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公開日 2021/04/17 07:00

ビクター旗艦ヘッドホン「HA-WM90-B」レビュー。色あせない“一生もの”Hi-Fiヘッドホン

その実力をいま改めてチェック
山本 敦
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JVCケンウッドが展開するビクターブランドのフラグシップヘッドホン「HA-WM90-B」。2018年11月の発売から2年半近く経つが、アワード「VGP2020」ライフスタイル分科会受賞、「VGP2021」ライフスタイル分科会金賞受賞と、発売後も継続的に高い評価を集めている。同機の実力を、いま改めてチェックした。

HA-WM90-B

■一生ものの信頼を寄せられるHi-Fiヘッドホン

ビクターが誇るハイレゾ対応ポータブルヘッドホンのフラグシップモデル「HA-WM90-B」。2017年にブランド創立90周年を記念して、音場特性カスタムサービス「WiZMUSIC」のリファレンスモデルとして開発された数量限定ヘッドホンだが、その後単品モデルとして発売された。JVCケンウッドのオンラインショップでは385,000円(税込)で販売されている。

ゆったりとした大きなハウジングには希少木材のカナダ産アクアティンバーを採用する。北米の湖の冷たい水底におよそ160年ものあいだ沈んでいたという、無垢のメイプル材を切り出して作られたハウジングは音響特性に優れ、美しい木目も楽しめる。現代の木材と比較した場合、アクアティンバー材はより木目が細かく硬い(密度が高い)ことから音の減衰比率が小さく、振動の伝達特性にも優れると言われる。音質のインプレッションについては後ほど詳しく触れるつもりだが、キャラクターをひと言で記述するならば、音色が鮮やかで自然な優しい余韻の再現力に富んだヘッドホンだと感じた。

木目も美しい、希少木材のカナダ産アクアティンバーによるハウジング

40mm口径のダイナミック型ドライバーは、天然木を削り出したハウジングの内側に円筒形の音響スペースをつくり、直接固定する。ビクターのステレオヘッドホン「HP-DX1000」など銘機にも採用してきた「ダイレクト・マウント」方式により、不要な振動や共鳴の原因となるパーツを排除。忠実な原音再生を引き出す。

アームやヒンジなど本体を支える骨格部分には、剛性が高く軽量なマグネシウム合金を使っている。大柄なヘッドホンのように見えるかもしれないが、本体の質量は密閉型のHi-Fiヘッドホンとしては平均的と言える約340gだ。低反発フォームを内包するイヤーパッドがやさしく頭部を包み、内側を肌触りの良い東レの人工皮革「ウルトラスエード」としたヘッドバンドにより装着感が抜群に安定する。

ケーブルは着脱式

音楽クリエイターの創作活動に最も近く寄り添うビクタースタジオのエンジニアたちがHA-WM90-Bのサウンドチューニングに関わっている。その実力をAstell&Kernのハイレゾプレーヤー「A&ultima SP2000」と組み合わせて試聴した。

聴いてみると、密閉型ヘッドホンのメリットであるパンチ力と、開放型ヘッドホンのように爽やかな中高域の抜け味の両方を備えている。描き出すサウンドスケープも雄大な印象を楽しませてくれる。

aikoのアルバム『どうしたって伝えられないから』(96kHz/24bit)のオープニング・トラック「ばいばーーい」では、ボーカルの透明感が際立っていた。声の輪郭が立体的に浮かび上がる。にじみや強調感が驚くほどに少なく、音像を写実的に描く。クールな余韻の抜け味にも魅了された。ストリングスとボーカルがきれいに重なりながら淡いハーモニーを描く。バンドによる演奏の音場もサイズ感が的確に再現される。

山中千尋のアルバム『ローザ』(96kHz/24bit)から「ドナ・リー」では、ピアノの温かみ豊かなタッチに癒やされる。メロディの鳴りっぷりがとても上品だ。アコースティック楽器の演奏にも自然な気品が漂う。ベースが重くなり過ぎず、軽やかに踊るビートがとても心地よい。ジャズギターの甘くスモーキーな余韻にも引きつけられる。

クラシックピアノはアリス=紗良・オットの『ショパン:ワルツ集』(96kHz/24bit)より「ワルツ第6番」を聴いた。ピアノの艶やかな音色と、鍵盤の上を走る繊細な指先のイメージが立体的に浮かび上がってくる。小音量の演奏の音にも凜とした強い存在感がある。耳に自然と馴染んでいくようにやわらかく広がる音場再現もいい。落ち着いて演奏に没入できるヘッドホンだ。電子楽器の場合は少しテンションが張った印象を感じることもあるが、ピアノのようなアコースティック楽器では、その温かみをとことん引き出してくる。

マイケル・ジャクソンのアルバム『スリラー』から「Beat It」(DSD 2.8MHz)では、どっしりとした貫禄あふれる演奏の安定感がいい。ボーカルや楽器の定位が鮮やか。シンセサイザーの華やかなハーモニー、エレキギターの小気味よいカッティングと、ドラムスの躍動感。それぞれの持ち味が存分に楽しめる。奥行き方向の空間描写も深い。エレキギターのソロではハイトーンが歪まず素直に伸びきる。エフェクト音の移動感も鮮明だ。HA-WM90-Bで聴くと、本作のサウンドエンジニアによる丁寧な音づくりの全容が俯瞰できて面白い。

HA-WM90-Bは左右ハウジングにケーブルをつなぐ両出しスタイルのヘッドホンとしており、ケーブルの着脱交換にも対応する。3.5mmミニプラグ仕様の交換ケーブルを見つければ、サウンドのカスタマイズやバランス接続によるリスニングにも視野が広がるだろう。パッケージにはセミハードタイプのキャリングケースも付いてくる。インピーダンスが56Ωと鳴らしやすいヘッドホンなので、スマホによる音楽再生やシアター鑑賞などにも幅広く活躍してくれる。一生ものの信頼を寄せられるHi-Fiヘッドホンとして楽しみ尽くしたい。

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