ヘッドホン?それともスピーカー? − ソニーの「PFR-V1」を使ってみた
ソニーからユニークなスピーカー「PFR-V1」が発売された。本機の写真を見ていただきたいのだが、これはヘッドホンではなく、まぎれもないスピーカーなのだ。
PFR-V1は耳の直近で鳴らすスピーカーであり、ヘッドホンにような遮音はまったくされていない。もし電車などで使おうものなら、音声がまわりにまる聞こえになってしまう。ではそのメリットはどこにあるのか?耳元で鳴らすことで小さな音でも迫力あるサウンドが楽しめるというのが、本機が提唱するコンセプトなのだ。
PFR-V1はスピーカーユニットを耳の斜め前方に配置して、スピーカーから出た音と、それを反射した音を聴くという構造になっている。小型スピーカーを使うことで、キレのあるサウンドが再生できる。不足した低音は「エクステンデッドバスレフダクト」というパーツを耳の耳珠(じじゅ)と呼ばれる箇所に乗せ、そこから直接低音を外耳道(耳の穴)に送り込む。エクステンデッドバスレフダクトはスピーカーの固定用としても機能している。
パーソナルフィールドスピーカーシステム
▲スピーカーから発した音を耳介(耳全体)に反射させて外耳道(耳の穴)へ送り込む。低音はエクステンデッドバスレフダクトを通って、より鼓膜に近い位地で鳴らす。高・中・低音とバランスよく聞こえるように工夫されている。
■歯切れがよく、驚くほどに解像感の高いサウンド
筆者はこの製品の試作機を試聴したときに、ちょっとした感動を覚えた。実に歯切れがよく、楽器やボーカルなどの解像感が驚くほど高いのだ。たとえばスティービー・ワンダーの「Superstition(迷信)」を聴くと、出だしのドラムではスタジオの空間を感じ、そしてスティービーが演奏するクラヴィネットが入ってくると、音の震えまで目に浮かぶように、くっきりとした音像が伝わってくる。そして伸びやかなヴォーカルにホーンセクションが被さり、合奏になっても個々の音色には輪郭を感じるのだ。
音のアタック感も強烈だ。グリークのピアノコンチェルトの出だしは、突き刺さるように力強く立ち上がるが、小さな音は消えることなく、また、それでいて迫力のあるピアノの音は少しも割れない。高音、中音の見事な鳴りっぷりに比べれば、低音のインパクトは弱いが、比類ない解像感にひれ伏してしまった。
使用時の装着スタイルには賛否があるだろうが、ヘッドホンのように耳を覆わない、開放的な装着感もいい。エクステンデッドバスレフダクトを耳珠に乗せるようにして固定するので、つけはじめはくすぐったいような感じがするが、慣れれば気にならなくなる。長時間使用しても、耳は汗をかかず、その音と同じようにからっとした装着感なのがありがたい。
このPFR-V1は使うほどにユニークさが際だってくる製品だ。今回は本機の開発者担当者のお話をインタビューによりうかがった。対応していただいたのは、ソニー(株)オーディオ事業部 第3ビジネス部門 1部 ACC担当部長 山岸亮氏だ。
■ソニーの“個性派スピーカー”の生みの親に聞く「PFR-V1誕生秘話」
━━PFR-V1は、かなりユニークな製品だと思いますが、開発の経緯をお聞かせください。
山岸氏:これまでに私が担当してきた製品を見ていただくと、なぜ今回PFR-V1が生まれたか、すぐにわかると思います。入社以来、7年ほどヘッドホンを担当してきました。そのころ開発した製品がインナーイヤー型の「MDR-E252」からスタートして「MDR-E484」などを設計しました。いくつかのヘッドホンの開発を経た後に、スピーカーの部門に異動しました。その後スピーカーでは「SRS-N100」、「SRS-T1」、「SRS-T1」、「SRS-GS70」、「SRS-Z1」などに携わりました。
MDR-E484
▲1988年ごろ発売された「MDR-E484」は16mmのドライバーを搭載するなど、当時としては珍しい音質にこだわったインナーイヤータイプのヘッドホンだった。音質の良さからいまだに根強いファンがおり、再生産を望む声も多い。
SRS-N100
▲SRS-N100は、スピーカーから出た音以外の反射は極力排除したいという考えからユニークなデザインになった。スピーカーと固定しているのはゴルフのクラブシャフトだったとか。
SRS-T1
▲コンパクトな本体ながらも低音の鳴りがよかったSRS-T1。後面開放型設計により、キャビネット内部の不要な反射音を防いでいる。山岸氏によると後面開放型設計の思想はPFR-V1に受け継がれているという。
SRS-GS70
▲同じ後面開放型設計ながら、SRS-GS70は本体からの振動をゲームの体感用に使用する。装着している姿もユニークだ。
SRS-Z1
▲スピーカーキャビネットを極力小型化し、フローティングデザインにすることで不要な“箱鳴り”を抑えたSRS-Z1。専用アンプが付属する。
━━ソニーのスピーカーの中でも個性的な製品ばかりに携わって来られたのですね。
山岸氏:ヘッドホンの開発からスタートしたので、キレがよく、細かい音も再現する音質傾向を求めるようになってしまったんですね。そうなると普通のスピーカーの音では重く感じるようになりました。試行錯誤の末、スピーカーを開発するにあたってハウジングの材質や構造に着目するようになりました。私が担当した製品は、一見すると奇抜に見えるかもしれませんが、これらは「スピーカーから出た音がハウジングに悪さをしないよう」に工夫した結果です。スピーカーから出た音は部屋の中で反射して、スピーカーのハウジングを振動させて音を濁らせます。どれも外部からの反射音の影響が受けづらいように、コンパクトに設計しました。
━━ヘッドホンの場合は反射音は関係ないように思うのですが。
山岸氏:そんなことはありません。ヘッドホンにも反射音の問題があります。ヘッドホンは耳をふさぐので、耳内で共振音が発生します。無音の状態でヘッドホンを装着すると、貝に耳をあてたときのような音がかすかに聞こえる場合があります。これが共振音です。ヘッドホンは共振音への対策をしながら設計するのですが、できれば共振音はない方が良いと思います。そのためPFR-V1はヘッドホンのように耳を覆わず、スピーカーとして耳の前に置くことで、共振音対策が不要な設計となっています。スピーカーのハウジングも小さくして、反射音対策をしました。
━━それがヘッドホン型スピーカーを開発された最大の理由なのですね。
山岸氏:「スピーカーを限りなく耳に近づけて置くと良い音がする」という発想は20年以上前からありました。ただ問題だったのは、高性能のスピーカーとなるとそれなりにシステムのサイズが大きくなってしまいまうことです。とくに低音を出そうとすると本体は重くなり、耳の前に置けません。2005年の11月に、ふと解決のヒントがひらめいたのです。パソコン用の卓上スピーカー「SRS-AX10」が目にとまり、これにダクトをつければ低音が出るのでは?と考えたのです。その足で近くの自動販売機に行き、紙パック飲料のストローをSRS-AX10に差し込んで鳴らしてみると、低音が出たのです!そこから開発がスタートしました。
山岸氏:ただSRS-AX10をそのまま使うわけにはいきませんので、まずはスピーカーの材質探しをはじめました。一番の課題は低音の強化でした。ヘッドホンは耳に密着、もしくはハウジングで耳を覆う中で音が鳴るので、低音は逃げずに伝わります。しかし、PFR-V1はスピーカー部分が耳から離れているので、低音が届きづらい。ストローにヒントを得たエクステンデッドバスレフダクトもありますが、やはりドライバーがしっかりしていないといい音にはなりません。そこでスピーカーの材料から見直しました。なかでも感度を良くするために強い磁束が得られるパーメンジュールという合金をふんだんに使いました。これにより、スピーカー部は小さいながらも、幅広いダイナミックレンジを確保できました。
━━パーメンジュールは高価な金属だと聞きますが。
山岸氏:本当は高価なので使うつもりはなかったのですが、やはり鉄などの一般的な材料に比べると、繊細でダイナミックな音になります。そのほかにフレームには液晶ポリマーを使い、コーン紙は長良川の水ですいた素材を使っています。一つ一つの素材を吟味して製品化しました。
━━付属のブースターはどんなときに使うのでしょうか。
山岸氏:これは携帯音楽プレーヤーなどにつないで本機を再生する際に使います。音量が今ひとつ小さいと感じた時に使ってみていただくと良いと思います。このブースターにもこだわりがあり、高音質のコンデンサーを搭載するために、4層基盤を搭載しました。アンプに接続した場合でも、ブースターを使うと音がよくなることが多いようです。
━━PFR-V1について、おすすめの使い方はありますか。
山岸氏:オールマイティな再生をこなすスピーカーですので、何か特定ジャンルの再生に特化しているということはありません。私はPSPに接続して映画を見るのによく使っています。PFR-V1は解像感が高いので、映画を見ると台詞、効果音、BGMのすべてがハッキリと聴こえ、とても臨場感のある音で再生できます。新しい切り口の製品ですから、ユーザーの皆さんに、思いもよらない使い方を見つけてもらえるかもしれません。ぜひ一度、店頭などで試して見てください。きっと新しいリスニングスタイルが見つかると思います。
PFR-V1はかなりエッジの立った製品だ。山岸氏にお会いして、この製品へのこだわりが随所から感じられるインタビューだった。キビキビとした生きの良いサウンドがお好みなら、ぜひ試してみるべきだろう。筆者はかなり物欲をかき立てられてしまった。店頭価格は5万円前後あたりからスタートになりそうなので、この手の商品とすれば割高感はあるかもしれないが、それでも好みに合えば財布のひもはゆるむだろう。
インタビューを終えて、とても気になったことがある。それはPFR-V1に付属する「ブースター」だ。これはプチアンプとも言える代物で、ヘッドホンを使っていて、ボリュームが不足した場合に接続して使う。PSPやiPod、ウォークマンなど、通常のヘッドホンを接続すると音量不足を感じることが多く、とくに音声出力が弱いPSPだと、ドラマを見る場合はフルボリュームなってしまう。
せっかくなので、このブースターを使ってフツーのヘッドホンとPSPや音楽プレーヤーを接続して音質を試して見た。するとどうだろう。ボリュームが大きくなるだけでなく、音の解像感がグッと上がる。中高域の伸びが顕著で、じつに気持ちの良いサウンドになる。それでいて低音はほどよくプラスされる程度なので、音割れなどはない。ウォークマンA800シリーズに付属するインナーイヤータイプのヘッドホンを繋いで試したが、まるで別物とも言える鳴りっぷりだった。残念ながらソニーから携帯用のヘッドホンアンプやブースターは発売されていないが、これだけの実力ならぜひ単体での販売をして欲しい。とはいえ、この手のアクセサリーは、あまり高くては無粋になる。店頭価格で3000円前後なら筆者は迷わず購入する。ぜひ商品化を検討していただきたい。
(レポート:鈴木桂水)
筆者プロフィール
元産業用ロボットメーカーの開発、設計担当を経て、現在はAV機器とパソコン周辺機器を主に扱うフリーライター。テレビ番組表を日夜分析している自称「テレビ番組表アナリスト」でもある。ユーザーの視点と元エンジニアの直感を頼りに、使いこなし系のコラムを得意とする。そのほかAV機器の情報雑誌などで執筆中。
>>鈴木桂水氏のブログはこちら
PFR-V1は耳の直近で鳴らすスピーカーであり、ヘッドホンにような遮音はまったくされていない。もし電車などで使おうものなら、音声がまわりにまる聞こえになってしまう。ではそのメリットはどこにあるのか?耳元で鳴らすことで小さな音でも迫力あるサウンドが楽しめるというのが、本機が提唱するコンセプトなのだ。
PFR-V1はスピーカーユニットを耳の斜め前方に配置して、スピーカーから出た音と、それを反射した音を聴くという構造になっている。小型スピーカーを使うことで、キレのあるサウンドが再生できる。不足した低音は「エクステンデッドバスレフダクト」というパーツを耳の耳珠(じじゅ)と呼ばれる箇所に乗せ、そこから直接低音を外耳道(耳の穴)に送り込む。エクステンデッドバスレフダクトはスピーカーの固定用としても機能している。
パーソナルフィールドスピーカーシステム
▲スピーカーから発した音を耳介(耳全体)に反射させて外耳道(耳の穴)へ送り込む。低音はエクステンデッドバスレフダクトを通って、より鼓膜に近い位地で鳴らす。高・中・低音とバランスよく聞こえるように工夫されている。
■歯切れがよく、驚くほどに解像感の高いサウンド
筆者はこの製品の試作機を試聴したときに、ちょっとした感動を覚えた。実に歯切れがよく、楽器やボーカルなどの解像感が驚くほど高いのだ。たとえばスティービー・ワンダーの「Superstition(迷信)」を聴くと、出だしのドラムではスタジオの空間を感じ、そしてスティービーが演奏するクラヴィネットが入ってくると、音の震えまで目に浮かぶように、くっきりとした音像が伝わってくる。そして伸びやかなヴォーカルにホーンセクションが被さり、合奏になっても個々の音色には輪郭を感じるのだ。
音のアタック感も強烈だ。グリークのピアノコンチェルトの出だしは、突き刺さるように力強く立ち上がるが、小さな音は消えることなく、また、それでいて迫力のあるピアノの音は少しも割れない。高音、中音の見事な鳴りっぷりに比べれば、低音のインパクトは弱いが、比類ない解像感にひれ伏してしまった。
使用時の装着スタイルには賛否があるだろうが、ヘッドホンのように耳を覆わない、開放的な装着感もいい。エクステンデッドバスレフダクトを耳珠に乗せるようにして固定するので、つけはじめはくすぐったいような感じがするが、慣れれば気にならなくなる。長時間使用しても、耳は汗をかかず、その音と同じようにからっとした装着感なのがありがたい。
このPFR-V1は使うほどにユニークさが際だってくる製品だ。今回は本機の開発者担当者のお話をインタビューによりうかがった。対応していただいたのは、ソニー(株)オーディオ事業部 第3ビジネス部門 1部 ACC担当部長 山岸亮氏だ。
■ソニーの“個性派スピーカー”の生みの親に聞く「PFR-V1誕生秘話」
━━PFR-V1は、かなりユニークな製品だと思いますが、開発の経緯をお聞かせください。
山岸氏:これまでに私が担当してきた製品を見ていただくと、なぜ今回PFR-V1が生まれたか、すぐにわかると思います。入社以来、7年ほどヘッドホンを担当してきました。そのころ開発した製品がインナーイヤー型の「MDR-E252」からスタートして「MDR-E484」などを設計しました。いくつかのヘッドホンの開発を経た後に、スピーカーの部門に異動しました。その後スピーカーでは「SRS-N100」、「SRS-T1」、「SRS-T1」、「SRS-GS70」、「SRS-Z1」などに携わりました。
MDR-E484
▲1988年ごろ発売された「MDR-E484」は16mmのドライバーを搭載するなど、当時としては珍しい音質にこだわったインナーイヤータイプのヘッドホンだった。音質の良さからいまだに根強いファンがおり、再生産を望む声も多い。
SRS-N100
▲SRS-N100は、スピーカーから出た音以外の反射は極力排除したいという考えからユニークなデザインになった。スピーカーと固定しているのはゴルフのクラブシャフトだったとか。
SRS-T1
▲コンパクトな本体ながらも低音の鳴りがよかったSRS-T1。後面開放型設計により、キャビネット内部の不要な反射音を防いでいる。山岸氏によると後面開放型設計の思想はPFR-V1に受け継がれているという。
SRS-GS70
▲同じ後面開放型設計ながら、SRS-GS70は本体からの振動をゲームの体感用に使用する。装着している姿もユニークだ。
SRS-Z1
▲スピーカーキャビネットを極力小型化し、フローティングデザインにすることで不要な“箱鳴り”を抑えたSRS-Z1。専用アンプが付属する。
━━ソニーのスピーカーの中でも個性的な製品ばかりに携わって来られたのですね。
山岸氏:ヘッドホンの開発からスタートしたので、キレがよく、細かい音も再現する音質傾向を求めるようになってしまったんですね。そうなると普通のスピーカーの音では重く感じるようになりました。試行錯誤の末、スピーカーを開発するにあたってハウジングの材質や構造に着目するようになりました。私が担当した製品は、一見すると奇抜に見えるかもしれませんが、これらは「スピーカーから出た音がハウジングに悪さをしないよう」に工夫した結果です。スピーカーから出た音は部屋の中で反射して、スピーカーのハウジングを振動させて音を濁らせます。どれも外部からの反射音の影響が受けづらいように、コンパクトに設計しました。
━━ヘッドホンの場合は反射音は関係ないように思うのですが。
山岸氏:そんなことはありません。ヘッドホンにも反射音の問題があります。ヘッドホンは耳をふさぐので、耳内で共振音が発生します。無音の状態でヘッドホンを装着すると、貝に耳をあてたときのような音がかすかに聞こえる場合があります。これが共振音です。ヘッドホンは共振音への対策をしながら設計するのですが、できれば共振音はない方が良いと思います。そのためPFR-V1はヘッドホンのように耳を覆わず、スピーカーとして耳の前に置くことで、共振音対策が不要な設計となっています。スピーカーのハウジングも小さくして、反射音対策をしました。
━━それがヘッドホン型スピーカーを開発された最大の理由なのですね。
山岸氏:「スピーカーを限りなく耳に近づけて置くと良い音がする」という発想は20年以上前からありました。ただ問題だったのは、高性能のスピーカーとなるとそれなりにシステムのサイズが大きくなってしまいまうことです。とくに低音を出そうとすると本体は重くなり、耳の前に置けません。2005年の11月に、ふと解決のヒントがひらめいたのです。パソコン用の卓上スピーカー「SRS-AX10」が目にとまり、これにダクトをつければ低音が出るのでは?と考えたのです。その足で近くの自動販売機に行き、紙パック飲料のストローをSRS-AX10に差し込んで鳴らしてみると、低音が出たのです!そこから開発がスタートしました。
山岸氏:ただSRS-AX10をそのまま使うわけにはいきませんので、まずはスピーカーの材質探しをはじめました。一番の課題は低音の強化でした。ヘッドホンは耳に密着、もしくはハウジングで耳を覆う中で音が鳴るので、低音は逃げずに伝わります。しかし、PFR-V1はスピーカー部分が耳から離れているので、低音が届きづらい。ストローにヒントを得たエクステンデッドバスレフダクトもありますが、やはりドライバーがしっかりしていないといい音にはなりません。そこでスピーカーの材料から見直しました。なかでも感度を良くするために強い磁束が得られるパーメンジュールという合金をふんだんに使いました。これにより、スピーカー部は小さいながらも、幅広いダイナミックレンジを確保できました。
━━パーメンジュールは高価な金属だと聞きますが。
山岸氏:本当は高価なので使うつもりはなかったのですが、やはり鉄などの一般的な材料に比べると、繊細でダイナミックな音になります。そのほかにフレームには液晶ポリマーを使い、コーン紙は長良川の水ですいた素材を使っています。一つ一つの素材を吟味して製品化しました。
━━付属のブースターはどんなときに使うのでしょうか。
山岸氏:これは携帯音楽プレーヤーなどにつないで本機を再生する際に使います。音量が今ひとつ小さいと感じた時に使ってみていただくと良いと思います。このブースターにもこだわりがあり、高音質のコンデンサーを搭載するために、4層基盤を搭載しました。アンプに接続した場合でも、ブースターを使うと音がよくなることが多いようです。
━━PFR-V1について、おすすめの使い方はありますか。
山岸氏:オールマイティな再生をこなすスピーカーですので、何か特定ジャンルの再生に特化しているということはありません。私はPSPに接続して映画を見るのによく使っています。PFR-V1は解像感が高いので、映画を見ると台詞、効果音、BGMのすべてがハッキリと聴こえ、とても臨場感のある音で再生できます。新しい切り口の製品ですから、ユーザーの皆さんに、思いもよらない使い方を見つけてもらえるかもしれません。ぜひ一度、店頭などで試して見てください。きっと新しいリスニングスタイルが見つかると思います。
PFR-V1はかなりエッジの立った製品だ。山岸氏にお会いして、この製品へのこだわりが随所から感じられるインタビューだった。キビキビとした生きの良いサウンドがお好みなら、ぜひ試してみるべきだろう。筆者はかなり物欲をかき立てられてしまった。店頭価格は5万円前後あたりからスタートになりそうなので、この手の商品とすれば割高感はあるかもしれないが、それでも好みに合えば財布のひもはゆるむだろう。
インタビューを終えて、とても気になったことがある。それはPFR-V1に付属する「ブースター」だ。これはプチアンプとも言える代物で、ヘッドホンを使っていて、ボリュームが不足した場合に接続して使う。PSPやiPod、ウォークマンなど、通常のヘッドホンを接続すると音量不足を感じることが多く、とくに音声出力が弱いPSPだと、ドラマを見る場合はフルボリュームなってしまう。
せっかくなので、このブースターを使ってフツーのヘッドホンとPSPや音楽プレーヤーを接続して音質を試して見た。するとどうだろう。ボリュームが大きくなるだけでなく、音の解像感がグッと上がる。中高域の伸びが顕著で、じつに気持ちの良いサウンドになる。それでいて低音はほどよくプラスされる程度なので、音割れなどはない。ウォークマンA800シリーズに付属するインナーイヤータイプのヘッドホンを繋いで試したが、まるで別物とも言える鳴りっぷりだった。残念ながらソニーから携帯用のヘッドホンアンプやブースターは発売されていないが、これだけの実力ならぜひ単体での販売をして欲しい。とはいえ、この手のアクセサリーは、あまり高くては無粋になる。店頭価格で3000円前後なら筆者は迷わず購入する。ぜひ商品化を検討していただきたい。
(レポート:鈴木桂水)
筆者プロフィール
元産業用ロボットメーカーの開発、設計担当を経て、現在はAV機器とパソコン周辺機器を主に扱うフリーライター。テレビ番組表を日夜分析している自称「テレビ番組表アナリスト」でもある。ユーザーの視点と元エンジニアの直感を頼りに、使いこなし系のコラムを得意とする。そのほかAV機器の情報雑誌などで執筆中。
>>鈴木桂水氏のブログはこちら
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