【特別企画】低遅延の「aptX LL」にも注目
実験で検証! Bluetoothコーデック「aptX」はなぜ高音質で低遅延なのか?
■aptX対応デバイスは10億台以上
現在aptXを採用するライセンシーは約300を数え、約150のソースデバイス(送信機)と350以上のシンクデバイス(受信機)が登場している。さらにAndroid4.0以降のスマートフォンの75%がaptXに対応しており、その数は約6億台、全世界のaptX対応デバイスの合計は約10億台にも上るという。
筆者がBluetoothにおけるaptXに初めて触れたのは採用第一号となるゼンハイザーPX210BT+BTD300iであった。それまでBluetoothのワイヤレス伝送は利便性が高い半面、ナローで粗いディティール表現しかできない、どちらかといえば低音質な手法であるという認識を持っていたが、PX210BT+BTD300iで味わうaptXのBluetoothサウンドは有線接続のクオリティに非常に近く、これならワイヤレスでも十分音楽を楽しめると感じたのである。この体験が根底にあるため、今でもBluetooth機器はaptX対応であるかどうか、まず確認してしまうほどだ(特にBTD300はLightning対応版としてリニューアルしてほしいくらいである)。
■聴覚心理を使った情報削除を行わないのがaptXの特徴
では具体的にaptXの技術的な特徴、SBCやAACとの違いについても述べていこう。
aptXでは、他の圧縮方式などで用いられる、聴覚心理を利用したポスト・プロセッシング・アルゴリズムを用いない独自のアルゴリズムを採用し、全音声帯域幅をコーディングすることができる。
SBCではデータ転送量を調整するBit Pool値が32〜52までの幅があり、この中で最小のデータ転送量となるBit Pool値=32と設定している機器が現在でも多数存在しているという。この場合、サウンドに対しての影響が大きく、高域の伸びがないこもった音色となり、S/N値や全高調波歪み値も低い、音の粗い聴き疲れしやすいものとなってしまうのだ。
人間の耳の特性上、ある一つの周波数で大きな音が鳴っているとき、その周辺の周波数にある弱い音はマスキングされて聴き取りにくくなるのだが、SBCやAACはこの特性を利用し、マスキングされている周波数の情報を削除してデータ量を軽くしている。この点に関しても音質に対して影響を及ぼしているのだが、aptXはこうしたデータ削除を行うことなくコーディングできる技術なのである。
さらにコーデックによって大きな差が出るものが、遅延(レイテンシー)である。SBCではSBCフレームにデータを分割し、Bluetoothパケットに収めるが、このパケットが満たされるまでデコードは行わない。そして“SBCフレーム”が二つのBluetoothパケットにまたがることもあり、そのフレームの分割・再構成に対しても時間がかかってしまう。
これに対しaptXでは“aptXワード”という小さいデータに分割し伝送を行い、デコードもデータ受信の段階から順次行われる。各コーデックに実際どの程度の遅延が発生するかというと、aptXで70ms(±10ms)という値に対し、AAC VBR(256kbps)で800ms(±200ms)、SBCで220ms(±50ms)、AAC(128kbps)で120ms(±30ms)の遅延が起こる。
余談だが、ミリ秒単位の遅れといわれてもパッと理解しにくいという方に具体例をお伝えすると、TV放送でCMに入る瞬間、必ず15フレーム=500ms(0.5秒)の無音が入るので、参考にしてみてほしい(15フレームの無音はフィルム時代の名残で、映写機の音声読み取りランプが映写用ランプとずれていることに起因)。つまりSBCでは、このCM入り無音部の半分くらい音声が遅れるということだ。
加えてaptXでは、さらに低遅延なaptX LL(Low Latency)も実用化されており、リズムやタイミングを揃えて操作することが求められるゲームの世界やアニメをはじめとするリップシンク(口元の動きと声の同期)が必要とされる映像作品を楽しむ製品に向け提供を始めている。aptX LLでは遅延を40ms未満に抑えている。
次ページではaptXの音質と低遅延性能について、実験によって迫っていこう。