トップインタビュー (株)ソニーマーケティング 宮下次衛 氏 お客様に対して 薄型テレビやDVDレコーダーの分野でソニーが、いよいよ本格的に動き出した。プラズマ、液晶テレビ、DVDレコーダーと意欲的な製品を続々と発表。今まで地下に溜まっていたマグマが大噴火をはじめたかのように、一気にラインナップを整備してきた。4月の社長就任以来、意欲的な活動を展開するソニーマーケティングの宮下次衛氏に、新体制の考え方や今後の戦略を聞いた。 インタビュー ● 音元出版社長 和田光征 いかに情報インフラが進んでも お客様と販売店さんの方に 営業としての原点回帰 ―― 社長に就任された時に、まず営業としての原点回帰と商品の原点回帰というテーマを掲げられました。最初にその点について説明してください。 宮下 われわれソニーマーケティングにとって、今必要なことは営業としての原点回帰と商品としての原点回帰の2つです。 ソニーマーケティングは会社の名前にマーケティングという名前がついていますが、その活動の半分はセールスカンパニーです。ですから、“セールスカンパニーらしさ”をもっと前面に出していこうということで、営業としての原点回帰という言葉を使わせていただきました。 営業としての原点回帰の中でもっとも大切なことは、特約店の皆様方とのコミュニケーションです。そこで私自身も特約店さんとのコミュニケーションを図るので、営業の皆さんももっと積極的にコミュニケーションを図ってくださいということを言ってきました。自らにプレッシャーをかけるという意味でも、100日、100法人を回るという無謀ともいえるような訪問計画をぶち上げました。 もちろん、たった一回の訪問だけで特約店さんとのコミュニケーションが図れるとは思っていませんが、一回目がないと二回目はありません。またソニーマーケティングのお得様にはいわゆる電気店さん以外にも放送局やプロダクションハウス、メディアやバッテリー関係を取り扱っていらっしゃる問屋さんもあります。時間の許す限り、極力多岐にわたってご挨拶をしてきたつもりです。 私は営業の人に対して、もっとお店に足を運んで、お互いの顔と顔を見ながらいろいろなことを話し合ってくださいと言っています。情報を伝達するためのインフラという点では、当社は相当進んでいると思います。ホームページも充実させていますし、様々な商品情報や物流情報などを送り出すためのインフラも整備しています。でも、最後はやはり顔と顔を合わせないと本当のコミュニケーションはできません。メールやwebはあくまでも情報の伝達手段であって、コミュニケーション手段としては万全ではありません。 ―― 今回、宮下さんが社長として登場されたことで、販売店さんは大きな期待をしています。宮下社長の経歴を簡単に紹介してください。 宮下 私はソニーに入社して30年くらい経ちますが、ソニー商事、ソニーの国内営業、ソニーマーケティングも含めていわゆる本部に席を置いたことは10年くらいしかありません。 私がソニー商事に入社したのは昭和48年でしたが、わずか3カ月も経たないうちに、当時ソニーが海外の商品を日本に輸入販売するために設立したソニーインターナショナルハウスウェアーズという会社で、アメリカ製の冷蔵庫やコーヒーメーカーなどの営業を数年間担当しました。それが私のセールスの原点です。 当時はソニーに入社しながらなぜソニーブランドがついていない冷蔵庫を売らなければいけないのかという思いがありました。でも、今になってみると、良い経験をさせてもらったと思っています。 その後、ソニーの国内営業に戻ったあと今度は海外研修制度に自ら応募して1980年からソニーオブカナダに赴任しました。そこで3年半ほど放送局関係や業務用VTRの仕事をしました。 カナダから帰国した時にソニー商事はソニー株式会社の国内営業本部になっていましたが、そこでウォークマンなどの販売を担当していたゼネラルオーディオ営業部に配属されました。その後、四国ソニーの代表や企画室などの業務をした後に、再度カナダに赴任して2000年の春に帰国しました。 その後、秋葉原の支社長を1年勤めたあと、ソニーエリクソンの設立に伴って2年間そちらで仕事をした後、今年の4月からソニーマーケティングの社長になりました。 年末に向けてフラットテレビと ―― つい最近までソニーは2つの点で一部の販売店から不満を持たれていたように思います。成長商品への乗り遅れ、オープンプライスです。これが宮下社長の登場によって変わっていくように思います。 宮下 一点目の成長商品への乗り遅れについては否定しません。特にフラットテレビとDVDレコーダーで他社と比較して出遅れたことは事実です。ただ、私が着任する前から、ソニーとしてこの問題への対策に手を付け始めていました。若干遅くなりましたが、この秋口からプラズマや液晶、DVDレコーダーのラインナップが一気に揃ってきます。 二点目のオープンプライスですが、これを導入した背景に、メーカー希望小売価格をつけて出した商品が店頭でいきなり2割引、3割引で販売されるということでいいのか、希望小売価格は形骸化しているのではないのかという疑問が、当時本社だけでなく販売現場でもありました。 オープンプライスについては、今の段階ですべての商品に適用するには難しい問題があります。例えば、プラズマや液晶のように比較的新しく出てきた商品では、お客様の方でそれらの商品にどれくらいの価値があるかといことについての目安がないとわかりにくいということで、最近は一部の商品については希望小売価格を付け始めています。 今はインターネットが発達していますのでwebを使っていろいろな店の販売価格を知ることができますが、一般のお客様にとって、webはまだ誰にでも使える手段にはなっていません。 当面はわれわれも他社さんも含めていろいろ模索していくことになると思います。お客様の立場からも、お店の皆様方にもいろいろなご意見があると思います。みんなが納得できるような、提供方法を模索していきたいと思います。 ―― 一律にオープンプライスを適用されたことに問題があったように思います。 宮下 必ずしもすべての商品を一律にオープンプライスにした訳ではありません。たとえばホームシアターのようにシステムを組まなければいけないような商品があります。その時にお客様はカタログを見ながらご自分の好みに合わせてシステムを組んでいくことになりますが、希望小売価格がカタログに記載されていないと組み様がないという問題があります。メーカーではシステム提案が必要だと言いながら、オープン価格ではお客様がいくらで買えるのかということがわかりづらいということについては反省しています。 お客様に商品で感動や驚きを ―― そういう過去の問題を修復しながら前向きに展開していくことが、販売店の方々から宮下社長に期待されている点だと思います。 次に商品の原点回帰についてですが、私はソニーブランドとは、地下にたまっているマグマのようなものだと思います。ソニーらしい商品が出ると、地下にたまっていたマグマが一気に噴出してくるように思います。 宮下 マグマは噴火口が一箇所あくと大爆発します。そういう意味では早く一箇所あけないといけないと思っています。今回特約店さんを回ってみて強く感じたことは、もっとソニーに頑張って欲しいという思いを皆様から持たれているということでした。 ソニーは基本的に製造メーカーです。世界中でもそうですが特に日本においてソニーブランドは、お客様から感動や驚きを与えるような商品を定期的に出していくことを期待されているブランドだと思います。エンドユーザーもそうでしょうし、ディーラーさんもそうだと思います。そういう意味では本当にありがたいことだと思っています。 ―― ソニーは薄型フラットテレビのパネルを自社で製造していないので性能面で不利だと言う人もいますが、今後は優れたエンジン部を持っているかどうかも勝負になってくるのではないでしょうか。 宮下 われわれがそれを言うと負け惜しみに聞こえますので、あまり触れないようにしていますがそのとおりです。 プラズマにしても液晶にしてもパネルの良し悪しはもちろん大切ですが、それだけですべてが決まるわけではありません。それよりもむしろ当社のベガエンジンのような優れたエンジン部を開発し、それをそれぞれのパネルに最適化していくという回路技術やブランディングが、これからの大きな差別化ポイントになっていくと思います。 ―― この年末に向けた商品戦略のキーは何でしょうか。 宮下 商品面での重点戦略には2つあります。ひとつはいわゆる薄型フラットテレビのラインナップの整備です。プラズマと液晶テレビの組み合わせで、各インチ別にラインナップを揃えていきます。その中で、いかにしてソニーらしさを出していくかということになりますと、やはりベガエンジンが最大のポイントになります。 もうひとつは、DVDレコーダーです。ここも相当遅れていました。これについては私が社長になった4月以前からすでにプロジェクトがスタートしていたもので、年末商戦ではラインナップが揃ってきます。DVDレコーダーでも他メーカーさんと差別化できる内容を盛り込んでいますので、それが一番大きなポイントだと思います。 大画面とオーディオとの ―― ハンディカムは相変わらず堅調ですし、デジカメにも相当投資していますね。 宮下 デジカメは現在のシリーズを継続しながら、年末にはそれとは違うセールスポイントを持った商品にもチャレンジしていこうと思っています。ハンディカムの競争相手は家電メーメーカーですが、デジカメでの競争相手はカメラメーカーになります。 そういうことも十分考えて、デザインも含めてお客様からソニーだなと思っていただけるような商品の準備を年末に向けて進めています。 ―― ホームシアターでは、第4のディスプレイとしてのプロジェクターが年末あたりから面白い動きをしてきそうですね。 宮下 当社ではホームシアター用のオーディオが結構売れています。ホームシアターを訴求する時に2通りあると思います。 ひとつはプロジェクターでスクリーンに映す方法です。もうひとつは大画面のPDPもホームシアターを構成するはずです。ですから、プラズマを販売する時にそれを単体で売るのではなくて、ホームシアター用のオーディオセットと組み合わせて訴求していくことが大切です。ようやくホームシアターを語れる時がきたように思います。チャンスですね。 ―― お客様の方からオーディオシステムと組み合わせることが当たり前のように感じてもらえるような仕組みを作っていかないといけませんね。 宮下 たとえば大型のプラズマに組み合わせるような5・1chのオーディオセットの価格が、それほど高くないということをお客様はあまり知らないように思います。 われわれもベガシアターでずいぶん訴求した時がありましたが、プラズマや液晶テレビといった大画面のフラットテレビが増えてくるようになってくると、さらに訴求しやすくなっていくと思います。 お客様とお店の満足度を ―― 今年の年末には強力な商品を一気に投入されるとのことですが、ソニーマーケティングとして中期的にはどのような計画をお持ちですか。 宮下 ひとつはどのような会社のオペレーションをしていくかという問題です。当社が今やらなければいけないことは、お客様に対してソニーとしての窓口をわかりやすく整備するということです。近年、商品の多様化・多機能化に伴って商品別の専門問い合わせ窓口を持つようになり、問い合わせ窓口が分散化しています。問い合わせの内容によっては、お客様に再度電話をお願いしているようなことがあります。これを一本化してお客様からかかってきた電話に対して、一箇所でお答えができるような態勢を早急に立ち上げたいと思っています。 販売店さんに対しても、受注・物流絡みで的確な情報を流せるようなシステム作りを進めていきたいと思っています。 ソニーの中での情報を共有化することによって、お客様がソニーのどこに問い合わせをされた場合でもすぐに返事をできるようなインフラを早急に作ろうと思っています。一番大切なことは、お客様とお店の方にもっと満足していただけるような体制を敷くということです。もしそれが今のソニーのシステムに合わなければ、社内のシステムをそれにあわせて変えればいいだけのことです。 ―― 商品やマーケティング面ではいかがでしょうか。 宮下 3年先の2006年はソニーの創立60周年にあたります。それに向けて、今、さまざまな商品の強化プロジェクトがスタートしています。その中には4月からスタートしたものもありますが、一年以上前からスタートしていたものもあります。 それらの商品がこれから次々に立ち上がってきます。それらの商品をカンパニーと一緒になって立ち上げていくことと、マーケットに対してどういうプロモーションを打っていくか、どんなメッセージを送り出していくかということがマーケティング面での大きな仕事になっていきます。 さらに進む流通の上位寡占と ―― ここ数年で流通が激変してきました。今後さらに流通再編が進んでいくと思われますがいかがでしょうか。 宮下 これは、われわれメーカーがどうこうできることではありませんが、事業統合以外に様々なアライアンスも進んでいって、流通の寡占化は進むだろうと思っています。 ―― もう一方で地域密着型の専門店への2極分化も進んでいくでしょうね。 宮下 われわれの場合、ソニーショップさんが全国に1100店ほどあります。売上構成比でいいますと約1割ほどを持たれています。幸いなことにソニーショップさんは相当力がありますし、後継者もいらっしゃいますので、いろいろな形でサポートをしていこうと思っています。 特にホームシアター系やコクーンなどではネットワーク化が避けられません。そうなるといろいろな意味で繋ぎこみが必要になってきます。そういう部分は地域店さん、特にソニーショップにとって得意な分野ですので、十分なサポートをしていこうと思います。 ネットワーク時代に活きる ―― いよいよ今年の年末から地上デジタル放送が始まります。ブロードバンドの普及を背景にしたネットワーク化もどんどん進んでいく中で、ソニーの強みを活かしていくためにどのようなビジョンを持たれていますか。 宮下 今はまだブロードバンド化やネットワーク化ということが意識されていますが、あと3年もしますとほとんどの家庭でネットワーク化が進んで、ブロードバンド化が当たり前になっているように思います。 そうなってくると、さまざまな商品が繋がってくることになります。ソニーではネットワーク化というテーマを掲げて繋ぎこみの部分でいろいろな手を打ってきました。正直に言って本当に苦労しましたが、実際にブロードバンド化が進んで、さまざまな商品が繋がってきた時に、先行して苦労してきたことによるアドバンテージが絶対に出てくると思っています。 ただ、ネットワーク化が進んでいろいろな商品が繋がってくると言っても、個々の商品に求められる基本的な要素はかわりません。そこで一番大切なことはやはり個々の商品としての魅力の高さです。ですからわれわれ自身もそこにもっと磨きをかけていかなければいけないと思っています。 ―― 国内営業の皆さんは相当燃え上がっていますか。 宮下 この4月以降、営業に達成感が出てきたように思います。やれば実績が出てくる。営業マンがこれを実感することが大きいと思います。これから年末にかけて続々と新しい商品が出てきますので、ますます元気が出て来ると思います。 ―― 今後が楽しみですね。
◆PROFILE◆ Tsugie Miyashita 1950年8月1日生まれ。鹿児島県出身。73年3月九州大学経済学部卒業。73年4月ソニー商事鞄社。73年5月ソニーインターナショナルハウスウエアズ梶B78年東京中央ソニー販売梶B80年ソニーオブカナダに赴任。83年ソニー轄蒼煢c業本部ゼネラルオーディオ営業部。90年四国ソニー販売椛纒\取締役常務。92年ソニー轄蒼煢c業本部。93年国内営業本部ゼネラルオーディオ営業部統括部長。96年ソニーオブカナダ副社長。00年4月ソニーマーケティング鞄結梠2支社支社長。01年4月デジタルテレコミュニケーションビジネスセクタープレジデント。01年10月ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ鰹務取締役。03年4月ソニーマーケティング椛纒\取締役社長に就任。現在に至る。 |