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公開日 2020/10/12 10:38

WOWOW、MQAを活用した高音質ライブストリーミングの公開実験を開催

KS-9Multiを使い自宅でも視聴
ファイルウェブオーディオ編集部・筑井真奈
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■MQA×HPLエンコードを活用した高音質ストリーミングをハクジュホールから開催

MQAのハイレゾエンコード技術を活用した高音質ストリーミングの公開実験が、10月6日、東京・ハクジュホールで開催された。

この公開実験では、マリンバ奏者の名倉誠人さんがホールで演奏を行い、その映像+音声をハイレゾクオリティでリアルタイムで配信。それに加えて、10月17日までオンデマンド配信として、自宅でも無料で視聴することができる。

主催するWOWOWの入交英雄さん(左)とマリンバ奏者の名倉誠人さん(右)

この公開実験は、(株)WOWOWの主催で行われた。録音エンジニアリングも担当したWOWOWの入交英雄さんは、「新型コロナウイルスの影響でライヴ配信が増えているが、音についてはまだまだクオリティアップの余地があります。私たちは以前から高音質配信に力を入れていましたが、改めて高音質+高画質の可能性を追求したいと考えて、この公開実験を行うことになりました」と今回の目的を語る。

ハクジュホールの収録の様子。マリンバ上の直接音に加えて、ホール中央に“空間音響”用のマイクも立てている

今回のレコーディングは、オリジナルは192kHz/24bitで収録されているが、MQAというハイレゾエンコード技術で扱いやすい48kHzのWAVファイルに変換。このことで、映像+音声で全体で7Mbps程度で配信が可能になり、回線に対する負荷を大きく下げて配信が実現できるという。さらに、HPLという空間音響技術で、“イマーシブ”サウンドへのエンコードも実施されている。HPLはもともとヘッドフォンリスニングを想定して開発された技術だが、スピーカーによるステレオ再生においても、より広がりのある空間オーディオの体験ができるという。

今回の公開実験には、WOWOWとMQAのほか、HPLを開発するアコースティックラボ、配信を担当するNTTスマートコネクトが参加した

配信については、NTTスマートコネクト(株)が担当。MPEG-4 ALS EncodeでMP4ファイルに変換し、サーバーにアップロード、PCやスマートフォンなどさまざまなデバイスに対して配信を行っている。

自宅で楽しむためには、インターネット環境に加えて、自宅のPCまたはスマートデバイスに無料の音楽ソフト「VLC」をインストールする必要がある。そのままでも音声と映像を楽しめるが、MQAデコーダーを搭載したハードウェアを所有していれば、オリジナルの192kHz/24bitのサウンドで視聴することができる。

■ハクジュホールの高い天井に、マリンバの余韻が響き渡る様子が印象的

この公開実験に現場に参加した感想としては、生の名倉さんによる演奏は、ハクジュホールの高い天井に対して、マリンバの深い響きが響き渡る様子が非常に印象的であった。

今回の公開実験で演奏されたのは、名倉さんがバッハの楽曲をマリンバ用に編曲した3曲。「無伴奏ヴァイオリンパルティータ3番BWV1006より前奏曲」、「3つのコラール」、「無伴奏組曲ハ短調 BWV995/1011」で、たとえば「3つのコラール」では、4つの声の役割を、マリンバの4本のバチで低域から高域、それぞれの声域を表現しているという。左右の腕でそれぞれ2本、合計4本のバチを自由に操る名倉さんの「バチ捌き」のパフォーマンスにも圧倒される。

名倉さんの華麗なバチ捌き、そして響きの美しさに圧倒される

過去に名倉さんのアルバムレコーディングを担当したことのある入交さんも高音質でのマリンバ録音の意義を強調する。「以前レコーディングをした際、編集をしたmp3音源を名倉さんに送ったら、名倉さんからアタックが2つ聴こえる、という返事がかえってきたのです。これはなぜかというと、mp3やaacに存在する「プリエコー」と呼ばれる現象が原因だったことがわかりました。圧縮音声が持つ宿命が、マリンバのような鋭い音ではバレてしまうのです」

MQAの技術では、単にサイズダウンするだけではなく、時間軸方向のにじみをなくし、プリエコー・ポストエコーが生まれないようにエンコードすることができることも大きな特徴とされている。マリンバ録音の現場の空気感を伝えるために、このMQAエンコード技術に大きな意味があると言えるだろう。

■自宅での視聴でも、ホールの空気感やバッハの荘厳さが伝わる

公開実験の後、実際に自宅でクリプトンのMQAデコーダー搭載アクティブスピーカー「KS-9 Multi」を使って、公開実験の模様を改めて聴いてみた。

クリプトンのアクティブスピーカーでも検証してみた

自宅のMacにインストールしたVLCソフトウェアから、「ネットワークを開く」→URLを入力し、数秒待てばストリーミングがスタートする。名倉さんの演奏だけではなく、入交さんの前説や名倉さんによる楽曲解説が楽しめるのも嬉しい。

Mac用フリーソフト「VLC」から「ネットワークを開く」

URLの欄に、https:~~mpdの文字列をコピペし、「開く」をクリックすると再生がスタートする

配信URL:https://ll.smartstream.ne.jp/vod/mqa-stream.mp4/manifest.mpd
(注:上記URLをそのままクリックしても再生できない。上記をコピーし、VLCの「ネットワークを開く」からURLをペーストすることで再生が可能。再生は10月17日まで)

なお、MQAコーデックを正しく再生するためには、MacならびにVLCの側の設定で、音源のフォーマットを変換せずパススルーで出力する必要がある。このためにはMacの「AUDIO MIDI設定」で出力を48kHz/24bitに設定すること、またVLCの「リサンプラー」の設定をオフに、またボリュームを100%にすることも必須となる。VLCの出力ボリュームが100%になっていないと、正しくMQAデコードができないので注意が必要だ。


AUDIO MIDI設定から48kHz/24bitを選択(Windowsではサウンドプロパティ)
KS-9Multiを通すと、演奏の前の入交さんの前説の部分から、現場の暗騒音も含めた空気感が一気に蘇ってくる。ノーマルのMacのスピーカーとは決定的に異なり、公開実験という緊張感もはらんだステージングをまざまざと思い出す。


配信でもかなり高いクオリティで現場の空気感が再現される
さらに名倉さんの演奏だが、特にマリンバのアタック感、マレットが鍵盤を叩く瞬間の立ち上がりの良さなど、まさに眼前で演奏が繰り広げられているかのようなリアリティが出現する。特に中域のきりりと締まったサウンドや、軽やかに跳ねる高域の存在感、そして楽曲を根底で支える低域の支えの力など、楽曲の構成がよく見えることで、名倉さんのバッハへの深い愛情をも感じ取ることができる。

KS-9 Multiは右チャンネルのフロントライトによって、現在再生されているフォーマットを確認することができる。今回は48kHz/24bitに折り畳まれたMQA音源で、解凍すると192kHz/24bitになることから、「黄・橙・橙」の3つのランプが点灯している。


写真ではわかりづらいが、192kHzのMQA音源が入力されるとランプの色が「黄・橙・橙」になる
バッハの宗教音楽に込められた「荘厳さ」とでも言おうか、未知なる力、人間存在を超える大いなる力への恐れと敬慕の念が両立するようなバッハの音楽世界は、やはりハイクオリティな音の力によってよりつぶさに伝わるものがあると確信できた。

ちなみにiPadにも同様の「VLC for Mobile」アプリをインストールすることで、同じようにこの公開実験の模様を楽しむことができる。こちらはiPadのスピーカーという限界があるとはいえ、MQAコーデックによる時間軸のにじみのないサウンドを楽しむことができるだろう。


iPadのアプリからも十分に楽しめる

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