイを導入したリプレイシステムだ。

グラウンドを見下ろす4階のフロアに映像制作スタジオや、この写真の中央制御室などが並んでいる

スタジアムの全景が見渡せる4階フロアには、映像制作のためのスタジオと中央制御室が設置されている。ここでは主にテレビ中継やインターネット配信などを通じて提供されるコンテンツと、スタジアム内の大型スクリーンに映し出すリプレイやチャントムービーなどが作られている。

中央制御室の壁一面に並ぶ多数のモニターに試合のリアルタイム映像などが表示される

アレジアント・スタジアムは高品位なコンテンツを制作するためにワイヤレスカメラ、固定カメラ、空中を移動するスカイカムなど多種多様なカメラを導入した。中でも2/3型の3板式4Kイメージセンサーを搭載するソニーのマルチパーパスカメラ「HDC-P50」は、スタジアムの俯瞰映像や選手が駆け回るフィールドの躍動感を捉えるため複数台を配備し、縦横無尽に稼働させている。

ソニーの業務用マルチパーパスカメラ「HDC-P50」がスポーツ中継の様々な動画撮影のために活用されている

この場所には試合中に稼働するすべてのカメラの映像が集まる。部屋の壁面にはすべてのカメラによるライブ映像を表示するモニターが敷き詰められている。

試合中の重要なプレーを繰り返し確認するためのリプレイシステムも整備した。多数のカメラ映像から、必要な箇所だけを切り出して再生することも可能だ。プレイヤーの動きやボールの軌跡を詳細に分析するためのデータ収集システムもある。このデータは試合のスタッツ分析、または選手の活躍評価を可視化するためのエンターテインメント機能のひとつとしても役立っている。

スタジアムの担当者によると「高解像度カメラと最先端のAI解析技術を導入したことにより、以前と比較して映像の質や分析の精度が格段に向上している」という。特に昨今では様々なスポーツの映像制作に高度な技術が投入され、視聴者に臨場感あふれる映像を届けるサービスが“当たり前”のものになりつつある。スタジアムの担当者も「アメリカンフットボールのようにダイナミックなスポーツでは、正確かつ迅速な映像制作が求められている」と話す。アレジアント・スタジアムが導入したシステムはポータビリティに富み、セッティングも柔軟に変えることができる。このスタジアムで実施されるスポーツはアメリカンフットボールに限らないことから、柔軟に応用できる体制も既に整いつつあるようだ。

■ダイナミックなアメフトの試合の公正な審判を支援するホークアイ


アレジアント・スタジアムでは、ホークアイのトラッキングシステムが審判の判定を補助するためのリプレイ検証にも導入されている。

現在、ラスベガス・レイダースだけでなくNFLのチームによる試合の模様はすべて各スタジアムの映像システムにより記録・中継され、米国ニューヨークにあるArt McNally GameDay Central(AMGC)に拠点を置くモニタリングルームに集まる。複数名の審判がカメラフィードと高度な分析を統合しながら、適格な審判をリアルタイムに下せる環境が整っている。

ホークアイのリプレイシステム用のモニター

ラスベガス・レイダースの試合では通常、40台以上のカメラが同時に稼働する。うち6台は8K/30pの高精細な動画を記録し、プレイのピンポイントをズームして細部を拡大表示する用途などに使われている。ライン判定専用のカメラも12台を固定配置するほか、カメラの映像だけではボールとプレーヤーの身体が重なって見える場面では、別途スケルトントラッキング(骨格追跡)システムによる判定を合わせて活用する。

バックヤードには高速通信用のモデムや巨大な容量のデータをさばくためのストレージルームがある

ソニーのシステムも中軸に据えた高度な映像制作のためのテクノロジーを導入する背景には「リプレイ検証の高度化を図ることが審判団による迅速かつ正確な判定にとっても不可欠であり、同時にファンの体験向上にも直結することがメリット」なのだと、プレスツアーに帯同したNFLの技術担当者が説いていた。

一方では試合ごとにテラバイトクラスの大量のデータが記録されることから、膨大なデータを遅延なく処理できるシステムパフォーマンスやメディアストレージの確保は“常態的な課題”であるとNFLの担当者は説いている。AIや高度なカメラシステムに関わるテクノロジーとシステムを継続的にブラッシュアップしながら、リプレイシステムの精度と速度感を高めることについても、NFLのテクニカルエンジニアは日ごろから腐心しているそうだ。「今後もスタジアムのエンジニアと連携しながら技術革新とファン体験の向上を積極的に図り、課題解決も同時に達成したい」とNFLの担当者は意気込みを語った。

選手たちが使っているロッカールームなども特別に見学させていただいた

■さらに広がるパートナーシップ。NFL公式ヘッドホンも開発中


現地時間1月6日、CESのメイン会場のひとつであるラスベガス・コンベンション・センター(LVCC)に出展するソニーのホールで記者会見が開催された。登壇したソニーグループ(株)社長 COO 兼 CFOの十時裕樹氏の隣には、ゲストスピーカーとして参加したNFLコミッショナーのロジャー・グッデル氏が並び、今後も両者によるテクノロジーパートナーシップをさらに強化する考えを共に口にした。

左からソニーグループの十時社長、NFLコミッショナーのロジャー・グッデル氏、米Sony Electronicsのプレジデント兼COOであるニール・マノヴィッツ氏

グッデル氏はソニーとのパートナーシップは、2020年にNFLのスタジアムで公式カメラマンがソニーのαシリーズのカメラを使うようになったことに発端していると振り返った。現在はスタジアムにおけるコンテンツ制作やデジタル審判のテクノロジーにおけるコラボレーションから注力しつつ、その範囲を映画スタジオやスポーツチャンネルネットワークの協力も得て、NFLのアニメーションコンテンツ制作にも広げつつある。

NFLのYouTube公式チャンネルにあるDisney+と合作した「Toy Story Funday Football」や、ESPN+との合作である「ザ・シンプソンズ・マンデー・フットボール」などのアニメーション作品が成功例だ。グッデル氏は「これらの革新的な試みを成功事例として、追い風に乗って次世代のスポーツ視聴体験を矢継ぎ早に提供して、ファンエンゲージメントを強化したい」と意欲を語った。

現在開発が進むNFL公式ヘッドホンのプロトタイプを掲げる十時氏

テクノロジーパートナーとしての両者による二人三脚は、初めてのNFL公式ヘッドホンの開発にも及んでいる。ソニーグループの十時社長が開発中のプロトタイプモデルを壇上で掲げた際には、集まった記者から歓声が寄せられた。本機はコンシューマ向けの製品としてでなく、フィールドに立つコーチやスタッフのコミュニケーション用デバイスとして使われることを想定したプロダクトだ。ソニーが長年に渡って培ってきたオーディオ開発の知見がスポーツの試合の最前線でどのように活かされるのだろうか。NFL公式ヘッドホンから生まれた体験が、将来ソニーのコンシューマ向けヘッドホンに再びフィードバックされる可能性についても期待したい。

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