AV REVIEW

AV REVIEW特選 製品批評

LINN
AV5125、AV5103D
マルチチャンネルパワーアンプ、AVプロセッサー
\420,000(AV5125)/\1,000,000(AV5103D)

 

文・井上千岳
TEXT BY Chitake Inoue

リンから待望の5chパワーアンプが登場した

リンではこれまで、システムコントローラーAV5103Dに組み合わせるべきパワーアンプとして2チャンネルのAV5105を3台、あるいはKLIMAXを5台といったぜいたくなシステムを展開してきたが、本機は初の5チャンネルパワーアンプである。サイズもコントローラーと同じ極めてコンパクトなデザインであり、価格も手頃なところに抑えている。5103Dの高度な内容を生かすのに恰好なパワーアンプが完成したことを喜びたい。

スイッチング電源の効果的活用。驚異的な軽さを実現した

リンのアンプ技術では、KLIMAXに搭載されたスイッチモード電源とサブウーファーSIZMIKのVクラス回路が注目される。5125はこれらの技術を元に5チャンネルタイプとしてまとめあげられた製品である。スイッチモード電源はいわゆるスイッチング電源で、効率が高く場所を取らず発熱も少ない特徴を持つ。以前のスイッチング電源はS/Nの点で難点があるとされたが、改良されて今日再び脚光を浴びることになった。スイッチモード電源もその一環といってよく、パワーと高度なS/NによってKLIMAXを大きな評価へと導いた。またVクラスは信号に応じてパワーを制御するというリン独自の出力回路である。これらを統合して採用することで、5125は各チャンネル100W(8Ω)の高出力を得ている。また4Ωでは200Wとなり、さらにピーク出力では1kWを連続1分間ギャランティーする。このサイズからいうと考えられないくらいのハイパワーだが、これが独自の電源と出力回路の成果である。

機能面でもリンらしく、興味深いしかけがいくつも用意されている。まず各チャンネルのスピーカー端子はバイワイヤリング対応である。さらにスルーアウトの入力端子が装備されているため、隣どうしの端子をシリーズ接続することによってバイアンプ駆動が可能になる。また内部はチャンネル毎にボードでまとめられているが、どのボードにどの入力端子を配分するかという選択ができる。これを利用すると二つのチャンネルをパラレルで使ってバイアンプとすることができるし、極端な場合には一つの入力に対して5チャンネルすべてを振当てることもできるわけである。こうなると5アンプ駆動も可能になる。

さらにリンのNINKA、KATANなどのためにアクティブ・モジュールも用意されている。これを内蔵することでマルチアンプへのグレードアップが簡単に行えるようになる。こうしたバーサタイルな対応力も本機の特徴のひとつというべきである。

地の底から湧き上がってくるような音場感を表出

さて本機の音調は、かなり思い切って下寄りに寄せた傾向を持つ。映画ではなんといっても腰の座った厚みと低域のエネルギーが要求されるから、この音調は明らかに映画を強く意識したものといえる。それだけなら単なる音作りの次元を出ないが、本機ではその低域の解像力が極めて高い。十分なスピードと分解能を備え、このため低音が決してぼこぼこと不明瞭になることはなく、明快な質感が分厚い響きに乗って思いがけないようなリアリティを実現する。『グラディエーター』のコロセウムの場面。観衆の喚声や地面に投げ出された剣の響きなど、こうした高度な低域の再現性があって初めて生きるものだ。地の底から湧き上がってくるような実感がある。

バイワイヤリング接続の2ch再生にも魅力

『U-571』の爆雷の音にも、ものすごいエネルギーと実体感が伴っている。低音の鋭さというものを初めて感じたような気分で、その爆発音がただの風圧ではなく太い放射線のように貫いてくるのを感じるのだ。パワーと分解能が融合したエネルギーである。 加えて本機では、本来のハイスピードな立ち上がりとS/Nの高さが室内や屋外空間での広がりを確かなものにしている。『グラディエーター』の戦闘シーンや宮殿内での会話など、ひとつひとつの音が丹念に描きだされながら奥行の深い空間に響きわたってゆく。あるいは『U-571』の潜水艦内でのさまざまな機械音や身辺音が、時にドキッとさせるような生々しさで聴こえてくる。レスポンスの速さと正確さの現れである。

セリフも大変厚く出る。当たりは柔らかく質感はニュートラルだが、腰の落ちた感触が映画に深みを添える。音楽音の分がよく、効果音からしっかり独立してひとつの場を形成する。

本機は常に各チャンネルの入力を検知し、使用しないチャンネルはスタンバイとなる。このため2チャンネルでの音はいっそう余裕を持ち、エネルギーが高い。特に音場の奥行再現に優れ、楽器の響きや質感も伸びやかだ。期待の持たれる新製品である。

【本機の詳細】
http://www.linn-jp.com/product/index.html

上がAV5103D、下がAV5125の背面部。AV5125は専用変換プラグを使用してスピーカーと接続。シリーズ接続により、1台でステレオバイアンプ駆動が可能。複数台アンプを使用したバイワイヤリング再生よりも、音色の統一感に秀でている

AV5125/AV5103D SPEC

〔AV5125〕
●実効出力:100W×5(8Ω)、200W×5(4Ω) ●再生周波数帯域:2Hz〜35Hz ●入力インピーダンス:10kΩ ●最大消費電力:1kW ●スタンバイ時消費電力:10W以下 ●ゲイン:28.6dB ●定格入力レベル:1.0Vrms ●最大出力電圧:46V ●外形寸法:381W×75H×354Dmm ●質量:5.0kg

〔AV5103D〕
●音声入力端子:同軸デジタル×5、アナログ(LR)×10 ●映像入力端子:S×2、コンポジット×8 ●音声出力端子:メインLR出力×3、センター出力、リアLR出力、サブウーファー出力、録音用アナログ出力×3、デジタル出力×2 ●映像出力:S×2、コンポジット×4 ●外形寸法:381W×80H×355Dmm ●質量:4.0kg ●問い合わせ先:(株)リンジャパン 03-5451-3530