折原一也のCES2009レポート
次なる流れは「3D」へ − パナソニック/ドルビーの3D方式のメリットとデメリット
●パナソニック方式は3D向けにフルHD映像を2ch収録して再生
パナソニックとドルビーは、3Dの映像をどのように民生のBDへと持ち込もうとしているのだろうか。
パナソニックの考え方は、右と左で撮影する映像をそのままの形でディスクに収録して再生する「フルHD×2ch フレームシーケンシャル方式」による再生方法だ。
3Dの映像と言っても、その中身は右目用、左目用の1,920×1,080のフルHD映像が別々に存在しているものと考えて良い。これを前提として、BDのディスクにフルHD映像を2ストリーム収録する方法を開発して、BDプレーヤーにも2ストリームの映像を3D用に同時出力する機能を実装。これを3D技術向けに拡張を施したHDMI端子を通してテレビに伝送し、フレームシーケンシャル表示による3D対応のテレビで出力する。つまり、BD規格、BDプレーヤー、HDMI規格の3つに新規格を要求するのがパナソニックの方式だ(テレビは当然のことながら規格には含まれないが、規格に対応したものが新たに必要となる)。
パナソニック方式のメリットは、3Dの右目用、左目用のフルHD映像をそのまま収録して再生する、劇場と同じ手法を取ることにある。これは次に紹介するドルビー方式と比較した上でのメリットとなり、フルHD映像を劣化なく収録できるので画質に優れる。
パナソニック方式のデメリットは、BD規格、BDプレーヤー、HDMI規格、テレビのすべてに新しいものを要求することにある。BD規格は当然としても、現行のBDプレーヤーを使用できないのは残念に感じるかもしれない。ただし、パナソニックのデモは再生のみであれば現行機の改造(PinPの機能のためBDプレーヤーは2ストリーム処理機能をもともと持っている)でも対応できる範囲で、大きなステップアップを求めるものではない。また、HDMI規格は2009 International CES ですでに3D拡張を発表している。
つまり、規格の拡張とBDプレーヤーの買い換えは必要なものの、今年中に行えるような比較的小さなステップアップで最高の画質を追求する方式が、パナソニック方式だ。
●ドルビー方式は3D向け映像を合成して現行BDプレーヤーで再生
好対照の考え方を示したのが、ドルビーによる3D方式だ。
まず、ドルビーの3D規格と聞くと、劇場に導入されているものをイメージするかもしれないが、民生と劇場は基本的に別のものと考えてほしい。
3D映像の表示には、先に説明した通り右目用/左目用の映像を別々に用意する必要がある。ドルビーの方式では、左目用/右目用のコマを合成して1コマとして、市松模様のように上下左右交互(チェッカーボード方式)で1ストリームで収録しておく。同社では、この合成とエンコードにドルビーの技術を用いることで、効率的に行うことができると説明している。そして再生には現行のBDプレーヤーをそのまま使用し、HDMI規格も現行のものを使用する。ただしテレビにはドルビーの方式に対応したものが必要になる。
ドルビー方式のメリットは、BD規格、BDプレーヤー、HDMI規格に全く手を加えないことにある。このため、BDへの規格化を待たなくても、テレビさえ対応すれば再生が行える。実際に同社は、現行のBDプレーヤーに三菱のDLPリアプロジェクションテレビ、ヒュンダイのLCD液晶モニタを組み合わせてデモを実施していた。
ドルビー方式のデメリットは、画質の劣化にある。元のフルHDの映像から1コマに合成するため、単純に考えると画素数は半分になる(ドルビーによると視覚上の特性で画素数が半分になっても7割程度の画質は実現できるとしている)。
つまり、画質は劣化するものの、テレビ以外はすべて現行の規格に準拠することで既にBDプレーヤーを購入した人も買い換えずに使える方式がドルビー方式ということになる。
こうしてそれぞれの特徴を挙げてみると、両者の主張の違いが分かるだろう。パナソニックによる、最高の画質を前提として規格化を進める考えは、クオリティ面では理想の方式だ。しかし、2Dの数%に過ぎない3D作品のためにBDプレーヤーの買い換えが必要というのは、消費者にとって負担が大きい。現行プレーヤーとの互換性を重視するドルビーの考え方を現実的と支持する意見もあるだろう。また、パナソニック、ドルビー方式のいずれもテレビの買い換えは必要となるため、どうせ買い換えるなら良いものを、という考え方もあるはずだ。
パナソニックによると、BDへの規格化を2009年中には完了し、2010年よりBDでのビジネスを始めたいとしている。日本は2011年に地デジ移行を控えているだけに、それまでに買い換えを行うユーザーも多いだろう。これら対応テレビの登場も合わせて、2009年は3D対応が大きなトレンドとなっていくことだろう。