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(株)日立製作所
ユビキタスプラットフォームグループ
ユビキタス営業統括本部
コンシューマ営業本部長

大宿隆洋 氏

日立の総合力を活かして
プラズマWoooワールドを
さらに拡大していく

プラズマを中心に薄型大画面のフラットディスプレイが消費者からの高い支持を集めて急成長している。ブラウン管テレビにかわる新世代のテレビとして同市場を牽引し、先行メーカーとしての強みと充実したラインナップで販売台数トップをひた走る日立、プラズマWoooワールドの拡充を進める同社の大宿営業本部長に、市場動向と今後の展開について話を聞いた。

インタビュー ● Senka21編集長 新保欣二

日立がお客様に提供したいものは
ハイビジョンに対応できる
薄型フラットディスプレイです

市場で急成長を続ける
薄型フラットディスプレイ

―― プラズマを中心に薄型大型テレビは昨年非常に好調ですね。

大宿 昨年度の30型以上のテレビの国内市場規模92万台のうち、プラズマは22%を占めました。これに対して、今年度の市場規模104万台のうち、プラズマの構成比は29%、前年度比146%の伸びを予想しています。30型以上のテレビ全体では1・1倍強の伸びですが、その内訳を見ると、ブラウン管テレビが前年比で70%強と割り込んでいるのに対して、プラズマと液晶テレビを合わせた薄型テレビは46万台で1・8倍程度と非常に大きな伸びが見込まれています。

―― プラズマが登場してまだ3年目ですが急速に市場が拡大してきました。

大宿 薄型で大画面を実現できるプラズマは夢のテレビです。50年前に書かれた「鉄腕アトム」の漫画の中にも、すでに薄型テレビが書かれていたそうです。薄くて大きな画面のテレビがあったらいいなという思いは、当時から誰もが持っていたように思います。少し大げさな言い方になるかもしれませんが、プラズマの登場はその夢を実現し、人々に大きな喜びと感動を与えることができたということではないでしょうか。その結果、大変高価格であるにもかかわらず、消費者の皆様から高い支持を得て、急速に普及が進んでいるということだと思います。

―― 御社は早い時期からプラズマに取り組まれてきましたが、先駆者ならではのご苦労も多かったのでしょうね。

大宿 日立が中央研究所でプラズマに取り組み始めたのは、ずいぶん以前のことでした。研究の過程では画期的な成果を出すことができましたが、なかなか商品化にいたらず、途中で開発活動が途絶えた時期がありました。それが、富士通と組んでFHP(富士通日立プラズマディスプレイ)を立ち上げたことによって、夢を復活させることができました。

―― 当初から「家庭のブラウン管テレビをすべてプラズマに置き換えていく」という明快な戦略を掲げて、マーケティングを展開されましたね。

大宿 いかに魅力的な技術でも、それを受け入れていただけるお客様がいないと、商品としては成立しません。プラズマのマーケティング戦略を立てるための徹底的な市場調査を行った結果、薄型大画面に対するニーズの高さを確認することができました。また、40型や50型といった、より大きな画面に対する要望が強いこともわかりましたが、そこに価格の要素を加えて質問すると、購入したいという人はほぼ皆無でした。ただ、その中で30型で50万円前後なら買ってもいいという方が、1割ほどいらっしゃいました。そこで、まず、そこを突破口に家庭へのプラズマの普及を図っていこうという戦略を立てました。その結果、大きな成功に結びつけることができました。

日立のテレビ事業を
プラズマに全面転換

―― プラズマを出したことによって日立に対するイメージがずいぶん変わってきましたね。

大宿 プラズマの商品化にあたっては、日立のテレビ事業をプラズマにかけていこうという決断をしました。ブラウン管テレビの開発部隊のほとんどをプラズマに振り向けるなど、人、物、金を集中的に投入しました。当時は、市場で販売されているテレビのほぼすべてがブラウン管で、もしプラズマが失敗したら、日立は家庭用テレビの市場を失うことになってしまうというほどの背水の陣で、全社をあげてWooo戦略を推進にあたりました。
32V型の発売後の半年間の当社の売上は、まだ、7〜8割はブラウン管テレビでした。それが、今は、海外も含めてPDPが8〜9割になっています。特に国内市場では、まだ全体の7割程度がブラウン管テレビが占める中で、当社ではほぼ全量がプラズマと液晶テレビの薄型テレビにシフトしてきました。

―― 徹底した選択と集中を行った結果、日立のPDPのシェアが一気に高まりました。昨年の販売台数シェアは断然トップだったようですね。

大宿 ある調査会社が行っている全国の家電量販店の販売集計データでは、当社のプラズマの昨年の年間シェアは台数ベース約40%と、圧倒的な差でトップシェアをいただくことができました。特に年末には50%近いシェアになった週もありました。
当社がプラズマを発売した当初は、32V型がメインで半分以上の構成比でしたが、昨年の暮れあたりから、42V型以上と37V型、32V型が、ほぼ3分の1ずつの構成になっています。画面サイズによってシェアは異なりますが、それぞれのカテゴリーで日立はトップシェアを持っています。市場全体では42V型以上が中心ですが、昨年から、ここでも高いシェアをとれるようになってきました。

クオリティーにこだわり
全機種ハイビジョンに対応

―― 市場の半分近くもの大きなシェアを実現できた理由は何でしょうか。

大宿 ラインナップの豊富さや画質の良さ、インテリア性の高さなどの要素が複合的に重なった結果だと思います。

―― 日立のプラズマは、全モデルハイビジョン対応が大きな特長ですね。

大宿 PDPは安ければいいという商品ではありません。お客様がプラズマに求められているものは、高いけれどいいものを買ったという満足度の高さです。大画面でしかもきれいに見たい。そういうプラズマに対する憧れを実現できるクオリティーへのこだわりから、全機種ハイビジョンパネルを使っています。
プラズマではパネルを構成する画素の構造から、画面サイズを落とした時に高精細映像の実現が難しくなりますが、独自に開発したALIS方式のパネルによって、32V型にいたるまでのすべてのモデルでハイビジョン対応を実現しています。
今年の年末から3大都市圏を皮切りに地上波放送のデジタル化がスタートしますが、この地上デジタルでは相当の比率でハイビジョン番組の放送が計画されています。本格的なハイビジョン時代の到来によって、全機種ハイビジョンパネルを採用している当社のプラズマの実力がさらに発揮されていくことになります。

―― ALIS方式のパネルもそうですが、デバイスを自社で開発していることが、大きな強みになっていますね。

大宿 他社製品との差別化を図る上で、デバイスの自社開発や自社生産は最大の強みになります。何と言ってもテレビの基本性能は画質です。その画質を決定づける最も大きな要素はパネルですが、これを他社から調達する場合には、そのパネルにあわせて回路側で画質を高めるための工夫をしなければいけません。
日立ではパネルと電子回路の両方を自社でやっていますので、自社が最も得意な技術を軸に、素材と回路の両方を統合した高画質設計が可能です。また、開発期間も大幅に短縮することができます。これはPDPに限りませんが、技術の日立として、できるだけ自前の技術でやっていくことをいつも目指しています。

―― 生産面でも同じようなことがいえますね。

大宿 プラズマパネルの生産を始めた直後は、これで事業が成り立つのかと思うほど、歩留まりの悪い商品でしたが、FHPの技術者たちの、絶対にプラズマを普及させていくというすさまじいほどの執念で極めて短期間で急速に改善されてきました。半導体などでもそうですが、新しい技術はそういうものだと思います。
先行メーカーの宿命として様々な問題にぶつかってきましたが、これは常に他社に先んじて解決策を講じることにつながります。その結果、各社がパネルの歩留まりの悪さに苦しんでいる中で、他社に先んじて順調に生産することができるようになったことも、当社のシェアが高まってきた大きな理由です。

プラズマを核に高品位な
薄型ディスプレイを拡充

―― 豊富なラインナップが揃っていることもWoooシリーズの特長ですね。

大宿 ディスプレイ部は、32V、37V、42V、50Vの4サイズを用意しています。32V、37V、42Vにはそれぞれ、地上波のU/Vチューナーのみのモデル、U/Vに加えてBS・110度CSデジタル放送が受信できるモデル、さらに、U/V、BS・110度CSデジタルチューナーに加えて簡単なインターネットブラウジングができる機能を搭載したモデルの3種類を揃えています。プレミアムモデルの50V型は地上波とBS・110度CSデジタル対応機のみの設定で、合計10機種の中から、様々なお客様のご要望にあったものを選べるように非常に幅の広いラインナップを取り揃えています。

―― 液晶テレビにも力を入れられています。プラズマとの棲み分けについてはどのようにお考えでしょうか。

大宿 基本的な考え方は、プラズマをコアに、薄型フラットディスプレイTV全体のラインナップを拡充していこうということです。薄型フラットディスプレイという点では、PDPも液晶テレビも同じです。当社ではハイビジョンに対応できる画素を持たせるということをコンセプトにしていますので、プラズマの下限サイズは32V型で、それ以下は液晶などプラズマ以外のデバイスを使っていくことになると思います。

―― プラズマ対液晶という図式で対比するものではないということですね。

大宿 お客様に提供したいことはハイビジョンに対応できる薄型フラットディスプレイということです。画面サイズやお客様の使用環境などに応じて、個々の製品ごとにどんなデバイスをどのように使うかはメーカー側の事情で、表立って論争するようなことではないと思います。
たとえば、プラズマは寿命や消費電力の点で問題があるような言われ方をされていますが、そのすべてが事実ではありません。当社ではパネルの寿命を実際に検証していますが、1日16時間使用した場合で約10年です。実際にはこんなに長時間つけっぱなしということはないでしょうから、パネル単体としての寿命はもっと長くなります。これに対してブラウン管の寿命は1日9時間使用した場合で、約10年間ですから、プラズマパネルの寿命は、むしろブラウン管よりも長いくらいです。
消費電力についても、日立が採用しているALIS方式では放電電極の偶数ラインと奇数ラインを交互に点灯させる方式をとっていますので、同じ画面サイズ同士の比較では、一部の液晶テレビよりもむしろ低いほどです。
最終的にはお客様が決める問題ですが、お店でもそれぞれのお客様にとって、使用環境を含めて、何が最適かを適確に説明していただくことが大切です。

日立の総合力を生かして
Woooワールドを拡大

―― プラズマを中心にしたWoooワールド構想を掲げられていますが、その中のひとつとしてDVDビデオカメラを他社に先駆けて商品化されていますね。

大宿 日立ではブラウン管からプラズマへ、アナログからデジタルへ、テープからディスクへということを軸にWoooワールド構想を進めています。その中で重要なポジションを占めるもののひとつが、DVDビデオカメラです。
今、録画機の世界では急速にテープからディスクへとメディアが変わってきています。テープに比べてディスクは保存性が良く、頭出しやサーチなどの操作や編集も簡単です。PCとの親和性の高さも大きな魅力のひとつです。DVDビデオカメラは、薄型テレビ同様に夢のある商品として、8〜9月の夏休みや運動会シーズンを起爆材にして、大々的に販売していきたいと思います。

―― 先日、家庭用液晶プロジェクターを発表されましたが、これもWoooワールドの一角を占める商品ですね。

大宿 これは、まさに家庭の中で映画館を再現しようというものです。
当社はデータプロジェクターの世界では高い実績がありますが、民生用の液晶プロジェクターは今までほとんどありませんでした。家庭用液晶プロジェクターに対する満足度を調査したところ、液晶プロジェクターから出る騒音や、スクリーンや本体の設置のしやすさなどで、不満の多い商品であることがわかりました。
そこで、高画質化や高コントラスト化に加えて、業界初の光学2倍ズームレンズを搭載して、80型の大画面を2・1m〜4・2mという幅広い投射距離を実現しました。また、映画を楽しむ時に気になる冷却用ファンノイズもクラス最高水準の静音性を実現するなど、従来の家庭用プロジェクターに対する不満を解消するものになっています。
プラズマよりもっと大きな画面で見たいという方や、プラズマは高すぎて買えないけど手軽にホームシアターを楽しみたいというお客様に向けた商品で、これもWoooワールドを構成する商品です。
ホームシアターやネットワークなどAV業界は非常に夢のある業界です。当社には、様々な分野に自前の技術が蓄積されていますので、その総合力を生かして、さらにWoooワールドを拡充していきます。ご期待ください。

 

◆PROFILE◆

Takahiro Ojuku

1949年6月20日生まれ。愛媛県宇和島出身。74年3月 関西大学卒業。 同年4月 日立製作所入社、家庭電化事業部配属以来、洗濯機を中心とした白モノ製品の製品担当部長代理、営業部長等を歴任。 03年4月より現職。 趣味は山登り、読書、旅行、映画