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5年先を見据えた技術の行く末は

東芝のテレビ開発撤退は本当か? 「やめるべきでない」いくつかの理由

公開日 2015/12/16 11:15 編集部:風間雄介
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他社もマークする東芝独自の映像技術

東芝の技術の優位性についても言及すべきだろう。同社はそれまでも技術力に定評があったが、2009年、超弩級テレビ「CELL REGZA」を投入して業界中の話題をさらった。さらには2011年、業界ではじめて4Kテレビ「55X3」を発売したメーカーでもあり、いわば4Kのパイオニアである。4K対応では他社の一歩も二歩も先を行っていた。2014年には業界で初めて4K放送チューナーを内蔵した「Z10X」シリーズを投入した。

そして今年発売したZ20Xシリーズは、バックライト技術や映像処理技術をさらに向上させ、HDRについても、AV評論家をはじめとした映像評価のプロをも唸らせる実力を備えている。映像処理の中核を担う映像エンジンは、構想から3年を費やしたもので、「今後5年を見据えた性能を備えている」と商品発表会の場でアピールしていた。5年後といえば、東京オリンピックが開催される2020年である。ずいぶん先のことのように思えるが、そこまでの技術発展をあらかじめ折り込み開発した優れたLSIが、すでに東芝の手元にあるのだ。

今後5年を見据えて開発された映像処理の中核を担うLSI

今年9月、青梅事業所のテレビ開発施設を訪問する機会があった。そこで見た「7000nit HDRパワーディスプレイシステム」をみたとき、「ここまでやるのか」と、その凄まじい設備と映像美に、半ば呆れたほどだった。

通常のテレビは、おおむね500nit程度の輝度しかない。HDRパワーディスプレイシステムはその10倍以上の、じっと見ていると目が痛くなるほどの輝度を持つリファレンスシステムで、18,000個以上のLEDを使い、消費電力は約2,000Wというモンスターマシンだ。

驚異的な明るさを実現できる「7000nit HDRパワーディスプレイシステム」

おそらくこのリファレンスシステムを作るのにも相当なコストがかかっただろうが、これを即座に「ムダ」と切り捨てるのは誤りだ。考えられる最高のものを作った上で、一般家庭に納めるためにどのような課題があるかを研究し蓄積したノウハウが、Z20Xをはじめとした歴代の銘機に活かされているからだ。「常軌を逸した」と形容したくなるほど強い情熱に支えられたものづくりは、AVファンを常に驚かせてきた。



「REGZAはどうなってしまうのか」と、行く先々で質問される。ライバルメーカーの技術者、商品企画担当者などからも聞かれるほどで、他社からもREGZAのブランド力、技術力が高く評価されている証だろう。

テレビ開発を止め、これまで多くの技術者が絶やさずリレーしてきた火を消してしまったら、もう一度火を起こすことは極めて難しい。日進月歩で技術が進展する現代においては、ほとんど不可能なことと言ってもよい。

REGZAは2016年にブランド10周年を迎える。業界でも屈指のレベルにある同社の技術がしっかりと次代に引き継がれるよう、賢明な判断が下されることを期待したい。

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