<日本のオーディオ その「哲学」と「音楽」>
国産ハイエンドを代表するブランド「AUDIO NOTE」。その哲学と音楽を同社社長が語る
廣川は新社長の芦澤から、いかなるコスト的な制約もない究極のレコードプレーヤーの開発を命じられた。GINGAは糸ドライブ/リジッド方式で、本体と駆動部の2筐体から構成される。本体のベース部はマルチエレメントベースと呼ばれており、6種類もの素材のパーツを組み合わせることで固有の共振モードを回避している。これらのパーツは鋳造ではなく削り出しだ。
さらには数ヵ所に真鍮製のダンパーがオイルと共に封入されている。プラッターの質量は18s。スピンドルは通常とは逆でベース部にマウントされており、オイルを介してプラッター側の軸受けと接している。プラッターも銅ネジやガラスによってマルチエレメント化。トーンアームはSMEによるもので、内部配線の線材は、もちろんオーディオ・ノートの銀線だ。
駆動部は通常の糸ドライブ機よりも大きい。動力を発生させるのは4極シンクロナスモーターで、専用アンプでサイン波とコサイン波を発生させることで進相コンデンサを使うことなくコントロールされる。プラッターを駆動する糸は富山県の繊維メーカーに特注したもので、結び目がない。モーター軸の近傍にテンションプーリーがマウントされており、このプーリーがスタート時のエネルギーを吸収するので、長期にわたって安心して使用することができる。
GINGAが奏でるその音を聴いた時、現代の国産超高級機としては異例ともいえるほど音に勢いがあり、低音に実体感のある表現に酔いしれた。これは粘度の高いオイルでスピンドルと軸受が接しているからであろう。また、リジッドな構造は、まさにこの「実体感」のためと廣川は話す。
また、アンプ製品も芦澤体制の成功を示すものである。今回驚いたのは、最高級真空管式プリアンプG-1000に搭載されている自社製のアッテネーター。これは人工衛星にも搭載される超精密抵抗器をローターリースイッチに実装し、銅製のケースに収めたもので、筆者がこれまでに目にしたものの中でも突出したスグレモノだ。同社の真空管アンプのサウンドは、今号の142ページで詳細にレポートしているのでそちらを参照して欲しい。
■リスナーへ開かれたリスニングルームへの扉
オーディオ・ノートの製品は非常に高価ではあるが、完全に無縁というわけではない。銀線ケーブルの一本でも同社のエッセンスに触れられるし、オーディオ・ノートのリスニングルームは一般リスナーにも開放されている。リスニングルームに置かれているスピーカーは、マジコQ1とB&W801D。両者とも鳴りにくいことで有名なスピーカーだが、これらをオーディオ・ノートの真空管式アンプがどのようにドライブするかぜひ聴いて欲しい。そればかりか、アンプ作りに従事するオーディオ・ノートの社員や、カートリッジのコイルの銀線を手巻きする芦澤雅基の姿を目撃できるかもしれない。オーディオ・ノートの扉は、リスナーに向けて開かれているのである。
(石原俊)
なお、オーディオ・ノートのリスニングルームは一般リスナーも訪問可だ(要予約)。予約はこちらのページから。
※本記事は「季刊analog」60号所収記事を転載したものです。本誌の購入はこちらから。