編集長インタビュー

エプソン販売
取締役マーケティング本部長

清水久司 氏
Hisashi Shimizu

25〜30歳台を核に
巨大なプロジェクター
市場を創造していく

液晶プロジェクターの先駆者で、ビジネスプロジェクター市場でトップシェアを誇る「EPSON」。同社は9月に発売したホームプロジェクター〈ドリーミオ〉シリーズ第一弾のEMP―TW10に続きEMP―TW200・TW500を発表。一気にホームプロジェクター専用機のラインナップ〈ドリーミオ〉シリーズを整備して家庭用プロジェクター市場の本格的な開拓に乗り出した。同社映像機器のマーケティングを指揮するエプソン販売の清水久司取締役に市場の可能性と同社の戦略を聞いた。

膨大な潜在需要が存在する
ホームプロジェクター市場

―― 今回ホーム系プロジェクター市場に本格的に参入されましたが、その需要規模をどの程度と見込まれていますか。

清水 ホーム系プロジェクター市場は、今年6万台、来年が14万台、再来年が22万台といわれています。もし本当にその程度の規模しか期待できないとすれば、エプソンとしてはこの市場に参入しても意味がありません。

今、パソコンの普及率は50%以上です。ホームプロジェクターの世帯普及率は最低でも20%、欲を言えばパソコンと同じ程度まで持っていけるだけの可能性があると思っています。これを実際の世帯数に置き換えると、日本の総世帯数は約4700万世帯ですから、最低でも1000万世帯、できれば2500百万世帯ということになります。

―― それほど潜在需要は大きいということですね。

清水 液晶テレビやプラズマテレビが非常に速いスピードで普及していますが、これは生活の必需品として毎日見ているテレビの代替品です。これに対してホーム系のプロジェクターは、日常生活していく上での必需品ではありませんが、余暇を楽しむためのものです。 たとえばヨットやモーターボート、別荘を持つことなどと同じようなことだと思います。海外旅行も同じようなものです。これからは余暇を楽しむことによって生活をエンジョイするというライフスタイルが広がっていくと思われます。プロジェクターはそこでの必需品のひとつになっていくように思います。

簡単操作と低価格の実現が
裾野層拡大の必須条件

―― ホームプロジェクターを幅広い層の方に楽しんでいただくには、商品面ではどのようなことが求められていくとお考えですか。

清水 マニアやプロの方を対象にしたホームプロジェクターの世界が今後も続いていくことは間違いありません。しかしマニアだけでなく一般の方にもホームプロジェクターを楽しんでいただくためには、誰にでも簡単に使えるようなものでなければいけません。そのためには設置の自由度を含めた使い勝手の良さや手頃な価格の実現が不可欠です。

エプソンでは裾野層の拡大を狙って先日EMP―TW10を発売しました。この製品では、1000ルーメンの明るさを実現していますので部屋を真っ暗にしなくてもプロジェクターを楽しむことができるようにしています。その結果、多少明るい場所でも鮮明な映像で大画面を楽しんでいただくことができますので、リビングルームなどでも無理なく使うことができます。

―― EMP―TW10ではユーザーの調整項目やメニューがシンプルで簡単ですね。

清水 私どもでは情報機器、特にプリンターをずっと手がけてきました。情報機器ではプロやマニアの方はパソコンの自作やプリンターを調整して自分の好みの色を出すために自分で調整できる機能を求められます。しかし、一般のお客様はそうではありません。ほとんどの方は商品を購入された時の設定そのままで使われています。それどころか、調整の基準や方法をご存じでない方がほとんどですので、調整項目が多すぎるとかえって敬遠される要素になることもあります。

一般層向けの商品では、できるだけ単純な操作で可能な限り高いパフォーマンスを得られるようにしておくことが大切です。

エプソンの根底に流れる
徹底した画質へのこだわり

―― エントリー層向けのEMP―TW10では16万8000円という価格設定をされました。価格についてはどのようにお考えですか。

清水 一般層にまで市場を拡大するには、商品そのものの性能・機能に加えて価格も大変重要です。

「エプソンはそんなに安くせずに、もっと高く売ればいいじゃないですか」と言われる方がいます。ホームプロジェクターをニッチ商品にとどめておくということであればそうかもしれません。しかし、一般層にまで市場を拡大していこうという視点からは正しくありません。なぜかというと、お求めやすい価格にすることによって裾野が広がるからです。 家庭の中でプロジェクターはいつも使うものではありません。その時に価格が高いとちょっとということになります。ところがもし手軽に購入できるような価格であれば、面白そうだから試しに買ってみようという気持ちになるでしょう。エントリー層を開拓するためのそういう商品があって、さらにいいものが欲しいというお客様に対しては、価格は高くなりますがさらにいいものが手に入るという具合に、各社がいろいろな層に向けた商品を揃えていけば、市場は急速に広がっていきます。

―― 間口を広げるためには気軽に買える価格設定が不可欠だということですね。

清水 そのいい例がパソコンです。当初マニアを中心に秋葉原などの専門店を中心に売れていましたが、20万円を切った商品の登場をきっかけに一気に普及が進みました。デジカメもそうです。10万円前後の時にはほとんど普及していなかったものが、300万画素の製品が3〜4万円で買えるようになった時に一気に普及が進みました。

ホームシアターでも同じです。ただ、これはエプソン一社だけではなかなか実現することができません。ぜひ各メーカー様でも裾野層拡大を意識していただきたいと思います。そうすれば市場は一気に拡大し、いずれは100万台を超えるような商品に育っていくことも夢ではありません。

―― その時に安いから画質も良くないということでは、ホームプロジェクターの将来を壊してしまうことになりかねませんね。

清水 プロジェクターに限らずプリンターでもそうですが、エプソンのモノづくりの根底に流れているものは、画質に対する徹底的なこだわりです。安かろう、悪かろうということではなく、お手頃な価格でも画質のいい商品を提供していくという考え方を徹底的に貫いていきます。

プロジェクタービジネスは
エプソンにとっての第二の柱

―― プロジェクター事業はエプソン全体の中でどのような位置付けでしょうか。

清水 エプソンではプリンター事業が一番大きな比率を占めていますが、プロジェクター事業はこれに次ぐ二番目の柱にしていきたいと思っています。プロジェクターにはビジネス系とホーム系の2系統あります。エプソンのプロジェクター事業における基本戦略は、ビジネス系・ホーム系それぞれでワールドワイドで圧倒的なトップシェアを獲得することです。

―― 先行して発売されたEMP―TW10を含めてホーム系プロジェクターのラインナップが揃いましたが、それぞれの製品のポイントを簡単に説明してください。

清水 今回発表した2機種を加えてホームプロジェクター〈ドリーミオ〉シリーズは、エントリー層、ミドル層、ハイエンド層をカバーする3機種のラインナップが揃いました。エプソンでは今後この3機種構成を基本に展開していきます。

エントリー層向けのEMP―TW10はホームプロジェクターの裾野の拡大を目指しています。身近なプライベートルームでDVD画質の映像を手軽に大画面で楽しんでいただけることが最大の特長です。照明の灯った部屋でも鮮明な画質を楽しめる1000ルーメンの明るさ、簡単な調整、16万8000円というお求めやすい価格がこの商品の特長です。 ミドルクラスのEMP―TW200では、本格的なシアタールームまでは作れなくても、本格的なハイビジョン画質をどこの部屋でも楽しみたいという方に満足していただけることを狙っています。TW200は1300ルーメンと業界最高の輝度で、明るい部屋でもハイビジョンの鮮明な大画面を見ていただけるようにするとともに、多彩な画質調整機能を持たせています。

12月初旬発売を予定しているハイエンドモデル、EMP―TW500は最上級のホームシアタープロジェクターです。この製品では本格的なホームシアタールームで高品位な映像を楽しまれるお客様を対象に、10億7000万色の高色彩なハイビジョン画質を実現するとともに、多彩な画質調整が可能です。

―― ホームプロジェクターでのエプソンの技術的な強みは何でしょうか。

清水 最大の強みは心臓部にあたる液晶パネルを自社で開発・生産していることです。これによって、ホーム系プロジェクターにとって理想的な液晶パネルを作ることができます。さらに、当社独自の高度なカラーリアリティー技術も強みです、それぞれの製品に搭載されている液晶パネルに最適なカラーリアリティー技術を組み合わせることによって、画質面では他社の製品に絶対に負けないと思っています。

―― DLPを用いたプロジェクターが増えてきていますが。

清水 液晶の最大の強みは階調表現力の高さとコストです。液晶方式では3枚の液晶パネルを用いることにより、光の三原色がすべて揃っていますので、色純度や階調表現力を高くとることができます。単純なコントラスト比だけでは言い表せない階調の細かな表現力では液晶が優れています。当社では、今後も液晶を徹底的に極めていきます。

―― 販売店の反応はいかがですか。

清水 おかげさまで非常にいい反応をいただいています。EMP―TW10の9月の実販台数は1000台を超えましたが、10月はその3倍の数量を狙っています。

30歳前後の層をいかにして
市場に引き込むかがキー

―― 従来ホームプロジェクターは比較的高い年齢層のユーザーをターゲットにしてきましたが、今回はメインターゲットを30歳前後に設定されていますね。

清水 パソコンと同じ程の普及を狙うには25歳〜30歳代の層に大きな市場を作り上げていくことがポイントになります。そのためには商品はもちろんですが、販促や流通チャネルなど様々な面から、この層にアプローチしていくことが必要になってきます。

特に裾野層の拡大を狙って投入したTW―10では、この年代層に向けた販促を徹底していきたいと思っています。プロジェクターでは本格的には初めてではないかと思いますが、11月に柴咲コウを使ったTVCMを打ちます。当社主導で市場創造するために認知拡大に取り組みます。30歳前後の人たちの間で親しみやすい彼女を起用したTVCMを流すことによって、この層にホームプロジェクターの楽しさを理解していただければ、上下の世代にも影響が波及します。

―― ユーザーキャンペーンも計画されているようですね。

清水 「映画館を持ち帰ろう」という名称のキャンペーンを実施します。キャンペーンの内容は今回の3機種のご購入者先着順5000名様にもれなくプレゼントする「おうちde映画缶」と、「My指定席」抽選でマッサージつきのいすがあたるWチャンスになっています。購入者にもれなくあたる「映画缶」は、缶詰の中に映画を楽しむ雰囲気づくりのための面白グッズが入っています。実施時期はTVCMが流れる11月からを予定しています。

―― 店頭での販促策としてはどういうことを考えていますか。

清水 プロジェクターは3回見れば欲しくなる商品です。プロジェクターはまだまだ一般のお客様の間での認知度はそれほど高くはないので今、店頭で一番大切なことは来店されたお客様にホームプロジェクターとはどういうものかということを実際に体験していただくことです。そのために、販売店様といっしょになって、体験コーナーをさらに充実させていきたいと思っています。今、全国の販売店様約200店舗の店頭が体験できる環境になっていますが、できればこれを全国で500店舗程度まで増やしていきたいと思います。

―― ELP―30では店頭に簡易暗幕キットを展開されました。EMP―TW10ではいかがですか。

清水 EMP―TW10の最大の特長は多少明るいところでも楽しめるということです。ですから、TW10では、明るいところでも楽しんでいただけることをご理解いただけるように、大型液晶テレビやプラズマディスプレイのコーナーにもスピーカーを組み合わせたホームシアター売場のような形での展示展開をしていきたいと思っています。

流通チャネルの多様化と
空間提案型展示の強化

―― 流通チャネルについては、どのようにお考えですか。

清水 中心は家電量販店とAV専門店であることは間違いありませんが、今、消費者の嗜好がどんどん変わってきています。その変化に対応していくためには、これからは新しいチャネルも考えていかなければいけないと思っています。

実際にできるかどうかは分かりませんが、ホームセンターもひとつのチャネルとして考えられます。ホームセンターは非常に大きな集客力を持っています。また、店舗スペースが非常に広いので家電店とはずいぶん違った感覚の店作りになっているだけでなく、空間提案型の展示方法をとることが可能なように思います。

DVDビデオソフトを扱っているお店での展開をどうしていくかということも、これからのポイントになっていくように思います。ネット販売を含む通販でどういう新しいチャネルが出てくるかということも興味深いところです。

―― 流通経路の多様化が進んでいくということですね。

清水 ホームセンターやソフトショップがAV機器の販売を強化していくケースや、家電量販店がホームセンターやソフトショップと一緒に組むというケースも出てくるでしょう。また、家電量販店が空間提案型という形で、家具やソフトのビジネスを取り込んでいくということもあると思います。

巨大な市場創造の核となる
ホームプロジェクター

―― ホームプロジェクターをメジャーな商品カテゴリーに育て上げていくための課題は何でしょうか。

清水 ホーム系プロジェクターの市場が20万台程度の市場にしかならなければ、今でも参入メーカーが多すぎますし、周辺ビジネスも限られます。しかし、もし50%の世帯に普及して2500万世帯になれば全然違ってきます。今、パソコンの年間販売台数は1000万台です。デジカメも昨年で約650万台です。プロジェクターもそういう市場規模になると裾野が一気に広がります。特にホーム系ではビジネス系と違って、音をはじめにソフトなどを含めてものすごく広がってきます。

私が一番申し上げたいことは、この点をぜひメーカー様にも販売店様にも理解していただきたいということです。これを頭の中に描きながら、今はホームプロジェクターの楽しさをいかにして一人でも多くの人に実際に体験していただくかということに注力していかなければいけません。そのために協力していただける販売店様と手を組んで、拡販活動をしていきたいと思っています。

―― 将来に対するビジョンとコンセプトを共有できる販売店さんと一緒になって、市場を成長させていこうということですね。

清水 これからの生活のキーワードは「余暇をどれだけ楽しむか」だと思います。かつて余暇の楽しみ方は画一的でしたが、多様化してきています。大画面とサラウンド音声で楽しむホームシアターは、日常的に見ているテレビとは次元の違う迫力と感動を与えてくれます。

「私たちの夢」の実現。これが「ドリーミオ」のネーミングに込めた想いです。より多くの方々に、より豊かな余暇を過ごしていただくための必需品としてのホームプロジェクターを提供していきます。

 

◆PROFILE◆

Hisashi Shimizu

1952年6月6日生まれ。1977年早稲田大学工業経営学科卒業。85年エプソン入社。00年4月コンシューマ営業本部長。00年6月取締役就任。02年4月同、販売推進本部長。03年4月同、マーケティング本部長。現在に至る