公開日 2008/09/26 12:44
岩井喬氏絶賛!高音質盤『Pure』を歌うSuaraに直撃インタビュー(後半)
一流ミュージシャンとエンジニアによって制作され、F.I.X.RECORDS(フィックスレコード)から発売されたSACD『Pure〜AQUAPLUS LEGEND OF ACOUSTICS』。昨年秋に発売されて以来、一部のオーディオファイルやメーカー関係者などから非常に高い評価を得ている作品だ。本記事では、発売当初から『Pure』を評価し小社刊行誌「オーディオアクセサリー」等でリファレンスとして使用してきたオーディオ・ライターの岩井喬氏が、F.I.X.RECORDSの取り組む高音質への挑戦を紹介するとともに、『Pure』のボーカルを務めたSuara(スアラ)さんへのインタビューを敢行。前半では、新アルバム『太陽と月』制作時のエピソードや歌手としての想いをお話してくれたSuaraさん。後半となる今回はSACDのこだわりについて語ってもらった。
(以下、文・インタビュー 岩井喬)
■SACDは伝えたい想いをより強く表現できる
− スタジオミュージシャンの方とのセッションも何度か経験されたと思いますが、曲を客観的に分析するための要素としては非常に有効だったのではないでしょうか?
Suara:そうですね、レコーディングのときはスタジオミュージシャンの方々を見て、いつもすごいなと感心していました。スタジオに着いて、初めてその場で聴いた楽曲なのに、2〜3度聴いてから演奏して、すぐにOKが出るんです。それこそ引き出しが多くないとできないことですし、「この曲はこう弾けば良いんでしょ?」というように、曲のツボをすぐに引き出してくれるんです。それを歌の方でもどんどん出せるようになりたいですね。
− 前作でもSACD盤をリリースされていますが、SACDへのこだわりという点では、どういったポイントがあるのでしょうか?
Suara:最初はSACDがどういったものか、理解できていなかったところもありましたが、こういった環境で歌わせてもらえることに今は感謝しています。ポップスをSACDに載せるという意味では一番の核になるのがボーカルであると、私たちのチームは考えています。ボーカルを素直に聴けるかどうか、それに対して、バックグラウンドが自然に溶け込んでいるかどうか。意識せず歌に集中できる音作り・ミックスを目指しています。しっかり歌を聴いて欲しい、そして伝えたい想いがSACDだとより強く表現できるのではないかと思っています。ポップスのようなサウンド性ではSACDに最適とはいえなくても、歌を聴かせる、CDよりも声の質感をより良く収めるという点においてはSACDは有効なんです。演奏が生であるのがいいとか、打ち込み音源だからよくないという問題ではなくて、打ち込み音源であっても逆に生の歌声が活きてくることだってあるんです。
− なるほど。Suaraさんの叙情的な声質やウェットさを表現するにはSACDが最適と言えそうですね。最後にPhile-Webの読者の皆様にも一言、いただけますでしょうか。
Suara:今回のアルバムは私の歌、声、そして息遣いであったり、『Suaraはこう歌ったんだ』ということを肌で感じ取っていただけるのではないかなと思います。そこから曲の良さも感じ取っていただけると思いますし、歌にも自然にはまってもらえると思います。また、曲ごとに声の質感を変えて歌っているので、そういう微細なニュアンスもそのまま聴けると思いますし。そして生々しさという点では、ライブでもバーで歌うくらいの近さでないと感じ取れないものがSACDだと側にいるという雰囲気も強く感じられるはずです。特に「home」では目の前でアコギと私だけが歌っている様がリアルに感じられると思うので、ぜひ聴いてください!
− 本日はお忙しいところ、ありがとうございました。
■岩井氏が解説する『太陽と月』サウンドの聴き所
まずアルバム『太陽と月』について、どんな楽曲が収録されているか、そして各曲の紹介、Suaraさんのコメントにおいては公式サイト内のアルバム紹介をご覧いただければと思う(全曲試聴も可能)。
これまでの作品と大きく変貌を遂げたところとしてSuaraさんならではのロック系ソング「クロール」を始め、「光の季節」「一番星」といった明るい曲調の楽曲が増えている点だ。スローバラードやミディアムテンポのしっとり聴かせる、Suaraさんの十八番ともいえる楽曲はこれまで通りでもあるが、その完成度は歌の表現力からいって前作を上回っている。インタビューでも語られている、『Pure』セッションや数々のライブ・パフォーマンスによる経験が歌に説得力を持たせていると感じられる。また、タイアップのシングル曲である「光の季節」「蕾〜blue dreams〜」「BLUE」は、アルバムのバランスに合わせるため、リミックスされている。
シングル曲を除き、基本は活動の拠点である大阪の『STUDIO AQUA』でボーカルを収録。主にマイクはノイマン「U87Ai」を用い、マイク・プリアンプはフォーカスライト「ISA215」で、録音時のリミッターとしてチューブテック「CL-1B」を軽めにかかるように設定しているという。
数ある楽曲の中で録音的に面白いと感じるものとして、タイトル曲「太陽と月」が挙げられる。この曲ではドラムセットが入るほどの録音ブースが1つある『STUDIO AQUA』内で、生のストリングスを録音している。3人の奏者にバイオリンを演奏してもらったそうであるが、マイクは「U87Ai」を1本立て、3人同時に第1バイオリンのパート、第2バイオリンのパートを録音。それぞれを2回ずつ録音したものをダブらせて重ねたものを用いているそうだ。あくまで歌声がメインであり、ストリングスもバックグランドに薄く重ねられているミックスバランスであるが、シンセ音源と較べて生々しさは圧倒的に差がある。またラストを飾る「memory」は『Pure』で辣腕を振るったエンジニア、橋本まさしさんが録音・ミックスを担当。天井が高く、残響豊かなビクター301スタジオで6・4・2・2編成のストリングスをフューチャーした壮大なバラード曲である。
DSDフォーマットのミックスダウンに当たってはアナログコンソールの出力をAESニーヴ「1073DPD」に入力。DSDデジタル信号に変換後、タスカム「DV-RA1000」で2ch収録としている。
録音自体はProToolsの96kHz/24bit(一部48kHz/24bitの楽曲もあり)で行っているという。ミックスダウン時における、トータルコンプレッションも控え、SACDを前提としたダイナミックレンジの広いサウンドを目指している。
マスタリングはCD層・SACD層とも共通のもの、つまりはSACD向けのマスタリング音源で共通させ、イメージを統一させている。マスタリングの段階でも音圧を稼ぐコンプレッションを用いていないため、一般的なCDと聞き較べた際、多少音量は小さめに感じるかもしれない。それはボーカルも含め、サウンド全体の質感を重視し、丁寧にまとめたミックスを大事にした結果である。Suaraさんの声を最大限意識し、最高に活かすフォーマットとしてSACDハイブリッド盤が選ばれたのはこうした数々の理由からである。
筆者プロフィール
岩井 喬
1977年・長野県北佐久郡出身。東放学園音響専門学校卒業後、レコーディングスタジオ(アークギャレットスタジオ、サンライズスタジオ)で勤務。その後大手ゲームメーカーでの勤務を経て音響雑誌での執筆を開始。現在でも自主的な録音作業(主にトランスミュージックのマスタリング)に携わる。プロ・民生オーディオ、録音・SR、ゲーム・アニメ製作現場の取材も多数。小学生の頃から始めた電子工作からオーディオへの興味を抱き、管球アンプの自作も始める。
(以下、文・インタビュー 岩井喬)
■SACDは伝えたい想いをより強く表現できる
− スタジオミュージシャンの方とのセッションも何度か経験されたと思いますが、曲を客観的に分析するための要素としては非常に有効だったのではないでしょうか?
Suara:そうですね、レコーディングのときはスタジオミュージシャンの方々を見て、いつもすごいなと感心していました。スタジオに着いて、初めてその場で聴いた楽曲なのに、2〜3度聴いてから演奏して、すぐにOKが出るんです。それこそ引き出しが多くないとできないことですし、「この曲はこう弾けば良いんでしょ?」というように、曲のツボをすぐに引き出してくれるんです。それを歌の方でもどんどん出せるようになりたいですね。
− 前作でもSACD盤をリリースされていますが、SACDへのこだわりという点では、どういったポイントがあるのでしょうか?
Suara:最初はSACDがどういったものか、理解できていなかったところもありましたが、こういった環境で歌わせてもらえることに今は感謝しています。ポップスをSACDに載せるという意味では一番の核になるのがボーカルであると、私たちのチームは考えています。ボーカルを素直に聴けるかどうか、それに対して、バックグラウンドが自然に溶け込んでいるかどうか。意識せず歌に集中できる音作り・ミックスを目指しています。しっかり歌を聴いて欲しい、そして伝えたい想いがSACDだとより強く表現できるのではないかと思っています。ポップスのようなサウンド性ではSACDに最適とはいえなくても、歌を聴かせる、CDよりも声の質感をより良く収めるという点においてはSACDは有効なんです。演奏が生であるのがいいとか、打ち込み音源だからよくないという問題ではなくて、打ち込み音源であっても逆に生の歌声が活きてくることだってあるんです。
− なるほど。Suaraさんの叙情的な声質やウェットさを表現するにはSACDが最適と言えそうですね。最後にPhile-Webの読者の皆様にも一言、いただけますでしょうか。
Suara:今回のアルバムは私の歌、声、そして息遣いであったり、『Suaraはこう歌ったんだ』ということを肌で感じ取っていただけるのではないかなと思います。そこから曲の良さも感じ取っていただけると思いますし、歌にも自然にはまってもらえると思います。また、曲ごとに声の質感を変えて歌っているので、そういう微細なニュアンスもそのまま聴けると思いますし。そして生々しさという点では、ライブでもバーで歌うくらいの近さでないと感じ取れないものがSACDだと側にいるという雰囲気も強く感じられるはずです。特に「home」では目の前でアコギと私だけが歌っている様がリアルに感じられると思うので、ぜひ聴いてください!
− 本日はお忙しいところ、ありがとうございました。
■岩井氏が解説する『太陽と月』サウンドの聴き所
まずアルバム『太陽と月』について、どんな楽曲が収録されているか、そして各曲の紹介、Suaraさんのコメントにおいては公式サイト内のアルバム紹介をご覧いただければと思う(全曲試聴も可能)。
これまでの作品と大きく変貌を遂げたところとしてSuaraさんならではのロック系ソング「クロール」を始め、「光の季節」「一番星」といった明るい曲調の楽曲が増えている点だ。スローバラードやミディアムテンポのしっとり聴かせる、Suaraさんの十八番ともいえる楽曲はこれまで通りでもあるが、その完成度は歌の表現力からいって前作を上回っている。インタビューでも語られている、『Pure』セッションや数々のライブ・パフォーマンスによる経験が歌に説得力を持たせていると感じられる。また、タイアップのシングル曲である「光の季節」「蕾〜blue dreams〜」「BLUE」は、アルバムのバランスに合わせるため、リミックスされている。
シングル曲を除き、基本は活動の拠点である大阪の『STUDIO AQUA』でボーカルを収録。主にマイクはノイマン「U87Ai」を用い、マイク・プリアンプはフォーカスライト「ISA215」で、録音時のリミッターとしてチューブテック「CL-1B」を軽めにかかるように設定しているという。
数ある楽曲の中で録音的に面白いと感じるものとして、タイトル曲「太陽と月」が挙げられる。この曲ではドラムセットが入るほどの録音ブースが1つある『STUDIO AQUA』内で、生のストリングスを録音している。3人の奏者にバイオリンを演奏してもらったそうであるが、マイクは「U87Ai」を1本立て、3人同時に第1バイオリンのパート、第2バイオリンのパートを録音。それぞれを2回ずつ録音したものをダブらせて重ねたものを用いているそうだ。あくまで歌声がメインであり、ストリングスもバックグランドに薄く重ねられているミックスバランスであるが、シンセ音源と較べて生々しさは圧倒的に差がある。またラストを飾る「memory」は『Pure』で辣腕を振るったエンジニア、橋本まさしさんが録音・ミックスを担当。天井が高く、残響豊かなビクター301スタジオで6・4・2・2編成のストリングスをフューチャーした壮大なバラード曲である。
DSDフォーマットのミックスダウンに当たってはアナログコンソールの出力をAESニーヴ「1073DPD」に入力。DSDデジタル信号に変換後、タスカム「DV-RA1000」で2ch収録としている。
録音自体はProToolsの96kHz/24bit(一部48kHz/24bitの楽曲もあり)で行っているという。ミックスダウン時における、トータルコンプレッションも控え、SACDを前提としたダイナミックレンジの広いサウンドを目指している。
マスタリングはCD層・SACD層とも共通のもの、つまりはSACD向けのマスタリング音源で共通させ、イメージを統一させている。マスタリングの段階でも音圧を稼ぐコンプレッションを用いていないため、一般的なCDと聞き較べた際、多少音量は小さめに感じるかもしれない。それはボーカルも含め、サウンド全体の質感を重視し、丁寧にまとめたミックスを大事にした結果である。Suaraさんの声を最大限意識し、最高に活かすフォーマットとしてSACDハイブリッド盤が選ばれたのはこうした数々の理由からである。
筆者プロフィール
岩井 喬
1977年・長野県北佐久郡出身。東放学園音響専門学校卒業後、レコーディングスタジオ(アークギャレットスタジオ、サンライズスタジオ)で勤務。その後大手ゲームメーカーでの勤務を経て音響雑誌での執筆を開始。現在でも自主的な録音作業(主にトランスミュージックのマスタリング)に携わる。プロ・民生オーディオ、録音・SR、ゲーム・アニメ製作現場の取材も多数。小学生の頃から始めた電子工作からオーディオへの興味を抱き、管球アンプの自作も始める。