独自DSP技術「S1LKi」などの技術を随所に盛り込む
ローランド初のUSB-DAC「Mobile UA」登場 − キーパーソンに聞くその革新性
どのパソコンでもどの再生ソフトウェアでも、1bitならではのサウンドが体感できる魅力
― Mobile UAの開発にはどのくらいかかったんですか?
櫻井 アナログも含めて先ほどのS1LKiについても、スペックだけではなくて耳で初めて分かる部分が多数ありましたので、相当な時間がかかっています。一番こだわったのはやはりS1LKiによる変換部分です。これがどのようにアナログに作用するのか、実験段階から始まった技術ですので、かなり時間をかけて追い込んだことになります。
― DSDに対応させた他社のモデルを見ると再生ソフトウェアも一緒にリリースされることが増えていますが、ローランドではその予定はありますか?
安東 いまのところ専用プレーヤーソフトのリリース予定はありません。ハイレゾオーディオを楽しんでいらっしゃる方々はすでに対応のプレーヤーをお持ちだと思いますので、お好みのプレーヤーでお使いください。
― あくまでユーザーさんに選んでいただくということですね。ちなみに開発の時に使っていた再生ソフトウェアはあるんですか?
櫻井 色々な意味で素性が良いということで、foobar2000を開発時の動作検証に使用していました。
― ちなみにMobile UAはバッテリー駆動ではないですよね? モバイル用途というとバッテリー駆動というのが定説ですけど、あえてのバスパワーとした理由はありますか?
安東 自社製カスタムチップはUSBバスパワーでの駆動を前提にしているので、かなりの電力を使います。ですので、バッテリーを内蔵させるとなると非常に大きくなってしまって……。
櫻井 USBから供給される500mA、5Vをいっぱいまで使う構造ですね。やっぱり電源は音にとってすごく重要です。今回はアナログ回路の電源についても相当ケアした内容になっています。一番はこの薄さ。電源は最も体積を食うんですけど、この限られた薄さのなかで最大限の電源を確保するためにはどうしたらいいかと試行錯誤した部分も、今回の大きなこだわりを盛り込んだ部分です。
― 単純に薄くて小さいわけではないんですね。
櫻井 電源は可能な限り、大きな部品も使っています。低ノイズ性も含め、自社のバスパワー機の中でもトップクラスだと思います。
― この他、今回特に押したいポイントはありますか?
櫻井 今回はその1bit化するというところもそうなんですが、一番はどんなパソコンでも、どんな再生ソフトウェアでもMobile UAでは1bit、つまりDSDのサウンドを体験できるということです。再生ソフトウェア側で全て1bit化するというものもあるのですが、その場合は当然再生ソフトウェアは限定されます。そうした限定をしないMobile UAだからこそ、もっと多くの人に1bitの音を聴いてもらえるというメリットがあります。さらにバスパワーにおける制約をクリアしたことと、自社のカスタムチップの性能を駆使したことで、どんな環境でも1bitのサウンドを楽しめることが最大の魅力です。
このS1LKiと、同じく新設計のアナログ要素との相乗効果により、音の消え際がすごく綺麗になるんですね。これも聴感上の感覚的な部分になるのですが、リヴァーブやシンバルなどの金物の音の消え際がすごく自然で綺麗なんです。そんな音の魅力をぜひ多くの人に味わっていただきたいと思います。
今回のお話のなかでは、Mobile UAがただの小型USB-DACという枠にとどまらず、ローランドだからこそ開発できたと実感する部分が多々あった。やはりそのサウンドのコアとなるのはS1LKi。こうしたDSPを開発できることそのものが、ローランドというデジタルオーディオに密接に関わってきたメーカーだからこその強さといえるだろう。現在制作で想定されるサンプリング周波数の本来の持ち味を活かすべくチューニングされたそのサウンドは、極めて高い解像度を誇るサウンドだ。
おそらくMobile UAのサウンドを聴けば、その完成度はもちろんのこと、今後のUSBオーディオへのローランドの取り組みに一層期待が高まるだろう。いたずらに数値のみを追いかけず、常に音楽を作る“制作者”に寄り添った製品開発。このローランドならではのアプローチは、音楽ファンにとっても大きな魅力となるのである。