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[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域

【第78回】オーディオファンのための“コンプ”基礎知識 − 名曲で実例解説つき!

公開日 2014/03/07 14:42 高橋敦
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Bill Evans Trio「Waltz For Debby (Take 2)」(アルバム「Waltz For Debby [SHM-CD, DSD Remastered]」収録)
ジャズの名盤でありオーディオの定番、ビル・エヴァンス・トリオの「Waltz For Debby」のグラフ。音の大小が豊かに収められており、静かなタッチの部分と瞬間的な最大音量のピークとの落差の大きさは目で見てもわかる。オーディオチェックに多用されるのも納得のダイナミクスレンジ。少なくともレコーディング〜当時のマスタリングでのコンプは最小限だろう。


上原ひろみ「11:49 PM」(アルバム「MOVE」収録)
上原ひろみさんのこちらもピアノ・トリオ作品。曲展開と演奏の起伏の大きさがグラフにも現れている。瞬間的なダイナミクスはもちろん、曲の大きな展開の中でのダイナミクスが適度に確保されていることもわかるだろう。現代的な音調の録音であるので、コンプは各楽器に対してもトータルコンプとしても随時使われているものと思われるが、不自然・不適当なコンプ感はない。全体の収まりの良さ等にはコンプの適切な活用を感じられる。


Red Hot Chili Peppers「By The Way」(アルバム「By The Way」収録)
レッチリの代表曲のひとつ。「これぞロックのコンプ!」というサウンドで、全ての楽器、全てのパーツが前へ前へと押し出されてきている。こういった迫力を出すには録音の各段階でのコンプの活用は必須と思われ、全体的に強めにコンプされていることも想像できる。しかし瞬間を拡大して見ると完全に潰し切っているわけではないし、実際に聴いても演奏のニュアンスは生かされている。ロックのマナーを踏まえた音作りと言えるだろう。


NIrvana「Serve the Servants」(アルバム「In Utero」収録)
ニルヴァーナのこちらは終止暴れ続ける曲であるのでグラフも大枠としては平板だし、コンプもしっかりかけられている印象だ。しかし部分を拡大すると余白が十分に残されており、ダイナミクスレンジも確保されていることを確認できる。実際に聴いていてもその余白というか余裕の存在を感じることができ、そのことがこの音源をむしろよりラウドなものとしている印象だ。例えばドラムスの響きが過度に詰まっておらず響きを感じられるあたりなどが好感触。ロック的なコンプ感と普遍的なダイナミクスレンジとの兼ね合いが巧い録音と思える。


My Bloody Valentine「Only Shallow」(アルバム「Loveless [remastered from original tape (DAT)]」収録)
シューゲイザーの名盤の2012年のリマスタリング盤から。基本的には終止ディストーションギターの洪水。しかしダイナミクスレンジを潰さずに天井に余裕を持たせた処理になっており、曲の部分ごとの微妙な抑揚も生かされている。ケヴィン・シールズ氏はこのリマスタリングについては音量音圧を稼ぐような方向にはしていない旨をコメントしているが、それをグラフでも確認できる。


椎名林檎「本能」(アルバム「勝訴ストリップ」収録)
椎名林檎さんの「本能」は、意図的に極度に過度に潰して極度に過度に歪ませた録音の代表と言えるだろう。もはやコンプがどうこうというレベルではなくアレンジから演奏からあらゆる面から徹底的に塗り潰された曲であり、そのようなグラフとなっている。ここまで来ると「いやいくらなんでもこれは…」と思う方も多いだろう。やり過ぎであることは僕も否定できないが、個人的にはそのやり過ぎ感こそ「だがそれがいい!」とも思う。

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