公開日 2010/06/17 16:39
“ゲーム屋”任天堂は3D映像コンテンツ販売に乗り出すか
任天堂は、これまで一貫して「遊び」にこだわり続けてきた会社だ。過去には株式販売で野村證券と手を組んだりなど色々な試みを行ってきたが、ベースにあったのは常に「遊び」だった。いかに面白い遊びを提供するかということに特化し、人員や資金を集中させることで成功を重ねてきた。
オーディオビジュアル機能を例に取ってみよう。Wiiの発表当初、DVD再生機能を追加した上位機種を発売すると説明していたが、その後不要と判断したのか立ち消えになった。いまだにHDMI端子も搭載していない。いち早くHDMI 1.3端子を装備し、今後Blu-ray 3Dの再生も可能になるPS3とは対極にある。
ニンテンドーDSシリーズも同様だ。DSiになってカメラ機能が搭載されたが、品質よりも「写真で遊ぶ」ことの付加価値を訴求した。動画についても、2007年に巨大なワンセグ受信アダプターを発売したものの、大きな機能アップデートは行われずじまい。また映像配信「DSVision」は運営を他社に委ね、自らが積極的に関与することはなかった。これも、映像/音楽再生機能の充実やPSNを通した映像配信に積極的なPSPとは、全く異なる方向性といえる。
◇ ◇ ◇
だがここにきて、アップルのiPhone/iPod touch/iPadへの対策が急務、という論調の報道が増えてきた。メディアはとかくこういった対立の構図を作りたがる(もちろん記者も例外ではない)もので、任天堂がアップルをどの程度ライバル視しているのか、本当のところは分からない。直近の任天堂の業績がやや低迷したのも、同社の説明ではWiiの低迷が主因としており、DSシリーズが不調というわけではなさそうだ。
そもそも、近所の公園で小学生と遊んだりすると、ほぼ全員がDSを持っているが、iPhoneやiPod touchを使っている小学生はいまだに見かけたことがない。現時点ではユーザー層が異なっており、本当に真正面から勝負することになるのか疑問に感じる。
だが、挑戦者であるアップルが任天堂やソニーを名指しし、ゲーム分野で敵意を剥き出しにしていることは確かだ(関連記事)。また、アップルがiOS 4に「GameCenter」というソーシャル機能を盛り込み、ゲーム機能をさらに強化することも既に発表されている。iPhoneの性能向上に伴い、非常にリッチなゲームが増えていることも事実だ。
多くの携帯機器を持ち歩くのは億劫だ。豊富なアプリと高い処理性能を持つiPhoneなどスマートフォンに携帯デバイスが徐々に集約され、ニンテンドーDSを携帯する機会が減るというシナリオは、任天堂としては何としても避けたいところだろう。
だが任天堂は、iPhone登場以前から、DSシリーズをどこにでも持ち歩くメリットを訴求することに腐心してきた。ゲームの「すれ違い通信」機能はその最たるものだし、美術館など公共施設での案内端末としてDSを利用する試みなども行ってきた。あくまでゲームの面白さを追求しながらも、利用シーン拡大のために様々なトライアルを行ってきたのだ。
◇ ◇ ◇
そして今回、任天堂が満を持して発表したのが「ニンテンドー3DS」だ。上画面で裸眼立体視が可能で、3D静止画の撮影もでき、さらに360度のアナログ入力ができるスライドパッドも備えた。またモーションセンサー、ジャイロセンサーも装備し、これまでDS単体ではできなかった、本体を傾けたり移動させたりする操作にも対応した。ネットワーク機能も強化され、スリープ時のデータ交換やインターネットからのデータ受信を、ソフトウェア側でなくシステムレベルでサポートした点も特徴だ。
これらの新機能を活用して任天堂が全力を注ぐのが、ゲームの革新であることに変わりはないはず。ゲームという主戦場でアップルの後塵を拝することは許されない。そのための裸眼立体視であり、操作ボタンの拡充、ネットワーク強化だろう。今回発表された3DS用ゲームは続編が多く、新味が足りないという意見もあるようだが、思いもよらない方法で機能を活用したり、ありふれた機能同士を組み合わせることで多くのユーザーを驚かせてきた同社のことだ。今後、徐々にそのポテンシャルを活かしたゲームが登場するだろう。
◇ ◇ ◇
だがニンテンドー3DSの裸眼立体視ディスプレイを、ゲームの利用だけにとどめておくのはあまりにもったいない。
ニンテンドー3DSに搭載された裸眼立体視対応のディスプレイが、シャープが4月に発表したものをベースにしたものかは分からないが、もしそうだとすれば、以前の記事で紹介したように、その立体感は非常に高く、適切な位置で見ればクロストークも少ない。3D映像を十分に楽しめるクオリティを備えている。
3D映画へのシフトを強めているハリウッドの映画スタジオにとっても、ニンテンドー3DSは非常に魅力的なプラットフォームとなるはずだ。現時点で、3D映像を3Dのままアピールできる場所やハードは限られている。すぐに思いつくのは劇場でのCM、あるいは店頭・家庭の3Dテレビだが、3Dテレビの本格普及にはまだまだ時間がかかる。ユーザー層が幅広く、早期の普及拡大が期待できるニンテンドー3DSを使えば、より多くの潜在顧客に3D映画の魅力を伝えることが可能になる。
ニンテンドー3DSの利用シーンを広げたい任天堂と、3D映画のアピールと販路拡大を狙うハリウッドのメジャースタジオ。E3で任天堂の岩田聡社長が「ニンテンドー3DSはハリウッドの3D映画を視聴できる」と述べ、Disney、Warner、DREAMWORKSとの連携を発表したのは、両者の思惑を考えたら当然のことだ。
E3の同社ブースではトレーラーしか視聴できないようだが、作品全編の映像配信、あるいはSDカードでのパッケージソフト販売なども、当然視野に入っているだろう。単にトレーラー配信だけを行うとしたら、E3のプレスカンファレンスという限られた時間を割き、ハリウッドスタジオとの連携を大々的に発表する意義に乏しい。
提供形態や価格はどうなるのか、配信を利用するとすれば任天堂がプラットフォームを独自に構築するのか、あるいは他社と連携するのかなど、現時点では不明な点ばかりだが、任天堂が携帯ゲーム機での映画視聴機能をアピールしたのは初めてのことであり、期待は高まる。これまで一貫して「ゲーム屋」として存在感を発揮してきた任天堂が、もし自ら映像販売という大事業に本気で乗り出すとすれば、そのインパクトは非常に大きい。
◇ ◇ ◇
いずれにせよ、なんらかの形でニンテンドー3DSで3D映画が視聴できることは明らかになった。アップルの映画配信サービスのように、国内では利用できないなどということが無いよう願いたい。
ニンテンドー3DSと3Dテレビは、絶妙な補完関係にある。裸眼立体視が可能だが、恐らくはスイートスポットが狭いニンテンドー3DSと、メガネ装着は必要となるが広い角度から多人数で視聴できる3Dテレビという構図だ。双方の相乗効果によって、3D映像への理解は今後さらに加速するだろう。
オーディオビジュアル機能を例に取ってみよう。Wiiの発表当初、DVD再生機能を追加した上位機種を発売すると説明していたが、その後不要と判断したのか立ち消えになった。いまだにHDMI端子も搭載していない。いち早くHDMI 1.3端子を装備し、今後Blu-ray 3Dの再生も可能になるPS3とは対極にある。
ニンテンドーDSシリーズも同様だ。DSiになってカメラ機能が搭載されたが、品質よりも「写真で遊ぶ」ことの付加価値を訴求した。動画についても、2007年に巨大なワンセグ受信アダプターを発売したものの、大きな機能アップデートは行われずじまい。また映像配信「DSVision」は運営を他社に委ね、自らが積極的に関与することはなかった。これも、映像/音楽再生機能の充実やPSNを通した映像配信に積極的なPSPとは、全く異なる方向性といえる。
だがここにきて、アップルのiPhone/iPod touch/iPadへの対策が急務、という論調の報道が増えてきた。メディアはとかくこういった対立の構図を作りたがる(もちろん記者も例外ではない)もので、任天堂がアップルをどの程度ライバル視しているのか、本当のところは分からない。直近の任天堂の業績がやや低迷したのも、同社の説明ではWiiの低迷が主因としており、DSシリーズが不調というわけではなさそうだ。
そもそも、近所の公園で小学生と遊んだりすると、ほぼ全員がDSを持っているが、iPhoneやiPod touchを使っている小学生はいまだに見かけたことがない。現時点ではユーザー層が異なっており、本当に真正面から勝負することになるのか疑問に感じる。
だが、挑戦者であるアップルが任天堂やソニーを名指しし、ゲーム分野で敵意を剥き出しにしていることは確かだ(関連記事)。また、アップルがiOS 4に「GameCenter」というソーシャル機能を盛り込み、ゲーム機能をさらに強化することも既に発表されている。iPhoneの性能向上に伴い、非常にリッチなゲームが増えていることも事実だ。
多くの携帯機器を持ち歩くのは億劫だ。豊富なアプリと高い処理性能を持つiPhoneなどスマートフォンに携帯デバイスが徐々に集約され、ニンテンドーDSを携帯する機会が減るというシナリオは、任天堂としては何としても避けたいところだろう。
だが任天堂は、iPhone登場以前から、DSシリーズをどこにでも持ち歩くメリットを訴求することに腐心してきた。ゲームの「すれ違い通信」機能はその最たるものだし、美術館など公共施設での案内端末としてDSを利用する試みなども行ってきた。あくまでゲームの面白さを追求しながらも、利用シーン拡大のために様々なトライアルを行ってきたのだ。
そして今回、任天堂が満を持して発表したのが「ニンテンドー3DS」だ。上画面で裸眼立体視が可能で、3D静止画の撮影もでき、さらに360度のアナログ入力ができるスライドパッドも備えた。またモーションセンサー、ジャイロセンサーも装備し、これまでDS単体ではできなかった、本体を傾けたり移動させたりする操作にも対応した。ネットワーク機能も強化され、スリープ時のデータ交換やインターネットからのデータ受信を、ソフトウェア側でなくシステムレベルでサポートした点も特徴だ。
これらの新機能を活用して任天堂が全力を注ぐのが、ゲームの革新であることに変わりはないはず。ゲームという主戦場でアップルの後塵を拝することは許されない。そのための裸眼立体視であり、操作ボタンの拡充、ネットワーク強化だろう。今回発表された3DS用ゲームは続編が多く、新味が足りないという意見もあるようだが、思いもよらない方法で機能を活用したり、ありふれた機能同士を組み合わせることで多くのユーザーを驚かせてきた同社のことだ。今後、徐々にそのポテンシャルを活かしたゲームが登場するだろう。
だがニンテンドー3DSの裸眼立体視ディスプレイを、ゲームの利用だけにとどめておくのはあまりにもったいない。
ニンテンドー3DSに搭載された裸眼立体視対応のディスプレイが、シャープが4月に発表したものをベースにしたものかは分からないが、もしそうだとすれば、以前の記事で紹介したように、その立体感は非常に高く、適切な位置で見ればクロストークも少ない。3D映像を十分に楽しめるクオリティを備えている。
3D映画へのシフトを強めているハリウッドの映画スタジオにとっても、ニンテンドー3DSは非常に魅力的なプラットフォームとなるはずだ。現時点で、3D映像を3Dのままアピールできる場所やハードは限られている。すぐに思いつくのは劇場でのCM、あるいは店頭・家庭の3Dテレビだが、3Dテレビの本格普及にはまだまだ時間がかかる。ユーザー層が幅広く、早期の普及拡大が期待できるニンテンドー3DSを使えば、より多くの潜在顧客に3D映画の魅力を伝えることが可能になる。
ニンテンドー3DSの利用シーンを広げたい任天堂と、3D映画のアピールと販路拡大を狙うハリウッドのメジャースタジオ。E3で任天堂の岩田聡社長が「ニンテンドー3DSはハリウッドの3D映画を視聴できる」と述べ、Disney、Warner、DREAMWORKSとの連携を発表したのは、両者の思惑を考えたら当然のことだ。
E3の同社ブースではトレーラーしか視聴できないようだが、作品全編の映像配信、あるいはSDカードでのパッケージソフト販売なども、当然視野に入っているだろう。単にトレーラー配信だけを行うとしたら、E3のプレスカンファレンスという限られた時間を割き、ハリウッドスタジオとの連携を大々的に発表する意義に乏しい。
提供形態や価格はどうなるのか、配信を利用するとすれば任天堂がプラットフォームを独自に構築するのか、あるいは他社と連携するのかなど、現時点では不明な点ばかりだが、任天堂が携帯ゲーム機での映画視聴機能をアピールしたのは初めてのことであり、期待は高まる。これまで一貫して「ゲーム屋」として存在感を発揮してきた任天堂が、もし自ら映像販売という大事業に本気で乗り出すとすれば、そのインパクトは非常に大きい。
いずれにせよ、なんらかの形でニンテンドー3DSで3D映画が視聴できることは明らかになった。アップルの映画配信サービスのように、国内では利用できないなどということが無いよう願いたい。
ニンテンドー3DSと3Dテレビは、絶妙な補完関係にある。裸眼立体視が可能だが、恐らくはスイートスポットが狭いニンテンドー3DSと、メガネ装着は必要となるが広い角度から多人数で視聴できる3Dテレビという構図だ。双方の相乗効果によって、3D映像への理解は今後さらに加速するだろう。