公開日 2008/10/11 12:30
<ハイエンド2008>炭山アキラがお届けする「ハイエンドショウトウキョウ2008・収穫祭」
例年ハイエンドショウには数々のスピーカーが展示され、私たちの耳を楽しませてくれるが、それにしても今回は豊作だった。中でも筆者が特に注目した製品を思いつく順に挙げていくとしよう。
今回の会場で最も強い存在感を放っていたのは、何といってもデジタルドメインと同社が「戦略パートナー」と呼ぶ仏Cabasseであろう。特に同軸4ウェイのLa Sphereは、巨大な球形の表面に波紋が広がったような外観からして他を圧する迫力を持つ。しかし音は堂々たる正統派で、つややかさとマッシブな再現はもっと遥かに大型のスピーカーを聴いているようなイメージだ。多chマルチウェイに心配される帯域ごとの融け合いの悪さもまったく感じさせない。
CabasseのLa Sphere(写真右)とKarissima(同左)。写真ではどうしてもその巨大な存在感をお伝えすることができないのが残念だ。外観もサウンドも、とにかくとてつもないスピーカーである。
存在感といえば、バラッドのブースも相当のものだ。同社が扱ってきたアルテックのスピーカーユニットは先日突然の撤退を発表してファンを嘆かせたが、一部のユニット群はアメリカのグレートプレーンズ・オーディオという社が設備を引き継いで生産を続けている。アルテック製品の中でも伝説の名器というべき38cm同軸2ウェイの流れを汲む同社の「604-8HII」をマウントした同社のトップモデルBa1500は、同社の顔としてこのところ認知が進んでいる。その大型モデルを4本と同ユニットを使ったセンターSP、そして伊RCF社の38cmウーファーを用いた新モデルのサブウーファー「Ba15-SW」を用いて、同社ブースでは5.1chを展開しているのだ。あまりの大迫力に周辺の壁やら照明やらが軒並み共振しまくっていた。管理された環境でぜひ改めて試してみたいと思わせる陣容だ。
同軸2ウェイのBallad Ba1500と38cmSWのBa15-SW。猛烈な物量だが、それで迫力だけかと思いきや、アルテックの伝統を引く張りのある声の再現や、切れ味の鋭さなども豪快に楽しませてくれる。
また、オンキヨーは昨秋から意欲的なピュアオーディオ用スピーカーを試作して持ち込んできているが、今回は30cm/3ウェイ・フロア型の堂々たるシステムだった。鳴りっぷりもハイスピードで力強く、よく締まったサウンドを聴かせてくれる。何でも、まだ公表できる段階ではないが、大変に画期的な考え方が盛り込まれているらしい。同社の30cm/3ウェイといえば、D-77シリーズはオーディオの全盛期を牽引した名器として名を残し、現在にまで引き継がれている。そのありようは、オーディオ界にとって必要なものだと個人的にも考える。ぜひとも頑張って商品に結実させてほしいものである。
オンキヨーの試作30cm3ウェイはフロア型に進化を遂げた。同社の辻氏いわく、「われわれもこういうスピーカーはこの世界に必要だと思っています」。応援したい。
ディナウディオは何といっても新シリーズ「Excite」シリーズが聴きものだ。コンパクトな12cmブックシェルフでも明るく開放的で、高品位に朗々と鳴ることに驚かされること間違いなしである。同社にとって久しぶりの新シリーズにかける意気込みのほどがサウンドからひしひしと伝わってくる。
ディナウディオの新作「Excite」シリーズは鳴りっぷりの良さが身上だが、このショウで最もバランス良く鳴っていたのはこのX16だったのではないかと思う。
マイクロピュアは、ギター職人とコラボレーションした超高品位キャビネットを持つ「Cz-302ES」と、多くの放送局などで愛用されている小型モニター「Ap5001」がマークII化されたことに驚いた。どちらも新作はユニットが変更されている。新しいユニットは完全自社開発で、マイクロピュア・テクノロジーに最適化するよう細部までチューニングが煮詰められているという。音は例によってクリアで軽やか、伸びのびと弾け回るような再生音がたまらなく耳に心地よい。マイクロピュアならではの再現が一段と深化したといってよかろう。
マイクロピュアの少なからざる一面を象徴していた大村氏のフルレンジはひとまず終了、これからは自社開発のユニットを使っていくという。音がどう変わるか心配だったが、マイクロピュアらしいサウンドに変わりはなく、伸びやかさなどは一段と増しているようにも感じられた。
ここしばらく山梨県の独創的スピーカーユニット・メーカー、フィーストレックスとの共同開発で際立った個性を持つスピーカーを手がけていたカイザーサウンドは、新作にイタリアの新進スピーカーユニットメーカーHertzのユニットを使った2ウェイを開発してきた。ウーファーはネットワークレス、トゥイーターもコンデンサー1発という、究極のシンプルネットワークによる作品である。音はその陣容にふさわしい積極的で生気にあふれた鳴りっぷりで、音楽の世界へぐいぐいと引き込んでくれる。もう少し開発とエージングが進んだらさらに品位を高めそうなサウンドである。
カイザーサウンドの新作は一見すると普通の2ウェイ・ブックシェルフだが、その実フルレンジ+トゥイーターに近い超シンプルな構成を持つ個性派である。フィーストレックスのフルレンジを使われていたことからも、同社の貝崎社長が「音楽の魂」のようなものをよりシンプルなシステムから再現しようと考えられていることがわかる。
実は、今回のショウで最も驚いたブースは六本木工学研究所だった。昨日組み上げたばかりというアンプキットの開発バラックと、同社のスピーカーキットで音を流していたのだが、一体何という高品位サウンドか!じっくり眺めればそれもそのはず、スピーカーキットにseasのexcelウーファーとトゥイーターが用いられているではないか。どちらもマグネシウム合金で、特にトゥイーターはマグネシウム含有量96%の最新製品である。この組み合わせは100万円のスピーカーに使われていてもおかしくない。もうひとつ、少し安価なユニットとして仏ダヴィスのウーファーとseasのprestigeトゥイーターを組み合わせたセットも鳴っていたが、こちらは超ハイスピードに散乱して広大な音場空間を描き出すような開放感あふれる鳴り方が好ましい。アンプもそれらの持ち味を存分に聴かせていたのだから大したものだ。発売されたら私もワンセット組んでみようかと思う。
六本木工学研究所が近く発売を予定しているアンプキットの開発試作品。いまだバラックだが、そのハイスピードで高解像度の鳴りっぷりに驚愕した。構成はパワーICを使ったアナログアンプで、NFBループを極限まで短いラインで構成することに苦心されたという。
左がseas excelユニットを用いたキットRIT-HE15EX(価格未定、25万円前後)、右がDavisのウーファーとseasのトゥイーターを使ったRIT-HE07SD(¥69,800)。
今回アンプで最も驚かされたのはトライオードだ。昨年はKT88×2パラプッシュプルのモノーラル・パワーアンプ「TRV-M88PP」で満場の度肝を抜いたが、今年は845シングル・ステレオパワーアンプである。しかも価格は40〜50万円くらいに収まるとか。試作品の音が聴けたが、この力感と立ち上がり/立ち下がりの良さは845でなければ味わえないと思わせるに十分なサウンドだった。
トライオードの新作パワーアンプTRV-845SE(予定価格40〜50万円)振動板を超ハイスピードに駆動する立ち上がり/立ち下がりの良さは他の球で味わうことのできない持ち味といってよい。
また同社創業15周年モデルとして、EL34シングル・ステレオプリメインアンプのキットも発売されるようだ。自作派にとってこの冬は実り多い季節になりそうである。
トライオード創業15周年記念モデルは同社創業時の精神へ立ち返ったキット製品だ。EL34シングルのプリメインで、7〜8万円という比較的入手しやすい予定価格も嬉しい。
もうひとつ、FM好きは四十七研究所が出してきたチューナーを見逃してはならない。いまだ試作品で発売時期も価格も決まっていないが、何とこの時代にバリコンを用いたアナログチューナーなのだ! さすが木村社長、と喝采を送りたい。
毎年何かで嬉しい驚きを届けてくれる四十七研究所だが、今年は何とバリコンFMチューナーとは!どことなく懐かしく、それでいてかつてどこにもなかったような、このデザインも素晴らしいと思う。
(炭山アキラ)
執筆者プロフィール
1964年、兵庫県神戸市生まれ。17歳の時、兄から譲り受けたシステムコンポがきっかけでオーディオに興味を持ち始める。19歳の時、粗大ゴミに捨ててあったエンクロージャーを拾ってきて改造し、20cmフルレンジを取り付けた頃からスピーカー自作の楽しさにも開眼する。90年代よりオーディオ・ビジュアル雑誌に在籍し、以後FM雑誌の編集者を経てライターに。FM雑誌時代には故・長岡鉄男氏の担当編集者を勤める。現在は新進気鋭のオーディオライターとして、様々なオーディオ誌にて活躍する。趣味はDIYにレコード収集。また、地元の吹奏楽団では学生の頃から親しんだユーフォニウムを演奏する一面も持つ。
今回の会場で最も強い存在感を放っていたのは、何といってもデジタルドメインと同社が「戦略パートナー」と呼ぶ仏Cabasseであろう。特に同軸4ウェイのLa Sphereは、巨大な球形の表面に波紋が広がったような外観からして他を圧する迫力を持つ。しかし音は堂々たる正統派で、つややかさとマッシブな再現はもっと遥かに大型のスピーカーを聴いているようなイメージだ。多chマルチウェイに心配される帯域ごとの融け合いの悪さもまったく感じさせない。
CabasseのLa Sphere(写真右)とKarissima(同左)。写真ではどうしてもその巨大な存在感をお伝えすることができないのが残念だ。外観もサウンドも、とにかくとてつもないスピーカーである。
存在感といえば、バラッドのブースも相当のものだ。同社が扱ってきたアルテックのスピーカーユニットは先日突然の撤退を発表してファンを嘆かせたが、一部のユニット群はアメリカのグレートプレーンズ・オーディオという社が設備を引き継いで生産を続けている。アルテック製品の中でも伝説の名器というべき38cm同軸2ウェイの流れを汲む同社の「604-8HII」をマウントした同社のトップモデルBa1500は、同社の顔としてこのところ認知が進んでいる。その大型モデルを4本と同ユニットを使ったセンターSP、そして伊RCF社の38cmウーファーを用いた新モデルのサブウーファー「Ba15-SW」を用いて、同社ブースでは5.1chを展開しているのだ。あまりの大迫力に周辺の壁やら照明やらが軒並み共振しまくっていた。管理された環境でぜひ改めて試してみたいと思わせる陣容だ。
同軸2ウェイのBallad Ba1500と38cmSWのBa15-SW。猛烈な物量だが、それで迫力だけかと思いきや、アルテックの伝統を引く張りのある声の再現や、切れ味の鋭さなども豪快に楽しませてくれる。
また、オンキヨーは昨秋から意欲的なピュアオーディオ用スピーカーを試作して持ち込んできているが、今回は30cm/3ウェイ・フロア型の堂々たるシステムだった。鳴りっぷりもハイスピードで力強く、よく締まったサウンドを聴かせてくれる。何でも、まだ公表できる段階ではないが、大変に画期的な考え方が盛り込まれているらしい。同社の30cm/3ウェイといえば、D-77シリーズはオーディオの全盛期を牽引した名器として名を残し、現在にまで引き継がれている。そのありようは、オーディオ界にとって必要なものだと個人的にも考える。ぜひとも頑張って商品に結実させてほしいものである。
オンキヨーの試作30cm3ウェイはフロア型に進化を遂げた。同社の辻氏いわく、「われわれもこういうスピーカーはこの世界に必要だと思っています」。応援したい。
ディナウディオは何といっても新シリーズ「Excite」シリーズが聴きものだ。コンパクトな12cmブックシェルフでも明るく開放的で、高品位に朗々と鳴ることに驚かされること間違いなしである。同社にとって久しぶりの新シリーズにかける意気込みのほどがサウンドからひしひしと伝わってくる。
ディナウディオの新作「Excite」シリーズは鳴りっぷりの良さが身上だが、このショウで最もバランス良く鳴っていたのはこのX16だったのではないかと思う。
マイクロピュアは、ギター職人とコラボレーションした超高品位キャビネットを持つ「Cz-302ES」と、多くの放送局などで愛用されている小型モニター「Ap5001」がマークII化されたことに驚いた。どちらも新作はユニットが変更されている。新しいユニットは完全自社開発で、マイクロピュア・テクノロジーに最適化するよう細部までチューニングが煮詰められているという。音は例によってクリアで軽やか、伸びのびと弾け回るような再生音がたまらなく耳に心地よい。マイクロピュアならではの再現が一段と深化したといってよかろう。
マイクロピュアの少なからざる一面を象徴していた大村氏のフルレンジはひとまず終了、これからは自社開発のユニットを使っていくという。音がどう変わるか心配だったが、マイクロピュアらしいサウンドに変わりはなく、伸びやかさなどは一段と増しているようにも感じられた。
ここしばらく山梨県の独創的スピーカーユニット・メーカー、フィーストレックスとの共同開発で際立った個性を持つスピーカーを手がけていたカイザーサウンドは、新作にイタリアの新進スピーカーユニットメーカーHertzのユニットを使った2ウェイを開発してきた。ウーファーはネットワークレス、トゥイーターもコンデンサー1発という、究極のシンプルネットワークによる作品である。音はその陣容にふさわしい積極的で生気にあふれた鳴りっぷりで、音楽の世界へぐいぐいと引き込んでくれる。もう少し開発とエージングが進んだらさらに品位を高めそうなサウンドである。
カイザーサウンドの新作は一見すると普通の2ウェイ・ブックシェルフだが、その実フルレンジ+トゥイーターに近い超シンプルな構成を持つ個性派である。フィーストレックスのフルレンジを使われていたことからも、同社の貝崎社長が「音楽の魂」のようなものをよりシンプルなシステムから再現しようと考えられていることがわかる。
実は、今回のショウで最も驚いたブースは六本木工学研究所だった。昨日組み上げたばかりというアンプキットの開発バラックと、同社のスピーカーキットで音を流していたのだが、一体何という高品位サウンドか!じっくり眺めればそれもそのはず、スピーカーキットにseasのexcelウーファーとトゥイーターが用いられているではないか。どちらもマグネシウム合金で、特にトゥイーターはマグネシウム含有量96%の最新製品である。この組み合わせは100万円のスピーカーに使われていてもおかしくない。もうひとつ、少し安価なユニットとして仏ダヴィスのウーファーとseasのprestigeトゥイーターを組み合わせたセットも鳴っていたが、こちらは超ハイスピードに散乱して広大な音場空間を描き出すような開放感あふれる鳴り方が好ましい。アンプもそれらの持ち味を存分に聴かせていたのだから大したものだ。発売されたら私もワンセット組んでみようかと思う。
六本木工学研究所が近く発売を予定しているアンプキットの開発試作品。いまだバラックだが、そのハイスピードで高解像度の鳴りっぷりに驚愕した。構成はパワーICを使ったアナログアンプで、NFBループを極限まで短いラインで構成することに苦心されたという。
左がseas excelユニットを用いたキットRIT-HE15EX(価格未定、25万円前後)、右がDavisのウーファーとseasのトゥイーターを使ったRIT-HE07SD(¥69,800)。
今回アンプで最も驚かされたのはトライオードだ。昨年はKT88×2パラプッシュプルのモノーラル・パワーアンプ「TRV-M88PP」で満場の度肝を抜いたが、今年は845シングル・ステレオパワーアンプである。しかも価格は40〜50万円くらいに収まるとか。試作品の音が聴けたが、この力感と立ち上がり/立ち下がりの良さは845でなければ味わえないと思わせるに十分なサウンドだった。
トライオードの新作パワーアンプTRV-845SE(予定価格40〜50万円)振動板を超ハイスピードに駆動する立ち上がり/立ち下がりの良さは他の球で味わうことのできない持ち味といってよい。
また同社創業15周年モデルとして、EL34シングル・ステレオプリメインアンプのキットも発売されるようだ。自作派にとってこの冬は実り多い季節になりそうである。
トライオード創業15周年記念モデルは同社創業時の精神へ立ち返ったキット製品だ。EL34シングルのプリメインで、7〜8万円という比較的入手しやすい予定価格も嬉しい。
もうひとつ、FM好きは四十七研究所が出してきたチューナーを見逃してはならない。いまだ試作品で発売時期も価格も決まっていないが、何とこの時代にバリコンを用いたアナログチューナーなのだ! さすが木村社長、と喝采を送りたい。
毎年何かで嬉しい驚きを届けてくれる四十七研究所だが、今年は何とバリコンFMチューナーとは!どことなく懐かしく、それでいてかつてどこにもなかったような、このデザインも素晴らしいと思う。
(炭山アキラ)
執筆者プロフィール
1964年、兵庫県神戸市生まれ。17歳の時、兄から譲り受けたシステムコンポがきっかけでオーディオに興味を持ち始める。19歳の時、粗大ゴミに捨ててあったエンクロージャーを拾ってきて改造し、20cmフルレンジを取り付けた頃からスピーカー自作の楽しさにも開眼する。90年代よりオーディオ・ビジュアル雑誌に在籍し、以後FM雑誌の編集者を経てライターに。FM雑誌時代には故・長岡鉄男氏の担当編集者を勤める。現在は新進気鋭のオーディオライターとして、様々なオーディオ誌にて活躍する。趣味はDIYにレコード収集。また、地元の吹奏楽団では学生の頃から親しんだユーフォニウムを演奏する一面も持つ。