PR3000シリーズ待望の新作
デノン新フラグシップSACDプレーヤー「DCD-3000NE」を聴く。ベテラン評論家も「信念とあくなき探究心を実感」
デノン創立110周年記念モデル「DCD-A110」をベースに、さらなる低ノイズ化、シグナルパスの最短化、そして同社の最高グレードパーツを贅沢に使用したサウンドマスター山内慎一氏による徹底的なサウンドチューニングにより登場した新たなフラグシップSACDプレーヤーの「DCD-3000NE」。
独自に開発した制振性に優れる「Advanced S.V.H.(Suppress Vibration Hybrid)Mechanism」やデノンのアナログ波形再生技術の最上位バージョンである「Ultra AL32 Processing」を搭載するなど、同社の誇る技術を結集させたモデルとなる。
デノンは1972年に世界初の業務用PCMレコーダー「DN-023R」を開発し、レコードのデジタル録音の扉を開いた。1981年には業務用CDプレーヤー「DN-3000F」を開発、翌年に民生機「DCD-2000」を発売。光学ディスクの実用化と普及に大きな役割を果たした。
21世紀になりストリーミングとファイル再生、アナログリバイバルを迎えているが、CDには確立された再生互換性や、通信環境やサーバートラフィックに左右されない安定性等々、数々の優れた特徴がある。ディスクメディアをオーディオにどう位置づけるかが問われている今、デノンは性能に優れたディスクプレーヤーを出していくことが自社の使命と考えた。
そうして、DCD-3000NEを送り出した。本機がUSB入力を持たないディスク専用機であることにデノンのメッセージ、ディスク再生への思いを受け取れる。
DCD-3000NEの各部をみていこう。ベースモデルとなるDCD-A110で2層だったオーディオ基板を、先行で発売されたプリメインアンプPMA-3000NE同様に4層基板にした。アナロググラウンドを強化し、デジタル基板やメカからのノイズへの耐性を高めた。
デノンの設計手法の一つミニマムシグナルパスをディスクプレーヤーの本機にも貫き、ワイヤーレス化を進めた。デジタル電源基板、デジタル基板、アナログ基板同士間で飛び込みノイズのアンテナとなりうるケーブルを廃止し、ボードトゥボードと呼ばれる基板で基板同士の連結構造とした。ワイヤーレス化でワイヤーの位置等による製品同士の音質のばらつきがなくなったほか、電気的干渉も低減。SYコンデンサー等のカスタムコンデンサーを音楽信号の通らない電源部にも投入した。
本機の最大の変更点がDAコンバーター部である。DCD-A110はDACにTIの2回路構成のチップPCM1795をモノモードで1chあたり2個、合計4基使用する4構成としたが、本機ではデバイスをESSテクノロジー ES9018K2Mに変更したうえでクアッド構成は踏襲。デノンは並列化の利点に、チップや回路の微細な差が平均化されて、LとRのレベル差や歪み率が是正されて音空間が歪みなく精密に現れることを挙げる。
汎用オペアンプを使わずDAC後段の出力回路をフルディスクリートにした。ディスクリート構成では、I/V変換とポストフィルターの差動合成に関してオペアンプではできない、性能や動作に特化した回路構成が組める。
デノンの看板技術が、デジタルソースの音質をアナログ波形にかぎりなく近づけるAL32だが、DCD-A110で採用されたULTRA AL32 Processingを引き継ぎつつ、ES9018K2MにあわせDAコンバーター部のアナログ部をアップデートした。同様にポストフィルターの部品点数を新デバイスの特性にあわせ削減している。
本機はデノンサウンドマスター山内慎一氏が総監修した。2019年に発売された銘機、「DCD-SX1 Limited」開発が生んだパーツを大量に投入して音を磨き上げた。山内氏は本機について「DCD-A110の分解能の高さとDCD-SX1 Limitedのシャープさやプレゼンスを融合させたかった」と語る。
その結果、オーディオ基板やデジタル電源部に計100点は軽く超える音質パーツを投入。アナログ/デジタルすべてのブロックにカスタムコンデンサーを採用し、DCD-A110と比べカスタム品の占有率は大幅増となった。ワイヤーやビス、底板やトランスプレートも吟味、ケーブルのねじり具合も再調整された。メカを覆うトップカバーはDCD-A110の銅1mm厚からA6061航空グレードアルミ1.5mm厚に変更と、枚挙にいとまがない。
デノンのプリメイン「PMA-3000NE」、スピーカーシステムにB&W「805D4 Signature」を組み合わせ試聴した。冒頭で紹介したように、本機はディスク再生に特化したプレーヤーである。このシンプルな合目的設計がてきめんに音質にあらわれている。加えて惜しみない高音質パーツ投入とサウンドマスターの時間を費やしてのヒアリングに磨き上げられ、じつに清々しい音質である。繊細さと剛性感を兼ね備えた鋭利な刃物にたとえればいいだろうか。あらわれる音場空間に歪みやくもりがなく端正で澄明、楽音に色付きが皆無で輪郭がきりっと引き締まってにじみがない。
パッパーノ『はげ山の一夜』(SACD)は、ダイナミズムとスピード感が豊か。混成合唱の音圧感、打楽器の立ち上がりと収束も小気味良い。金管の厚みと鈍い光沢も美しい。定位の鮮明さは3000コンビの長所で混声合唱、少年合唱、ソリストのステージ上の定位が明瞭。合唱やオケのクレッシェンドが淀みなくエネルギーに満ちていて大きな音のマッスが俊敏に動く。低弦のゴリゴリした野性味ある響きに溜飲。たくましさも忘れていない。
ティーレマン/ウィーンフィルの『ブルックナー第7交響曲』(CD)は、今回の改良の中心DAC部の向上ぶりを強く印象づける。弦の表現が分解能豊かで倍音が乗りなめらかな質感で歌い聴き手を酔わせる。録音限界を乗り越えて演奏の息遣いを生々しく伝え最新のAL32の進歩を実感した瞬間。
デヴィッド・ギルモアの『邂逅』(CD)は空間が広く深い。楽音の生々しさはもちろん、楽音のない疎の部分に冷たい温度や湿度、色、匂いを感じさせるのが凄い。試聴室の空気を支配し一変させる豊かな情報量と浸透力がある。
デジタルディスクプレーヤーという手慣れた製品のすみずみまで精査と検討を加え、再生の可能性に改めて挑戦したDCD-3000NEに、デノンの信念とあくなき探究心を実感する。しかし、デジタルオーディオのオリジネーター・デノンにとってDCD-3000NEは大きな通過点であって目的地ではない。探求の旅はこれからも続く。
●再生周波数範囲:2Hz〜100kHz(SACD)、2Hz〜20kHz(CD) ●再生周波数特性:2Hz〜50kHz(-3dB/SACD)、2Hz〜20kHz(±0.5dB/CD) ●SN比:122dB ●ダイナミックレンジ:115dB(可聴帯域/SACD)、101dB(CD) ●高調波歪み率(1kHz):0.0005%(可聴帯域/SACD)、0.0015%(1kHz/CD) ●ワウ・フラッター:測定限界以下 ●出力レベル:2.2V(10kΩ) ●出力端子:RCA×1、光デジタル×1、同軸デジタル×1 ●外形寸法:434W×138H×405Dmm ●質量:16.8kg ●消費電力:35W(待機電力0.3W以下)
(提供: ディーアンドエムホールディングス株式会社)
本記事は『季刊・Audio Accessory vol.195』からの転載です
独自に開発した制振性に優れる「Advanced S.V.H.(Suppress Vibration Hybrid)Mechanism」やデノンのアナログ波形再生技術の最上位バージョンである「Ultra AL32 Processing」を搭載するなど、同社の誇る技術を結集させたモデルとなる。
■ベースモデルA110から基板やパーツを大幅に変更
デノンは1972年に世界初の業務用PCMレコーダー「DN-023R」を開発し、レコードのデジタル録音の扉を開いた。1981年には業務用CDプレーヤー「DN-3000F」を開発、翌年に民生機「DCD-2000」を発売。光学ディスクの実用化と普及に大きな役割を果たした。
21世紀になりストリーミングとファイル再生、アナログリバイバルを迎えているが、CDには確立された再生互換性や、通信環境やサーバートラフィックに左右されない安定性等々、数々の優れた特徴がある。ディスクメディアをオーディオにどう位置づけるかが問われている今、デノンは性能に優れたディスクプレーヤーを出していくことが自社の使命と考えた。
そうして、DCD-3000NEを送り出した。本機がUSB入力を持たないディスク専用機であることにデノンのメッセージ、ディスク再生への思いを受け取れる。
DCD-3000NEの各部をみていこう。ベースモデルとなるDCD-A110で2層だったオーディオ基板を、先行で発売されたプリメインアンプPMA-3000NE同様に4層基板にした。アナロググラウンドを強化し、デジタル基板やメカからのノイズへの耐性を高めた。
デノンの設計手法の一つミニマムシグナルパスをディスクプレーヤーの本機にも貫き、ワイヤーレス化を進めた。デジタル電源基板、デジタル基板、アナログ基板同士間で飛び込みノイズのアンテナとなりうるケーブルを廃止し、ボードトゥボードと呼ばれる基板で基板同士の連結構造とした。ワイヤーレス化でワイヤーの位置等による製品同士の音質のばらつきがなくなったほか、電気的干渉も低減。SYコンデンサー等のカスタムコンデンサーを音楽信号の通らない電源部にも投入した。
本機の最大の変更点がDAコンバーター部である。DCD-A110はDACにTIの2回路構成のチップPCM1795をモノモードで1chあたり2個、合計4基使用する4構成としたが、本機ではデバイスをESSテクノロジー ES9018K2Mに変更したうえでクアッド構成は踏襲。デノンは並列化の利点に、チップや回路の微細な差が平均化されて、LとRのレベル差や歪み率が是正されて音空間が歪みなく精密に現れることを挙げる。
汎用オペアンプを使わずDAC後段の出力回路をフルディスクリートにした。ディスクリート構成では、I/V変換とポストフィルターの差動合成に関してオペアンプではできない、性能や動作に特化した回路構成が組める。
デノンの看板技術が、デジタルソースの音質をアナログ波形にかぎりなく近づけるAL32だが、DCD-A110で採用されたULTRA AL32 Processingを引き継ぎつつ、ES9018K2MにあわせDAコンバーター部のアナログ部をアップデートした。同様にポストフィルターの部品点数を新デバイスの特性にあわせ削減している。
本機はデノンサウンドマスター山内慎一氏が総監修した。2019年に発売された銘機、「DCD-SX1 Limited」開発が生んだパーツを大量に投入して音を磨き上げた。山内氏は本機について「DCD-A110の分解能の高さとDCD-SX1 Limitedのシャープさやプレゼンスを融合させたかった」と語る。
その結果、オーディオ基板やデジタル電源部に計100点は軽く超える音質パーツを投入。アナログ/デジタルすべてのブロックにカスタムコンデンサーを採用し、DCD-A110と比べカスタム品の占有率は大幅増となった。ワイヤーやビス、底板やトランスプレートも吟味、ケーブルのねじり具合も再調整された。メカを覆うトップカバーはDCD-A110の銅1mm厚からA6061航空グレードアルミ1.5mm厚に変更と、枚挙にいとまがない。
■音場空間が端正で澄明であり輪郭が引き締まりにじみがない
デノンのプリメイン「PMA-3000NE」、スピーカーシステムにB&W「805D4 Signature」を組み合わせ試聴した。冒頭で紹介したように、本機はディスク再生に特化したプレーヤーである。このシンプルな合目的設計がてきめんに音質にあらわれている。加えて惜しみない高音質パーツ投入とサウンドマスターの時間を費やしてのヒアリングに磨き上げられ、じつに清々しい音質である。繊細さと剛性感を兼ね備えた鋭利な刃物にたとえればいいだろうか。あらわれる音場空間に歪みやくもりがなく端正で澄明、楽音に色付きが皆無で輪郭がきりっと引き締まってにじみがない。
パッパーノ『はげ山の一夜』(SACD)は、ダイナミズムとスピード感が豊か。混成合唱の音圧感、打楽器の立ち上がりと収束も小気味良い。金管の厚みと鈍い光沢も美しい。定位の鮮明さは3000コンビの長所で混声合唱、少年合唱、ソリストのステージ上の定位が明瞭。合唱やオケのクレッシェンドが淀みなくエネルギーに満ちていて大きな音のマッスが俊敏に動く。低弦のゴリゴリした野性味ある響きに溜飲。たくましさも忘れていない。
ティーレマン/ウィーンフィルの『ブルックナー第7交響曲』(CD)は、今回の改良の中心DAC部の向上ぶりを強く印象づける。弦の表現が分解能豊かで倍音が乗りなめらかな質感で歌い聴き手を酔わせる。録音限界を乗り越えて演奏の息遣いを生々しく伝え最新のAL32の進歩を実感した瞬間。
デヴィッド・ギルモアの『邂逅』(CD)は空間が広く深い。楽音の生々しさはもちろん、楽音のない疎の部分に冷たい温度や湿度、色、匂いを感じさせるのが凄い。試聴室の空気を支配し一変させる豊かな情報量と浸透力がある。
デジタルディスクプレーヤーという手慣れた製品のすみずみまで精査と検討を加え、再生の可能性に改めて挑戦したDCD-3000NEに、デノンの信念とあくなき探究心を実感する。しかし、デジタルオーディオのオリジネーター・デノンにとってDCD-3000NEは大きな通過点であって目的地ではない。探求の旅はこれからも続く。
SPEC
●再生周波数範囲:2Hz〜100kHz(SACD)、2Hz〜20kHz(CD) ●再生周波数特性:2Hz〜50kHz(-3dB/SACD)、2Hz〜20kHz(±0.5dB/CD) ●SN比:122dB ●ダイナミックレンジ:115dB(可聴帯域/SACD)、101dB(CD) ●高調波歪み率(1kHz):0.0005%(可聴帯域/SACD)、0.0015%(1kHz/CD) ●ワウ・フラッター:測定限界以下 ●出力レベル:2.2V(10kΩ) ●出力端子:RCA×1、光デジタル×1、同軸デジタル×1 ●外形寸法:434W×138H×405Dmm ●質量:16.8kg ●消費電力:35W(待機電力0.3W以下)
(提供: ディーアンドエムホールディングス株式会社)
本記事は『季刊・Audio Accessory vol.195』からの転載です