公開日 2011/08/26 11:00
キュー・テックでBlu-ray 3Dソフト「ヒピラくん」の制作工程を見てきた
大友克洋原作の3Dアニメ
今年6月に発売されたアニメ「とびだすアニメ!! ヒピラくん Blu-ray 3D」。「AKIRA」などで世界に知られるクリエーター大友克洋氏と、「鉄コン筋クリート」の美術監督を務めた木村真二氏がタッグを組んで作り上げた絵本を原作としたこのアニメは、アナログ的手触りを持つ絵柄と憎めないキャラクターたち、生活感とファンタジーさのバランスが絶妙な吸血鬼の街“サルタ”の世界観が魅力だ。
本作はもともと2Dアニメとして作られたものを、キュー・テックの「2D→3D変換」技術を使って3D化したタイトル。今回この「2D→3D変換」技術などについて、キュー・テックに取材した。
■まずは3Dのしくみをおさらい
人間の目は平均6.5cmほど離れていて、左と右で少しずつ異なる映像を同時に見ている。そして脳はこの2つの映像の「視差」を、物と物の「距離」や「奥行き」として知覚している。
3D映画はこの性質を利用したもので、右目用の映像は右目だけに、左目用は左目だけに見せることで、脳内で合成されて立体的に見えるしくみになっている。
では、“物と物の「距離」”はどのようにして表現するのだろうか?
こちらの3本の旗の絵。左目側の映像では、スクリーンから奥の物は左に、手前は右にずれているのが分かる。右目の場合はその逆となる。「ヒピラくん」の3D映像も、もちろんこの原理を応用して作られている。
■ヒピラくんが飛び出すまで − 2D→3D変換工程 −
3D変換する前の「ヒピラくん」の2Dデータは、遠景/近景/キャラクターなど複数のレイヤーに分かれていた。単純に各レイヤーの間に視差をつけるだけでも立体的な映像になるが、それでは建物のパーツやキャラが書かれた平面が重なっただけ(舞台の「書き割り」のような感じ)に見えてしまう。
そこで、各レイヤーの間でも手前に来るもの〜奥にあるものによって視差を微調整することで、丸みを帯びた立体感の表現が可能になるのだという。たとえばヒピラくんの丸い頭は、3DCGでの製作時のDepth情報を元に、手前側と奥側で視差を微妙に変えているのだという。
ちなみに最初から3D化を念頭に置いたアニメでは、通常1つのレイヤーで作ってしまうようなものもレイヤーを分け、より効果的な3D変換ができるように制作する。たとえば今夏公開された「トリコ 3D 開幕!グルメアドベンチャー!!」では、主人公の頭/体と突き出す拳を別レイヤーにし、より飛び出し感が出るようにするなど、三田氏が製作時から監修したそうだ。
「2D→3D変換」のメリットは「既存の2D映像も3D化ができること」「肌修正など素材の修正が容易なこと」「立体感の調整ができること」「左/右の素材の色の差が出ないこと」、そして何より「3D空間として『嘘』をついているレイアウトでも、不自然さのない3D化が可能なこと」が挙げられるという。三田氏は「手描きのキャラクターや背景など、2Dとしてデザインされたものを3D化するには、画像から立体映像を作れる2D→3D変換技術が最も無理なく立体化できる技術だ」と語る。
■Blu-ray 3Dの製作過程
薄型テレビには液晶とプラズマがあり、3Dの表示方法も円偏光タイプとアクティブシャッター型がある。パッケージ用の3D映像にも「サイド・バイ・サイド」方式と、左/右のフルHD映像の解像度を落とすことなく効率的に圧縮できる、 MVCを用いたBlu-ray 3D規格が存在している。
Blu-ray 3Dでは、MVCエンコーダーとMVCストリームに対応したTS多重化処理を行う必要がある。まずは左/右映像をそれぞれ非圧縮ファイルとして取り込み、左/右を同時にMVCエンコードする。通常左chのデータをベースにし(Base View)、右chはDepending Dataとして差分のみ扱うため、エンコードする容量は2倍ではなく1.5倍程度になる。映像の長さにもよるが、MVCエンコードはだいたい50GBあたり100分ほどの時間がかかるという。
こうしてできあがったMVCデータと音声、メニュー、字幕データなどを、独自ソフトなどを使ってオーサリング。BD-Rに焼いたものをプレビューして3D/2Dでチェックを行い、カッティングマスターフォーマット(BDソフトのひな形)を作るという流れだ。
この2D/3D互換チェックは、2Dプレーヤー/2Dテレビ/3Dプレーヤー/3Dテレビの組み合わせで行うため時間が結構かかるという。また、メニューを2Dにするか3Dにするかや、字幕の視差をどこにするか、といった違いでも、必要となる時間が変わるとのことだ。特に字幕は、基本的にカットごとに移動させる必要があるため、大変な作業になるのだという。
■「ヒピラくん」のメニューに凝らされた工夫
「ヒピラくん」では、トップメニューも「飛び出すアニメのメニューにふさわしい立体感を」という理由から立体化を行った。しかしボタンは、3Dメガネをかけないままでも操作しやすい2D表示(視差ゼロ)としている。
また、BD再生機器やケーブルの対応状況によっては3D再生ができないため、本編の前に3D再生できているかを確認する画面を入れている。
■「とびだすアニメ!! ヒピラくん Blu-ray 3D」を見た
世界の大友克洋&「鉄コン筋クリート」の木村真二、と聞けば、アニメ好きな方は必ずや「おっ!」と思うビッグネーム。このBlu-ray 3D 1本に、5分のショートストーリーが5話入っています。
まず、木村さんらしさ満載の、生活感とファンタジーさのバランスが絶妙な街の造形が素敵。ちょっとおどろおどろしい見かけのキャラも、わんぱくだったりドジだったり人間味ある性格で、ほのぼのとする。各話短い尺のなかに引きつけられるポイントがいくつもあって、作りが絶妙。1〜3話だけ見ることができたが、「残りも見たい…!」と思ってしまった。
上で説明した視差の微調整による球体表現の効果はハッキリ見てとることができた。ヒピラくんのまんまるな頭の立体感がきれいに表現されている。学校へ続く高い階段をのぼるシーンでは、画面のなかに入り込んだかのような感覚を覚えた。それぞれ5分と短いので3Dでも見疲れするなんてこともなく、さらりと楽しめる上質な一作だ。
本作はもともと2Dアニメとして作られたものを、キュー・テックの「2D→3D変換」技術を使って3D化したタイトル。今回この「2D→3D変換」技術などについて、キュー・テックに取材した。
■まずは3Dのしくみをおさらい
人間の目は平均6.5cmほど離れていて、左と右で少しずつ異なる映像を同時に見ている。そして脳はこの2つの映像の「視差」を、物と物の「距離」や「奥行き」として知覚している。
3D映画はこの性質を利用したもので、右目用の映像は右目だけに、左目用は左目だけに見せることで、脳内で合成されて立体的に見えるしくみになっている。
では、“物と物の「距離」”はどのようにして表現するのだろうか?
こちらの3本の旗の絵。左目側の映像では、スクリーンから奥の物は左に、手前は右にずれているのが分かる。右目の場合はその逆となる。「ヒピラくん」の3D映像も、もちろんこの原理を応用して作られている。
■ヒピラくんが飛び出すまで − 2D→3D変換工程 −
3D変換する前の「ヒピラくん」の2Dデータは、遠景/近景/キャラクターなど複数のレイヤーに分かれていた。単純に各レイヤーの間に視差をつけるだけでも立体的な映像になるが、それでは建物のパーツやキャラが書かれた平面が重なっただけ(舞台の「書き割り」のような感じ)に見えてしまう。
そこで、各レイヤーの間でも手前に来るもの〜奥にあるものによって視差を微調整することで、丸みを帯びた立体感の表現が可能になるのだという。たとえばヒピラくんの丸い頭は、3DCGでの製作時のDepth情報を元に、手前側と奥側で視差を微妙に変えているのだという。
ちなみに最初から3D化を念頭に置いたアニメでは、通常1つのレイヤーで作ってしまうようなものもレイヤーを分け、より効果的な3D変換ができるように制作する。たとえば今夏公開された「トリコ 3D 開幕!グルメアドベンチャー!!」では、主人公の頭/体と突き出す拳を別レイヤーにし、より飛び出し感が出るようにするなど、三田氏が製作時から監修したそうだ。
「2D→3D変換」のメリットは「既存の2D映像も3D化ができること」「肌修正など素材の修正が容易なこと」「立体感の調整ができること」「左/右の素材の色の差が出ないこと」、そして何より「3D空間として『嘘』をついているレイアウトでも、不自然さのない3D化が可能なこと」が挙げられるという。三田氏は「手描きのキャラクターや背景など、2Dとしてデザインされたものを3D化するには、画像から立体映像を作れる2D→3D変換技術が最も無理なく立体化できる技術だ」と語る。
■Blu-ray 3Dの製作過程
薄型テレビには液晶とプラズマがあり、3Dの表示方法も円偏光タイプとアクティブシャッター型がある。パッケージ用の3D映像にも「サイド・バイ・サイド」方式と、左/右のフルHD映像の解像度を落とすことなく効率的に圧縮できる、 MVCを用いたBlu-ray 3D規格が存在している。
Blu-ray 3Dでは、MVCエンコーダーとMVCストリームに対応したTS多重化処理を行う必要がある。まずは左/右映像をそれぞれ非圧縮ファイルとして取り込み、左/右を同時にMVCエンコードする。通常左chのデータをベースにし(Base View)、右chはDepending Dataとして差分のみ扱うため、エンコードする容量は2倍ではなく1.5倍程度になる。映像の長さにもよるが、MVCエンコードはだいたい50GBあたり100分ほどの時間がかかるという。
こうしてできあがったMVCデータと音声、メニュー、字幕データなどを、独自ソフトなどを使ってオーサリング。BD-Rに焼いたものをプレビューして3D/2Dでチェックを行い、カッティングマスターフォーマット(BDソフトのひな形)を作るという流れだ。
この2D/3D互換チェックは、2Dプレーヤー/2Dテレビ/3Dプレーヤー/3Dテレビの組み合わせで行うため時間が結構かかるという。また、メニューを2Dにするか3Dにするかや、字幕の視差をどこにするか、といった違いでも、必要となる時間が変わるとのことだ。特に字幕は、基本的にカットごとに移動させる必要があるため、大変な作業になるのだという。
■「ヒピラくん」のメニューに凝らされた工夫
「ヒピラくん」では、トップメニューも「飛び出すアニメのメニューにふさわしい立体感を」という理由から立体化を行った。しかしボタンは、3Dメガネをかけないままでも操作しやすい2D表示(視差ゼロ)としている。
また、BD再生機器やケーブルの対応状況によっては3D再生ができないため、本編の前に3D再生できているかを確認する画面を入れている。
■「とびだすアニメ!! ヒピラくん Blu-ray 3D」を見た
世界の大友克洋&「鉄コン筋クリート」の木村真二、と聞けば、アニメ好きな方は必ずや「おっ!」と思うビッグネーム。このBlu-ray 3D 1本に、5分のショートストーリーが5話入っています。
まず、木村さんらしさ満載の、生活感とファンタジーさのバランスが絶妙な街の造形が素敵。ちょっとおどろおどろしい見かけのキャラも、わんぱくだったりドジだったり人間味ある性格で、ほのぼのとする。各話短い尺のなかに引きつけられるポイントがいくつもあって、作りが絶妙。1〜3話だけ見ることができたが、「残りも見たい…!」と思ってしまった。
上で説明した視差の微調整による球体表現の効果はハッキリ見てとることができた。ヒピラくんのまんまるな頭の立体感がきれいに表現されている。学校へ続く高い階段をのぼるシーンでは、画面のなかに入り込んだかのような感覚を覚えた。それぞれ5分と短いので3Dでも見疲れするなんてこともなく、さらりと楽しめる上質な一作だ。