公開日 2021/10/01 06:30
リン「MAJIK DSM/4」の実力を人気スピーカー5モデルで検証!個性の描き分けに注目
【特別企画】スピーカーの美点を引き出す強力なアンプ部も魅力
■スピーカーと組み合わせるだけで、最新鋭のオーディオ再生が手に入る
ネットワークプレーヤーとアンプを一体化するのはリンのMAJIKシリーズが10年以上も前に「MAJIK DS-I」(MAJIK DSMの前身)で実現していたスタイルだ。スピーカーを組み合わせるだけでハイファイシステムが手に入るコンセプトは他社の製品にも広がり、ストリーミングやワイヤレスオーディオへの対応など急速な環境の変化に適応しながら、いまや多くのバリエーションが登場している。
そんななか、リンは満を持してMAJIK DSM/4を投入した。回路設計、筐体デザインなどすべてを一新することで多様なメディアを取り込み、最先端仕様への進化を遂げた新世代のMAJIK DSM。今回のモデルチェンジは、次の10年間の進化まで見据えた本質的アップグレードなのだ。
最新世代の実力を見極めるうえでカギとなるのがアンプの性能だ。ビスポーク製クラスDアンプや35bit精度のデジタルボリュームなど、アンプの心臓部は先行発売された上位のSELEKTシリーズとほぼ同等というから、期待が高まる。特にクラスDアンプは、スイッチング回路最終段のローパスフィルター出力をもう一度入力に戻す「ポスト・フィルター・フィードバック」を導入することで周波数応答と歪みを大幅に改善しており、音楽信号によって負荷が複雑に変動する様々なスピーカーの動特性が向上するという。
簡単に言えば、各スピーカーの特徴を活かしながら最良の音を引き出すということに尽きる。部屋の定在波の影響を軽減するリン独自の音響補正技術「スペース・オプティマイゼーション」と併用すれば、本来の性能を引き出してスピーカーを鳴らし切る境地に近付く可能性もある。
そうなると、なんとしても実際に試してみなければならない。今回は、30〜50万円台の人気スピーカー5モデルをMAJIK DSMで鳴らし、各スピーカーの個性をどこまで引き出せるか、挑戦してみることにした。
また、スペース・オプティマイゼーションの効果の確認もテーマの一つだ。各スピーカーのユニット位置や部屋の寸法を事前に測定し、スピーカーごとに最適化された補正カーブをダウンロードしておいた。実際の演算処理はネットを介してリンのコンピューターが行うのだが、手順通りに進めれば操作は簡単で、オン/オフによる音の違いを瞬時に聴き比べられる。筆者も自宅試聴室とスピーカーの諸データを登録してスペース・オプティマイゼーション機能を活用しているが、ここまで実効性の高い補正機能を無料で利用できるのは凄いことだと思う。
MAJIK DSM/4は外見もSELEKTシリーズに近く、横幅と奥行きはどちらも350mmと前作よりもコンパクトだ。ブラック仕上げのアクリルパネルに埋め込んだOLEDディスプレイに表示されるアルバム名や曲情報はとても見やすく、フォントも洗練されている。この意匠とのマッチングも意識しながら、5つのスピーカーを順番に聴いていく。
【ブックシェルフ型】 パラダイム「Founder 40B」
■潤いのある音色で、音像がシャープに定まる
最初に聴くのは、パラダイムのFounderシリーズでは唯一のブックシェルフ「Founder 40B」だ。今年の春に発売されたばかりの新顔だが、アルミ・マグネシウム振動板やPPA音響レンズなど同ブランドの主要技術を投入しており、ひと目でパラダイムのスピーカーとわかる。ブラック仕上げのバッフルやユニット周辺のリングがデザイン上のアクセントで、MAJIK DSMと並べると精悍な雰囲気が漂う。
バッフル面積を抑えたキャビネットが功を奏しヴォーカルや独奏楽器は音像がシャープに定まるが、音色はウォームで潤いがあり、ギターのスチール弦やピアノの高音域も硬さがなく、スーッと耳になじむ音だ。トゥイーター前面のウェーブガイドは指向性の最適化を狙ったもので、側壁からの反射で音像がにじむのを防ぐ効果を発揮するという。音像のフォーカスが良いのはそこにも理由がありそうだ。
無謀と思いつつマーラーの交響曲第6番を聴いてみると、低弦の重量感や余韻の広がりで空気の絶対量を想起させ、思いがけずスケールの大きな音場が展開。この曲でスペース・オプティマイゼーションを有効にすると、ステージ後方の金管楽器と前方の弦楽器の対比が見えるようになり、広さに加えて音場の立体感が目に見えて改善した。
【ブックシェルフ型】 ソナス・ファベール「Minima Amator II」
■弦の個性まで伝える繊細な表現力が魅力
かつての人気スピーカーをリファインしたMinima Amator IIは、Founder 40Bとは対照的なサウンドだ。レザー仕上げのバッフルと艷やかな天然木の組み合わせがソナス・ファベール創業時の審美眼を現代に伝えるが、その外見は再生音の艷やかな感触と見事に一致する。
ジェーン・モンハイトの声は艶やかだがあざとさはなく、村治佳織「シネマ」のクラシックギターは和音の響きに木質の柔らかさをたたえつつ、響きは混濁しない。このアルバムは楽器ごとの音色の違いを味わう楽しみがあるが、MAJIK DSMは楽器だけでなく弦の個性まで伝える繊細な表現力があり、Minima Amator IIとの組み合わせで階調豊かな音色の変化をじっくり味わうことができた。
ギターはナイロン弦だけでなくスチール弦の楽器とも相性が良い。TIDALで探し出した1970年代の音源ではリトル・フィートの「Dixie Chicken」が古びた音にならず、乾いた感触とも無縁の血の通ったサウンドで蘇った。特にスライドギターの粘性の高い音色はこのスピーカーがベスト。他のスピーカーで聴くとクリーンな音になってしまう。このアルバムの場合、ベースもあまりに歯切れ良く動くよりはほどよい重さが出てピタリとはまる。
【フロアスタンディング型】 ファイン・オーディオ「F502」
■動的な解像度も高く、音の立ち上がりをリアルに表現
ファイン・オーディオとリンはどちらもグラスゴー近郊に本拠を置き、同郷と言ってもいいほど地理的に近い関係にある。今回届いたフロアスタンディング型のF502はダークオーク仕上げだったが、ピアノフィニッシュのブラックならテクスチャ的にもMAJIK DSMとほぼ同じ。デザインの親和性が高い。ブックシェルフ型のF500ならサイズ面でもマッチングが良さそうだ。
ブックシェルフ型から交換するといかにも大柄だが、声や旋律楽器の定位の良さはほぼ期待通り。にじみのないクリアなイメージと発音の良さは他のスピーカーと一線を画す本機の美点で、それだけでこのスピーカーを選びたくなる人もいるはずだ。もう一つの長所は伸びやかで余裕のある低音。ここまで量感とスケール感を引き出せるならマーラー《復活》や、R.シュトラウス《アルプス交響曲》はもちろん、ワーグナー《ニーベルングの指環》でも遠慮なく鳴らせる。ペトレンコ指揮ベルリンフィルで聴いたマーラーの交響曲第6番は冒頭から異様なほどテンションが高く、低音楽器の解像力の高さに舌を巻いた。
MAJIK DSMのクラスDアンプは、冒頭で紹介したフィードバック回路の効果が顕著で、動的な解像度が非常に高い。モンハイトのヴォーカルを支えるリズム楽器群のキレの良さは見事なものだし、加藤訓子が演奏したライヒ《ドラミング》はマリンバの最低音からグロッケンシュピールの最高音まで、どの音域でも立ち上がりのタイミングが高精度で、わずかなずれが動きを生む様子をリアルに再現した。
【フロアスタンディング型】 エラック「Solano FS287」
■演奏の熱気が部屋を満たし、ドラムやベースのエネルギー感も際立つ
エラックのメインストリームともいうべき200シリーズの最新モデルからフロアスタンディング型のSolano FS287を聴く。ベース部も含めてキャビネットの剛性を改善し、従来機以上にJETトゥイーターとウーファーの立ち上がり特性や音色を揃えていることに注目したい。グロスブラック仕上げに共通点があるMAJIK DSMとの組み合わせでは、演奏の躍動感の強さと時間軸方向の解像度の高さを実感した。
《ジャズ・アット・ザ・ポーンショップ》のハイレゾ音源から「Take5」をFS287で聴くと、サックスの中低音域の密度や太さがリアルに伝わり、実在感の高いサウンドを堪能できる。この音源は再生システムによって臨場感や空気感に違いが出やすく、なかにはクールでクリーンな雰囲気になる場合もあるのだが、この演奏内容でその空気感はあり得ない。MAJIK DSMとFS287の組み合わせは冒頭から熱気と温度の高さが伝わり、テンポまで速くなったように感じるほどテンションの高い空気が部屋を満たす。ベースの動きも軽快だが、それ以上にスネアやキックドラムのアタックのエネルギーの強さが際立ち、低音の動きが力強い。スペース・オプティマイゼーションをオンにするとオーケストラの低音楽器も動きが一段階クリアになる。
【フロアスタンディング型】 ソナス・ファベール「Sonetto III」
■最新のソナス・ファベールの成果を印象付ける精度の高いサウンド
Electa AmatorやMinima Amatorはいまも語り継がれる存在だが、現代のソナス・ファベールを代表するのは最新世代のSonettoやOlympica Novaである。今回はSonettoシリーズのフロアスタンディング型では最も身近な存在のSonetto IIIを聴いた。MAJIK DSMとは外見の共通点は見当たらないが、仕上げの質感の高さでは引けを取らない。
Minima Amator IIがブランドの伝統を色濃く再現していたのとは対照的に、Sonetto IIIはソナス・ファベールの最新の成果を印象付けるサウンドだ。ソロ楽器のフォーカスが鮮明でヴォーカルもクリアな音像が浮かび、空間表現で明らかな進化を遂げている。オーケストラは音場の見通しが良く、各楽器の位置関係を立体的に再現し、低音楽器同士が重なっても混濁が起こらない。ペトレンコ指揮ベルリンフィルのマーラー演奏から現代的な要素を正確に抽出して、忠実に描き出す。ひとことで言えば、非常に精度の高いサウンドだ。スペース・オプティマイゼーションをオンにすると、遠近表現の精度に磨きがかかる。
それだけでは音楽として面白くないと思うかもしれないが、そこはまったく心配しなくていい。たとえば弦楽四重奏版で演奏したモーツァルトのピアノ協奏曲は、ソナス・ファベールのスピーカーでなければ聴けない瑞々しい弦の音を確実に受け継いでいて、チェロの艷やかな高音域の表情など、聴き手が求める音を期待通りに伝えてくれる。モンハイトのヴォーカルも今回聴いたなかで最も濃密な表情で迫ってきた。
◇
MAJIK DSMと組み合わせて聴いた5つのスピーカーはどれもブランドを代表する重要な製品だけに、帯域バランスやダイナミックレンジなど基本性能が高く、情報量にも余裕が感じられた。その一方で、5モデルの音の志向には意外なほど大きな違いがあり、音楽の聴かせ方にはっきりとした個性があることもわかった。
MAJIK DSMは、その個性を平均化するのではなく、むしろ積極的に鳴らし分けることでそれぞれの長所を際立たせる。コンパクトなFounder 40Bから思いがけず雄大なスケール感を引き出したり、Solano FS247の力強い低音再生能力に気付かせてくれるなど、潜在的なポテンシャルの高さが明らかになる例もあった。スピーカー本来の能力を引き出すという点では、部屋固有の定在波を抑えるスペース・オプティマイゼーションが演じる役割も大きい。今回の試聴を通じて、アンプの性能は物量だけで決まるわけではないことをあらためて思い知らされた。
(提供:リンジャパン)
ネットワークプレーヤーとアンプを一体化するのはリンのMAJIKシリーズが10年以上も前に「MAJIK DS-I」(MAJIK DSMの前身)で実現していたスタイルだ。スピーカーを組み合わせるだけでハイファイシステムが手に入るコンセプトは他社の製品にも広がり、ストリーミングやワイヤレスオーディオへの対応など急速な環境の変化に適応しながら、いまや多くのバリエーションが登場している。
そんななか、リンは満を持してMAJIK DSM/4を投入した。回路設計、筐体デザインなどすべてを一新することで多様なメディアを取り込み、最先端仕様への進化を遂げた新世代のMAJIK DSM。今回のモデルチェンジは、次の10年間の進化まで見据えた本質的アップグレードなのだ。
最新世代の実力を見極めるうえでカギとなるのがアンプの性能だ。ビスポーク製クラスDアンプや35bit精度のデジタルボリュームなど、アンプの心臓部は先行発売された上位のSELEKTシリーズとほぼ同等というから、期待が高まる。特にクラスDアンプは、スイッチング回路最終段のローパスフィルター出力をもう一度入力に戻す「ポスト・フィルター・フィードバック」を導入することで周波数応答と歪みを大幅に改善しており、音楽信号によって負荷が複雑に変動する様々なスピーカーの動特性が向上するという。
簡単に言えば、各スピーカーの特徴を活かしながら最良の音を引き出すということに尽きる。部屋の定在波の影響を軽減するリン独自の音響補正技術「スペース・オプティマイゼーション」と併用すれば、本来の性能を引き出してスピーカーを鳴らし切る境地に近付く可能性もある。
そうなると、なんとしても実際に試してみなければならない。今回は、30〜50万円台の人気スピーカー5モデルをMAJIK DSMで鳴らし、各スピーカーの個性をどこまで引き出せるか、挑戦してみることにした。
また、スペース・オプティマイゼーションの効果の確認もテーマの一つだ。各スピーカーのユニット位置や部屋の寸法を事前に測定し、スピーカーごとに最適化された補正カーブをダウンロードしておいた。実際の演算処理はネットを介してリンのコンピューターが行うのだが、手順通りに進めれば操作は簡単で、オン/オフによる音の違いを瞬時に聴き比べられる。筆者も自宅試聴室とスピーカーの諸データを登録してスペース・オプティマイゼーション機能を活用しているが、ここまで実効性の高い補正機能を無料で利用できるのは凄いことだと思う。
MAJIK DSM/4は外見もSELEKTシリーズに近く、横幅と奥行きはどちらも350mmと前作よりもコンパクトだ。ブラック仕上げのアクリルパネルに埋め込んだOLEDディスプレイに表示されるアルバム名や曲情報はとても見やすく、フォントも洗練されている。この意匠とのマッチングも意識しながら、5つのスピーカーを順番に聴いていく。
【ブックシェルフ型】 パラダイム「Founder 40B」
■潤いのある音色で、音像がシャープに定まる
最初に聴くのは、パラダイムのFounderシリーズでは唯一のブックシェルフ「Founder 40B」だ。今年の春に発売されたばかりの新顔だが、アルミ・マグネシウム振動板やPPA音響レンズなど同ブランドの主要技術を投入しており、ひと目でパラダイムのスピーカーとわかる。ブラック仕上げのバッフルやユニット周辺のリングがデザイン上のアクセントで、MAJIK DSMと並べると精悍な雰囲気が漂う。
バッフル面積を抑えたキャビネットが功を奏しヴォーカルや独奏楽器は音像がシャープに定まるが、音色はウォームで潤いがあり、ギターのスチール弦やピアノの高音域も硬さがなく、スーッと耳になじむ音だ。トゥイーター前面のウェーブガイドは指向性の最適化を狙ったもので、側壁からの反射で音像がにじむのを防ぐ効果を発揮するという。音像のフォーカスが良いのはそこにも理由がありそうだ。
無謀と思いつつマーラーの交響曲第6番を聴いてみると、低弦の重量感や余韻の広がりで空気の絶対量を想起させ、思いがけずスケールの大きな音場が展開。この曲でスペース・オプティマイゼーションを有効にすると、ステージ後方の金管楽器と前方の弦楽器の対比が見えるようになり、広さに加えて音場の立体感が目に見えて改善した。
【ブックシェルフ型】 ソナス・ファベール「Minima Amator II」
■弦の個性まで伝える繊細な表現力が魅力
かつての人気スピーカーをリファインしたMinima Amator IIは、Founder 40Bとは対照的なサウンドだ。レザー仕上げのバッフルと艷やかな天然木の組み合わせがソナス・ファベール創業時の審美眼を現代に伝えるが、その外見は再生音の艷やかな感触と見事に一致する。
ジェーン・モンハイトの声は艶やかだがあざとさはなく、村治佳織「シネマ」のクラシックギターは和音の響きに木質の柔らかさをたたえつつ、響きは混濁しない。このアルバムは楽器ごとの音色の違いを味わう楽しみがあるが、MAJIK DSMは楽器だけでなく弦の個性まで伝える繊細な表現力があり、Minima Amator IIとの組み合わせで階調豊かな音色の変化をじっくり味わうことができた。
ギターはナイロン弦だけでなくスチール弦の楽器とも相性が良い。TIDALで探し出した1970年代の音源ではリトル・フィートの「Dixie Chicken」が古びた音にならず、乾いた感触とも無縁の血の通ったサウンドで蘇った。特にスライドギターの粘性の高い音色はこのスピーカーがベスト。他のスピーカーで聴くとクリーンな音になってしまう。このアルバムの場合、ベースもあまりに歯切れ良く動くよりはほどよい重さが出てピタリとはまる。
【フロアスタンディング型】 ファイン・オーディオ「F502」
■動的な解像度も高く、音の立ち上がりをリアルに表現
ファイン・オーディオとリンはどちらもグラスゴー近郊に本拠を置き、同郷と言ってもいいほど地理的に近い関係にある。今回届いたフロアスタンディング型のF502はダークオーク仕上げだったが、ピアノフィニッシュのブラックならテクスチャ的にもMAJIK DSMとほぼ同じ。デザインの親和性が高い。ブックシェルフ型のF500ならサイズ面でもマッチングが良さそうだ。
ブックシェルフ型から交換するといかにも大柄だが、声や旋律楽器の定位の良さはほぼ期待通り。にじみのないクリアなイメージと発音の良さは他のスピーカーと一線を画す本機の美点で、それだけでこのスピーカーを選びたくなる人もいるはずだ。もう一つの長所は伸びやかで余裕のある低音。ここまで量感とスケール感を引き出せるならマーラー《復活》や、R.シュトラウス《アルプス交響曲》はもちろん、ワーグナー《ニーベルングの指環》でも遠慮なく鳴らせる。ペトレンコ指揮ベルリンフィルで聴いたマーラーの交響曲第6番は冒頭から異様なほどテンションが高く、低音楽器の解像力の高さに舌を巻いた。
MAJIK DSMのクラスDアンプは、冒頭で紹介したフィードバック回路の効果が顕著で、動的な解像度が非常に高い。モンハイトのヴォーカルを支えるリズム楽器群のキレの良さは見事なものだし、加藤訓子が演奏したライヒ《ドラミング》はマリンバの最低音からグロッケンシュピールの最高音まで、どの音域でも立ち上がりのタイミングが高精度で、わずかなずれが動きを生む様子をリアルに再現した。
【フロアスタンディング型】 エラック「Solano FS287」
■演奏の熱気が部屋を満たし、ドラムやベースのエネルギー感も際立つ
エラックのメインストリームともいうべき200シリーズの最新モデルからフロアスタンディング型のSolano FS287を聴く。ベース部も含めてキャビネットの剛性を改善し、従来機以上にJETトゥイーターとウーファーの立ち上がり特性や音色を揃えていることに注目したい。グロスブラック仕上げに共通点があるMAJIK DSMとの組み合わせでは、演奏の躍動感の強さと時間軸方向の解像度の高さを実感した。
《ジャズ・アット・ザ・ポーンショップ》のハイレゾ音源から「Take5」をFS287で聴くと、サックスの中低音域の密度や太さがリアルに伝わり、実在感の高いサウンドを堪能できる。この音源は再生システムによって臨場感や空気感に違いが出やすく、なかにはクールでクリーンな雰囲気になる場合もあるのだが、この演奏内容でその空気感はあり得ない。MAJIK DSMとFS287の組み合わせは冒頭から熱気と温度の高さが伝わり、テンポまで速くなったように感じるほどテンションの高い空気が部屋を満たす。ベースの動きも軽快だが、それ以上にスネアやキックドラムのアタックのエネルギーの強さが際立ち、低音の動きが力強い。スペース・オプティマイゼーションをオンにするとオーケストラの低音楽器も動きが一段階クリアになる。
【フロアスタンディング型】 ソナス・ファベール「Sonetto III」
■最新のソナス・ファベールの成果を印象付ける精度の高いサウンド
Electa AmatorやMinima Amatorはいまも語り継がれる存在だが、現代のソナス・ファベールを代表するのは最新世代のSonettoやOlympica Novaである。今回はSonettoシリーズのフロアスタンディング型では最も身近な存在のSonetto IIIを聴いた。MAJIK DSMとは外見の共通点は見当たらないが、仕上げの質感の高さでは引けを取らない。
Minima Amator IIがブランドの伝統を色濃く再現していたのとは対照的に、Sonetto IIIはソナス・ファベールの最新の成果を印象付けるサウンドだ。ソロ楽器のフォーカスが鮮明でヴォーカルもクリアな音像が浮かび、空間表現で明らかな進化を遂げている。オーケストラは音場の見通しが良く、各楽器の位置関係を立体的に再現し、低音楽器同士が重なっても混濁が起こらない。ペトレンコ指揮ベルリンフィルのマーラー演奏から現代的な要素を正確に抽出して、忠実に描き出す。ひとことで言えば、非常に精度の高いサウンドだ。スペース・オプティマイゼーションをオンにすると、遠近表現の精度に磨きがかかる。
それだけでは音楽として面白くないと思うかもしれないが、そこはまったく心配しなくていい。たとえば弦楽四重奏版で演奏したモーツァルトのピアノ協奏曲は、ソナス・ファベールのスピーカーでなければ聴けない瑞々しい弦の音を確実に受け継いでいて、チェロの艷やかな高音域の表情など、聴き手が求める音を期待通りに伝えてくれる。モンハイトのヴォーカルも今回聴いたなかで最も濃密な表情で迫ってきた。
MAJIK DSMと組み合わせて聴いた5つのスピーカーはどれもブランドを代表する重要な製品だけに、帯域バランスやダイナミックレンジなど基本性能が高く、情報量にも余裕が感じられた。その一方で、5モデルの音の志向には意外なほど大きな違いがあり、音楽の聴かせ方にはっきりとした個性があることもわかった。
MAJIK DSMは、その個性を平均化するのではなく、むしろ積極的に鳴らし分けることでそれぞれの長所を際立たせる。コンパクトなFounder 40Bから思いがけず雄大なスケール感を引き出したり、Solano FS247の力強い低音再生能力に気付かせてくれるなど、潜在的なポテンシャルの高さが明らかになる例もあった。スピーカー本来の能力を引き出すという点では、部屋固有の定在波を抑えるスペース・オプティマイゼーションが演じる役割も大きい。今回の試聴を通じて、アンプの性能は物量だけで決まるわけではないことをあらためて思い知らされた。
(提供:リンジャパン)