公開日 2024/10/23 17:00
創業78年目の新挑戦。JBLはなぜ、初のAVアンプ市場に参入したのか?“白い” AVアンプ誕生秘話を訊く
STAGE2シリーズと合わせた音質もチェック
先日開催されたハーマングループの新製品発表会「HARMAN ExPLORE TOKYO 2024」の中で、オーディオファンにとっては衝撃的とも言える新鮮な驚きがあった。それが、JBL初のAVアンプ「MA9100HP」、および下位モデル「MA710」である。
特にMA9100HPは、白いフロントパネル、カラーの大型ディスプレイ、リモコンもApple TV風と、これまでのAVアンプの常識を大きく覆すプロダクトである。
なぜJBLはこのAVアンプを出すに至ったのか、その詳しい背景を聞きたいと考え、改めてハーマンのマーケティングチームに取材を申し込んだ。ハーマンの試聴室にて、最新スピーカー “STAGE2シリーズ” を組み合わせた5.2.4chの音質も体験したのでレポートしよう。
AVアンプは、世界的に見ても日本メーカーの存在感が非常に強い市場であった。コンパクトな筐体の中に多チャンネルのアンプやDSPなどのオーディオ機能、HDMIなどのビジュアル機能、昨今ではネットワークソリューションなど多彩な機能を組み込む必要があり、「細かいパーツをパズルのように組み立てて強靭かつコンパクトに実現する」技術は、まさに日本メーカーのお家芸でもあった。
しかし、残念なことにAVアンプの市場を強力に推進してきたオンキヨーやパイオニアなどの国産オーディオブランドは、事業売却などを経てパワーダウンしてしまった。ソニーも時たま新製品をリリースしてはいるが、決して「注力ジャンル」でないことは明らかだ。
かつては1年に1度は新機種が発表されて買い替え需要を大きく刺激していたが、残念ながら現在も気を吐いている、と言えるのはデノン・マランツ、そしてヤマハと3ブランドを残すのみ、という状態になっている。
新製品が出なければ、市場規模はどうしても縮小してしまう。そんな状態のなか、まさかのJBLがAVアンプの市場に参入してきたのは非常に驚いた。と同時に深く納得もした。「なるほどJBLの総合力を持ってすれば、AVアンプの市場に新しい風を吹き込むことができるのだ」、と。
JBLがAVアンプという市場に参入した背景には、「BAR 1000」などのサウンドバーの世界的な大成功があるのだという。
サウンドバーという製品は、テレビが薄型化し、どうしても音質面が疎かになりがちなことに不満を抱えていたユーザーに対して、省スペースでも音で妥協しない、という新しい選択肢を提示した。
それに加えて、近年では映像配信サービスでもドルビーアトモス対応のコンテンツが増えたことで、よりクオリティの高い音響再生、没入感の高い映像体験が求められるようになってきた。BAR 1000はまさにそんな需要にうまくハマった製品である。
そしてMA9100HPは、「そこからさらにステップアップしたい」というユーザーに対する提案でもある。薄型・横長のサウンドバーでは限界のあったユニットサイズやアンプ出力は、アンプとスピーカーを別々にすることで解決できる。
また既存のAVアンプユーザー “ではない” 層に向けた提案というのは新しい。それはボタンの数を減らしたフロントパネルやデザインにも現れている。「初めてAVアンプを触るお客様にもわかりやすく」というのは今回の製品の大きなコンセプトでもある。
実はJBLは、アメリカのインストール市場向けに “JBL synthesis” というブランドで15chなど多チャンネルのAVアンプを展開してきた。こちらはコンシューマー向け製品ではないが、要するに厳密に言えば、JBLとしては今回がAVアンプに「初挑戦」というわけではないらしい。多チャンネル・多機能をひとつのボックスに入れ込む技術など、インストール市場向け製品開発で培われた知見も、今回のモデルには多く投入されているという。
ちなみにMA9100HPは、グローバルでは白ではなくブラックモデルも展開されているそうだ。だが、日本のマーケティングチームはAVアンプというジャンルへの “新鮮さ” もアピールすべく、まずは白だけを発売することにしたのだという。同時にSTAGE2スピーカーの「モカ」カラーも発表し、ホワイトで統一された新しいオーディオビジュアルのスタイルは非常に新鮮である。もはや “黒物家電” という呼び方すら過去のものになりそうだ。
フロント左には入力切り替えノブ、右にはボリュームノブを配置。フロントのメニューボタンは5つのみ。フロントパネルの裏側に、さりげなくブランドカラーのオレンジが配置されているのもオシャレ。これまでのAVアンプにはなかったデザインである。
だがそういった新しい風を吹き込みながらも、「音質」という筋を一本必ず守り抜いているのはJBLの矜持でもある。
ハーマンの試聴室にて、MA9100HPとSTAGE2シリーズを5.2.4chで組み合わせた音を体験させてもらった。フロントは「Stage 280F」とサブウーファー2本、天井にはイネーブルスピーカーの「Stage 240H」を組み合わせている。Stage 240Hはイネーブルと天井用をスイッチで切り替えて使えるというアイデアも新しい。まずはイネーブルとして使用し、あとから本格的に天井にも取り付けよう、となったときにスピーカーが無駄にならずにすむ。
『トップガン・マーベリック』では、スピーカーを全シリーズ共通で揃えているメリットもあるのか、劇伴音楽の自然な広がり感が非常に印象的。また中域の再現性が高くセリフもとても聴き取りやすい。これもBAR 1000などで培った技術が生かされているようだ。
ジョン・ウィリアムズ&サイトウ・キネン・オーケストラのサントリーホールコンサートから「インペリアルマーチ」を再生。楽器の音色感の質感の良さもさることながら、周りを取り巻く拍手のリアリティは素晴らしく、自分が会場にいるかのような一体感を与えてくれる。余談ながら、このコンサートのチケットはすさまじい争奪戦で、筆者はついに取ることができなかったのだが、試聴室のサウンドはその悲しみを十分に癒してくれた。
AVアンプとスピーカー、合わせて100万円以内に収まる。決して安い投資ではないが、家族で楽しむホームシアターの構築としては、非常に満足度の高い買い物になりそうだ。最初はフロント2本+サブウーファーを組み合わせ、あとからグレードアップすると言った楽しみも広がる。
「新鮮」でありながら「納得」のJBLのAVアンプ。世界中を探しても、スピーカーを含めたサラウンドシステムをすべて自社で完結できるブランドは数えるほどしかない。
ブランドという歴史を背負いながら、新機軸にも果敢にチャレンジするJBLの底力に改めて恐れ入った。
特にMA9100HPは、白いフロントパネル、カラーの大型ディスプレイ、リモコンもApple TV風と、これまでのAVアンプの常識を大きく覆すプロダクトである。
なぜJBLはこのAVアンプを出すに至ったのか、その詳しい背景を聞きたいと考え、改めてハーマンのマーケティングチームに取材を申し込んだ。ハーマンの試聴室にて、最新スピーカー “STAGE2シリーズ” を組み合わせた5.2.4chの音質も体験したのでレポートしよう。
■サウンドバーの大成功を背景に、AVアンプ市場に新風を吹き込む
AVアンプは、世界的に見ても日本メーカーの存在感が非常に強い市場であった。コンパクトな筐体の中に多チャンネルのアンプやDSPなどのオーディオ機能、HDMIなどのビジュアル機能、昨今ではネットワークソリューションなど多彩な機能を組み込む必要があり、「細かいパーツをパズルのように組み立てて強靭かつコンパクトに実現する」技術は、まさに日本メーカーのお家芸でもあった。
しかし、残念なことにAVアンプの市場を強力に推進してきたオンキヨーやパイオニアなどの国産オーディオブランドは、事業売却などを経てパワーダウンしてしまった。ソニーも時たま新製品をリリースしてはいるが、決して「注力ジャンル」でないことは明らかだ。
かつては1年に1度は新機種が発表されて買い替え需要を大きく刺激していたが、残念ながら現在も気を吐いている、と言えるのはデノン・マランツ、そしてヤマハと3ブランドを残すのみ、という状態になっている。
新製品が出なければ、市場規模はどうしても縮小してしまう。そんな状態のなか、まさかのJBLがAVアンプの市場に参入してきたのは非常に驚いた。と同時に深く納得もした。「なるほどJBLの総合力を持ってすれば、AVアンプの市場に新しい風を吹き込むことができるのだ」、と。
JBLがAVアンプという市場に参入した背景には、「BAR 1000」などのサウンドバーの世界的な大成功があるのだという。
サウンドバーという製品は、テレビが薄型化し、どうしても音質面が疎かになりがちなことに不満を抱えていたユーザーに対して、省スペースでも音で妥協しない、という新しい選択肢を提示した。
それに加えて、近年では映像配信サービスでもドルビーアトモス対応のコンテンツが増えたことで、よりクオリティの高い音響再生、没入感の高い映像体験が求められるようになってきた。BAR 1000はまさにそんな需要にうまくハマった製品である。
そしてMA9100HPは、「そこからさらにステップアップしたい」というユーザーに対する提案でもある。薄型・横長のサウンドバーでは限界のあったユニットサイズやアンプ出力は、アンプとスピーカーを別々にすることで解決できる。
■新規ユーザーを見据えたフレッシュなデザイン
また既存のAVアンプユーザー “ではない” 層に向けた提案というのは新しい。それはボタンの数を減らしたフロントパネルやデザインにも現れている。「初めてAVアンプを触るお客様にもわかりやすく」というのは今回の製品の大きなコンセプトでもある。
実はJBLは、アメリカのインストール市場向けに “JBL synthesis” というブランドで15chなど多チャンネルのAVアンプを展開してきた。こちらはコンシューマー向け製品ではないが、要するに厳密に言えば、JBLとしては今回がAVアンプに「初挑戦」というわけではないらしい。多チャンネル・多機能をひとつのボックスに入れ込む技術など、インストール市場向け製品開発で培われた知見も、今回のモデルには多く投入されているという。
ちなみにMA9100HPは、グローバルでは白ではなくブラックモデルも展開されているそうだ。だが、日本のマーケティングチームはAVアンプというジャンルへの “新鮮さ” もアピールすべく、まずは白だけを発売することにしたのだという。同時にSTAGE2スピーカーの「モカ」カラーも発表し、ホワイトで統一された新しいオーディオビジュアルのスタイルは非常に新鮮である。もはや “黒物家電” という呼び方すら過去のものになりそうだ。
フロント左には入力切り替えノブ、右にはボリュームノブを配置。フロントのメニューボタンは5つのみ。フロントパネルの裏側に、さりげなくブランドカラーのオレンジが配置されているのもオシャレ。これまでのAVアンプにはなかったデザインである。
だがそういった新しい風を吹き込みながらも、「音質」という筋を一本必ず守り抜いているのはJBLの矜持でもある。
■新鮮でありながらサウンドは「納得」。ブランドの底力を垣間見た
ハーマンの試聴室にて、MA9100HPとSTAGE2シリーズを5.2.4chで組み合わせた音を体験させてもらった。フロントは「Stage 280F」とサブウーファー2本、天井にはイネーブルスピーカーの「Stage 240H」を組み合わせている。Stage 240Hはイネーブルと天井用をスイッチで切り替えて使えるというアイデアも新しい。まずはイネーブルとして使用し、あとから本格的に天井にも取り付けよう、となったときにスピーカーが無駄にならずにすむ。
『トップガン・マーベリック』では、スピーカーを全シリーズ共通で揃えているメリットもあるのか、劇伴音楽の自然な広がり感が非常に印象的。また中域の再現性が高くセリフもとても聴き取りやすい。これもBAR 1000などで培った技術が生かされているようだ。
ジョン・ウィリアムズ&サイトウ・キネン・オーケストラのサントリーホールコンサートから「インペリアルマーチ」を再生。楽器の音色感の質感の良さもさることながら、周りを取り巻く拍手のリアリティは素晴らしく、自分が会場にいるかのような一体感を与えてくれる。余談ながら、このコンサートのチケットはすさまじい争奪戦で、筆者はついに取ることができなかったのだが、試聴室のサウンドはその悲しみを十分に癒してくれた。
AVアンプとスピーカー、合わせて100万円以内に収まる。決して安い投資ではないが、家族で楽しむホームシアターの構築としては、非常に満足度の高い買い物になりそうだ。最初はフロント2本+サブウーファーを組み合わせ、あとからグレードアップすると言った楽しみも広がる。
「新鮮」でありながら「納得」のJBLのAVアンプ。世界中を探しても、スピーカーを含めたサラウンドシステムをすべて自社で完結できるブランドは数えるほどしかない。
ブランドという歴史を背負いながら、新機軸にも果敢にチャレンジするJBLの底力に改めて恐れ入った。