【特別企画】VGP2015SUMMER「金賞」受賞
パイオニアの超弩級ヘッドホン「SE-MASTER1」を聴く。人気のアンプ4機種と組み合わせ試聴
各社のヘッドホンアンプと組み合わせテスト
SE-MASTER1は各モデルの個性を引き出してくれる
SE-MASTER1は、組み合わせるヘッドホンアンプの性能や音調の差を引き出す能力が高いことも特筆しておきたい。すでに紹介した通り、U-05との組み合わせでは本機の特徴が鮮明に浮かび上がってきたが、他のアンプではどうだろうか。最後に、他のアンプで鳴らした時の再生音、そしてバランス接続時のパフォーマンスを紹介しておこう。なお、今回はUSB-DAC内蔵モデルからヘッドホンアンプ単体モデルまで、価格についても10万円台から50万円超まで幅広く用意。各ヘッドホンアンプがSE-MASTER1をいかに鳴らしているかということに着目した。
他のアンプに切り替える前に、専用ケーブルを用いてU-05のバランス接続の音を聴いた。ムジカ・ヌーダのデュエットやエミリー・バーカーのボーカルなど、シンプルな編成の曲ではエネルギーバランスの変化はそれほど大きくない。それよりも余韻の広がり具合やアコースティック楽器の響きなど、微妙だが本質的な情報はバランス接続の方が豊かに感じた。ボーカルとベースそれぞれの音像の見え方も鮮明だし、ギターと弦楽器のセパレーションも一段と向上する。
次にOPPOの「HA-1」をつなぐ。ゲイン「LOW」ではボリューム位置はU-05よりもやや高めになるものの、音圧感に不足はなく、特にオルガンの足鍵盤など超低域にも十分なエネルギーが乗っている。低域の解像度ではU-05に一歩譲るものの、量感では勝っている印象を受けた。自作した変換ケーブルを用いて試したバランス接続は、空間情報に余裕が生まれるが、基本的な音調に大きな変化はない。
CHORDの「Hugo TT」はアンバランス接続で聴く。この組み合わせで最も感心したのは、ネトレプコが歌うヴェルディのアリアの並外れた起伏の大きさだ。中域から高域にかけて声が本来の潤いを取り戻し、高音のフォルテがか細くなることもない。特に女声の密度の高さはSE-MASTER1の優れた資質の一つだが、Hugo TTはそれを余すところなく引き出す力を持っている。ベースとピアノの低音に緩みがなく、タイトなリズムを刻むことにも注目したい。特に低音についてはSE-MASTER1とHugo TTの音の傾向がピタリと一致しているように思う。
最後に「U-05」をUSB-DACとして用いて、ラックスマンのヘッドホンアンプ「P-700u」でSE-MASTER1を駆動した。単体ヘッドホンアンプで28万円という価格を考えればある意味で当然かもしれないが、この組み合わせは、今回聴いた中では音の密度が一番高く、立ち上がりの力強さも次元の異なるものとなる。SE-MASTER1の音は余分な付帯音がないことが特徴だが、駆動力に余裕のあるアンプを組み合わせると、一音一音のアタックが本来のスピードと勢いを獲得し、実にリアリティの高い音を再現する。その効果はベースからパーカッション、ピアノまで、すべての音域に及ぶので、演奏全体の推進力や楽器の実在感が一気に高まるのだ。また、P-700uでバランス接続に切り替えると、セパレーションの向上に加え、低音が厚みを増して質感と量感が両立する方向に変化したことも付け加えておきたい。
アンプによる音の違いが大きいことは、音を聴く前にある程度想定していた。だが、実際の音の変化は私の想像の範囲を超えていて、特にP-700uとの組み合わせで聴いた音の実在感とスケールの大きさは強い印象を残した。SE-MASTER1を入手する予定なら、その後のアンプ選びにも時間と予算の余裕を確保しておいた方がいい。そこに楽しみを見出だせる人にとって、SE-MASTER1はかけがえのない贈り物になるはずだ。
(山之内 正)
SE-MASTER1は各モデルの個性を引き出してくれる
SE-MASTER1は、組み合わせるヘッドホンアンプの性能や音調の差を引き出す能力が高いことも特筆しておきたい。すでに紹介した通り、U-05との組み合わせでは本機の特徴が鮮明に浮かび上がってきたが、他のアンプではどうだろうか。最後に、他のアンプで鳴らした時の再生音、そしてバランス接続時のパフォーマンスを紹介しておこう。なお、今回はUSB-DAC内蔵モデルからヘッドホンアンプ単体モデルまで、価格についても10万円台から50万円超まで幅広く用意。各ヘッドホンアンプがSE-MASTER1をいかに鳴らしているかということに着目した。
他のアンプに切り替える前に、専用ケーブルを用いてU-05のバランス接続の音を聴いた。ムジカ・ヌーダのデュエットやエミリー・バーカーのボーカルなど、シンプルな編成の曲ではエネルギーバランスの変化はそれほど大きくない。それよりも余韻の広がり具合やアコースティック楽器の響きなど、微妙だが本質的な情報はバランス接続の方が豊かに感じた。ボーカルとベースそれぞれの音像の見え方も鮮明だし、ギターと弦楽器のセパレーションも一段と向上する。
次にOPPOの「HA-1」をつなぐ。ゲイン「LOW」ではボリューム位置はU-05よりもやや高めになるものの、音圧感に不足はなく、特にオルガンの足鍵盤など超低域にも十分なエネルギーが乗っている。低域の解像度ではU-05に一歩譲るものの、量感では勝っている印象を受けた。自作した変換ケーブルを用いて試したバランス接続は、空間情報に余裕が生まれるが、基本的な音調に大きな変化はない。
CHORDの「Hugo TT」はアンバランス接続で聴く。この組み合わせで最も感心したのは、ネトレプコが歌うヴェルディのアリアの並外れた起伏の大きさだ。中域から高域にかけて声が本来の潤いを取り戻し、高音のフォルテがか細くなることもない。特に女声の密度の高さはSE-MASTER1の優れた資質の一つだが、Hugo TTはそれを余すところなく引き出す力を持っている。ベースとピアノの低音に緩みがなく、タイトなリズムを刻むことにも注目したい。特に低音についてはSE-MASTER1とHugo TTの音の傾向がピタリと一致しているように思う。
最後に「U-05」をUSB-DACとして用いて、ラックスマンのヘッドホンアンプ「P-700u」でSE-MASTER1を駆動した。単体ヘッドホンアンプで28万円という価格を考えればある意味で当然かもしれないが、この組み合わせは、今回聴いた中では音の密度が一番高く、立ち上がりの力強さも次元の異なるものとなる。SE-MASTER1の音は余分な付帯音がないことが特徴だが、駆動力に余裕のあるアンプを組み合わせると、一音一音のアタックが本来のスピードと勢いを獲得し、実にリアリティの高い音を再現する。その効果はベースからパーカッション、ピアノまで、すべての音域に及ぶので、演奏全体の推進力や楽器の実在感が一気に高まるのだ。また、P-700uでバランス接続に切り替えると、セパレーションの向上に加え、低音が厚みを増して質感と量感が両立する方向に変化したことも付け加えておきたい。
アンプによる音の違いが大きいことは、音を聴く前にある程度想定していた。だが、実際の音の変化は私の想像の範囲を超えていて、特にP-700uとの組み合わせで聴いた音の実在感とスケールの大きさは強い印象を残した。SE-MASTER1を入手する予定なら、その後のアンプ選びにも時間と予算の余裕を確保しておいた方がいい。そこに楽しみを見出だせる人にとって、SE-MASTER1はかけがえのない贈り物になるはずだ。
(山之内 正)