iPodに対抗する「もう一つの軸」への期待
■超高音質モデルの登場にも期待
もう一つ、全く別のベクトルとして、音質面での取り組みにも大いに期待したい。この分野ではアップルはそれほど積極的ではないし、国内AVメーカーがこれまで培った音質向上技術を十分に活かすことができるはずだ。
高音質を売りにした製品は既に数多く存在するが、その取り組みは筐体構造を強固にしたり、アンプ部を高音質化したりなどの方法がメイン。これはこれで重要だが、もう一歩踏み込んで、音源そのものを高音質化してしまったらどうか。
たとえば、ハイサンプリング/ハイビットレートへの取り組み。192kHz/24bitまでのリニアPCMの再生に対応させたり、あるいはLINNの音楽配信サイトで一般的なFLACをサポートしたりなどすれば、高音質音楽配信時代をリードするトレンドセッターとして注目を浴びるのではないか。本体にアップサンプリングコンバーターなどを内蔵してしまっても良いだろう。
また、DSDという優れたフォーマットに、もう一度光を当てることも期待したい。ソニー“VAIO”の一部機種には、CDをDSD変換して高音質再生することができる「DSD Direct」が付属している。このPCM→DSD変換にはかなりのCPUパワーが必要だが、再生だけならそれほど大きな処理能力は必要ない。DSDファイルを直接再生できるポータブルオーディオプレーヤーがあれば、音質重視のユーザーから注目を浴びるだろう。
一部の読者は既にお気づきだろうが、192kHz/24bitまでのリニアPCMやDSDファイルの再生に対応したポータブル機器はすでに存在する。コルグの1ビットモバイルレコーダー「MR-1」、いわゆるポータブル生録機だ。
MR-1の価格は7万円台と高いが、録音機能を省き、さらにストレージ容量を上げてプレーヤー専用機として売り出しても面白いのではないか。それにしても、せっかくDSDという技術をこれまで磨き上げたソニーが、このような機器を先に発売しなかったのは少し残念だ。
思いつくままに書いてきたが、念のため断っておくと、記者は決してアップルが嫌いなわけではない。この原稿を書いているのもMacBookだし、むしろアップルファンの一人に数えられるだろう。
だが、ポータブルオーディオプレーヤー市場のシェアのほとんどをiPodが占めている現状は、正直に言ってあまり気持ちが良くない。このまま独占が進めば、将来的にますます選択肢が狭まり、結果として欲しくないモノを買う羽目になるのではないか、という不安さえ感じる。市場が健全であるために、iPodに対抗する「もう一つの軸」が存在すべきだし、存在して欲しいと思う。
iPodの対抗軸になりうる製品やサービスを開発できるのは、現実的に考えて国内AVメーカーが最も可能性が高いはず。折しも、ソニーは4月1日に機構改革を行い、「ネットワークプロダクツ&サービス・グループ」という新グループを設立した。このグループはプレイステーションやVAIO、ウォークマン、ネットワークサービス事業、新規事業開拓プロジェクトなどを束ねる。この機構改革により、事業を横断した大規模なプロジェクトを進めやすくなるだろう。さらに進化したネットワークウォークマンの誕生に期待が持てる。
ソニーだけではない。詳細は不明だが、ソニーでロケーションフリーなどを開発した前田悟氏は、現在JVC・ケンウッド・ホールディングスの新事業開発センター長として、“真のモバイル機器"を開発中であることを公言している(関連ニュース)。これらの取り組みが実を結び、我々を驚かす製品やサービスが産まれることを願ってやまない。