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公開日 2022/10/24 06:30
【特別企画】アームを含むパーツや素材を一新

迫真のリアリズム表現、ラックスマン「PD-191A」。アナログ再生の最前線を切り開く新たなチャレンジを聴く

大橋伸太郎

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アナログの音と存在の美、対話する喜び



広大でゆるぎなく深々と澄み渡った音質。レコードの溝に刻まれた微かなささやきから、空気を震わせるティンパニの打撃まで余さず引き出す情報量。繰り返し聴いた名盤から21世紀の最新録音まで、ここには新鮮な音楽体験がある。待望のラックスマンのアナログプレーヤー最上位、「PD-191A」の第一印象だ。

LUXMAN ベルトドライブ式アナログプレーヤー「PD-191A」(価格:990,000円/税込) photo/田代法生

2011年、アナログ不毛の時期に声なき声に応えるように「PD-171」が登場した。音質の良さと銘機「PD-121」に由来する美しい造型は反響を呼び、着実に販売台数を伸ばしていく。

この時期、アナログプレーヤーを生産するメーカーは限られていた。PD-171はハイレゾに欠けていたもの、「アナログの音と存在の美、対話する喜び」に気づかせた。今日のアナログリバイバルはPD-171がもたらしたのである。

PD-171はAとAL(アームレス)に分化し、下位機種の「PD-151」が登場する。ここまでは過去から現在の音楽資産を継承し今日的に体現することが立ち位置だった。PD-191Aは違う。一見コンサバティブだが、ラックスマンが持てる技術リソースと知見を注ぎ込み、現時点で理想のプレーヤーをいちから作り上げた、アナログオーディオの最前線だ。

銘機のデザインを踏襲しながらも、最新の素材と技術でパーツ類を一新



PD-191Aの具体に踏み込む前に、ビハインドストーリーを知っておこう。開発のスタートは2020年4月のことだ。この年PD-171/151のトーンアームを製造する市川宝石(JELCO)が休眠会社になる。数カ月前に数百本の納入があったのだが、2機種に同時に使う余裕がない。

PD-171Aは在庫限りで生産終了、新製品のPD-151へ傾斜生産してその間に新しいアームを探そうという計画になった。

それから約2年たった今春、新しいオリジナルの9インチトーンアームを搭載した「PD-151 MARKII」が発売になる。さらにその裏で、ナイフエッジ技術で世界的にも評価の高い国内ブランド、サエクとの完全新規設計のトーンアームの共同開発が着々と進んでいた。

ナイフエッジ軸受の新トーンアームを搭載する「PD-151 MARKII」(393,800円/税込)

フラグシップとなるPD-191Aは価格90万円(税抜)。品番がPD-171 MARKIIでもPD-181でもなく、一挙に番手を上げたことに注目したい。新規開発はトーンアームだけではない。モーター、シャーシ、すべてが一新されていた。

PD-191Aは171に比べロウ&ワイドに見える。しかし全体の大きさ(縦横)はPD-171Aとまったく同じだ。全高が低くなったのだ。そのせいでデザインテーマのPD-121の21世紀的リブートにいっそう近づいた。

サエクとの共同開発で、優美なデザインと音質を追求したトーンアーム



第一に注目したいのがトーンアーム。完全オリジナル新規設計。サエクとラックスマンの技術交流で、何回も試作を作っては試聴を繰り返し今回のアームが完成、「LTA-710(LUXMAN TONEARM 7GRADE 10INCH)」の名称が与えられた。

初動感度に優れるナイフエッジトーンアームをサエクと共同開発。優美なS字ラインも特徴。またヘッドシェルも付属する

ラックスマンにはPD-121以来、デザインへのこだわりがあり、プレーヤーシステム全体のバランスを考慮しトーンアームのデザインにもそのこだわりが貫かれている。俯瞰で見た時の優美なまとまりを重視し、S字だがJ字に近い形状になっている。トラッキングエラーが起こりにくく初動感度の高さの兼ね合いで、レコードの最内周と最外周から少し内側でオフセット角が90°になるぎりぎりの長さの10インチを採用した。

設計目標の第一が初動感度ではいきおい軽量高感度型のアームになる。通常のサエクはパイプにステンレスを使用するが、重量が増して感度が比例して悪くなるため、ラックスマンはアルミパイプを要請した。実験していくとダンプの仕方次第で制振効果が大きく剛性も十分なアルミパイプ採用に踏み切った。

LTA-710は、ダブルナイフエッジWE-4700とは台座の構造が違う。ナイフエッジの刃や台座の素材は同一だが、シンプルなシングルナイフエッジとしたことで調整がより容易になり、相対的なコストダウンにも寄与しているという。

LTA-710は単売も期待されている

腕に覚えのあるユーザーはラテラルバランスの調整を楽しめる。LTA-710の初動感度の垂直方向25mg、水平方向100mgはPD-151 MARKIIのトーンアームと数値上同じなのは、ラックスマンの測定限界だから。より精密に測定すれば数値はさらに出るという。

構造も吊り下げ方式に変更。ブランド史上最高クラスのワウフラッターを実現



PD-151の開発にあたり、ラックスマンはトルクが大きく78回転が可能なDCブラシレスモーターを開発した。PD-191AはPD-151 MARKII同様にこのモーターを使うが、回転制御プログラムを変更し、カタログスペック0.04%、実力値0.028〜0.036%という、ラックスマン史上最も優れたワウフラッターを実現した。

高精度のDCモーター。33/45/78回転に対応する

約5.2kgの重量級プラッター

15mm厚のトッププレートとアルミ削り出しの質量5.2kg、慣性モーメント0.7t/㎠のプラッターはPD-171を引き継ぐが、33 1/3、45rpmの数字の表示の面積が小さく見えにくいというユーザーの意見からLED反射型のストロボスコープに変わった。

上から覗き込むストロボスコープで回転数を調整できる

ステンレス製16mmのセンタースピンドルの軸受けにボールベアリングと硬度と耐久性のある樹脂素材PEEKを採用。真鍮のラジアル軸受け内に有機モリブデンのオイルを注入して金属同士が当って摩擦が生じることを防いでいる。PD-171からの継承だが、オイルの粘性を高いタイプに変えてみると、聴感上のS/N向上に予想以上に効果があり、変更している。

プラッターを取り外したところ。軸受は耐摩耗性と耐荷重性に優れるPEEK製

重要な変化にアンダースラング(吊り下げ)構造の変更がある。PD-191Aは3.2mm厚のスティールボトムパネル上に制振ゴムを介して主要震動源のトランスとモーターをフローティング設置し、それ以外のパーツはPD-171/151同様の天吊である。

もうひとつの改良点がインシュレーター。トッププレートと結合したパイプがインシュレーターの底孔を貫通してボトムプレートと干渉せず直接接地する設計は変わらないが、新しい制振ゴムと構造を採用。インシュレーターレッグは5mmの範囲で高さ調整が可能だ。また電源ケーブル「JPA-15000」が付属する。

インシュレーターも新規開発。4点支持で高さ調整も可能

PD-191Aには豊富なオプションがあり、PD-171AL同様、OPPD-AB1から孔がないAB6まで6種のアームべース(55,000円/以下税込)を用意。真鍮に亜鉛メッキを施しスピン目加工という凝った作りで美しく剛性が高い。「SME3012用」ロングアームベースも用意する(132,000円)。シャーシ後ろにネジ二本でかんたんに固定できる。他にダストカバー、シェル込みで32gまで対応のサブウエイトが主要オプション。

さまざまなトーンアームを外付けできるよう交換式のアームベースもオプションで多数用意している。写真は「OPPD-AB1」

ラックスマンの新横浜試聴室にてサウンドをチェック

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