ソニー主任技師・角田直隆氏にインタビュー
ケースイが迫る!インナーイヤー型デジタルNCヘッドホン新製品「MDR-NC300D」の魅力
飛行機や電車などの雑音を軽減して音楽をクリアに楽しめるノイズキャンセリングヘッドホン(以下、NCヘッドホン)に、ソニーから注目の新製品が登場した。製品群は3種類。インナーイヤー型NCヘッドホンの「MDR-NC300D」と「MDR-NC33」、そしてオーバーヘッド型の「MDR-NC600D」だ。
中でも注目したい製品は、インナーイヤー型として初のデジタルNC機能を搭載した「MDR-NC300D」だ。アナログタイプのNCヘッドホンは、電気回路により雑音をカットする方式を採用しており、比較的低コストで製品化できるが、繊細なノイズ除去ができなかった。ソニーでは、昨年4月に発売したオーバーヘッド型のNCヘッドホン「MDR-NC500D」にてデジタル方式のノイズキャンセリングを実現した。筆者も本機を愛用しているが、アナログタイプのNCヘッドホンとは比べものにならない静寂感と高音質再生が実感できるモデルだ。
MDR-NC300Dではこれまで困難とされたインナーイヤー型でのデジタルノイズキャンセリング搭載を実現した。オーバーヘッド型の安定感の高い装着感も魅力的だが、一方でコンパクトながら最大限のNC機能を備えたというMDR-NC300Dの登場は、旅行の際に荷物を減らして快適な移動時間を過ごしたいというヘッドホンファンにとって新たな福音となりそうだ。今回は、話題のMDR-NC300Dがどのように開発されたのか、製品の魅力を含めてソニーの製品開発者である、コンスーマープロダクツ&デバイスグループ オーディオ・ビデオ事業本部 パーソナルエンタテインメント事業部1部 主任技師の角田直隆氏にお話しをうかがった。
角田氏は小型プレミアムヘッドホンの走りとなった“QUALIA”「MDR-EXQ1」、スタジオモニター系の「MDR-Z900HD」、ハイファイ系の「MDR-SA5000」など、ソニーにおいて名機と呼ばれてきたヘッドホンの開発を担当してきた人物だ。高級・高額モデルだけでなく、携帯性と音質の良さを両立した「MDR-D777SL」、クラブサウンドの重低音を見事に再現した「MDR-XB700」など、手頃な価格ながらも高音質を実現したヒットモデルも担当されている。NCヘッドホンは「MDR-NC500D」の開発に係わって来られたという角田氏だが、角田氏が手がけたヘッドホンはいずれも細かな音像表現の再現力に優れている点が特徴と筆者は感じている。また製品ごとのコンセプトに沿った、キャラクター感の豊かな音響を実現しているところも魅力のひとつだ。
まずは角田氏に新製品「MDR-NC300D」の開発経緯からうかがった。
角田氏:実はインナーイヤー型のデジタルNCヘッドホンの開発については2006年頃から既に着手しており、「MDR-NC300D」の商品化については、2008年に発売したオーバーヘッド型の「MDR-NC500D」とほぼ同時期にスタートしています。デジタルNCヘッドホンを製品化するには、主に二つの基幹技術の開発が必要でした。高性能のドライバーユニットと、ノイズキャンセリングを行うDNC(デジタル・ノイズ・キャンセリング)プロセッサです。これに加えてノイズのキャンセル量を制御するソフトウェアを開発してきました。マイク一体型のドライバーユニットなどが開発できたことで、先にオーバーヘッドバンド型のMDR-NC500Dの商品化が実現しました。
NCヘッドホンは外部から入ってきた音をマイクで拾い、音楽情報に含まれない音声(ノイズ)に対して逆位相の音を生成して、雑音を打ち消している。デジタルNCヘッドホンはデジタル処理によりノイズを解析するので、処理に時間がかかるが、この処理が遅いとノイズを打ち消せない。そのため高速処理が可能なDNC回路と、緻密なNC信号に対応した高性能ドライバーが必要になる。
角田氏:インナーイヤー型はオーバーヘッド型に比べてサイズが小さいので、MDR-NC500Dと同じパーツは使えません。たとえばMDR-NC500Dでは汎用のDNC回路を搭載していますが、これではインナーイヤー型の本体に収まりきりません。また消費電力も低く抑える必要があります。MDR-NC300Dでは、新たに「インテグレーテッドDNCプロセッサ」を開発したことにより、小型化と省電力化を実現しました。
新開発インテグレーテッドDNCプロセッサの図解。高精度の「DNCソフトウェアエンジン」とフルオートAI・NC機能のメインとなる「AIノイズアナライザ」、高音質を実現する「S-Master」フルデジタルアンプなどを1枚のチップに集積し、コントロールボックスの小型化を可能にしている。
インテグレーテッドDNCプロセッサにはソニーのオーディオ部門が誇るフルデジタルアンプ「S-Master」までが内蔵されている。それでは、ドライバー部分についての工夫はどのようなものなのだろうか。
角田氏:より高いノイズキャンセリング効果を求めるには、ノイズを打ち消すために大きな音が出せるドライバーが必要です。ハイファイ系のヘッドホンに比べて、とくに低域の感度が重要になります。今回はインナーイヤー用としては大型の16mm口径ドライバーユニットを搭載し、十分なノイズキャンセリング性能を持たせました。ただ低域の感度を上げるだけでは、ブーミーな(こもるような)サウンドになってしまうので、今回はそこをデジタルイコライザーで調整しています。
中でも注目したい製品は、インナーイヤー型として初のデジタルNC機能を搭載した「MDR-NC300D」だ。アナログタイプのNCヘッドホンは、電気回路により雑音をカットする方式を採用しており、比較的低コストで製品化できるが、繊細なノイズ除去ができなかった。ソニーでは、昨年4月に発売したオーバーヘッド型のNCヘッドホン「MDR-NC500D」にてデジタル方式のノイズキャンセリングを実現した。筆者も本機を愛用しているが、アナログタイプのNCヘッドホンとは比べものにならない静寂感と高音質再生が実感できるモデルだ。
MDR-NC300Dではこれまで困難とされたインナーイヤー型でのデジタルノイズキャンセリング搭載を実現した。オーバーヘッド型の安定感の高い装着感も魅力的だが、一方でコンパクトながら最大限のNC機能を備えたというMDR-NC300Dの登場は、旅行の際に荷物を減らして快適な移動時間を過ごしたいというヘッドホンファンにとって新たな福音となりそうだ。今回は、話題のMDR-NC300Dがどのように開発されたのか、製品の魅力を含めてソニーの製品開発者である、コンスーマープロダクツ&デバイスグループ オーディオ・ビデオ事業本部 パーソナルエンタテインメント事業部1部 主任技師の角田直隆氏にお話しをうかがった。
まずは角田氏に新製品「MDR-NC300D」の開発経緯からうかがった。
角田氏:実はインナーイヤー型のデジタルNCヘッドホンの開発については2006年頃から既に着手しており、「MDR-NC300D」の商品化については、2008年に発売したオーバーヘッド型の「MDR-NC500D」とほぼ同時期にスタートしています。デジタルNCヘッドホンを製品化するには、主に二つの基幹技術の開発が必要でした。高性能のドライバーユニットと、ノイズキャンセリングを行うDNC(デジタル・ノイズ・キャンセリング)プロセッサです。これに加えてノイズのキャンセル量を制御するソフトウェアを開発してきました。マイク一体型のドライバーユニットなどが開発できたことで、先にオーバーヘッドバンド型のMDR-NC500Dの商品化が実現しました。
NCヘッドホンは外部から入ってきた音をマイクで拾い、音楽情報に含まれない音声(ノイズ)に対して逆位相の音を生成して、雑音を打ち消している。デジタルNCヘッドホンはデジタル処理によりノイズを解析するので、処理に時間がかかるが、この処理が遅いとノイズを打ち消せない。そのため高速処理が可能なDNC回路と、緻密なNC信号に対応した高性能ドライバーが必要になる。
角田氏:インナーイヤー型はオーバーヘッド型に比べてサイズが小さいので、MDR-NC500Dと同じパーツは使えません。たとえばMDR-NC500Dでは汎用のDNC回路を搭載していますが、これではインナーイヤー型の本体に収まりきりません。また消費電力も低く抑える必要があります。MDR-NC300Dでは、新たに「インテグレーテッドDNCプロセッサ」を開発したことにより、小型化と省電力化を実現しました。
新開発インテグレーテッドDNCプロセッサの図解。高精度の「DNCソフトウェアエンジン」とフルオートAI・NC機能のメインとなる「AIノイズアナライザ」、高音質を実現する「S-Master」フルデジタルアンプなどを1枚のチップに集積し、コントロールボックスの小型化を可能にしている。
インテグレーテッドDNCプロセッサにはソニーのオーディオ部門が誇るフルデジタルアンプ「S-Master」までが内蔵されている。それでは、ドライバー部分についての工夫はどのようなものなのだろうか。
角田氏:より高いノイズキャンセリング効果を求めるには、ノイズを打ち消すために大きな音が出せるドライバーが必要です。ハイファイ系のヘッドホンに比べて、とくに低域の感度が重要になります。今回はインナーイヤー用としては大型の16mm口径ドライバーユニットを搭載し、十分なノイズキャンセリング性能を持たせました。ただ低域の感度を上げるだけでは、ブーミーな(こもるような)サウンドになってしまうので、今回はそこをデジタルイコライザーで調整しています。