公開日 2012/10/31 11:30
ミュージックライフを変える新レファレンス − iBasso Audio「HDP-R10」レビュー
【特別企画】ハイエンド・ポータブルプレーヤーを岩井喬が聴く
これまでとは次元の違うハイエンド・ポータブルプレーヤーが登場した。最高峰の音質を保持し、スタジオマスターやDSDマスターの再生に対応しているHDP-R10は、どこにいても、音楽を最高の状態を堪能することができる。ポータブル環境にも据え置き機にも対応できる、新レファレンスの誕生だ。8月末の発売以来、すでに初動の売り上げは絶好調。今回はこのHDP-R10にいろいろなヘッドフォンを組み合わせて音質チェック、さらに据え置き機と接続してスピーカーから聴ける音も試してみよう。
高級パーツを多用したハイエンド志向な内容構成 |
この数カ月でポータブルプレーヤーを取り巻く環境が大きく変化している。いくつものブランドから192kHz/24bit音源再生を実現したポータブルハイエンド機が発表され、大きな注目を集めているのだ。
その中で高い人気を持っているのがアイバッソオーディオとヒビノインターサウンドが共同で開発した「HDP-R10」である。
PCMは192kHz/24bitまで対応し、ヘッドホンアンプ部も600Ωクラスのハイインピーダンス機に対応できるうえ、Φ6.3mmの標準ジャックも装備。DACチップは高音質機への採用で注目されるESS社製32bit精度の高級品「ES9018」を搭載し、DSDファイルへの対応(DSF形式のみ、88.2kHzへのPCM変換再生)を実現した。
この「HDP-R10」に先行し、アイバッソオーディオが同じ筺体ベースの「DX100」を発表しているが、DSDへの対応に加えAndroid OSの一部変更や専用アプリケーションである“HD Music Player”の操作性の向上、バッテリー持続時間と音質を両立させるために4800mAh大容量リチウムポリマー充電池を採用したほか、医療測定機用の高精度・高速オペアンプTI社製「OPA627」も搭載。左右独立したモノコンストラクションとしたI/V変換セクションのパーツも大幅に強化し、電源回路も専用設計としている点が大きく異なる。
また、マグネシウムとアルミ合金、樹脂を用いたハイブリッド筐体の仕上げにもこだわり、底板部のアルミパネルのヘアライン加工も職人による手作業で製造されている。
2006年、中国で創業したアイバッソオーディオは少人数でのハンドメイド生産を基本としているそうで、「HDP-R10」についても同様に大量生産ができないとのこと。
Android OSを採用した背景にもそうした事情が関係しているようで、一からソフトウェアを開発するのは時間もかかるため、汎用性の高いAndroid OSを利用し、アプリケーション開発に重きを置いたそうである。
ゆえにAndroid OS機であることに優位性は求めておらず、OSが最新バージョンでないのもCPUパワーを最大限音楽再生に充てたいという設計思想からきているのだ。
“HD Music Player”を使うことでOS内のゲイン調整をスルーして純度の高いハイレゾ再生を実現するDirect Streaming再生方式を実施するほか、最大192kHzでのアップサンプリングも行える(44.1kHz系は176.4kHz)。
さまざまなヘッドホンも安定してドライブ |
試聴ではイヤホンにシュア「SE535LTD」、ヘッドホンにはデノン「AH-D5000」、そしてハイインピーダンス機にベイヤーダイナミック「T1」を用いることにした。
まず「SE535LTD」であるが、CDリッピング音源ではオーケストラの粒立ちを細やかに描きながら、ハーモニーは押し出し良く表現。エナジーのあるサウンドだ。ヴォーカルは厚みも十分で口元を鮮やかな輪郭で際立たせている。
192kHz/24bitハイレゾ音源ではアタックのキレが増し、中低域のボトムはスマートに引き締まる。ハーモニクスは爽やかで分解能の高いクリアな音場が展開。DSD音源ではさらに質感の滑らかさが増し、スムーズな音像の浮き上がりを味わえた。
続いて「AH-D5000」であるが、CDリッピング音源では高域の倍音成分がキラキラと際立ち、低域もリッチで弾力に満ちた響きとなる。「HDP-R10」のドライブ能力とウッドハウジングによる効果で豊かさがより増す傾向にあるようだ。ロックギターもボトムをふっくらと表現し、ザクザクとしたエッジが小気味よく感じられる。ヴォーカルはクールな倍音の輪郭感によって明瞭に浮き立つ。
ハイレゾ音源では音像が引き締まり、高域のクリアさに磨きがかかる。声質もクールなウェット感が増し、エッジの立ったサウンドに変化。DSDでは低域の密度が深く、むちっとしたディテール部のハリ艶も良い。高解像度な音像の分離良い浮き上がりを実感できる。
「T1」でも安定したドライブ力を誇り、CDリッピング音源のストリングスやヴォーカルでもきめ細やかで高密度な気品のあるトーンが味わえた。音像のほぐれ方も理想的で、滑らかな質感とハーモニーの豊かさ、音場の広さも同時に堪能できる。
ハイレゾ音源ではクールでスピード感が増し、ボーカルも凛とした音像の芯が見えてくるようだ。音場の情報量も多く、ひとつひとつの音が鮮度良く描写されている。DSDではナチュラルで生々しい音場の空気感をストレートに表現。リアルな空間の奥行きも感じ取れた。
操作感としてiPodなどと比べるとやや重い印象だが、楽曲の取り込みはHDDなどへの転送と同じ感覚で操作できる上、プレイリストも再生中に新規リストを作成し楽曲を追加していけばよい。
据え置き機としての能力もすこぶる高い |
「HDP-R10」にはライン出力やデジタル出力も装備されているので、据え置き機としての性能もチェックしてみることにした。本機のボリューム調整はDACチップ内部のアッテネーターを直接操作しているため、音の純度が高い。ただしこの場合、ライン出力とヘッドホン出力は一律に増減される。
ヘッドホン出力には「OPA627」の後に高速バッファ「BUF634」が加えられているので一層ドライブ力があるうえ、低インピーダンス設計であるため、アナログライン接続でも一般的なライン出力ではなくヘッドホン出力を利用した方が長いケーブルでの引き回しや音質の点で優位となることが多い。今回も比較したうえでヘッドホン出力からラインを繋いだ。
S/N良くパワフルで、高域の浮き上がりは爽やかさも伴う。音像の密度は高めで低域も力強くズシンと深く響いてきた。ヴォーカルはきめ細やかでスムーズ、全体的に滑らかで厚みのあるサウンドとなっている。
続いて同軸デジタル出力を同じDACチップを積むアキュフェーズ「DC-901」へデジタル接続してサウンドの違いを確認してみたが、非常に濃密で音像も肉厚な表現に変化。
DSDの88.2kHz変換の音も爽やかで詰まりのない音場が広がるが、音像の厚みをうまくカバーしてバランスの良い重厚で躍動感溢れるサウンドとなっている。いずれも別売りオプションのセッティングベース「Nrmb」にセットして試聴したが、非常に安定し、音だけ聴く限りは十万円後半のプレーヤーと比肩しうる性能であると感じた。
価格以上の優れたポテンシャルを発揮 |
ここまで「HDP-R10」をさまざまなセッティングで検証してきたが、総じてその価格に恥じない、むしろそれ以上のポテンシャルを持ったポータブル環境の新たなレファレンスといえる。屋内、屋外問わずどこへでも持ち出せる最高のオーディオ環境として、その活躍の場は無限に広がってゆくだろう。
「HDP-R10」はiBasso Audioがいままで培った技術を基に、既存のデジタルオーディオプレーヤーでは再生が難しいハイレベルな“音質”再生を目標に開発されました。 “High Precision Trinity construction”は、この目標を実現するために掲げた設計思想です。「HDフォーマットに対応した幅広い音源への対応」「デジタルからアナログへ損失の少ない音楽信号の受け渡し」「ヘッドホンやイヤホンの能力を引き出す高い駆動性能」これらのフェイズが三位一体となり高い次元で昇華することで、極めて優れた音質を提供できると私達は考えています。 |
【特別寄稿】プロでも妥協ないクオリティで音楽を楽しめる。持ち歩ける。 |
オノセイゲン 録音エンジニア/空間音響デザイナー |
スマホがどんどん小さく軽くなる時代に、これは重たくはないが、ずっしりしています。また、アンドロイドの反応が遅く感じられる方もいるかと思います。しかし、ちょっと待ってください。音楽の聴き方に「利便性」って必要でしょうか? イントロ〜うた頭まで聴いて、次の曲に飛ばす、まるでメニューのつまみ食いのような、そんなのは正しい音楽の聴き方ではありません。
思い出しました、この動作はLPを聴くときのニュアンスに似ています。針を下ろして、座って、そのタイミングで聴こえてくるのです。「きちんと音楽を聴きましょうよ」っていう正しい音楽の聴き方を思い出しました。好きな音楽はじっくり集中して聴きたい。そこに感動があるのです。
「HDP-R10」は利便性より、とにかく妥協のないクオリティを追求した製品です。バッテリーも十分に持ちます。愛聴盤のアルバムを通して聴くのに最適で、飛ばし聴きには向いていません。
制作現場、とりわけマスタリング・スタジオでの行程に、いわゆる製品検査、クオリティコントロールがあります。録音、ミキシングができ上がったら、納品する前に全尺を通して聴いてみるのです。1曲ずつ聴くといいんだけど、通して聴くと「この曲、あと0.5デシ下げた方がいいなぁ」とか、アルバム全体として客観的に、しかし集中して聴くんですね。製品になる前の最終工程ですから、ノイズなど聴き逃したりできないんです。
私にとって、このスタジオで作ったDSDマスターを、持ち歩きながら正確にヘッドホンで再生できるということは、スタジオでなくとも最後の通し試聴ができるということ。まさにプロならではの使い方ができます。
この時はヘッドホンアンプの性能が重要なのです。「HDP-R10」を私がレファレンス機として使用している理由は、まさにヘッドホンで視聴したときのクオリティが素晴らしいからです。
オーディオの開発やマーケティング担当者は、共通言語を持っておいた方がいいと思うんですが、レファレンスとして、「HDP-R10」があるとすごくいいですね。ハイレゾは間違いなく拡大します。「HDP-R10」のような製品の登場で、ハイレゾがぐっと身近になり、普及につながることを期待しています。(試聴参考音源Seigen Ono Ensemble Montreux 93/94のDSD音源 販売:e-onkyo music)
【「HDP-R10」に関する問い合わせ先】
ヒビノインターサウンド株式会社 カスタマーサポート
TEL/03-5783-3880