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公開日 2004/01/01 00:46
「Senka21」1月号<新春特別対談 Part.1>ホームシアターの未来像を語る−前編
日本オーディオ協会会長・鹿井信雄氏(左)と評論家・山之内正氏(右) |
2004年 新春特別対談 ホームシアターの未来像を語る−前編−ホームシアターは音域が大切
<対談>
日本オーディオ協会会長・鹿井信雄氏 ×オーデイオビジュアル評論家・山之内 正氏
<山之内> 地上デジタル放送がいよいよスタートを切りました。放送のデジタル化の中ではやはり一番大きな動きだと思いますが、それが私たちのホームエンターテインメントに及ぼす一番大きな変化を、どのようにお考えですか。
<鹿井> デジタル地上放送化することで、一般の方にとって直近ではテレビやラジオの番組が増えるわけでもない。画質・音質が少し変わってくるという状況の中でどう捉えていくかは、非常に分かりにくいことだと思います。デジタルになったことで、データ放送や双方向的に情報をやりとりできるようになりますが、大半のユーザーの方には、そういった経験がありません。例えば携帯電話などでいろいろなネット情報の経験をしている方はすぐに使いこなすことができると思いますが、一般の方が、果たしてどういうふうに消化するのかは、結構大きな問題です。私の経験から言えば、全ての方が自分の生活の中にそういった機器を取り入れ、一般家庭に根付いていくのには15年かかります。
<山之内> 15年ですか。おっしゃるように、いくらデジタルがこれだけ一般的になったといっても、登場してから既に10数年を経ているパソコンを本当に不自由なく、使いこなしている方は、実はまだそんなに多くないですよね。すっかり私たちの生活にテレビは馴染んでいますが、そのテレビ自体がどう変わっていくのか。これは本当に長い目で見て、考えていかないと駄目でしょうね。
<鹿井> そういうことですね。例えば東京のように文化の流れの非常に速い所に住んでいる方は、情報を捉えて、すぐに体験できます。ところが、だんだん地方に行くにしたがって、そういうものを体験して自分の生活の中へ取り入れていくためには、都会の生活とはまた違った形で取り入れていくことになり、条件が随分違います。
<山之内> 確かにそうですね。
<鹿井> ラジオでも、テレビでも、ビデオでも、過去に普及していった姿を見ると、やはり10数年はかかっています。そんなに簡単に全員が使ってくれるわけではありません。
<山之内> 日本のテレビ放送がスタートして2003年で50周年になりましたが本当に幾つかステップを重ねてきて、随分奇麗な映像になったと思います。衛星放送がスタートし、デジタル化が進み、その間にDVDというメディアも登場しました。本当に私たちはじわじわと奇麗な絵に日ごろ親しむようになってきたのだと思います。今、NHKも盛んに、ハイビジョン放送の映像のクオリティーはこれまでとは全然違う、ということを訴えていますが、放送全体について、私があえて言いたいことは、順番に、少しずつ良くなってきて、奇麗な絵に慣れてきたという、これまでの経緯をすごく大切にしたいのです。だからこそハイビジョンの絵の良さというものを、私たちは理解できるのだと思います。
<鹿井> そうですね。
映像と音、両方が魅力的になってこそ感激が生まれる
<山之内> 今度のデジタル放送の一つの大きなポイントは、ハイビジョン放送がより身近になるということですが、映像に関してはどんな期待をお持ちですか。
<鹿井> ハイビジョンのレベルでいろいろな番組を見られるようになると、例えば映画館で映画を見たような感激、あるいはそれに近いものを家庭で感じられるようになります。そういうものを実際に見る余裕と、見られるだけの鑑賞眼が出てくることが非常に大切だと思います。ハイビジョンで今放送されている番組を見ていますと、ヨーロッパの紀行番組など、非常に素晴らしいなと思う番組があります。それはやはり明るさ、色彩、その繊細さ、またごく自然の生態の映像から感じるものがあるからです。しかし演劇、あるいは音楽番組などを実際にハイビジョンで見てどういう感激があるかは、音が伴わないと駄目だと思います。ところが、その音に関しては、画像に比して非常に疎外化されていると言いますか、重点の幅が狭くなって、画像に集中し過ぎているように思います。音が魅力的なものになって初めて両方が生きて来るのではないのでしょうか。
<山之内> 今のお話で、ごく最近私が実感したことですが、NHKがチューリッヒの歌劇場でハイビジョン撮影したオペラ(マクベス)のDVDを見ました。たまたま同じ作品を私も現地で見たのです。舞台の上に主役のソプラノとバリトンの歌手が上下に6メートルぐらい離れて歌うという演出です。その高さの表現が、劇場で実際に体験すると大変ドラマチックな効果を生み出します。この世界は、いくら現代のデジタル技術をもってしても、表現するのは大変だろうと、その場で思いました。同じ舞台がDTSの5.1チャンネルで収録されたDVDで出ましたので、マルチチャンネルのクオリティーの非常に高い再生システムで視聴しました。もちろん生の通りとはいかない。ただ、私が厳然と目の前で体験した空間に近いもの、具体的には高さですが、それが出てきたのです。これはすごい表現力の可能性があるなと思いました。これまでは立体音響というと、耳の高さの平面が多かったですね。ただ音楽の場合、実はそれだけではなくて、ホールや歌劇場では上下にも響きが抜けていって、それによって大きな空間を感じることはよくあります。そういう表現がこれからできるようになったら、おっしゃったように、映像が持っている力と、音の表現力が拮抗、あるいは一緒になって、さらに臨場感が増してくると思いました。
<鹿井> まさにそういう上側から来るような音というのは、これまでステレオなり、あるいはハイエンドのオーディオの中でもあまり考えられなかったものです。ですから、それらをどういうふうに表現したらいいのか。例えば悩みの種は、舞台で10人ぐらいの歌手が入れ替わりながら歌う場面では、これまで実際に劇場にいる人はそれらを全部ミックスしてアンプして聞いていますね。
<山之内> 確かにそうですね。
<鹿井> 音の在り方というものを、果たしてリアルに出すのがいいのか、そうではなくて、それはやはりDVDの作品として見られるようにする方がいいのか。これはまた全然別の、映像と音をつくる上での一つの大きな議論のポイントだろうと思います。ですから、映画をDVDに落とす時には、基本的には映画館の中で魅力的に再生したものをいかにそのまま家の中へ持ってこられるか、という音づくりをするということが言われています。そのことをよく知っておかないと、非常に難しいと思います。
(Senka21編集部)