トップインタビュー 三洋電機(株) 岩佐芳郎 氏 従来から進めてきた 昨年発売された家庭用プロジェクター「LP−Z1」は、画質の高さと徹底したユーザー志向の製品作りが市場から高く支持されて大ヒット作となった。同社では企業グループ制とビジネスユニット制を組み合わせた大幅な組織変更をこの4月に実施。コンシューマ企業グループAVソリューションズカンパニーの社長として同社のAV事業を指揮する岩佐氏に最近の動向と今後の戦略を聞いた。 インタビュー ● 音元出版社長 和田光征 新しい商品で新しい市場を 商品ごとの小さなくくりで ―― 今年の4月1日付けで大幅な組織変更をされましたが、その狙いからご説明ください。 岩佐 4月からスタートした新しい組織では、三洋電機のすべての事業を4つの企業グループに分けた上で、その中にカンパニーを作って、自立型の経営体制に再編しました。さらにそれぞれのカンパニーの傘下にはビジネスユニットが設けられています。それぞれの商品事業をできるだけ小さな単位でくくることによって、目標の設定を明確にしてそれを確実に達成していくことで、収益力を高めていこうということです。 私が担当していますAVソリューションズカンパニーは、コンシューマ企業グループに属し、18のビジネスユニットが傘下に入っています。その中には米国でテレビを主体に生産しているSMC(サンヨー・マニュファクチュアリング・コーポレーション)や英国でTVを製造しているSIUK(サンヨー工業(英国)株式会社)、中国の蛇口でオーディオやTVを作っている三洋電機(蛇口)有限公司などといった海外法人も含まれています。 ―― 物作りから販売までをトータルでカバーする組織になっていることも特長ですね。 岩佐 商品ごとにくくって、開発から、製造・販売までを一気通貫の体制でみていくと、横串でマネージメントをしていくことができます。今は商品はグローバルで、マーケティングはエリアごとにやっていくことが必要な時代です。その中で、自分たちが携わっている事業の採算性や投資回収について、開発から生産、販売に関わる全員が考えることが重要です。 ―― 今まで横断化プロジェクトで数々の成果を上げてきました。これについては今後どうなっていくのでしょうか。 岩佐 以前はそれぞれが属している組織が分かれていたために横断化プロジェクトとしてやってきましたが、新しい組織では、それをよりシステマティックな形で展開できるようになりました。 たとえば、PDPなどの大画面テレビで通常のテレビ音声のグレードを超えた優れた音質を搭載したいという時に、従来はテレビの開発チームとオーディオの開発チームを組み合わせた横断化プロジェクトを組んできました。これに対して、今回の組織ではテレビの開発チームもオーディオの開発チームもAVソリューションズカンパニーの中ですべてをカバーしていますので、一体化した組織の中で展開することが可能になりました。 これからますます商品の複合化やネットワーク化が進んでいきます。一方でコンシューマ企業グループとしてみれば、今後の横断化プロジェクトは、たとえばAV機器と白物家電との組み合わせなどといった、さらに大きな枠組みで展開されていくことになると思います。 世界規模で加速する ―― グローバルな規模で激しく市場が変化していく中で、より機動的な展開をしていこうということですね。 岩佐 それぞれの商品分野でメリハリを強くつけていきます。例えば、テレビやビデオレコーダーの世界ではアナログからデジタルへの急速な転換が進んでいます。テレビは従来のブラウン管からPDPや液晶などの薄型フラットデジタルテレビに、またVTRはDVDレコーダーへと、グローバルな規模で変わっていくことは明白です。 日本市場を中心に展開されてきた薄型フラットテレビは、この半年間に予想以上のスピードでグローバル展開になってきました。欧米や中国の市場でも店頭での展示が急速に増えています。今後、加速度的に需要が拡大していくことが見込まれていますので、さらに強化していきたいと思っています。 ―― 薄型テレビは段階的変化から爆発的な変化に移ろうとしていますね。 岩佐 特に日本市場では逆転現象が顕著にあらわれてきています。金額ベースではすでに薄型フラットテレビは従来のブラウン管タイプのテレビを逆転しています。今は大画面テレビで薄型フラットタイプへの切り替わりが目立っていますが、薄型フラットテレビは大画面だけではありません。今後、さらにコストダウンを進めていくことによって中・小型の領域でもブラウン管テレビからの切り替えを加速していかなければいけません。 ―― 薄型テレビではPDPに加えて液晶の大型化も進んできましたね。 岩佐 液晶テレビは今後大型化とコストダウンが一層進んでいきます。当社としてはPDPと液晶テレビのどちらが優位かということではなく、薄型フラットテレビの中で、お客様の要望を見据えた商品展開をしていきたいと思っています。 エンジン部での差別化が ―― 液晶テレビやPDPではエンジン部の競争に入ってきましたね。 岩佐 液晶テレビやPDPなどのデジタルテレビの開発では、基本的な画作りでは従来のブラウン管テレビと同じですが作り方はまったく違います。 もちろんパネルの性能の良し悪しもありますが、それに加えてそれを使っていかに素晴らしい画作りをできるかが大きなポイントになってきています。また、使い勝手も大切です。 市場の急激な成長を背景に、パネルメーカーさんでは急速な勢いで技術革新とコストダウンが進んでいます。最近ではパネルの基本部分での性能に以前ほど大きな差がなくなってきましたので、これからは画作りに関わるエンジン部の勝負になっていきます。 先日発表したPDPと30V型の液晶テレビでは、表現力が豊かで高品位な映像を実現するフルデジタルの「ビゾンエンジン」を搭載しています。これはプログレッシブコンバーターやダイナミックドライバーなどによって基本的な画作りの部分での高品位化を実現するもので、ハイビジョン信号だけでなく、地上アナログ放送や、DVD、VTRなどでも標準映像信号をハイビジョンフォーマットに変換して美しい映像を楽しんでいただくことができます。 画質は常に改善し続けていくことが必要です。当社ではこれを社内外に公言して、さらに高画質化を進めていきます。 ―― 画面が大きくなると、音もいいものが求められるようになりますね。 岩佐 先ほども申し上げましたように今回の組織ではテレビの開発チームとオーディオの開発チームが同じカンパニーに入りましたので、AVの融合が非常にスムーズになりました。今後、ビゾンエンジンによる画作りと音作りを一緒に進めていきたいと思っています。 商品はグローバル ―― AV製品では中国でも設計展開されていますね。 岩佐 中国の河南省地区にテレビとオーディオそれぞれの設計会社があります。今後はここを中国向け商品だけの技術部隊としてだけでなく、グローバルな市場に対応した設計部隊として活用していく予定です。 今は走りながら考える時代です。ゆっくり考えていては遅れてしまいます。当社では全世界で700万台弱のブラウン管テレビを販売していますが、これが相当早いスピードでフラットテレビに変わっていくと思われます。その時に各地域にある設計部隊でバラバラに開発するのではなく、日本を中心にその設計資源を組み合わせることによって、ハイスピードで効率の高い展開を進めていきたいと思っています。 ―― 御社は中国展開に早くから取り組んできましたね。 岩佐 日本企業としては早い段階から中国に進出しました。ただ、その後、中国経済が大きく発展しましたので一部見直さなければいけない面が出てきています。例えば深の市内に作ったテレビの設計会社の場合、周辺地域が繁華街になってきましたので、つい最近、蛇口の近くに事務所を移転しました。新しい事務所はオーディオの設計会社と車で20分ほどの距離にあります。テレビの設計会社にはオーディオの設計はできませんが、オーディオの設計会社の近くに移転したことによって、今後より密接なコラボレーションで開発できるようになりました。 最近は中国の技術力がかなり高まっていますので、現地で優秀な技術者を集めることができます。ですから、単に中国市場向けの設計部隊としてだけではなく、日本向け商品の設計も担当してもらうことになると思います。将来的には日中合同AV開発チームの編成も考えています。 ―― 中国での生産拠点や開発拠点の使い方が、今までとは変わっていくということですね。 岩佐 優秀な技術者だけではなく、部品も調達しやすくなってきています。最近は中国部品だから品質レベルが低いということはありません。部品メーカーや完成品メーカーがどんどん進出して、中国は今や世界の製造拠点になってきましたので、新しい部品でも中国で調達することができます。 かつて中国生産というと低賃金を武器にした生産コストの低さが魅力でした。しかし、今は違います。優秀な設計力や部品の集めやすさを背景に、中国の力を利用していきたいと思っています。 また、単に物作りの拠点としてだけではなく、消費市場としての成長性の高さも大きな魅力です。 ―― 日本メーカーでは、生産工程の中で重要な部分をブラックボックス化している会社が増えています。この点についてはいかがですか。 岩佐 液晶プロジェクターの光学エンジンの作り方は重要なノウハウですので、ブラックボックス化しています。ただ、PDPや液晶テレビも含めて本当にブラックボックス化しておかなければいけない部分はそれほど多くありません。 むしろ作り方という点では、日本以外の他の地域に学ばなければいけない部分もたくさんあります。 ―― 日本からの距離の近さや時差が少ないことも、中国展開の魅力ですね。 岩佐 移動時間の短さも中国の魅力です。AVソリューションズカンパニーの本拠地がある住道からは数時間で現地にいけます。最近はインターネットが発達していますので、日常のコミュニケーションの面でも大きな問題はありません。 今、様々な分野で商品のグローバル展開が進んでいます。特にAV商品ではそれが顕著です。導入タイミングでも以前は日本で発売後、数カ月から半年後に海外市場に投入してきましたが、最近は世界同時発売という流れが出てきています。 導入タイミングも含めて商品はどんどんグローバル化が進んでいますが、一方でマーケティングはそれぞれの地域の特性にあった方法でやっていくことが重要です。商品はグローバル展開、販促やPRなどといった訴求方法はローカライズで展開ということがこれからの時代の考え方の基本になっていきます。 用途開発次第でまだまだ ―― PDPや大型液晶テレビはまだまだ価格が高いので、団塊ジュニア層を中心としたアクティブな層をカバーできていません。第四のディスプレイとしてのプロジェクターで、この巨大なマーケットでホームシアターブームを起こしていきたいですね。 岩佐 団塊ジュニア層が巨大なマーケットであることは、われわれも認識しています。実際にLP\Z1のユーザー層を調べてみると、若い人がたくさんいらっしゃいます。ただ、この層は買い増し世代ですので、われわれメーカーにとっては非常に見つけづらいのが実態です。 当社では、昨年発売したLP\Z1で本格的に家庭用プロジェクター市場に参入しましたが、この製品が生まれた背景に物余りの日本のマーケットの中で、新しい商品で新しい市場を作っていきたいという気持ちがありました。 LP\Z1の開発にあたっては、価格の安さを武器に家庭内へのプロジェクターの普及を狙ったわけではありません。プロジェクターを家庭で使っていただくためには本質的な部分での不満がどこにあるかということをしっかりと見据えて、それを解決していこうということです。 LP\Z1ではこの考え方が貫ぬかれていますが画質面で一部やり残したことがありました。10月に発売を予定していますLP\Z2ではこれをクリアーして、より品位の高いものに仕上げています。当社ではLP\Z1の考え方をより徹底したコンセプト商品として、LP\Z2を位置付けています。そのコンセプトにあったユーザー層の皆様に選んでいただければありがたいと思っています。 ホーム用、業務用ともにプロジェクターは用途開発次第でまだまだ市場を創っていくことができるとても面白い商品です。当社では家庭用プロジェクター市場を大切に育てていくために、まず本質的な部分での問題点を解決した上で、その後に価格を含めて裾野を広げていきたいと思っています。
◆PROFILE◆ Yoshio Iwasa 1971年4月三洋電機鞄社。音響製造事業部ビデオ工場技術課配属。97年4月CEメディア事業本部記録メディア事業部 副事業部長 。99年4月 マルチメディアカンパニー経営企画室長。00年7月 三洋テクノサウンド椛纒\取締役社長 。02年4月 三洋電機潟}ルチメディアカンパニー販売事業部事業部長兼三洋テクノサウンド且ミ長。03年4月 三洋電機且キ行役員コンシューマ企業グループAVソリューションズカンパニー社長。現在に至る。 |