【特別企画】ノウハウを注ぎ込んだ2013年フラグシップAVアンプ
パイオニア「SC-LX87」開発者インタビュー ー 進化したクラスDアンプとESS製DACが実現する「驚嘆の音」の舞台裏
パイオニアからこの秋登場した2013年度フラグシップAVアンプ「SC-LX87」。2008年の超弩級リファレンスモデル「SC-LX90」で採用して以来、世代を重ね着実に進化を続けてきたクラスDアンプに加え、新たにESS社のSABRE32 Ultra DACを全chに搭載。磨き抜かれた音への自信は、「世界は、そのサウンドに驚嘆する」というキャッチフレーズにも表れている。
今回、「SC-LX87」の企画を担当した山田喜行氏、技術開発と音質チューニングを担当した平塚氏に、山之内 正氏がインタビュー。クラスDアンプの進化の過程とそこで培われたノウハウ、そしてESS社製新DACの採用秘話などについてお話をうかがった。
◇ ◇ ◇
山之内氏:SC-LX87の焦点は2つあると思います。ひとつはクラスDアンプ「ダイレクト エナジー HDアンプ」の進化、そしてもうひとつは「ESS社のSABRE32 Ultra DAC」の新採用です。まず、アンプ部の進化の過程を振り返って「SC-LX87」の位置づけを教えてください。
山田氏:2008年に投入した「SC-LX90」というリファレンスAVアンプで、それまでのクラスABアンプからクラスDアンプへと大転換を図りました。その理由は、クラスABアンプではどうしても出せない音があるという壁にぶつかったこと。立ち上がりの急峻なスペックや、全チャンネル同出力を理想的に実現するには、従来のABアンプでは限界がありました。
もともと我々は、AVアンプの理想として「全チャンネル同一出力であること/再生コンディションが等しいこと」という考えを持っていました(マルチチャンネル・ステレオフォニック・フィロソフィー)。それを実現するには、クラスDアンプが最適と判断したのです。一大決心でしたが、それは正しかったと確信しています。
山之内氏:サラウンドのチャンネル数は増える一方です。そんななか、全チャンネル同一出力/同一クオリティを実現するには、クラスABアンプではやはり厳しいですよね。
山田氏:物量で対応しないといけない部分があるので筐体が大きくなってしまうこともあり、ユーザーさんの使用環境を考えると厳しい。クラスDアンプは、放熱設計の制約が少ないという点もメリットでした。
山之内氏:「ダイレクト エナジー HDアンプ」は、当初はICEpower社の素子を採用していましたが、「SC-LX85」(2011年発売)からはIR社製の「Direct Power FET」に変更しています。この狙いはどこにあったのでしょう?
平塚氏:エンジニアサイドとしてはまず、音質改善のための調整の自由度が上がり、ノウハウを投入しやすくなったことが挙げられます。
また、ICEPowerは多重帰還回路。フィードバックをかけた方がデータとしては良い結果が出やすいですが、音質のことを考えるとあまりかけすぎない方がいい。そのあたりの実際の検討のしやすさもポイントでした。
山之内氏:「SC-LX87」は「Direct Power FET」を導入して3世代目にあたる製品ですが、世代を経るごとに進化していますね。
平塚氏:デジタルアンプは効率が良いぶん、信号をダイレクトに音に変換できるのがメリット。しかしそのダイレクトさゆえに、不要輻射ノイズが出るなどのデメリットもあります。音質チューニングを行う過程で「こういうところをこう変えていくといいんだ」という発見が日々ありますし、ノウハウが着実に積み重ねられています。まだまだ進化は現在進行形です。
山之内氏:私は、クラスDアンプを搭載してから、見通しの良いオープンな低音が出るようになったと感じています。パイオニアの追い求める理想にどんどん近づいてきているのではないかと受け止めています。
平塚氏:ご存じのとおり、低音というのはなかなか出すのが難しいものです。量感だけなら出せても、「表情のある低音」を出すのは非常に難しいなと感じています。あまりクオリティの高くないもので聴くと、ボーンとは出るけれどみんな同じに聞こえてしまったり、音階が分からなかったりすることがあります。ウッドベースならウッドベース、エレキベースならエレキベースらしい低音を出したいというのは常に目標にしているところです。
今回、「SC-LX87」の企画を担当した山田喜行氏、技術開発と音質チューニングを担当した平塚氏に、山之内 正氏がインタビュー。クラスDアンプの進化の過程とそこで培われたノウハウ、そしてESS社製新DACの採用秘話などについてお話をうかがった。
フラグシップAVアンプ「SC-LX87」の特長 ・全chにESS社のSABRE32 Ultra DAC搭載を採用し専用基板に搭載 ・さらに進化したダイレクトエナジーHDアンプ ・漏洩磁束を低減した専用電源トランス ・AIR Studiosによる音質チューニング ・DSD(2.8/5.6MHz)再生対応 ・USB-DAC機能/DoP方式でのDSD再生対応 ・192kHz/32bitアップサンプリング対応 |
山之内氏:SC-LX87の焦点は2つあると思います。ひとつはクラスDアンプ「ダイレクト エナジー HDアンプ」の進化、そしてもうひとつは「ESS社のSABRE32 Ultra DAC」の新採用です。まず、アンプ部の進化の過程を振り返って「SC-LX87」の位置づけを教えてください。
山田氏:2008年に投入した「SC-LX90」というリファレンスAVアンプで、それまでのクラスABアンプからクラスDアンプへと大転換を図りました。その理由は、クラスABアンプではどうしても出せない音があるという壁にぶつかったこと。立ち上がりの急峻なスペックや、全チャンネル同出力を理想的に実現するには、従来のABアンプでは限界がありました。
もともと我々は、AVアンプの理想として「全チャンネル同一出力であること/再生コンディションが等しいこと」という考えを持っていました(マルチチャンネル・ステレオフォニック・フィロソフィー)。それを実現するには、クラスDアンプが最適と判断したのです。一大決心でしたが、それは正しかったと確信しています。
山之内氏:サラウンドのチャンネル数は増える一方です。そんななか、全チャンネル同一出力/同一クオリティを実現するには、クラスABアンプではやはり厳しいですよね。
山田氏:物量で対応しないといけない部分があるので筐体が大きくなってしまうこともあり、ユーザーさんの使用環境を考えると厳しい。クラスDアンプは、放熱設計の制約が少ないという点もメリットでした。
山之内氏:「ダイレクト エナジー HDアンプ」は、当初はICEpower社の素子を採用していましたが、「SC-LX85」(2011年発売)からはIR社製の「Direct Power FET」に変更しています。この狙いはどこにあったのでしょう?
平塚氏:エンジニアサイドとしてはまず、音質改善のための調整の自由度が上がり、ノウハウを投入しやすくなったことが挙げられます。
また、ICEPowerは多重帰還回路。フィードバックをかけた方がデータとしては良い結果が出やすいですが、音質のことを考えるとあまりかけすぎない方がいい。そのあたりの実際の検討のしやすさもポイントでした。
山之内氏:「SC-LX87」は「Direct Power FET」を導入して3世代目にあたる製品ですが、世代を経るごとに進化していますね。
平塚氏:デジタルアンプは効率が良いぶん、信号をダイレクトに音に変換できるのがメリット。しかしそのダイレクトさゆえに、不要輻射ノイズが出るなどのデメリットもあります。音質チューニングを行う過程で「こういうところをこう変えていくといいんだ」という発見が日々ありますし、ノウハウが着実に積み重ねられています。まだまだ進化は現在進行形です。
山之内氏:私は、クラスDアンプを搭載してから、見通しの良いオープンな低音が出るようになったと感じています。パイオニアの追い求める理想にどんどん近づいてきているのではないかと受け止めています。
平塚氏:ご存じのとおり、低音というのはなかなか出すのが難しいものです。量感だけなら出せても、「表情のある低音」を出すのは非常に難しいなと感じています。あまりクオリティの高くないもので聴くと、ボーンとは出るけれどみんな同じに聞こえてしまったり、音階が分からなかったりすることがあります。ウッドベースならウッドベース、エレキベースならエレキベースらしい低音を出したいというのは常に目標にしているところです。