公開日 2016/05/07 10:00
<HIGH END>オーディオテクニカの新カートリッジ「AT-ART1000」、山之内正が現地から試聴レポ
挑戦への評価、再生音への注目も高い
「HighEnd2016」でオーディオテクニカが発表した「AT-ART1000(関連ニュース)」は、会場内の他社のブースでも話題に上っている。影響力の大きい日本のメーカーがハイエンドクラスのカートリッジ開発に踏み切ったことを歓迎する反応が多く、難度の高い生産技術への挑戦を評価する声が上がるとともに、再生音への注目度も非常に高い。
オーディオテクニカは例年通りHALL会場にブースを開設したが、今年はカートリッジのデモンストレーションのためにブース内に試聴室を用意し、ヘッドフォン中心のオープンスペースと併せて立体的な展示を行った。HALLには多くのブースが並んでいるが、試聴室は意外なほど遮音性が高く、ディテール再現や音場再現のパフォーマンスも含め、じっくり音を聴くことができた。
試聴室のシステムではAT-ART1000を英国Vertere社のターンテーブル&トーンアームに取り付けて再生した。スリムなトールボーイ型スピーカーと組み合わせているため、低音のエネルギー感については判別が難しい面があるが、AT-ART1000の繊細なディテール再現とダイレクト感豊かな音調をはっきり聴き取ることができた。
特に、アコースティックギターやピアノの鮮度の高い音色と一切の遅れを感じさせない中低域の鋭いアタック感は、市販カートリッジのなかでも1、2を争う高い水準にある。《カンターテ・ドミノ》のソプラノは低い音域から最高音まで澄み切った音色を引き出しつつ、声がやせ細ることなく、芯のある音色を確保していることに感心した。オルガンの低音は音の立ち上がりと立ち下がりが曖昧にならず、音色と音程の再現力の高さが際立っている。
実は私がこのカートリッジの音を聴くのは今回が2度目である。1回目の試聴では、仕事場兼試聴室の大型システムで再生し、ここで紹介したような繊細なディテール再現力とストレートで濁りのない音色を確認した。
音を聴く前に唯一不安に感じていたのは、空芯タイプゆえに低音の力感をどこまで引き出せるかという点だ。そこで、オーケストラ録音やオルガン伴奏の声楽曲を再生し、超低音から低音の音調に耳を傾けると、たしかに力感としては若干控えめながら、音色を正確に引き出すことで音楽的なバランスを忠実に再現していることを確認することができた。
オルガンの足鍵盤の低い音域まで含め、特定の音域が弱まったり、音色が曖昧になることがないので、和音の響きの変化が手に取るように聴き取れる。そこまでの低音の振る舞いを今回の試聴環境で確認するのは難しいかもしれないが、広い音域にわたって忠実度の高い再生音を実現していることには誰もが気付くはずだ。
カンチレバーの先端、針のすぐ上にコイルを配した特殊な構造はニュース記事で紹介されている通りで、狭いギャップのなかにコイルを配置するプロセスは精緻を極めるという。前後と垂直2方向の厳密な位置合わせ機構の精度が高いのでそれが可能になったことは頭では理解できるが、僅か8ターンのコイルを狭いギャップのなかに実際に配置する作業には想像を絶する難しさがありそうだ。
ハンドメイドという事情を考えれば、一日に1〜2個しか作れないという生産の難しさはよく理解できる。そこまで難度の高いプロジェクトにあえて挑戦した、同社の意欲的な姿勢は高く評価すべきである。
(山之内 正)
オーディオテクニカは例年通りHALL会場にブースを開設したが、今年はカートリッジのデモンストレーションのためにブース内に試聴室を用意し、ヘッドフォン中心のオープンスペースと併せて立体的な展示を行った。HALLには多くのブースが並んでいるが、試聴室は意外なほど遮音性が高く、ディテール再現や音場再現のパフォーマンスも含め、じっくり音を聴くことができた。
試聴室のシステムではAT-ART1000を英国Vertere社のターンテーブル&トーンアームに取り付けて再生した。スリムなトールボーイ型スピーカーと組み合わせているため、低音のエネルギー感については判別が難しい面があるが、AT-ART1000の繊細なディテール再現とダイレクト感豊かな音調をはっきり聴き取ることができた。
特に、アコースティックギターやピアノの鮮度の高い音色と一切の遅れを感じさせない中低域の鋭いアタック感は、市販カートリッジのなかでも1、2を争う高い水準にある。《カンターテ・ドミノ》のソプラノは低い音域から最高音まで澄み切った音色を引き出しつつ、声がやせ細ることなく、芯のある音色を確保していることに感心した。オルガンの低音は音の立ち上がりと立ち下がりが曖昧にならず、音色と音程の再現力の高さが際立っている。
実は私がこのカートリッジの音を聴くのは今回が2度目である。1回目の試聴では、仕事場兼試聴室の大型システムで再生し、ここで紹介したような繊細なディテール再現力とストレートで濁りのない音色を確認した。
音を聴く前に唯一不安に感じていたのは、空芯タイプゆえに低音の力感をどこまで引き出せるかという点だ。そこで、オーケストラ録音やオルガン伴奏の声楽曲を再生し、超低音から低音の音調に耳を傾けると、たしかに力感としては若干控えめながら、音色を正確に引き出すことで音楽的なバランスを忠実に再現していることを確認することができた。
オルガンの足鍵盤の低い音域まで含め、特定の音域が弱まったり、音色が曖昧になることがないので、和音の響きの変化が手に取るように聴き取れる。そこまでの低音の振る舞いを今回の試聴環境で確認するのは難しいかもしれないが、広い音域にわたって忠実度の高い再生音を実現していることには誰もが気付くはずだ。
カンチレバーの先端、針のすぐ上にコイルを配した特殊な構造はニュース記事で紹介されている通りで、狭いギャップのなかにコイルを配置するプロセスは精緻を極めるという。前後と垂直2方向の厳密な位置合わせ機構の精度が高いのでそれが可能になったことは頭では理解できるが、僅か8ターンのコイルを狭いギャップのなかに実際に配置する作業には想像を絶する難しさがありそうだ。
ハンドメイドという事情を考えれば、一日に1〜2個しか作れないという生産の難しさはよく理解できる。そこまで難度の高いプロジェクトにあえて挑戦した、同社の意欲的な姿勢は高く評価すべきである。
(山之内 正)