トップインタビュー (株)エイデン 岡嶋昇一 氏 地域密着の専門量販として 家電流通の激戦が続く中、本年4月に開催されたNEBAの総会で第二期岡嶋体制がスタートした。戦う集団としてのNEBAを標榜し牽引する一方で、エイデンの社長としてデオデオとの経営統合を加速する岡嶋氏。販売の質が一層問われてきている今、得意とする地域密着をさらに強化して流通の激戦に立ち向かう岡嶋昇一氏に聞いた インタビュー ● 音元出版社長 和田光征 NEBA系の最大の強みは 想像以上のスピードで ―― 先日のNEBAの総会で第二期岡嶋体制がスタートしました。総会後に開催された懇親会には非常に多くの関係者が出席して、NEBAに対する期待の高さが感じられました。最初に、NEBAの会長としての一期目の二年間の振り返りと、二期目の課題を聞かせてください。 岡嶋 2年前にNEBAの会長に就任したのと、ほぼ同じ時期にエディオングループの事業統合を発表しました。その時に私は「これから業界は大変な勢いで再編と淘汰が始まります。その孵卵期に、NEBAの会員の皆様方が合従連衡をしていきながら勝ち残っていけるような環境を、NEBAとして是非作っていきたい」ということを話しました。この2年間を振り返ってみると、私が想像していた以上のスピードで業界の再編と淘汰が進んできました。 デフレが深刻化する中で、店舗の大型化が進み競争が非常に激化してきました。それに加えて、ITバブルがはじけて成長商品のパソコンが不振になるという大変な変化がありました。そういう環境にあって、NEBAの会員企業でも合従連衡が進んできました。 流通の上位寡占が急速に進んでいますので、誰にでも平等にチャンスが与えられるわけではありません。チャンスをしっかりつかんで努力されたところはこの2年間で成長を遂げられましたが、一方で、非常に残念なことですが事業をやめられたり他の企業の傘下に入られたところもあります。 業界再編とあわせて、業界の公正な競争環境の実現も大きなテーマです。行政もフェアな競争になるような努力をしていただいてはいますが、非常に厳しい競争の中で思い通りになりません。また、新しい商売のあり方もいろいろ出てきています。この問題については、なかなか成果が出てきていません。 ―― ここ数年の間にカメラ系や全国展開を進める巨大家電量販店が伸びてきました。 岡嶋 確かにカメラ系や全国展開しているヤマダさんやコジマさんは成長を遂げられましたが、上位寡占が進む中で、カメラ系同士で熾烈な戦いがなされていますし、ヤマダさんやコジマさんは熾烈な価格競争をしています。お互いのグループの中、それからグループ同士での戦いになっていてどこも安泰というところはないように思います。 ―― いかにして差別化をしていくかが競争に勝ち残っていくキーですね。 岡嶋 カメラ系は駅前に巨艦店を構えて、ないものはないというほどの豊富な品揃えをしています。その上で、ポイントをつけるという明快な差別化をしています。また、ヤマダさんやコジマさんなどは全国展開のネットワークと市場価格を重視した戦略を展開しています。 その中でNEBA系は他人の真似をするのではなく、自分たちのスタンスを明確にして消費者から見てはっきり価値がわかるような差別化を作っていくかということが問われています。 地域のお客様からの信頼が ―― NEBAの加盟店の多くの店は、地域にしっかり根を下ろしてやってこられました。今あらためてその特性を明確にされようとしていますね。 岡嶋 90年代前半までのNEBA店は、150坪ほどの広さの店舗と10名くらいの販売員で地域に密着したサービスを強みにしてきました。それが、大店法の規制緩和をきっかけに90年代後半は大型店競争になりました。当時は大型化したら売上げが伸びるという時代で、品揃えの豊富さと売り場面積の大規模化が競争優位の最大のポイントでした。 ところが2000年以降になると、店舗の大型化競争が進んだ結果、大型店同士の競争では品揃えの豊富さや店舗の大型化が競争優位に立つための差別化にならなくなってきました。 それでは、これから何で差別化をしていくかということになりますが、ひとつは専門知識や接客技術などを持つ、もっと質の高い社員の育成です。もうひとつは、その店の明確な差別化ポイントをいかに打ち出していくかです。ヤマダさんがあれだけ大きくなったのは、それだけお客様が評価している面があるからです。 一方、NEBAはどうかというと、価格はそこそこだけどその地域のお客様から安心感と信頼感を持たれているということです。たとえば、中部では婚礼の時はエイデンで買いたいというようなことがあります。人生の大きな節目での買い物はきちんとしたお店でしたいという気持ちがあります。 NEBAにはもともとそういう面での強みがあったはずです。ところが90年代後半からの売り場面積の競争の中で、自分たちの本来のスタンスを忘れた結果、NEBAグループ全体での売上げでは少し縮小してしまいました。しかし、その中でしっかりした自分たちの企業のスタンスをはっきりさせているところは元気です。 ―― エディオングループではデンコードーさんも頑張られていますね。 岡嶋 デンコードーさんは近くにコジマさんやヤマダさんやヨドバシさんも出店したことから大変な苦労をされました。その中で、井上社長が非常に地道に企業改革をされたということではないでしょうか。一時期幹部の皆様が危機感を持って全国のいろいろな店を回られました。その中で相当工夫して今の形を考え出されたと思います。それが今、自信になっているのでしょうね。 相手の得意な分野で戦ってはいけません。ポイントできたらポイントで返すというのでは、相手の方が得意に決まっています。同じ土俵で戦えばどちらかが倒れるまでやるしかありませんが、相手と違う土俵で戦えばお互いに共存できます。 地域密着型の特性を活かした ―― 私は常々新製品を絶対に逃してはいけないと言っています。旬のモノを早く仕入れて売り切る。話題の新製品をいち早く見たいというのは人間の心理で、それをいち早く持っているところに先行者利益が生まれます。 岡嶋 PCの市場が極端に縮小してきましたが、それに伴って売り場が減っているかというと縮小しきれていません。一方でデジタルAVなどの新しい商品が伸びていますが、それにも十分な対応がとれていません。当社でも、少し前に作った店では需要とミスマッチした売り場構成になっています。 日々でいくとそれほど変化していないように見えますが、一月、三ヵ月、六ヵ月の単位で見るとガラガラ変わってきています。非常に早いスピードで変化する市場や商品に対して、きめ細かくタイムリーな売場展開ができるかどうかの競争です。たとえばホームシアター売り場でも、以前はホームシアターコーナーを作りましたが、もうそれだけでは収まりません。本格的なシアタールームも必要です。 ―― エイデンはプラズマの付加価値販売に熱心に取り組んでいるという話をメーカーからよく聞きます。 岡嶋 そんなに褒められるほどのことをやっているわけではありません。ただ、会社の方針として付加価値販売を目指しています。単品商売では所詮価格競争から抜け出せません。われわれがお客様にとって支持され必要とされるためには、お客様が困っていることをお手伝いしてあげることが必要です。 たとえば、ホームシアターでは、こんな組み合わせでこんなに簡単に楽しんでいただけますよという提案者というか通訳の役割りをするとか、いろいろな機器をひとつのリモコンで簡単にコントロールできるようにしてあげることなどです。せっかく素晴らしいテクノロジーが出てきていますので、それをいかにしてお客様にトータルで提案していけるかがポイントです。 今リフォームが脚光を浴びていますが、お客様には工務店は敷居が高くて行きづらいという気持ちがありますが。これに対してわれわれは地域に馴れ親しまれた町の電気屋です。トータルリフォームまではできないにしても、床暖房を入れたりシステムキッチンのコンロだけを換えたいといった時に、手軽にアドバイスができて工事やセッティングまで請け負うようにしていかないといけません。 カメラ系さんにはカメラ系さんの魅力があります。ヤマダさんのように全国展開をしているところも、これはこれで魅力があります。 その中でわれわれは、ヨドバシさんやヤマダさんなどにできないことを担わないといけまません。その時に地域密着が強みのNEBA系としては、少し泥臭いかもしれませんが手間がかかるところを担っていくということになるのではないでしょうか。 付加価値販売に対する ―― 市場での熾烈な価格競争の中で、メーカーはNEBAに対して付加価値販売への期待が高まっています。 岡嶋 プラズマテレビが登場してきた時に、これは価格訴求の単品商売をする商品ではないということでホームシアターとのセット販売を提案しました。ところが、結局、それもだんだんセットでいくらということになってしまいました。 商品の楽しさやお客様が困っていることを解決するためのノウハウを、われわれが持っていなかったために、せっかく付加価値販売できる商材であるにもかかわらず結局価格での商売になってしまいました。 単品だけの販売では価格はどこまででも落ちていきます。お客様が困っていることをよく整理して、システムインストールなどお客様にとって面倒なことや難しいことを解決してあげられるような売り方や提案をビジネス化していかなければいけません。 ―― 付加価値販売を徹底するためには、それをきちんと評価できる制度を整えることが重要ですね。 岡嶋 個人に対するインセンティブをはっきりさせないといけません。NEBAの会員企業では、頑張った人やそのための準備をして成果が上がった人にきちんとした報酬を与えるようなシステム作りに取り組み始めています。 社員の質を高めていく上では資格制度も有効です。公的な資格としては家電アドバイザーなどがありますが、もう少し狭いところではPCメーカーが独自でインストラクターの資格を作ったりしています。 オーディオメーカーでも、こういう商品をこういうシステムで販売して欲しい。そのためにはこういう知識がいりますよということがあると思います。そのための資格をきちんと制度化して、自社の商品は一定のレベルの販売員がいる店にしか出しませんというくらいのことを言ってもいいと思います。 ホームシアターでは、これからは単に商品が揃っているということだけではなくて、部屋の環境なども含めたトータルなコーディネートを提案できるようにしていかないといけません。今のままでは、ホームシアターもまた価格競争の渦の中に入っていってしまうように思います。 本格的な事業統合への意志と ―― 先日エディオンは、久保社長、岡嶋副社長という新しい体制を発表しました。その背景を聞かせてください。 岡嶋 たまたまギガスさんのエディオン事業統合の話が消えた時に新体制を発表しましたので、岡嶋社長引責かということが新聞で書かれたりしましたがそういうことではありません。 久保さんが会長で私が社長ということでエディオンをスタートさせましたが、その時にどちらが主体なのか、また、本当に両社を統合していく意思があるのかということについて疑問をもたれていた方も多かったと思います。 エディオンがスタートして一年経ちました。今後、本格的に事業の統合を進めていくためには、今の二頭政治のような形ではなく、はっきりした役割分担をしなければいけません。そのことを私の方から久保さんに提案して徹底的に話し合いました。 ではその時に私と久保さんのどちらがエディオンのリーダーとして活動していけるかということですが、久保さんは友則さんをデオデオの社長に据えたうえで会長になってフリーな立場で動けるようにされています。これに対して、私にはエイデンの社長としての仕事があります。 そういうことを考えると久保さんがエディオンのリーダーになって、私はエディオンの中では久保さんを全面的にサポートする一方でエイデンという事業会社をしっかりと運営していくという役割を果たしていくのが一番自然です。 お互いに遠慮しあったり、反対に俺が俺がと言っていたら統合は進みません。われわれの目標はエディオンを強くして業界の中で勝ち残り組にしていくことです。エイデンとデオデオの事業統合に対する決意とそれを実現していくための体制作りを明確な形で意思表示できたと思っています。 ―― 最後に年末商戦をどのようにご覧になっていますか。 岡嶋 今年の前半は悪くありませんでした。第一四半期はパソコンが不振で、第二四半期は冷夏で季節商品が苦労しましたが、その他の商品が非常に好調です。テレビは6月が少し下がりましたが、前半をならすと伸びています。液晶テレビは前年の倍くらいのペースで伸びていますし、DVDレコーダーにいたっては前年の3倍くらいと大幅に伸びています。デジタルAV商品の大きな伸びに伴って、ホームシアターも好調です。白物も洗乾一体型洗濯機が好調で、パソコンも6月以降、回復基調に入ってきました。 後半は、季節要因がなくなるうえに、前述のようにパソコンも復活してきました。東名阪では地上デジタル放送が年末から始まります。6月から東芝とシャープが地上デジタルに対応した商品を出しましたが、2機種とも非常に好調です。地上デジタルは、まさに毎日見ているテレビが変わるということで、このインパクトは衛星とは比較になりません。10月〜11月には各社のラインナップが出揃ってきます。 高画質のコンテンツが地上波から送り出されることによって、大画面化にさらに拍車がかかります。そして大画面はホームシアターへとつながっていきます。その時に、われわれがきちんとシステム提案をしていけば、後半は大変明るいと思います。
◆PROFILE◆ Shoichi Okajima 1950年11月22日生まれ。74年成蹊大学法学部を卒業後、75年4月にエイデン入社。81年取締役、87年常務取締役、88年代表取締役専務、91年代表取締役副社長、93年代表取締役社長に就任。01年4月にNEBA会長に就任。02年デオデオの久保社長とともにエディオンを設立。 |