スペシャルインタビュー

オーディオメーカーの自信を製品に結実
オーディオをますます楽しくする

ティアック ティアックエソテリックカンパニー プレジデント
大間知基彰氏

市場でも大きな評判を呼んでいるユニバーサルプレーヤー
「DV-50」を筆頭に、年末に注目すべき多くの商品を発表したティアック。
社内カンパニーとしてティアックエソテリックカンパニーを立ち上げて以来、
ハイエンドオーディオ市場を牽引する存在といっても過言ではない。
真摯な姿勢で市場に臨む大間知氏に、オーディオへの思いを聞いた。

 

良い商品なくして市場はない
シアター中級機はこれから

―― ユニバーサルプレーヤーDV-50が非常に好調のようですね。

大間知 DV-50はおかげさまで大変好評です。予想以上の反響といったところでしょう。弊社の場合、業界全体を通じて、ユニバーサルプレーヤーに関しては未知数なところがありました。ピュアオーディオ主体のお客様とビジュアル主体のお客様が両方使い分けいただける商品だけに、この市場がどのくらいあるのかなかなか読めなかったわけです。現場の意見を参考にしながら、控えめに作ったら全然足りなくて大変ご迷惑をかけてしまった。うれしい悲鳴ですね。

DV-50に関しては、映像側からのお客様のお問い合わせが思った以上に多いということが分かりました。また、背景にSACD、DVDオーディオ、CDが1つのプレーヤーで全部かかることを求めるお客様が数多くいらっしゃるということがあります。5年から10年くらい同じ製品を使っていて、ユニバーサルプレーヤーに買い替えたいという需要が潜在的にあった。ただ、なかなかユニバーサルプレーヤーの決定版が出なかった。そこへ音にこだわりを持ったメーカーから発売されたということでお客様に好意を持って迎えられたようです。

当初、販売店に持っていっても、「単機能のプレーヤーでも苦戦しているのに50万円のユニバーサルプレーヤーなんて売れない」と言われました。ただ、CD、DVDオーディオ、SACDのそれぞれの特色を活かしたものを本気になって作れば、お客様は理解してくれると思っておりました。

また、良いCDプレーヤーを持っている方で、そろそろSACD、DVDオーディオも聞いてみたいという方がいる。ピュアオーディオ用の単機能のCDプレーヤーと、SACD、DVDオーディオ用を使い分けている方もたくさんいる。そういう意味では、多くのお客様のご期待に応えることができました。

映像に関しても、オーディオ的なこだわりや情熱を、同じように映像の方に力を入れたらどんな画が出てくるのか、と思って作ってみたら、結果的には画が分かる人たちにも非常に高い評価を頂けた。それに応じて受注もどんどん伸びてきました。30万円から50万円のマーケットはこれで一気に花開くのではないかと思っています。

―― 国内ではハイエンドから手を引くメーカーも多くなりました。

大間知 大手メーカーはいかに価格を下げて、2、3万円程度の商品で勝負する中国勢と戦うかということに全勢力を傾けていますが、そうしたマーケットは私どもの力ではどうしようもないし、全く意味がない。専業メーカーとしては、下限の価格帯として10万円を切った製品を作ってはいけない、という気持ちが非常に強い。それを下回ると、こだわりの部分が非常に薄まってしまうんですよね。ですから、アキュフェーズさん、デノンさん、マランツさん、ラックスマンさん、そして私どもの5社くらいは、世界市場で、15万円から上は主導権を握るというくらいの意気込みでいいと思います。

ヨーロッパもアメリカも同じことが言えます。日本で考えていることを海外でも実践してみようということで、DV-50をCEDIAに出してみました。そうしたら大変な反響で受注がどんどん増えてきているんですよ。社内でもユニバーサルプレーヤーの市場は考えているよりも5倍大きいということを言い聞かせています。

海外でもユニバーサルプレーヤーの決定版というのはありませんでした。需要が無いとみるか、潜在需要はあるが相応しい製品がないだけと見るかですが、私は後者ですね。良い製品、お客様が欲しい製品が無いのだから、マーケットが育つはずがない。では、うちはチャレンジしてみようということでCEDIAに出したら、大変なリクエストがあったわけです。エソテリックとしては、海外でのハイエンドオーディオはスタートしたばかりですが、ハイエンドのユニバーサルプレーヤーへのニーズは世界的な傾向だと確信しました。

マーケットサイズとしては、日本よりもアメリカ、ヨーロッパ、東南アジアの方がトータル台数は大きいですね。また、海外市場も含めたハイエンドにおいては、ティアックエソテリックカンパニーの規模はピッタリだと思います。インターナショナルオーディオショウに展示してみて、いつもとは違うなという感じを肌で感じていましたから、強い自信を持っていました。中高級機が不在の映像関係のなかで、新しいマーケットがこれから生まれる、これは業界全体にとって大変いいことだし、専業メーカー各社と一緒になって頑張っていきたいと思っております。

今までのユーザーも戻り
オーディオが盛り上がる

―― ピュアオーディオ市場に関してはいかがお考えですか。

大間知 ピュアオーディオの世界はこれからますます楽しくなると感じています。日本だけではなく、世界的にもそうした傾向があるでしょう。一旦マーケットはシュリンクしたけれども、今残っているメーカーがピュアオーディオに対する新しい提案をしていくことによって、お客様、販売店の方にも必ず応えていただけると感じています。

そうした風潮は、われわれの二つの製品にも強く現れています。ひとつは、今回発売した30万円の単機能CDプレーヤー「X-30」です。これは商品が全然足りなくなってしまいました。まだめがねにかなうCDプレーヤーがないという方や、買い替え需要なども含めて順調に推移しています。

それから、もうひとつはバージョンアップサービスを、VRDSメカ搭載のほとんど全てのCDプレーヤーとタンノイの一部の機種で行ったのですが、その反応、申し込みが非常に多いのです。それも高額になればなるほど多い。P-0sを買ったお客様に対して提示した35万円のバージョンアップで、1000台以上販売したうちの8割近くの方にお申し込みいただくことになると思います。

26年前に初めて扱ったスピーカーであるタンノイのアーデン、バークレーのバージョンアップについても、潜在的なお客様が何万人もいます。そうしたお客様を是非販売店に誘導したい。オーディオ店との接点を新たに設けたいという考えです。

―― それは販売店にとってもありがたいことですよね。

大間知 例えば、VRDS-25という23万円のCDプレーヤーを5万円でバージョンアップできるという提案をしている。そうすると相談やお申し込みのために、ユーザーがお店に行くわけですね。それを販売店でキャッチアップしていただけるわけですから、そこでまた様々な新しい提案ができるわけです。「こんなスピーカー、アンプができましたよ、聞いてみませんか」というふうに。

そこで販売店との輪ができる。しばらく、販売店に行っていなかった方がバージョンアップをきっかけに行くようになる。これによって業界自体が活性化してくる。販売店の方々に私どものこの提案はきっと喜んでいただけると思っています。事実オーディオに対して今まで何かの都合で休んでいた方も動き始めていますから、ハイエンドオーディオはユーザー提案さえ間違えなければ先行きが明るいと感じています。

このバージョンアップは今後も行いやすいように、設計の段階から組み込んでいきます。量産メーカーと違って、われわれは趣味性の強いメーカーですから、痒いところまで手が届かないといけませんし、5年後に、エソテリックの製品を買って良かった、裏切られなかった、あるいは、またバージョンアップしようと愛着を持っていただきたいと考えております。それが、本来の専門メーカーの姿だと思います。

そうした部分が無くなったら、専門メーカーではないでしょう。それなら、ハイエンドのオーディオなんかやめた方がいい。またそのくらいの情熱を持たないメーカーにはこの世界に入ってこないでほしいですね。

オーディオで歴史を踏んできた人、ノウハウがある人、志が高い人、そうした人たちが主軸にならないと、また個性を発揮しないとハイエンドマーケットは成長しません。量産メーカーではそういう人たちを排除する方向にあります。そろばん勘定だけになると、ハイエンドオーディオというのは無くなってしまいます。ですから、原点に高い志がないオーディオメーカーはオーディオをやってはいけないんですよ。

私もそうですけど、感動する音を出すため朝まで製品を聴くことがよくあります。そうした人間が、各部署に一人はいないと商品は不幸なかたちに終ります。特に開発にはよく言っていますが、自分の産んだ子だから、責任を持って最後まで送り出してやる気持ちがないと、お客様に感動を与えるには至らないんですよね。

―― 年末向けにはDV-50以外にも大量の製品を発表されましたね。

大間知 オランダのファイナル社のスピーカーシステムを新たに扱い初めました。これはコンデンサー型のスピーカーで、音がナチュラルですので長時間聴いても疲れないのが特長です。また、プラズマディスプレイとデザインが非常によく合う製品となっています。ワンランク上のアンプ、スピーカーも含めたシステムで専門店なりのこだわりのある提案をするとお客様に喜んでいただける場合が多いので、そうした商材としてもお勧めできます。ファイナルは壁掛けも可能な薄型、軽量のスピーカーシステムですので、その特長を生かした展開をしていきたいですね。

一方タンノイは2モデル、アルニコマグネット採用の同軸2ウェイユニット搭載のオーソドックスな「ケンジントン」と「ヨークミンスター」を発売しました。タンノイの伝統的なデュアルコンセトリックを最新のテクノロジーでどう現代に蘇らせるかを考えると、やはりマグネットは避けて通れない。アルニコマグネットは高価ですが音の分解能とエネルギー感はフェライトマグネットの比ではない。こうした商品はオーディオの世界では非常に重要だと思っています。

「古きを訪ねて新しきを知る」ではありませんが、昔のオーディオには本当に良い物がまだまだたくさんあるんですよね。それを捨ててはいけないと思っています。歴史を知らずに新たな良い商品は出来ないでしょう。タンノイは創立75年になりますが、新製品、新技術、新デザインが提案される昨今にあっても昔の良さを失わない貴重なメーカーです。またアナログファンも数は少ないとはいえ健在です。当社としては、もう一度アナログディスクの魅力を見直してもらうために、英国エービット社の3モデルのアナログターンテーブルを発売しました。来年はアームも含めて30万円くらいの価格帯で新製品を投入しようと考えています。全国の販売店をまわって、この価格帯の新製品を期待していることがわかりました。

また、アナログプレーヤーと合わせて上杉研究所の米GE社、独シーメンス社の真空管を使用した管球式アンプを発売していますが、こちらも大変好評です。管球式について皆さん再評価されているのですが、もう一歩ビジネスとしても踏み切れない。管球式は扱いたいが10年後、15年後どうなるのか、責任をもってメンテナンスしてくれるのか心配ということですよね。このアンプはメンテナンス用に400台分の真空管は売らずにストックしています。20年後、30年後に故障しても安心してお使いいただけるようなサービス体制をとっています。

真空管は中国製の安いものが入ってきています。とりあえず安いから使ってみようという方もいらっしゃいますが、責任をもってあとあとまで面倒見てくれる会社のものを求めている方も多くいらっしゃるので、今後も力入れていきたいと思っております。

やり残したことを追求する
だからこそ専門メーカー

―― 来年以降はどういった展開をお考えでしょうか。

大間知 1953年にティアックが誕生して、来年で創立50周年になりますので、記念モデルを考えています。VRDSの次世代型の商品を提案したいと考えています。光ディスクから情報量を最大限に引き出すという点において、VRDSのメカは高性能化が求められれば求められるほど可能性をもっています。50周年の節目にVRDSのメカを完成の領域にまでもっていきたいですね。

さらに、私どもが是非ともお客様に使って欲しいと感じている高精度のクロックジェネレーターを積極的に展開しようと思っています。プロの世界では、クロックジェネレーターで全てのデジタル機器の同期をとるわけですが、その精度を上げることで音でも映像でもより高性能化が計れます。来年には皆さんに見ていただけると思っています。

また、ハイエンドユーザーに絞ったアンプや、アクセサリーも充実させます。

また、流通としては取り扱い店舗を絞りこみます。専門的な商品は説明商品ですし、愛情を込めて専門店に売っていただこうと考えています。

現在、ハイエンド業界はムード的にシュリンクしています。しかし海外のメーカーは日本に攻勢をかけてきている。どれも個性のある商品ばかりです。このままでいくと海外に席巻される勢いがあります。これからは真に得意な分野を掘り起こして再挑戦することが新しい需要を生み、市場活性化につながる。自分の得意な分野の中でもやり残したことは絶対にあります。そうしたところを追求していけるからこそ、専門メーカーとして残っていられるわけです。ですから、われわれも大いに自信を持ってオリジナリティのある趣味性の高い商品を積極的に提案していきます。

PROFILE

Motoaki Ohmachi

1941年12月13日生まれ。昭和1960年の入社以来、商品企画、宣伝畑を歴任。2002年7月にティアック エソテリック カンパニーのプレジデントに就任。一番の趣味はリスニングオーディオ、コンサートを始めあらゆる音楽鑑賞。