<山本敦のAV進化論 第44回>インタビュー&ファーストインプ
【速攻レビュー】ソニーの「高音質microSDカード」は本当に高音質なのか?
まずは一般的なmicroSDメモリーカードの場合、プレーヤーがデータを読み出す際に電子部品が動いて、フラッシュメモリーからコントローラーに電荷変動が起こり、微弱な電気ノイズが発生する。これが再生機の部品や回路に伝わってしまうことで音質が劣化してしまう。ソニーの「SR-64HXA」では、音質に影響を及ぼすことが想定される内部要素にメスを入れて電気ノイズを低減し、プレーヤーへの影響を極力減らすことで、音質向上に結びつく効果を得たという。後藤氏は「フラッシュメモリーやコントローラーにも様々な種類の部品があって、それらを組み合わせてどう動かすかによっても音質が変わってくることがわかりました」と説明する。
一般的にSDメモリーカードはデータ読み取り時の転送速度が速いほど高品質であるとされているが、ソニーは今回、読み取り時の信号を安定化させることを優先した。後藤氏はその理由をこう語る。「読み取りスピードが速くなるほど不要な信号が発生したり、無駄なエネルギーを消費します。本来はハイスピードが出せる部材を、あえてスピードを落として使うことで、その余力を信号供給の安定化に振ることが可能になります」。
信号の伝送が安定することで、プレーヤーの部品や回路に悪影響を及ぼすノイズも低減する。単純に1/0のデータを読み取るだけなら問題はないが、オーディオ再生の場合は音質にダメージを与えるノイズを回避するため、これが大きなプラスの効果につながる。なお、新製品「SR-64HXA」のスピードクラスは、読み書き時のデータ転送速度が最低10MB/秒を達成した「Class 10」対応だ。後藤氏はXperia Z3での4K動画撮影も問題なくできることをテストで確認できたと、基本的なスピード性能が劣っていないことを強調する。
SDメモリーカードの高音質化を実現するためには内部部品の選定が重要だというわけだが、具体的にはどの箇所にどんな部品を使っているのだろうか。残念ながらその詳細は企業秘密と後藤氏は答える。SDカードの構成部品はもともとシンプルで点数が少ないので、製品のノウハウに直結する部分だからであるというのがその理由だ。確かに、音質の向上につながるパーツが特定されたら、他社が後追いで「音質をチューニングしたSDメモリーカード」を作りやすくなってしまう。
部品を選定しながら、音質を追い込んでいく過程は、ソニーのサウンド事業部のエンジニアたちとの共同作業だったと後藤氏は振り返る。「音質のチューニングは、部材を変更しながら耳で音を確かめていくカットアンドエラーの繰り返しでした。理論と結果が100%結びつく作業ではなかったので、頼りになるのは周波数解析のデータではなく、むしろサウンド事業部のエンジニアたちの“耳”を信頼して、最終的な音質を決定しました」。
ウォークマンの場合、内蔵メモリーとSDメモリーカードスロットで音楽再生のクオリティに差は表れるのだろうか。後藤氏は「従来であれば内蔵メモリーの方がノイズが低く、クオリティは上ではないか」としながら、次のように説明を続ける。
「でもそれは、従来のSDメモリーカードが音質に対してケアしていなかったからです。内蔵メモリーのレベルを仮に“100点”とした場合、今までのSDカードは“60〜80点”程度だったと思います。当社の新製品では“98点”ぐらいにまで肉迫できた自負があります。ここまで迫ることができれば、あとはその優劣を論じるよりも、それぞれの音の傾向が楽しめるレベルに到達しているはずです」。
一般的なSDメモリーカードの場合、同じ型名の製品であっても、製造時期などにより内部に使われている部品にバラツキがあることも多い。データの速度や容量さえ確保ができれば、通常のデータの読み書きには支障を来すことがないのだが、新製品「SR-64HXA」の場合は“ソニーが推奨する高音質”がどの製品においても保証されていて、ユーザーが安心して使うことができることが最大の価値である。
■実際に聴いてみた ‐ 音質の違いは明快
今回はソニーのSDメモリーカードスロットを搭載する“ウォークマン”「NW-ZX2」と「NW-A16」で、microSDメモリーカードの高音質モデル「SR-64HXA」と、一般のmicroSDカードによる音質の聴き比べを行った。