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公開日 2003/12/31 00:58

座談会「ホームシアターという『家庭環境』をめぐって」全長版(3)

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●〜座談会「ホームシアターという『家庭環境』をめぐって」全長版(2)より続く〜

親と子。感性や興味は日常の積み重ねで受け継がれていく

大橋 今、公立の学校が土曜日休みになったこともあるけど、「ハリー・ポッター」が来て、映画館に小学生、中学生がわりと帰ってくるようになったということなんです。あの本もヒットして、「ハリー・ポッター」の本も結構厚いじゃないですか。それで、子供がわりと長い厚い本を読めるようになったんだそうです。それはとてもいいことだし。「指輪物語」を全巻読もうと思ったら、結構大変だと思いますよね。どうして「ハリー・ポッター」や「ロード・オブ・ザ・リング」ができるようになったかというと、デジタルの技術が進化して、実写でこれまで描けなかったものができるようになったから、これまで映像化できないと思われていたものが、だんだん映画向きになってきたということだろうと思うんです。栗山さんはお子さんがいらっしゃって、「ネバーエンディング・ストーリー」も原作はミヒャエル・エンデじゃないですか。栗山さんもご自分でとても創造的な仕事をしていらっしゃるんですけれども、例えば、小説が映画になってそれを子供さんと一緒に見て小説との違いについて話し合ったとか、あるいは、このお話が映画になるといいなと栗山さん自身がお思いになった、あるいはお嬢さんや息子さんが、これが映画になったら良かったなとか、逆に、これは映画になったらつまらなかったとか、子供って読んだ本の数は少ないけれども、でもそれは名作が多いから、映像とのギャップみたいなことってあると思うんです。そのあたりはどうですか?

栗山 私は、自分では「ナルニア国物語」が大好きだったんです。「ナルニア国物語」は全6巻あるのかな。娘にも息子にも寝る前に、それの1章ずつを読んであげて、「じゃあこの続きはまた明日」というふうにずっとしてきたんですが、まだ映画は見ていないんです。もうすぐ公開ですよね。そんなふうに、自分が子供と培った時間というのと、私が子供だったときに読んだ時間との差というのを自分で計りながら話すことが、随分面白いなと思うようになりました。こんな声だろうなと思っていたしゃべり方で、私は本を読むんです。そうすると、娘にはそれがその主人公の声になるわけです。でも映画になったときに、監督さんがどう思っているかでそれは随分違うので、「今まであなたに吹き込んじゃったのは、全部ママのナルニアだからね。これから誰かのナルニアが出てきたときに、あなたが違和感を覚えるかもしれない、もしくはあなたなりの(ナルニア)があるかもしれないけれども、そういうのを楽しんでいたら同じ本が3回でも4回で楽しめるんだから、本ってすごいね」というふうに子供には言っているんですけれども、何と言っても初体験は私の声でやっちゃったので、悪いような、親の特権だと思うようなところがありますね。

大橋 下条さんも飯塚さんも私も父親ですが、栗山先生は母親ですよね。やっぱり母親と父親は違うと思うんです。感性の部分みたいなものは、僕は母親から受け継ぐものが多いような気がするんです。自分もそうだったし。一緒に映画とかご覧になって、その後親子でいろいろな話ができたという映画ってありますか?

栗山 「ハリー・ポッター秘密の部屋」を、娘の方が私より先に見て来たの。「どうだった?」と言ったら、一言「ううん」と言うので、「ううんじゃわからないから、ミエちゃんもうちょっとちゃんと話してよ」と言ったら、「でも話したくないほど面白くなかったの」と娘が言ったので、どうしてそんなにつまらなかったのかなと思って、やっと自分が行けるときになって見てきたら、娘がああ言ったのがすごくわかると思ったの。「私もあなたに聞かれたら、同じような返事をしたと思った」と言ったら、「そうでしょ、そうでしょ」と娘がすごくうれしそうに言って、「ママにうるさいなと思ったんじゃなくて、私も言いようがなかったのよ」と今度は急にたくさんしゃべりはじめたので、「そうなのかぁ」と思って、やっぱり後から見て良かったと思いました。長い時間だし、退屈だと嫌だな、と思いながら行ったんですけれども、娘のあの時の返事の気持ちはよくわかると思いました。

大橋 その後、どこがつまらないかということについては、具体的なやりとりはあったんですか?

栗山 いいえ、ご飯を食べながらだったので、あまり嫌な話を長くはしなかったものですから。私、「ジャンヌダルク」が嫌だった。娘が中間テストが終わったので、「何をしたい?」と聞いたら、「ジャンヌダルクが絶対に見たい」と言ったので、指定席券を2枚も取って見に行ったら、ダラダラと人殺しばかりが長くて、「何なんだろう、このジャンヌダルクは」と思って、私が娘に「こんなに人が刺されたり傷つけあうのばかり見に来たわけじゃないのに、最低ね」とかぶつぶつ文句を言ったら、娘も「せっかくご褒美と思ったのに、つまらないね」と言いながら帰ったんです。やはり見る映画というのは、盛り上がりがあって、さわやかな気持ちだとか、楽しいだとか、人に優しくしてあげたいだとか、そういうものが見た後に残るようなものを親としては選ぶべきだなぁと、つくづくその時に思ったんです。

大橋  意見があれで対立したということはあります? 私は面白いと思ったとか、私はこれは全然駄目とか、あまりありませんか?

栗山 あまりないですね。

大橋 感じ方というのは、どうしても似てくるのかも知れないですね。下条さんのお宅は、これを見る限り、特に御次男とは趣味が一致されているようですね。

下条 そうですね、一致している部分が多い。特撮ものとか「スター・ウォーズ」とか、自分の大人の部分と残している子供の部分の、子供の部分を共有しているみたいな感じだと思います。やっぱり12〜13歳のころが一番凝り性になる時期というか……
大橋 自分の好きなものがわかってくるんですね。

下条 そう。3歳4歳ぐらいと、10歳から12〜13歳ぐらいというのが、集中して凝る時期だと思うんです。駅の名前を全部言えるとか、魚の種類が全部言えるなんていうのは、大体3歳から5〜6歳ぐらいでバーッと覚えるんだけど、その後普通の子供になってしまうんですよね。12〜13歳というのは、ちょっとお小遣いがたまると好きなものを買い集めてコレクターになってしまう時期だったんです。ちょうどこれを作っているころが一番コレクターの時期で、「スター・ウォーズ」に関しては、同じLDを毎日繰り返して見て、カルト的な知識を聞くわけです。「お父さん、あの場面であれがこうやったのは、こういうものでこうなったのはなぜだと思う?」とか。こっちはざっとしか見ていない部分も多いので、「うーん、わからないなぁ」と言うと、一緒には見ていないんだけれども、別の子供もそれぞれに見ているので、「あれは、あれがこうだからこうなったんだよ」とか「あの時に出てくるやつは、前々作のあそこでちょっと出てきた端役がこっちでここに出ているよ」とか、ちょっとカルトっぽい問題の出し合いを年じゅうやっているみたいですね。特にああいうシリーズものだと、1作目のここに出てきたのが、3作目で重要な伏線がここに置いてあって、それでこっちになっているんだとか。「スター・ウォーズ」ばかり言ってもあれですけれども、フィギアにいろいろリミックが隠されていて、ある場面でしか出てこないフィギアとか、ある場面の雪の中で倒れた時のフィギアとかいうのが出ているんです。そういうのに凝っているから、「これはループが氷の惑星で食われたときにここが汚れているんだ」とか。そういうのが好きなんです。上の子供もそういうこだわったところが好きで、自分も好きは好きなんだけど、逆にこっちがあまり言ってしまうとつまらなくなってしまうので、知らなかったということで、話を合わせる部分も多いです。うちは、地上波のテレビをあまり付けないんです。自分はテレビが付いていないと落ち着かないタイプで、仕事をしているときも、テレビかラジオか有線放送か何かを付けてやっているんですけれども、うちの子は、テレビが消えてシーンとしたところでガヤガヤ話している。うちは常に5〜6人いるので、嫁さんが縫い物とか帳簿付けとか人形作りとかいろいろやっている脇で、娘がパソコンでチャットをやっていたり、こっちで口開けて寝ているのがいたりとか常にごちゃごちゃしていて、その中でだれかが映画を見た話を始めると、見ていない子供が見たいと言って、「お父さん、DVD買ってきて」という形の流れです。1人は近くの大学に行っているものですから、帰りに映画とか見られるんです。「こういうのを見てきたよ」と言うと、DVDとかレンタルビデオを借りてきて見ようという話になって、まだ出ていないと、普通の家庭だと、みんなで行こうかとか、お父さんと行こうかとなるんですけれども、うちの場合はさっき言ったように時間が取れないので、「DVDが出るまで我慢しなさい」「放送があるまで我慢しなさい」という感じで待たせておくと、どうしても見たいのは結構覚えているんですよね。そうすると、「発売になったから買ってきて」とか。今コンビニでも買えますから、便利になりました。だから、作品そのものは4人とも選ぶし、自分が見せたいものを選んで「これを見なさい」ということは今までもやっていなかったので、自分で勝手に見たいものを買ってきて置いておくと、いつの間にか子供が見ていて、「あれはつまらない」とか「面白い」とか言うような。うちの子供はぞんざいな付き合いをしているので、「バカおやじがつまらないものを買ってきた」とかすぐ言われちゃうんです。金の無駄だとか言われながら、でもいつの間にか見ていて、「どこがつまらないんだ?」と言うと、「泣かせるストーリーが見え見えだ」とか、「鉄道員(ぽっぽや)」とか、ああいうお涙頂戴物はあざとさが目立ちすぎるとか。反抗期だから、自分が目を赤くして「鉄道員(ぽっぽや)」を見ていると、バカにするわけです。照れくさい半分で、いろいろ言ってくるわけです。この間、西田敏行の「ラブレター」のDVDが出たけど、あれも文庫本で最初買って、その後古本屋さんに行ったら100円コーナーに山積みになっていたので、もったいないから1冊買ってきたんですが、大きい方の本は置いておいたら家族で読んでいたみたいで、「お父さんの好きな『ラブレター』今日やるよ」と言われて、予定をキャンセルして見ていたんですけれども、「これはひどい」ということで家族一致して、これは台無しにしているなという話になったので、みんなそれなりの感性で受け止めている部分はあるんだなあと思いました。それを狙っているわけではないんだけれども、だんだん大人になっていく過程というのが、感想を聞くだけでわかりますよね。小さいうちは、動きが派手だったり筋が楽しかったりする部分だけで喜んでいたのが、構成の仕方とかストーリーの展開がどうのこうのという評論家もいるし、キャラクターの設定があの役者じゃ駄目だとか、もっとこういう役者の方が良かったとか言うやつもいるし、4人が4人なりにいろいろなことを言うから、お互いに意見を言い合うのが楽しいですね。だから、あまりうちはソフトは多くは買いません。1本買ったら、それをみんなで3回か4回見終わってからじゃないと次の新しいのを買ってこない。あとは、CSとかWOWOWで放送されているのは適当に見ているみたいですけれども、ソフトが増えない分、1本1本を隅々まで見せる。昔の、漫画1冊買ったらボロボロになるまでみんなで見る、というような見方をしているんです。だから、新作とか、幅広くとか、深くとかいうのではなくて、みんなが、自分が見たいのと意見が合ったのだけをしゃぶり尽くすという感じですね。

〜座談会「ホームシアターという『家庭環境』をめぐって」全長版(4)へ続く〜


(ホームシアターファイル編集部)

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